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やたらとケミカルリサイクルを推進する朝日新聞が、ケミカルリサイクルの実態を調べた。「ケミカルリサイクルはこんなにすばらしいんだ」と紹介するつもりだったらしいが、意に反して、そのひどさを暴露することになった。(書いた記者自身は、その失敗に気づいていないようだが。)
改修されたプラごみの行方を、記者は追う。すると……
集めたプラごみをセンターでベルトコンベヤーに乗せ、リサイクルできるものを人の手で選別していく。処理量は1日2トンほどという。
選別後のプラスチックは「ベール」と呼ばれる四角い塊に圧縮、梱包し、容器包装リサイクル法に基づいて事業者の費用負担でリサイクルされる。
廃プラスチックの塊は、再商品化工場へ運ばれた。自動選別機でポリエチレンやポリプロピレンなど素材の種類ごとに分別し、再利用する。製品の原料になる粒状のペレットに変えたり、倉庫などで使う荷台(パレット)を作ったりしている。
運ばれてきた廃プラのうち、プラ製品に再利用できる割合は約5割という。
では、残り半分はどこへ行くのか。これまでは産廃業者に引き取ってもらっていたが、廃プラは最近、中国をはじめとするアジア諸国が輸入を禁止、制限するようになった影響で国内にだぶついており、行き場を失っている。
( → プラごみ、分別しても半分は産廃に リサイクルの現実 [プラごみ危機]:朝日新聞 )
ここから、いくつかのことがわかる。
(1) 分別されたプラごみの一部は、ケミカルリサイクルに向けられる。
(2) リサイクルセンターに運ばれたあとは、人手で分別される。(手間暇かけて、高コスト)(リサイクルセンターは、通常は公営で、税金でまかなわれる。)
(3) 選別されたもののうち、きれいなプラスチックは、四角い塊に圧縮されてから、うまくケミカルリサイクルされる。しかしそれにはコストがかかるので、プラ容器の利用業者が費用負担する。( → 日本容器包装リサイクル協会 )ただしその分は、価格に転嫁され、消費者が負担する。
(4) 選別されたもののうち、汚いプラスチックは、回収業者に無料で引き渡す。
(5) 結局、価値は以下の通り。
・ 汚い プラスチックの価値 …… ゼロ(無料)
・ きれいなプラスチックの価値 …… マイナス
(金を払ってケミカル処理してもらうので)
(6) 選別されたきれいなプラスチックのうち、有効利用できるのは5割だけ。残りは(不純なので)再利用もできない。(ケミカル処理の名目で引き取ったので、今さら熱処理もできない。)
(7) 残った(きれいだが不純な)プラスチックごみは、これまでは中国やフィリピンに引き取ってもらっていたが、両国が輸入を拒否したので、引き取り手がないまま、山積みされている。
記事に記してあるのは、ここまでだ。要約すれば、こうだ。
「ケミカルリサイクルはサーマルリサイクルよりも環境によい、と信じて実行したら、てんで思惑違い。余計なコストはかかるし、リサイクル率(石油に戻る率)は低いし、リサイクルされずに余ってしまうプラごみも多い」
てんで思惑違いの大失敗。
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さて。問題は、そのあとだ。
「引き取り手がないまま、山積みされている」
という(きれいだが不純な)プラスチックごみは、どうなるのか? ググると、次のことがわかる。
→ 各地でプラごみの火災が発生する
→ 産廃ふうに山積みされて環境を汚染する
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産廃というのは、ひどいもので、そのときすぐには発覚しないまま、何十年もたってから発覚することがある。気づいたときには、「地下に莫大な産廃があって、途方に暮れる」というふうになる。
その典型的な例は、相模原市に見られる。土地を開発しようとしたら、畑のように見えた土地の地下から莫大な産廃が見つかったので、土地区画整理が立ち往生してしまったのだ。
相模原市の土地区画整理事業の対象地から大量の産業廃棄物が見つかり、事業が一時中断している。地中の産廃はアスファルトやコンクリートなどの建築廃材が多く、市の推計では約26万m3に達するとみられる。
( → 相模原市の区画整理が想定超える産業廃棄物で中断、処理費に最大100億円 | 日経 )
相模原市の土地区画整理事業用地から大量の産業廃棄物が見つかった問題で、本村賢太郎市長は5日、処理費用の推計額が総額60億〜100億円に上ることを明らかにした。同日の市議会本会議で、2019年度に予定していた工事を取りやめ、事業を検証する部署を新設する意向も表明した。
( → 産廃処理費最大100億円も 相模原市、区画整理地で発見 | 神奈川新聞 )
ここでは建築廃材が多いようだが、今後はプラごみで同様のことが起こりそうだ。この大量のプラごみは、サーマルリサイクルで燃やしてしまえば、立派な発電用の燃料として有益に使われる。しかし、いったん「ケミカルリサイクルとして回収します」という契約で引き受けて、そのための料金も受け取っているのだから、そいつをサーマルリサイクルに回してしまったら、契約違反(もしくは詐欺)となる。
となると、「だったらバレないように地下に埋めてしまえ」という発想が生じるだろう。こうして、産廃となって、、環境を汚染する危険が溜まる。
その後、何十年かたってから、ババを引いた土地所有者が、産廃処理のために莫大名費用を負担するのである。(上記の例では、自治体が 60億〜100億円を払うハメになるかもしれない。)
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結局、ケミカルリサイクルというのは、根本的に非効率なので、やるべきではないのだ。なのに、「ケミカルリサイクルは環境によい」と盲信したあげく、やたらとケミカルリサイクルに突き進むので、現実には実行できないまま、不処理のものが大量に残って、環境を汚染するのである。そして、その汚染のツケを払うのは、数十年後の次世代なのだ。
ま、詐欺的とも言えるし、泥棒とも言えるし、環境破壊の悪党とも言える。
で、だまされたあげく、こういう愚行を推進するのが、ケミカルリサイクルを称賛する朝日新聞なのだ。
【 関連項目 】
ケミカルリサイクルがいかにダメであるかは、前に原理的に説明したことがある。
→ プラごみを再生するな: Open ブログ
→ プラゴミ対策の方法は?: Open ブログ
→ 汚れたプラスチックの処理: Open ブログ
→ ケミカルリサイクルは本末転倒: Open ブログ
※ 簡単に言えば、「不純なものを純粋なものに純化するには、多大なエネルギーが必要となるので、コスト的にもエネルギー的にも無駄の極みだ」ということ。「エントロピー」という物理学の概念を使えば、すぐにわかる。
※ その概念を知らない科学音痴が、無知ゆえの理想に基づいて、ケミカルリサイクルという愚行に突き進む。