2019年08月19日

◆ 燃料電池車の格安販売

 730万円の燃料電池車(トヨタ・ミライ)を、4年間 60万円という格安でリース販売している。

 ──
 
 これは、はてなブックマークで話題になっていた。
  → 元値730万円の新車が60万円で買えるようになったのでハックして遊ぶとすごく楽しい

 要旨は:
  ・ 730万円の燃料電池車(トヨタ・ミライ)の新車。
  ・ 4年後の残価設定が 370万円。
  ・ 4年間の支払額は 360万円。
  ・ 国と自治体から、補助金 300万円が出る。
  ・ 自分が払う額は残りの 60万円だけ。(4年間で)

 
 4年後には、車を返却するので、リースと同様だ。ただし、リースと違って、一括払い込みの必要がある。(リースと同じにしたければ、分割払いも可能だが、金利がかかる。)

 いずれにせよ、4年間で 60万円だから、格安だ。これに匹敵するのは、120万円ぐらいの軽自動車だろうか。一方、ホンダの N-BOX が 160万円ぐらい だから、N-BOX よりも安いことになる。格安で有名なアルトと同じぐらいの超格安と言える。
 圧倒的にお買い得だと言える。
 では、どうしてこういうことが可能となったのか? 

 ──

 計算すれば明らかだが、上記方針だと、
  ・ 新車を買う人は4年間で 60万円
  ・ 中古を買う人は4年間で 300万円

 というふうになって、逆転してしまう。こうなったら、中古を買う人はいなくなる。これはおかしい。
 では、どこがおかしいかというと、残価設定の 360万円という価格があまりにも高すぎるのだ。これが、度を超して、高すぎる。妥当な価格は、残価設定 150万円だろう。これならば、
  ・ 新車を買う人は4年間で 210万円
  ・ 中古を買う人は4年間で 150万円

 となるので、おおむね妥当だ。この数値が常識的に正しい値だ。

 では、トヨタは計算を間違えたのか? 計算ミスのせいで、異常に高い価格をはじいたのか? 

 ──

 いや。そうではない。残価設定 150万円というのは、たしかに市場で言えば妥当な価格だが、このように設定した場合、
 「新車を買う人は4年間で 210万円」
 になるのだから、この価格で買ってくれる人がいなくなる。(非常に少数になる。) そうなると、トヨタ・ミライが売れないせいで、工場は遊休してしまう。せっかくの工場が、何も生産しないで、単に経年劣化で錆びるのを待つだけとなる。これではあまりにもひどい。トヨタの経営失敗を天下にさらすだけだ、となる。

 となると、残る方法はただ一つ。「新車を大幅値引きで売ること」である。具体的には、「新車を 150万円引きで売る」ことだ。730万円の車を 530万円で売る。
 では、これでいいか? いや、駄目だ。新車価格を 150万円引きにしたら、それに応じて、国や自治体からの補助金も低下してしまう。新車価格が2割引なら、補助金も2割引だ。それではまずい。

 そこで、ウルトラ技を編み出した。
 「新車価格は値引きしないが、将来の下取価格を上げることで、実質的に値引きする」

 という案だ。これなら高い補助金をそのままがっぽりいただける。
( ※ うるさく言えば、補助金詐欺に該当する。だが、法的には、ぎりぎりセーフだろう。う〜ん。せこい。)

 というわけで、上記の方針でやったのが、冒頭の格安販売の手法だ。

 ──

 こうして、事態は解明された。何の不思議もないことだとわかった。(一種の詐欺的な方法ではあるが。補助金をかすめ取る詐欺。)

 ただし、ここで話を終えてはつまらない。物事の本質を考えよう。
 本質は何か? 次のことだ。
 「トヨタの燃料電池車は、不人気であって、まったく売れない」


 理由は下記だ。
  ・ 燃料代がガソリン車台と同程度で、高い。
   (ハイブリッドより高い。EV より大幅に高い。)
  ・ それはつまり、燃料効率が低いということだ。
  ・ 水素ステーションが都会(の一部)にしかない。
  ・ 田舎に遠出をしたら、都会に戻るまで補充できない。


 つまり、どうにも不便なのである。
 以前は、「電気自動車は航続距離が短いので不利だ」と言われてきた。だが、途中の高速道路の EV スポットでときどき充電すれば、何不自由なく遠出ができる。(特にリーフの長距離タイプではまったく問題ないそうだ。)
 一方、燃料電池車は、都会から 200km 先の温泉まで行って戻ろうとしたら、往復 400km になるが、その途中に水素ステーションがひとつもない。(地図でググればわかる。)……こうなると、途中のガス欠の危険が怖くて、とても遠出をする気にはなれまい。(エアコンなどを使ったら、たちまち燃料不足になりかねない。)

( ※ トヨタ・ミライの最大航続距離は 650km だから、実用的な距離は 400km 程度だろう。往復 400km の旅だと、危険度は高い。下手をすると、立ち往生だ。)

 こういうふうに不便だから、とうてい人気は出ない。ほとんど売れなくなる。だからこそ、トヨタは大幅値引きをせざるを得ないのだ。

 ──

 ではなぜ、トヨタはそんなに大幅値引きをしてまで販売するのか? 大幅赤字を出してまで販売するのは、損ではないのか? さっさと販売をやめた方が利口ではないのか?
 それに答えよう。

 実は、赤字の理由は、固定費である。(研究開発や設備投資で)数千億円もの固定費がかかっている。この赤字は、どっちみち出る赤字である。だから、売ろうが売るまいが、どっちみち赤字を出すのであって、「売るのをやめたら、赤字が出なくなる」というわけではないのだ。
 だったら、単に赤字を抱えるよりは、「赤字を出しても売ることで、宣伝効果だけは得る」というふうにした方がマシだ、ということになる。

 実は、推計では、トヨタ・ミライの原価は、数千万円になっていると見込まれる。私のヤマカンでは、トヨタミライの原価は 2000万円ぐらい。それを、大幅な原価割れの価格で販売している。つまり、730万円という価格は、もともと大幅な原価割れなのである。としたら、それをさらに 150万円引きで得るにしても、たいして違いはないのだ。たとえれば、赤字が 2000億円になるか、2100億円になるか、というぐらいの違いでしかない。だったら、何もしないで 2000億円の赤字を抱えるよりは、赤字を 100億円増やすことで、そこそこの台数を販売して宣伝効果を出すことの方が、企業としては無駄がないと言えるだろう。

 ──

 では、トヨタのその方針は、合理的か? 
 経営的には、合理的だと言える。たしかに、「何もしないで 2000億円の赤字を抱える」というのは、無駄の極みだからだ。

 しかし、より本質的には、こう言える。
 「燃料電池車は、実用化はとうてい無理なので、さっさと開発を中止して、損切りするべきだ」


 トヨタはこれまで数千億円もの金を、燃料電池の開発のために投入してきた。それを今さら無駄にはしたくないから、さらにどんどん金を注入する。
 しかし、これは「株で赤字を出したから、損するのが怖くて、もっと金を投入する」というのに似ている。そのせいで、損の額がどんどん増えてしまう。
 それを避けるには、「損切り」することだ。これまでの赤字は「仕方ない」と諦めて、将来の損失の拡大を防ぐべきだ。それが、トヨタのなすべきことなのだ。

 ──

 技術的な見通しを言おう。
 燃料電池車は、近い将来には、技術的に開発が困難だ。(白金触媒を使う限りは、白金不足になる。また、水素を液化する限りは、気体の液化のために莫大なエネルギー損失が発生する。)
 どこをどう考えても、燃料電池車が電気自動車に勝てる要素はない。燃料電池車は、「電気自動車が使えない特別なニッチ市場」では生きることができるだろうが、現在の自動車市場の大部分では、生き残ることができないだろう。特に、トヨタの開発する 全固体電池 が普及したら、燃料電池車の出番はほとんどなくなるだろう。
 トヨタの燃料電池車の普及を阻む最大の敵は、トヨタ自身の全固体電池なのだ。これによって、トヨタの燃料電池車はついえてしまうのだ。(最大の敵は身内にあり。)

 かくて、トヨタの燃料電池車のお先は真っ暗だ。トヨタとしては、こんなところで大幅値引き販売(投げ売り)をして、トヨタ・ミライをばらまくよりは、さっさと開発中止をするべきなのだ。
 そして、そのことに、トヨタはいつか気づく。1年後か、3年後か、5年後か、10年後か。……そして、気づくまでの時間には、その期間の大幅な無駄金が投入されるのだ。

 そして、その馬鹿げた無駄金を利用することで、一般人はトヨタ・ミライを安価に利用できることになる。



 [ 付記1 ]
 したがって、トヨタ・ミライを購入することは、非常にお薦めである。ただし、条件が付く。
  ・ 自宅のそばに水素ステーションがある。
  ・ 主用途は、都会の街乗りである。
  ・ 遠出をするときは、別途、レンタカーを借りる。

 以上を満たすのであれば、非常にお買い得だと言える。

 [ 付記2 ]
 お買い得といっても、絶対的な支出額が少ないという意味ではない。絶対的な支出額が少ないのを狙うのなら、中古の軽自動車を買うのがベストだ。
 しかしそれでは、高級自動車をもつ喜びを味わえない。コストは低いが、パフォーマンスも低いので、コスパはよくない。
 トヨタ・ミライならば、コストは十分に低く、パフォーマンスは高いので、コスパがとてもいい。そういう意味で、お買い得である。(最大の美点は、静粛性だ。無振動のモーター駆動なので、V8エンジンよりも上である。)

 [ 付記3 ]
 補助金については、注意のこと。自治体の補助金はさまざまだ。
  ・ 東京都は 100万円。
  ・ 神奈川県は 70万円
  ・ 横浜市は 70万円に 25万円を上乗せ。(計 95万円)
  ・ 他の県や都市は、それぞれ、いろいろ。


 貧乏な県だと、補助金はほとんど出ないかもしれない。というか、田舎の県だと、もともと水素ステーションがないので、補助金を出すこと自体が無意味だ。
 有効なのは、東京近郊と、名古屋市と、大阪・京都、福岡市ぐらいだろう。つまり、大都会だけ。
 なお、東京近郊といっても、水素ステーションが自宅のそばにあると言える人は限られている。ご注意あれ。

 [ 付記4 ]
 水素の価格は、現状では低めだが、大量に供給するようになると、価格が大幅に上がるかもしれない。そもそも水素を大量に供給する施設があるかも疑わしい。
( ※ 現状では副生品としての、限られた量の水素が安値で提供されているだけだ。仮に電気分解で水素を得るとしたら、とんでもない高値になる。)

 それでもトヨタが燃料電池車にこだわるのは、たぶん、次の理由だ。
 「風力発電の電力で水素生産をすればいい。特に夜間は電力需要が少ないから、夜間の風力発電を利用すればいい。これなら安価に水素生産ができる」
 しかし、これは誤りだ。なぜなら、正解は次のことだからだ。
 「夜間の風力発電の電力は、そのまま電気自動車(EV)で充電すればいい。同じ量の電力を発電したとしても、いちいち(液体)水素に変換してエネルギーロスをするよりは、電力のまま送電して EV に充電する方が、はるかに効率がよい」
 このことに気づかないせいで、トヨタは非効率な燃料電池車にこだわるのだろう。



 【 関連項目 】

 燃料電池車についての過去記事がある。それをまとめて紹介する記事がある。下記だ。参照するといい。
  → 燃料電池の死 5: Open ブログ




 【 関連サイト 】

 ホンダは燃料電池車の開発を中止・延期する。
  → 究極のエコカーだが…ホンダが「FCV」次期モデルの投入を延期する事情

 トヨタは前のめりで、次期トヨタ・ミライを20年後半に投入する予定。
  → MIRAIのモデルチェンジは2020年に行われ大幅な値下げによって500万円となる
 いくら改良しても、水素ステーションがないのだから、どうにもならないのだが。

posted by 管理人 at 20:35| Comment(4) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トヨタや日産を煽っている管理人は一体、どのメーカーの何という名前の車に乗っているのだろう?
Posted by 名無し at 2019年08月22日 12:15
 個人情報は明かさないけれど、常識的に考えれば、「ホンダかスバルだろう」と想像するのが常道。
Posted by 管理人 at 2019年08月22日 12:47
個人情報とはまたまた。
きっと、車種特定できるほど、珍しい車に乗っていらっしゃるのだろう
Posted by 名無し at 2019年08月22日 20:20
 珍しい車というと、アルシオーネとか、CR-Zとか? 

Posted by 管理人 at 2019年08月22日 20:44
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