2019年08月03日

◆ 日米貿易協定と最恵国待遇

 トランプは TPP を否定して、二国間交渉で決めることを狙っているが、これは法的には無効であるようだ。かくて日本は国家存亡の危機となりかねない。(重要

 ──

 トランプは TPP を否定して、二国間交渉で決めることを狙っている。「そうすれば、二国間交渉で、いっそう(自分に)有利な条件を引き出せる」という狙いだ。
 しかし、これは法的には無効であるようだ。

 実は、日韓の紛争に関連して、私は次のことを想定した。
 「韓国に対して、最恵国待遇をやめてしまえばいい。ホワイト国にするのをやめるように、最恵国待遇にするのもやめてしまえばいい」

 こう思ったのだが、調べてみると、これは不可能だとわかった。
 最恵国待遇は内国民待遇とともに、外国において差別を受けることなく公正な貿易や商取引などを保障するための重要な役割を果たしている。
 GATT1条と同様に、WTO1条には特定国に与えた最も有利な貿易条件は全加盟国に平等に適用することが明記されている。
 また、授権条項により途上国支援を目的とした特恵関税などを例外として認めている。また、自由貿易協定、関税同盟も最恵国待遇の例外となっている。
( → 最恵国待遇 - Wikipedia

 つまり、GATT や WTO の加盟国には、すべて最恵国待遇が適用されるから、韓国だけを最恵国待遇からはずすことは条約上、不可能なのだ。それを実現するためには、日本が GATT や WTO から脱退するしかない。しかし、そんなことは不可能だ。
 ゆえに、「韓国を最恵国待遇からはずす」ということはできないとわかった。

 ──

 さて。それで思いついたのが、日米貿易交渉だ。米国は「 TPP よりも有利な条件を引き出せる」と狙って、TPP をやめて二国間交渉にこだわっている。
 しかし、これは「最恵国待遇」の規定ゆえに、無効なのだ。正確に言えば、こうなる。
 「米国が日本から(二国間交渉で)どれほど有利な条件を引き出しても、その条件は自動的に他国にも適用されるようになる。最恵国待遇の規定で」

 つまり、「米国だけ優遇」というのを狙っても、それは自動的に他国にも適用されてしまうから、「米国だけ優遇」というのは不可能なのだ。
 これを避けるには、(米国でなく)日本が GATT や WTO から脱退するしかない。しかし、そんなことは不可能だ。

 だから、日本としては、次のように言うしかない。
 「米国が日本に対して、TPP よりも有利な条件を引き出したいのであれば、日本に対して GATT や WTO から脱退することを要求する必要がある。それが実現してこそ、米国だけの優遇が実現する。脱退しない限りでは、米国だけの優遇はできない」

 それでは米国が困ってしまうだろう。そこで助け船を出す。
 「 TPP にお戻りなさい。そうすれば、TPP で決まった範囲内で、米国を優遇することが出来ます。わずかな優遇だけどね」

 なお、こういう差別待遇で優遇が可能なのは、「自由貿易協定、関税同盟も最恵国待遇の例外となっている」(前出)という例外措置があるからだ。TPP はこれに該当するので、ここで認められた範囲内であれば、例外措置として、最恵国待遇の適用を避けることが出来る。

 ともあれ、トランプの要求するような「二国間交渉」は、初めから無意味なのだ。そのことをはっきりとさせるべきだ。



 [ 付記 ]
 こんなことは専門家ならば誰だってわかっているはずだ……と思って、ネットで調べたら、たしかにわかっている人もいる。
  → 【日米貿易協定】現在の交渉はWTOの最恵国待遇の「例外」か? 政府「現時点ではわからない」(衆外務委11/14)
 →理論上は日米で決めた関税率が、WTO全加盟国に適用も(内田聖子氏)


 要するに、トランプの理屈が成立しないことは、専門家はすでに理解しているし、国会でも指摘されている。なのに政府は「法的にどうだかわからない」というふうにすっとぼけている。
 つまり、本当は法律違反で無効なのだが、はっきりとそう語ると波が立つので、あえて「わからない」と言って、とぼけているわけだ。呆れる。プロの仕事じゃないね。職務放棄と言っていいぐらいだ。
 で、それを指摘した専門家のツイート集もある。(上記)
 なのに、この問題は、世間ではちっとも話題になっていない。「ホワイト国からの除外」なんてことばっかりに大騒ぎだ。
 そんなことより、「日米貿易交渉そのものが、GATT や WTO への違反である」という事実の方が、はるかに重要であるはずだが。

 理論上、日米貿易交渉が成立した場合、日本は GATT や WTO から規約違反を問われて、除名などの処分を受けることになり、全世界から最恵国待遇を奪われることになる。ひどいね。
 「韓国をホワイト国から除外してやったぞ」と言って自惚れていたら、「全世界で最恵国待遇から除外されてしまった」となって顔真っ青になる……というハメになる。大変だ。国家存亡の危機。

 こういう大事なことを指摘するのが Openブログ。困ったときの Openブログというだけでなく、困ったことになるのを予防する Openブログ。



 【 追記 】
 もうちょっと情報を調べてみた。

 (1) 誤解の例

 米国との二国間交渉で決まった米国への優遇枠は、他の WTO 諸国にも自動的に適用される。(前述の通り。)
 なのに、このことを理解できずに、「米国だけに優遇枠が認められる」と誤解している記述が多く見られる。たとえば、下記。
  → 牛肉輸入急増 TPPの再協議を急げ
  → 日米FTAは 「TPP超え」 土台は新NAFTA 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
 いずれも「日本農業新聞」の記事なので、いくらかの偏向はあるだろうが、後者では東大教授ともあろうものが虚偽を示して論じている。まったく困ったことだ。
 プロレベルでさえ、こんなに勘違いするのだから、このあとでは日本は破滅的な事態に追い込まれかねない。憂慮すべきことだ。

 (2) 対象品目

 TPP で米国(を含む数カ国)に特別枠が認められている品目は、下記の通り。
 米 ,小麦 ,大麦 ,麦芽 ,砂糖 ,でん粉牛肉 ,豚肉 ,牛肉・豚肉関連分野 ,脱脂粉乳・バター ,ホエイ ,チーズ ,乳製品

 詳細は、下記文書に示してある。
  → TPPにおける重要5品目等の交渉結果(農水省)

 TPP ならば、これらの品目で米国は特別枠で優遇される。
 二国間交渉ならば、これらの品目で米国は特別枠がなくなる。というか、同じ条件が他の諸国( WTO 加盟国のすべて)に認められる。その結果は? 
 それを受け入れれば、(特別枠が莫大に増えるので)日本の農業は破綻する。受け入れなければ、日本が WTO から除名処分を受けて、日本の輸出産業が破綻する。
 それを避けるためには、特別枠をなくすしかない。すると、TPP よりも米国の条件は悪化する。トランプは怒り狂う。
posted by 管理人 at 07:46| Comment(1) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
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Posted by 管理人 at 2019年08月03日 19:41
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