火災で被害が拡大したことの理由は、京アニには金がないことだ。では、どうしたら解決できるか?
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京アニの火災事件では、京アニという会社を擁護する声が多い。
「京アニは業界では珍しく固定給を払っていて、アニメーターを優遇している」
これは、真実でもあり、嘘でもある。
(1) 真実
真実だというのは、相対的な面である。アニメーターの待遇が絶望的に低くて、違法状態だらけ(最賃割れ)であるのが普通であるなかで、京アニはまともに固定給を払っていて、アニメーターを優遇している。
ジブリも固定給を払っていたが、正社員ではなく、契約社員だ。しかも 2014年にはスタジオが閉鎖されて、アニメーターが全員解雇された。
→ 「解散説」が飛び出したスタジオ・ジブリ 大量解雇を進めるその真意は
その点、正社員として雇っている京アニは、業界では最も社員を優遇していると見なされてきた。
(2) 嘘
京アニは社員を優遇しているというのは、絶対的に見れば嘘である。業界内ではまともな方ではあったが、絶対的にはひどい冷遇だった。その証拠に、給料の基本給は、最賃割れである。最賃の時間給よりも低い金額しか払っていない。
→ 【悲報】日本の宝である京アニの社員さんの給料、あまりにも安すぎると話題に
文中の算式によると、時給は 809円。
京都府の最賃は、時給 856円。
→ 京都府最低賃金のお知らせ/京都府ホームページ
これは、最賃割れであって、違法状態だ。
ただし、ボーナスがあるので、これを含めると、かろうじて最賃割れにはならずに済むようだ。法的にはセーフ。
とはいえ、1日 10時間労働が義務づけられていて、2時間の超過勤務に対しての残業手上げの分も込みになっているようだから、本当に最賃割れをしていないのかは、疑わしい。セーフだとしても、ぎりぎりセーフかな。(あるいは、アウトかもね。)
ま、法的にセーフかアウトかはともかく、どっちにしても最賃程度で、非常に冷遇されていることがわかる。社員はちっとも優遇されていないのだ。
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以上を読んで、こう思う人もいるかもしれない。
「京アニは、すごいアニメをいっぱい出していて、ボロ儲けしているのだから、社長もボロ儲けしているのだろう。なのに社員に金を出さないのはけしからん!」
しかし、これは正しくない。京アニの社長は貧乏暮らしだ、というふうに報じられている。ちっともボロ儲けしていない。
では、金はどこに行ったか? 実は、金はもともとない。京アニのアニメはすごく優秀で、あちこちで大評判だが、売上げはごくわずかなのだ。けいおん!の劇場版もたいしたことはなかったし、ユーフォニアムに至ってはスズメの涙みたいな興収しか上げていない。
はっきり言って、アニメ映画で儲かっているのは、「ドラえもん」や「名探偵コナン」や、ジブリ作品や細田作品である。
→ 歴代アニメ映画興行収入ランキング - NAVER まとめ
一方、京アニの作品は、いかにアニメファンの評価が高くても、興収の面ではろくに儲かっていないのだ。つまり、京アニにはもともと金がないのだ。
※ 各種アニメの興収は、調べればすぐにわかる。一つ一つ調べるので、面倒だけど。
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というわけで、京アニには金がないと判明した。いくら世評が高くても、京アニには金がないのだ。
先に「ガソリン火災とスプリンクラー」という項目では、「京アニは金をケチった」と述べたが、それには理由があったのだ。「強欲だから」ではなく、「ない袖は振れない」ということだ。
金持ちが安全対策の金をケチるのは困ったことだが、貧乏人がケチになるのは当然ですね。
「われも金なし きみも金なし 仲良きことは美しきかな」
なんて漏らす人も出るかも。
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業界で最優秀の京アニでさえ金がない。この問題は、どこから来るか? 「アニメ産業全体に金がない」ということから来る。では、その問題を解決するには、どうすればいいか?
それについては、先に論じたことがある。
→ アニメ産業の低賃金: Open ブログ
→ アニメーターの労働法違反: Open ブログ
→ アニメ最賃法を制定せよ: Open ブログ
これらも一案だが、本項では新たに、次のことを提案しよう。
「アニメ業界では、最賃割れを免れるために、労働者として雇用しないで、請負契約の形で業務契約している。これを禁止するといい」
現状では、請負契約の形で業務契約しているので、単価に対して金が払われる。この単価が極端に安い。内職並みである。また、コンピュータや家賃などの費用はすべてアニメーター持ちである。そこで、これを禁止する。
かわりに、京アニのように、会社で仕事をする労働者として雇用することのみを認める。
すると、どうなるか? 会社における労働時間に対して給料が払われるようになるので、最賃割れという問題はなくなる。現状では最賃以下で働いているアニメーターが大多数だが、改正後は誰もが最賃以上の賃金を払ってもらえる。かくて、アニメーターの奴隷状態が解消する。長年の懸案が一挙に解決する。
同時に、アニメの製作コストが大幅に上昇するので、金を出せない会社はアニメを作れなくなる。アニメの製作本数は、一挙に大幅に減少するだろう。そのことで、多くのアニメーターが大量に失業するだろう。
つまり、次の諸点が同時に発生する。
・ 請負契約は禁止。
・ アニメーターは社員として雇用される。
・ 社員には最賃法が適用される。
・ 雇われたアニメーターは所得アップ。
・ 雇われなかったアニメーターは大量に失業する。
・ アニメの製作本数は大幅に減少する。
・ テレビのアニメ番組は数が大幅に減る。
・ アニメ番組の平均視聴率は大幅にアップ。
(番組数が減るので、共食いしなくなるから。)
・ 視聴率アップなので、制作の資金提供額は上昇する。
以上のすべてを、ひとことで言えば、「正常化」である。つまり、「無法状態だったアニメ業界が正常化される」ということだ。
そのことは、他の国はすでになされている。たとえば、ディズニーやピクサーでは、アニメーターはすごい高給をもらっている。粗製濫造のかわりに、少数精鋭の形で、少なめの人々が多額の金をもらっているのだ。これは「大多数の底辺アニメーターが最賃割れになっている」という日本とは逆の形である。
そういう状態を、日本のアニメ業界もめざすべきなのだ。
なお、ちなみに、次の画像もある。
→ アニメ業界の年収の階層
儲かっているのは、声優のうちの、ごく一部だけ。それも、儲けているのは、アニメの声優としてではなく、ゲームの声優と、パチンコの声優としてだ。要するに、アニメ業界の仕事では、儲けている人は誰もいないわけだ。
アニメの関連業界で儲けているのは、広告費を中間搾取する電通のような会社だけだろう。
※ 以下は読まなくてもいい。
[ 余談 ]
京アニが儲かるようになるには、どうすればいいか? うまく金儲けする方法を、私が教えよう。
そのヒントは、新海誠だ。彼は、風景の絵画はすごくいいのだが、人物の絵画(キャラデザイン)はひどかった。だからアニメが売れなかった。
ところが、「君の名は。」では、キャラデザインを他人に任せた。これまでのデクの坊みたいなキャラデザインをやめて、普通のアニメふうのキャラデザインにした。(他人に任せた。)そのおかげで、風景の絵画も、キャラデザインも、どちらも一流になったので、アニメが売れるようになった。……その秘訣は、「弱点の解消」である。
京アニはどうか? 私の見たところでは、脚本が弱い。脚本( or 原作)がいいと、「聲の形」みたいにヒットする。「ユーフォニアム」は、いかにも少女マンガだった。「君の名は。」には、おっぱいを揉んじゃうような強烈なシーンがあったが、ユーフォニアムにはそんな場面はない。だから、かなり限定された(コアな)アニメマニアしか受け入れてくれなかったようだ。作画は、キャラデザインも風景も優れていたのだが、肝心の脚本が弱すぎたので、ヒットしなかった。
京アニの難点は、たぶん、傑出したプロデューサーがいないことだ。換言すれば、商売や金儲けの専門家がいない、ということだ。これじゃ、金がないのはもともと当然だ、と言えるかもしれない。
( ※ それでも、請負契約をやめれば、かなり状況は改善されるはずなんだが。……本項の本文と、余談とは、それぞれ別の話をしていますね。)
【 関連サイト 】
→ 京アニ 募金(一覧)
2019年07月22日
過去ログ
最低限の給料を保証するべきであることは間違いないと思います。
一方、下記のように低コストでアニメが作れるから、多様性や試行錯誤ができるという面もあります。
前者と後者が両立できればいいのですが。
中間搾取を減らすのが、1つの策でしょうか。
ただアニメに限らず、中間搾取を減らすことは非常に難しいと思います。
法律で強制的に禁止しても、それはそれで効率やコストが上昇する可能性もあります。
http://rekisi-pavilion.com/criticism/594
>>上記ページより抜粋
A日本製アニメは、伝統的に低コストで生産できるため、多くの冒険的な作品が次々に生み出される土壌があった。
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