──
これは朝日の社説の番外編。社説担当者のうちの一人が個人的意見の形で述べている。一部抜粋しよう。
石炭火力や原発が減る分を埋め合わせるには、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを広げるしかない。
日本の再エネには、まだ伸びしろがある。特に風力は、世界で6番目に広い領海・排他的経済水域を活用すれば、原発がゼロになっても電力をまかなえるほどのポテンシャルがある。
なのに政府は、2030年度の電源構成で風力をわずか 1.7%しか見込んでいない。現時点で平均 14%もある欧州に比べ、あまりにも低い。その一方で石炭火力を26%、原子力を20〜22%も見込んでいる。
「石炭火力や原発を残すため、風力を低く抑えざるをえないのだろう」。世界風力エネルギー学会の荒川忠一副会長(東京大名誉教授)は、そう見る。
政府は「再エネの主力電源化をめざす」としているが、電源構成の22〜24%では物足りない。石炭火力と原発という「重し」を取り除き、もっと思い切った目標を掲げるべきだ。
( → (社説余滴)再エネ拡大を阻む「重し」 村山知博:朝日新聞 )
あまりにも穴が多すぎて、どこから手を付けていいかわからないありさまだ。ともあれ、順に指摘しておこう。
石炭火力や原発が減る分を埋め合わせるには、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを広げるしかない
いやいや。LNG がある。それが最有力である。こんな基本的知識もないほどのど素人なんだから、あとは推して知るべきか。
風力は、世界で6番目に広い領海・排他的経済水域を活用すれば、原発がゼロになっても電力をまかなえるほどのポテンシャルがある。
ポテンシャルがあるからといって、それが実現可能になるとは限らない。そこには、実現可能になるための障壁がある。その障壁を、この人はまったく理解できてない。
比喩で言うと、「エベレストに登る可能性がある」というだけで、自分の実力も省みずに、可能性だけを信じて、無謀に登山を始めるようなものだ。自分の実力を理解できない愚か者。そう言えば、似た人がいたな。エベレストで死んだ素人登山者。
→ エベレストで死んだ素人登山者 - Google 検索
政府は、2030年度の電源構成で風力をわずか 1.7%しか見込んでいない。現時点で平均 14%もある欧州に比べ、あまりにも低い。
欧州と日本の違いをまったく理解できていない。「欧州に可能ならば、日本にも可能だ」と思っているようだ。錯覚も甚だしい。まるで、サニブラウンや八村塁の活躍を見て、「日本人だって外国人並みの体力や体格はあるんだ」と錯覚するようなものだ。二人がアフリカ系のハーフであるという点を無視して、「外国人に可能ならば、日本人にも可能だ」と錯覚するわけだ。遺伝子の違いも理解できないまま。
人間ならば、もともとの遺伝子の違いがある。風力発電ならば、もともとの地理的な違いがある。次のように。
日本は、平地が少なく、山地が多く、モンスーン気候で、台風が押しよせる。突発的な台風が風車をなぎ倒すので、風力発電には最悪である。
欧州は、平地が多く、山地は少なく、西岸海洋性気候で、台風は来ない。常に穏やかな風が吹き続けるので、風力発電には最適である。
この違いこそが、彼我の差をもたらすわけだ。この件は、前にも詳しく述べた。
→ 風力発電(地理・気候): Open ブログ
→ 風力発電には上限がある: Open ブログ
似た話は、下記にもある。
→ 日本で太陽光発電と風力発電は厳しい理由(増田)
→ はてなブックマーク
というわけで、日本では風力発電が拡大しないことには、きちんと理由があるのだ。自然環境の差という理由が。……この程度の基礎知識もないまま、堂々と論説を貼るのだから、切れるしかない。そもそも、書く前にはあらかじめ、ネットで基礎知識ぐらいを仕入れておくべきなんだが。
朝日の環境保護論者というのは、ろくに知識もなく、調べ茎力もないまま、非科学的な時専門分野辞書ばかりを開陳して、「俺様は偉いだろう。えっへん」と威張る。少しは恥を知ればいいんだが。厚顔無恥というべきか。
「石炭火力や原発を残すため、風力を低く抑えざるをえないのだろう」。世界風力エネルギー学会の荒川忠一副会長(東京大名誉教授)は、そう見る。
自分の理屈が通らないとみると、陰謀論に走る。しかし、その主張がまったく事実に反するということは、ちょっとググるだけでも、すぐに判明する。
資源エネルギー庁のサイトでは、再生エネの買い取り価格が示されているが、風力はこうだ。
風力 陸上風力 陸上風力
(リプレース)洋上風力
(着床式)※3洋上風力
(浮体式)調達価格 20円+税※2 17円+税 36円+税 36円+税
( → 過去の買取価格・期間等|固定価格買取制度|資源エネルギー庁 )
洋上風力の 36円という数字は、非常に高い金額だ。太陽光の 20円程度に比べても、ずっと高い。これほどにも高額で買い取ってきたのだ。
つまり、陰謀論は成立しない。政府はこれまで、風力発電を冷遇してきたのではなく、逆に、猛烈に優遇してきたのである。
このくらいの事実は理解するべきだ。
──
政府は風力発電を冷遇するどころが、非常に優遇してきた。しかし実際には、建設する人が少なかった。では、なぜか?
それは、建設しても赤字になることが多いからだ。というのも、多額の補助金をもらったり、電力の高額買い取りをしてもらっても、風車そのものが倒壊してしまう例が多いからだ。
→ 風車 倒壊 - Google 検索
そして、このことこそ、日本では風力発電が成立しない理由である。
当然ながら、お先も真っ暗だ。そのことは、風力発電の設備の製造業者そのものがよく理解している。だから、製造業者は、風力発電の製造から撤退することを決めた。長年の努力のはてに、撤退を決めたのだ。
まずは1月に、日立が撤退を決めた。
日立製作所は25日、風力発電機の生産から撤退すると発表した。提携する独大手エネルコン(ENERCON GmbH)からの調達を拡大し、自社は風力発電所の保守運営や蓄電池と組み合わせた次世代サービスなどに注力する。風力発電市場は日本政府も力を入れ始めたが、日立の発表は風力発電機開発の「技術競争」での敗北を認めた形でもある。
( → 日立製作所、風力発電機製造から撤退へ )
続いて4月には、日本製鋼所が撤退を決めた。
日本製鋼所は4月24日に、風力発電機の製造および販売事業から撤退すると発表した。日本特有の厳しい気象環境に対応する技術開発が課題となり、2016年度から製造中止していた。
今回、あらためて事業継続について検討した結果、将来的にも収益の確保が困難と判断した。
今回の日本製鋼所の撤退により、国内の陸上設置の大型風力発電設備は、出力300kW機を開発・製造する駒井ハルテックだけとなった。陸上設置のMW級の風車では、国内メーカーがなくなったことになる。
( → 日本製鋼所、風力設備から撤退、MW級の国産陸上風車が姿消す | 日経 )
長年の努力のあげく、「撤退」を決めたのだ。なぜ今になって決めたのかというと、「とうてい将来性がない」ということが、今になって判明したからだ。(今までは夢見ていたのだが。)
ともあれ、専門家中の専門家が、撤退を決めた。将来性がないことを理解した。なのに、朝日の素人記者は、いつまでたっても現実を理解できないまま、「拡大しよう」などと無謀なことを言っている。
これでは、エベレスト登山を目指す素人登山家と同様だ。しかも、彼と違って、自分一人が犠牲になるのでなく、国民全体を無謀な愚行に引きずり込もうとする。
こういうのは、悪の極みというしかないね。自分の狂信的な妄想のために、国民を泥沼に引きずり込もうとするのだから。ひどいものだ。
[ 付記 ]
ただし、政府はそれほどのバカではないらしい。固定買い取り制という諸悪の根源を、ようやく廃止することに決めたそうだ。
→ 再生可能エネルギー 固定価格の買い取り制度終了へ | NHK
これによって、風力発電というバカげた愚行は終了していくだろう。
その一方で、太陽光発電は、発電コストの引き下げにともなって、市場取引の範囲内でしだいに拡大していくだろう。
どうせ再生エネを推進するにしても、こういうふうに市場原理に任せれば、太陽光という最もコストの低いものが、自然に増えていくのである。政府はそれに若干の補助を与えるだけでいいだろう。
【 関連動画 】