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映画「空母いぶき」が話題になっている。原作は、かわぐちかいじの漫画。( ※ 下記では、漫画を少し無料で読める。)
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これが実写映画になっている。ただ今、公開中。
映画は、原作ファンからは評判が悪い。「設定を改変ししすぎている」とか、「軍事的にありえない」とか。
→ 実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由(古谷経衡)
一方で、映画を見た観客の感想は、悪くない。一本の映画としてみれば、なかなか楽しめるし、水準はクリアしているようだ。
また、批評でも、好意的に評価している人もいる。原作とは別のものとして楽しめる、という趣旨。
→ 『空母いぶき』は西島秀俊の魅力と”男の世界”を堪能できる映画! | シネマズ PLUS
まあ、いろいろとあるようだが、私は映画を見ていないので、映画の出来については論評しない。映画の出来はどうでもいい。
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私は軍事的な面から、考えてみる。それは、「空母の必要性」だ。
私は前に、「空母は必要ない」という話をした。
→ 攻撃型でない空母は矛盾: Open ブログ
要するに、南方には宮古島や石垣島などの離島があるから、ここに戦闘機を配備することで、これらの島を不沈空母とすることができる。ゆえに、いちいち空母なんかを配備する必要はない、ということだ。
ところが、である。かわぐちかいじは、これとは異なる見解を述べた。「空母いぶき」の執筆の動機として、下記のように述べている。
「日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積で世界第6位の広さを持ちます。広大な領海や、そこに点在する島々を、陸上基地から発進する航空機だけで守るのは難しいので、自衛隊は空母を持つ方が現実的かもしれない。それが、『いぶき』の作品づくりに協力してくれた軍事ジャーナリストの故惠谷治さんと私の共通認識でした」
( → 「どうやれば戦争せず国を守れるか」かわぐちかいじさん:朝日新聞 )
なるほど。これはこれで一理ある。同趣旨の話は、本日の記事でも紹介されている。
→ 軍事のリテラシー、考えるとき 自衛隊の初の実戦描写――映画「空母いぶき」から見る:朝日新聞
ただしこの記事には、次の文言もある。
空母は潜水艦からの攻撃に弱く、費用対効果を疑問視する声もある。
( → 軍事のリテラシー、考えるとき 自衛隊の初の実戦描写――映画「空母いぶき」から見る:朝日新聞 )
空母は潜水艦からの攻撃に弱い。たしかにそうだ。そのことは、「沈黙の艦隊」でも述べられている。海を三次元で移動できる潜水艦は、海では最強だ、という趣旨。つまり、空母よりも潜水艦の方が強いのだ。さすがに、「沈黙の艦隊」は名作であった。
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さて。「沈黙の艦隊」の見解(潜水艦が最強)を取るのであれば、先の「空母が重要だ」という新しい趣旨とは矛盾する。ここに注意!
そこで、よく考えると、「空母いぶき」には、潜水艦攻撃がろくに出てこないのだ。戦闘機同士の空中戦がメインであって、潜水艦の出番は少ない。しかしこれはおかしい。
なるほど。中国の潜水艦のレベルは低いので、探知されやすく、実戦には出てこないかもしれない。しかし日本の潜水艦のレベルは高く、探知されにくい。
ならば、敵の空母がやって来たとき、日本は「空母いぶき」なんかで対抗するよりは、潜水艦で対抗するべきだった。そうすれば、敵の空母をあっさり撃沈できたはずだ。(あるいは撃沈しないまでも、大破・中破させることができた。)
というか、そもそも、空母が出動するときには、空母を守るはずのヘリ空母(対潜ヘリを搭載)を出動させるべきだ。これが必要不可欠だ。なのに、その話がまったく抜けている。
実を言うと、日本が空母を所有するという話では、ヘリ空母を空母に改造する(改修する)というふうになる。だから、空母を1隻つくるためには、ヘリ空母を1隻減らす必要がある。たとえば、ヘリ空母の「いずも」を、空母の「いずも」にすることで、ヘリ空母を1隻減らして、空母を1隻増やす。
しかし、こうすると、空母を得ても、空母を守るためのヘリ空母が1隻減ってしまう。また、ヘリ空母は空母に張りつけとなるので、他の海域に出動することもままならなくなる。
ま、こういう裏事情があるので、それを隠すために、ヘリ空母をわざと搭載させないのかもしれない。また、ヘリ空母の相手となる潜水艦も、わざと登場させないのかもしれない。
しかし、そうなると、「潜水艦こそが現代の海戦の主役である」という現実を隠蔽することになる。
結局、「空母いぶき」という漫画と映画は、空母を主役とした作品を作るために、本来の主役である潜水艦と対潜ヘリを隠蔽してしまっている。そのことで、現実からは遊離した、仮想のおとぎ話になってしまっている。リアルな軍事とはまったく関係のない、ファンタジーになってしまっている。
この映画については、「軍事常識から懸け離れている」という指摘がある。だが、それ以前に、原作の漫画が「軍事常識から懸け離れている」という難点があるのだ。それは、空母を主役とするために、「本来の主役である潜水艦と対潜ヘリを隠蔽している」ということだ。
「空母いぶき」という作品は、そのテーマ自体が現実離れしたファンタジーであるにすぎない。そしてそれは、かわぐちかいじの名作である「沈黙の艦隊」を裏切るものなのだ。
ま、空母があればあるで、それなりに役に立つかもしれない。だから、空母をテーマにした漫画があってもいい。しかしそこでは、潜水艦も登場させるべきだったのだ。そして、そうすれば、潜水艦とヘリ空母が現代の海戦の主役となることが判明するはずだ。
ただし、「沈黙の艦隊」でも、ヘリ空母はあまり出てこなかった。潜水艦ばかりが主役となっていた。これもまた、現実離れしていた。
「潜水艦とヘリ空母が現代の海戦の主役となる」という真実をバラすと、「沈黙の艦隊」における「潜水艦が有利」という神話が崩されてしまうので、あえて潜水艦を出さなかったのだろうか。
かくて、「空母いぶき」は、潜水艦もヘリ空母も出さないまま、現実離れした荒唐無稽な戦争物語となってしまった。
【 関連項目 】
本サイトにおける空母の話。(時間順)
→ 空母への改修: Open ブログ
→ 空母への改修 2: Open ブログ
→ 空母は戦艦大和?: Open ブログ
→ 攻撃型でない空母は矛盾: Open ブログ