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列車が車止めに衝突した事故があった。これについては、前に「車止めには緩衝装置を付けよ」と論じた。
だが、読者の指摘で知ったが、実は油圧式ダンパーが付いていたそうだ。この件は、その項目の最後に加筆しておいた。【 追記・訂正 】 という形で。
→ 列車が車止めに衝突: Open ブログ
ただ、油圧式ダンパーがあれば済むかというと、そうでもない。上記項目の最後には、こう記した。
「ただし、ダンパーの機能は不足していたようだ。もっと強力なダンパーが必要だったようだ」
実際、今回はひどい被害が生じたので、上のことが明らかだろう。
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さて。上のように加筆したあとで、もうちょっと考えたことがあった。こうだ。
「油圧式のダンパーは、対処できる力の大きさが、ある一定の値に限られる。だから、大きな衝撃には耐えられないだろう」
こう疑った。そこで、ネットで調べてみたところ、まさしくそうだと判明した。
計算上、時速10キロ以上で衝突した可能性があるという。
( → 衝突後、1メートル移動 横浜シーサイドライン 車止めが衝撃を吸収 - 産経 )
ダンパーが最終的な位置まで移動したことから、「時速10キロ以上で衝突した」と推定されるわけだ。
逆に言えば、このことから、「ダンパーの耐衝撃性は、時速10キロまでだけだった」と推定される。
これを裏付ける話もある。
画像の方式は油圧式の強力なものです。
車止めの中ではかなり安全なものですが、それでも15km/h程度までしか、安全には停止できません。
( → 列車の車止めは、衝突しても大丈夫、耐えられるように造られて... - Yahoo!知恵袋 )
「15km/h程度までしか、安全には停止できません」と説明されている。案の定だ。
さらに詳しい情報を探したのだが、ネットでうまく見つからなかった。 Buffer stop という英語でも探したが、やはりうまく見つからなかった。
とはいえ、裏付けるだけだから、情報としては上記のことだけで十分だ。
要するに、結論はこうだ。
「油圧式のダンパーは、もともと時速 10 〜 15km ぐらいまでにしか対応していない」
その意味は、こうだ。
「油圧式のダンパーは、いったんブレーキをかけて低速になった電車が、10 〜 15km に下がったあとで、衝突時に電車が傷つくのを防ぐためのものだ」
言い換えれば、こうだ。
「油圧式のダンパーは、(走行中の)電車の衝突時に乗客を守るものではない」
これは、ポイントを言えば、次のように言える。
・ 時速 10 〜 15km には対応するが、それ以上には対応しない。
・ (低速時の)電車の被害は防止するが、(高速時の)人間の被害は防止しない。(対象外である)
要するに、この車止めは、「事故に対するフェイルセーフ」という機能は、ほとんどもっていないのである。電車の軽微な損傷を防ぐことだけが目的であって、人間を守ることは念頭に入っていないのだ。
だから、次のような仕様となっている。
・ ダンパーへの入力は、弱い力が前提となっている。
・ ダンパーの移動距離は、1メートルだけである。
まったく機能不足と言えるだろう。現場の写真を見ると、線路の末端にはかなり長い距離の空間がある。この長い距離の空間の全体を使えば、1メートルどころか長い緩衝装置を付けることができるはずだ。しかもそれは、油圧式のダンパーみたいに高額なものである必要はなく、安価な鉄骨の梁構造みたいなものだけでいいはずだ。(ジャングルジムみたいなもの。)
そういうものを置いておけば、「列車が走行して衝突したときに、人間の被害を防ぐ」ということができたはずだ。しかし現実には、そうでなかった。電車の損傷を防ぐための高額な油圧式ダンパーは設置されていたが、人間の被害を防ぐための安価な鉄骨式緩衝装置は置かれていなかった。
事故そのものは避けられなかったかもしれないが、事故の被害は避けられたはずだ。しかし、避けようとする意思がもともとなかったのである。会社にとって大切なのは、何千万円もする鉄道車両であって、人間の命なんかは二の次なのだろう。そういう経営方針になっている。
それが今回の事故で判明したことだ。
[ 付記 ]
シーサイドラインは、自動運転でなく手動運転で再開したそうだ。先に述べたとおり。
→ おかしな事例 3件: Open ブログ
そこで、次の疑問が湧く。
「事故でぶつかった油圧式ダンパーは、元の状態に戻されたのか? つまり、安全対策はなされた上で、運転を再開したのか?」
もちろん、バカでなければ、ダンパーを復旧してから運行を再開したに決まっている。ダンパーが壊れたまま運転を再開する泣いて、狂気的だし、ありえないことだ。
とはいえ、念のために、 twitter を検索してみた。すると、意外な事実が判明した。いまだ復旧していないそうだ。下記の報告がある。
1枚目: シーサイドラインで電車がぶつかった新杉田駅の車止め
— ななくろ(小日向美穂担当) (@nayuzeta) 2019年6月5日
2枚目: 正常な車止め(電車がぶつかっていない2番線の車止め) pic.twitter.com/mM1tzW50VR
シーサイドライン新杉田駅車止め、隣の平常なものとの比較。電車が突っ込んだ方はダンパーが壁に向かって伸びきっている(=ちゃんと動作した) pic.twitter.com/MVTYuAFd7P
— しーさいど@6/2神戸かわさき石-14でした (@SeasideExp) 2019年6月5日
つづき。
— 喪男【モダン】 (@itsmohito) 2019年6月4日
・1番線は使用停止模様
・新杉田駅又その他の駅で報道陣あり
・昼間は比較的余裕があり、駅のコンコース以外はいつの平日
写真は事故を起こした1番線と2番線の油圧式車止めの比較。
また、事故時の1番線、2,3号車付近にタイヤ痕があり、衝突により相当な衝撃が伝わったと思われます。 pic.twitter.com/tlbsnSZIvx
「あれれ」と思ったのだが、よく読むと、事故の起こった1番線は使われていない模様だ。事故の起こっていない2番線の方だけを使っているようだ。(こちらのダンパーは正常だ。)
念のため、調べたら、そうであると確認された。
減便ながらも手動運転で仮復旧したシーサイドラインの新杉田駅は今日も無傷の2番線のみの使用
— AAA (@vdj27144) 2019年6月4日
代行バスの常設看板は結局1日だけの使用になったが混雑緩和のため今日も7時頃から走る模様
電車内は既に満員状態#シーサイドライン #代行輸送 pic.twitter.com/LKRa0XWDEM
#シーサイドライン 新杉田駅
— ヴィル??富士SF Jul.13-14 (@ville_japan) 2019年6月4日
←左が事故のあった1番線の車止め
右が通常の2番線の車止め→
現在、2番線だけで運用してますね。 pic.twitter.com/PrQVT8zo4u
さすがに1番線は使っていないようだ。ほっ。