2019年05月29日

◆ 日産への統合圧力は 2

 ルノーとフィアットの統合がなされたあとで、日産への統合圧力はどうなるか? ……この話題で、さらに考える。

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 この話題で、昨日も述べた。
  → 日産への統合圧力は?: Open ブログ

 その後、さらに考えたことがあったので、以下に記す。

 ──

 そもそもフィアットは、ルノーの規模よりもずっと大きいのに、統合比率は1対1である。これは不自然だ。どうしてか?

 これについて、ヒントとなる話もあった。フィアットは今回、自社株の株主に対して、高額の配当を贈るそうだ。
 「結婚」成立に先立ち、FCAは株主に25億ユーロの配当を支払う。うち6億7500万ユーロはアニェッリ家の持ち株会社エクソール(EXOR.MI)が受け取り、合併後の新会社の株式約 14.5%を握る筆頭株主となる。
( → コラム:FCA・ルノー統合案、日産にも「大きな恩恵」 - ロイター

 高額の配当を贈れば、内部留保が減り、自社の価値が減少する。そのことで、大きかった自社の価値が、ルノーの価値に近づくことになる。
( ※ 株主にしてみれば、もともとあった大きな株の価値が、小さな株の価値と現金とに転じたことになる。)
 とはいえ、これですべてだとは思えない。もっとあるはずだ。何か?

 実は、ルノーという会社の価値の半分以上は、自社の価値ではなくて、日産の株を持っている持株会社としての価値である。利益のうち、自社の業務の利益は3分の1で、残りの3分の2は日産からの配当で占めているからだ。
 とすれば、フィアットが狙ったのも、それであるはずだ。つまり、フィアットはルノーという自動車会社と統合するのではなくて、日産の株式を持っている持株会社と統合するのだ。
 
 ここまで見れば、フィアットの狙いもわかる。彼らはルノーという自動車会社と事業面で統合したがっているのではない。日産の親会社と統合することで、自分自身が日産の親会社になりたがっているのだ。それが本当の狙いなのだ。(重要!) 
 では、それは、日産にとってどういう意味があるか?

 第1に、デメリット。日産は親会社である統合会社の支配から脱せない。……とはいえ、これは、従来もそうだったから、特に悪化したというわけでもない。
 実は、「日産がルノーの株を買うことで、ルノーのもつ日産の株式を無効化できる」という協定(RAMA)があった。この協定は、統合後は、ほとんど死文化する。というのは、これを有効化するには、日産が統合会社の株を 25%以上も保有する必要があるが、それは無理だからだ。(現状ではルノーの 15%を保有しているが、統合後は新会社の 7.5%になる。そこから 25%まで買いますのは、まず不可能だ。)
 とはいえ、この協定が死文化するとしても、特に問題はないとも言える。(その理由は、以下のことだ。)

 第2に、メリット。統合後は、親会社がルノーから統合会社に代わる。このことで、統合会社におけるフランス政府の重みは格段に低下する。
  ・ そもそも 15%しかなかったのが、半減する。
  ・ 15% という比率は、日産と同等となる。
  ・ フロランジュ法の適用もできなくなる。
  ・ 日産の株は、効力が停止でなくなる。(たぶん)

 こういう事情があるので、今までのようにフランス政府が日産に対して「統合しろ」と圧力をかけることができなくなる。
 さらに、もっと重要なことがある。7.5%しかないフランス政府や日産の比率と比べて、アニェッリ家の 14.5%という数値は圧倒的に高い。今後はフランス政府よりもアニェッリ家の意向が強く働くことになる。その意味で、フランス政府の発言力は大幅に小さくなる。(これまでのように筆頭株主としての立場はなくなる。)
 しかも、である。アニェッリ家は、日産との統合に賛成するはずがないのだ。
  ・ 統合すれば、統合会社における比率が 10%以下になる。
  ・ 統合しなければ、親会社としての優越的な立場を利用できる。


 説明しよう。
 統合すれば、統合会社の株主は大幅に増える。日産の株主が追加される。そのうち 43%はルノーなので相殺されるが、残りの 57%は新規に追加される。その分、アニェッリ家の地位は低下する。14.5%から、10%以下という比率にまで、持株の比率が低下するからだ。こうなってはもはや筆頭株主というのも名ばかりのものになりかねない。それはまずい。(発言力低下となる。)
 統合しなければ、14.5%という比率を維持できるので、筆頭株主としての影響力を保てる。しかも、日産に対しては、43%の大株主として、圧倒的に大きな発言力を持てる。これまではルノーがその発言力を持っていて、フランス政府がそれを利用してきたが、今後は統合会社がその発言力を持っていて、(フランス政府でなく)アニェッリ家がそれを利用できる。
 というわけで、アニェッリ家としては、統合会社には日産が加わらない方が有利なのだ。ゆえに、統合会社には、日産は加わらないだろう。つまり、日産に対する統合圧力は弱まるだろう。
 
 では、統合会社は、日産に対して、どう出るか? 「統合せよ」と言うかわりに、何と言うか? たぶん、こうだ。
 「統合しなくていいから、業務提携しろ。日産は、統合会社に大幅に出資しろ。統合会社が日産に干渉するようなことはしないが、かわりに、日産が統合会社に干渉してくれ。つまり、統合会社に出資したあとで、自動運転や EV の技術を供与(販売)してくれ。そのために必要な金は払う」

 これならば、日産としても異を立てないだろう。ともに win-win の関係になるからだ。
 要するに、形の上だけを見れば、
 「統合会社が日産に干渉するのでなく、日産が統合会社に干渉する」

 という逆方向の形で、業務上の一体化が進行するだろう。そして、それこそが、最も自然な形なのである。

 私は前に次のように語った。
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「経営統合をするが、ただし、ルノー主導ではなく、日産主導とする。ルノーが日産を子会社化するのではなく、日産がルノーを子会社化する」


 これは、逆転の発想だ。現状では、「日産はルノーの子会社である」というふうになっているから、それを前提として考える人が多い。しかしその前提をひっくり返して、逆転させればいいのだ。

 かくて、物事の本質を考えることで、「前提をひっくり返す」という形で、現状を逆転させる方針が出る。これが正解だろう。
( → 日産とルノーは統合すべきだ: Open ブログ

 ここで述べたことが、将来的には成立しそうだ。私としては、そう予想しておこう。

 なお、要点を述べれば、次の予想となる。
  ・ 日産は統合会社に参加しない。(傘下に入らない。)
  ・ そのかわり、日産が統合会社に大幅に出資する。
  ・ 日産と統合会社は、連携を強化する。技術供与など。

 この方向に進みそうだ。

 ──

 《 注 》

 日産が出資する統合会社は、持株会社の方。
 日産が連携する統合会社は、傘下の事業会社の方。
 日産は、持株会社に出資して、傘下の事業会社と業務協力するだろう、というのが私の予想だ。

 これは、次のことを否定する。
 「日産は、持株会社の傘下に入って、持株会社の首脳陣の方針に従う。経営の自主性はなくなる」
 フランス政府はこれを狙ったが、今後はそういうことはなくなるだろう、というのが私の予想だ。
( ※ そんなことをすれば、金の卵を産むガチョウを殺すことになる。マクロンはそれをめざしたが、アニェッリ家はマクロンほどの馬鹿ではあるまい。)



  ※ 以下は読まなくてもよい。


 [ 付記 ]
 仮に日産が統合に参加した場合の構成比はどうなるか? 
 FCA の時価総額は 2.2兆円だが、配当で配った分を差し引きすると、現在は2兆円ぐらいか。
 日産の時価総額は 3.3兆円だが、そのうち 43% をルノーが持っているので、ルノーの持ち分は 1.4兆円で、他者が 1.9兆円ぐらい。
 ルノーの時価総額は 2兆円だが、そのうち(日産株の分の) 1.4兆円を差し引くと、ルノーの事業本体の価値は 0.6兆円ぐらい。
 FCA とルノーが対等で統合するときには、それぞれ2兆円の価値で統合する。そこに日産が加わるときには、3.3兆円の価値で統合するが、そのうち 1.4兆円の分は、もともとルノーの持ち分だから、重複している。その分を差し引くと、日産のうち(ルノー以外の)他者の分の 1.9兆円分が他者に割り当てられる。
 日産の発言件はどれだけあるかというと、3.3兆円分あるのだが、そのうち 1.4兆円分はルノーが指定できそうだ。しかし、他者の発言権(1.9兆円)と日産の発言権(3.3兆円)とが、区別しにくい。どっちを取るべきかはっきりとしない。
 とすれば、日産としては、統合に参加しないで、ただの連携に留めた方が有利だ。1.9兆円の形で全体に埋没することなく、3.3兆円の規模で独立性を保てるからだ。
 逆に言えば、日産を統合に参加させた方が、FCA とルノーにとっては有利だ。ただしその場合は、日産が FCA とルノーみたいになってしまうわけだから、金の卵を産むガチョウを殺してしまうことになる。愚の骨頂。……マクロンの狙いに従うとこうなるはずだが、FCA の狙いに従えばこうはならないだろう。かくて、FCA の主導により、日産の自主性は保たれるだろう。

 ──

 一方、法的・原理的に考えるなら、次の方針が妥当だと思える。
 (i) 持株会社の運営(基本原理的な運営)については、それぞれの株主が、個別の比率に従って、権利を持つ。ただし、日産における「他者」の代理として、日産が 1.9兆円分を行使してもいい。( FCA は 2.2兆円で、ルノーは2兆円。)
 (ii)事業会社( FCA 各社、ルノー、日産)の運営については、各社の経営陣が時価総額の比率に応じて、権利を持つ。日産は 3.3兆円で、FCA は 2.2兆円で、ルノーは2兆円。(または、ルノーについては日産の持株分 1.4兆円を差し引いて、0.6兆円となる。)

 この (ii)になると、日産の発言権が非常に大きくなる。FCA や ルノーの発言権は相対的に小さくなる。それだと、FCA (特に アニェッリ家)にとっては不利だ。
 それよりは、現状のように「 FCA とルノーの統合会社において筆頭株主となり、かつ、日産に対しては親会社としての立場を持つ」ということの方が、お得である。影響力も行使しやすい。
 というわけで、(ii)の結果をもたらすようなこと(日産が3社の統合会社の一翼を占めて最有力になること)は、FCA にとって好ましくない。だから、FCA は、統合会社に日産が参加することを拒むだろう。
 なるほど、フランス政府は日産に「統合会社に入れ」と要求した。しかしそれは、「フロランジュ法で自己の株式の効果が2倍になり、かつ、日産の株式の効果はゼロである」という特殊状況においてのみ、成立したものだ。その特殊状況がなくなれば、もはや日産を統合会社に入れることのメリットは失われてしまうのだ。
 このことが基本原理となる。かくて、新旧の二つのケース(場合)には差が生じるわけだ。

 なお、ルノーの関係者は「日産は統合会社に入るべし」と主張しているらしいが、それは、新旧の違いを理解できていないせいだろう。
 以前ならば、統合会社のトップにルノーが就くことで、ルノーが日産を完全に支配下に置くことができるはずだった。日産の技術をルノーが使い放題になるはずだった。
 しかし今後は、(フロランジュ法がなくて FCA があるので)統合会社のトップにルノーが就くことはできない。FCA か日産の社長が統合会社のトップに就く。そうなればルノーはかえって不利になるのだ。
 ルノーの関係者は、まだ現状をよく理解できていないようだ。
 


 【 関連サイト 】

 関連記事。
  → フィアットのルノー統合案「事実上の買収」−仏PSAタバレスCEO

 元記事(英文)は:
 Renault’s share price has hovered near five-year lows, according to the memo, which -- echoing some analysts -- contends the carmaker’s market value is negative after stripping out its 43% Nissan stake and banking business RCI. “Renault’s current valuation largely explains Fiat’s interest in a merger,” it said, calling the deal a “virtual takeover of Renault by Fiat.”

 《 みらい翻訳 》
 (PSAタバレスCEOは)メモによると、ルノーの株価は五年ぶりの安値近辺で推移しており、一部のアナリストの意見を反映して、日産株43%と銀行事業のRCIを切り離した後の同社の市場価値はマイナスだと強く主張し、「ルノーの現在の評価額は、フィアットが合併に関心を持っている主な理由である。」とし、この取引を「フィアットによる事実上のルノー買収。」と呼んでいる。
( → Peugeot Chief Sees Fiat Deal as `Virtual Takeover' of Renault - Bloomberg

posted by 管理人 at 21:00| Comment(3) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 本項の判断( FCAは統合に日産の参加を求めない)が妥当であることを、裏付ける記事がある。以下、引用。

 ──

 関係筋によると、今回の提案でFCA側はあくまでもルノーとの経営統合を目指しており、将来の日産との統合まで求めていない。その関係筋は、ここ数カ月間のルノーと日産、三菱自との関係は「おそらく誰もが望むほど建設的ではない」と指摘。FCAはルノーに対し、日産との経営統合は追求しないほうがいいとアドバイスするだろうとも話している。

 http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKCN1SZ08H.html

 ──

 ※ 上の記事は、朝日の紙面には掲載されていない。変だと思ったら、ロイターの記事だった。

 なお、ルノー側は、日産を統合に入れようとしている。以下、引用。

 ──

 仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長は30日、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)から提案を受けている統合で実現が期待される巨大自動車連合について、従来のパートナーである日産自動車にも合流してもらいたいとの考えを明らかにした。
 「より緊密なパートナーシップがアライアンスの価値を高める。日産が自社の誇りと技術を世界中で展開するのをみたい」と日産もルノー・FCAの連合に合流することを望んでいると話した。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-30/PSAKJ56TTDS301

 次の記事もある。(同趣旨)
 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45447230Q9A530C1EB1000/

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 なお、日本のマスコミでは、「日産は統合会社に飲み込まれて、独立性が脅かされる」という悲観論が圧倒的に多いが、欧米の論調は、そうではないようだ。私(本項)と同じような考え方をするところもある。その一例が、上記(ロイター)だ。

Posted by 管理人 at 2019年05月30日 18:34
 ルノーが日産を統合会社に引き込もうとしているのは、なぜか? 
 「これまでの行きがかり状で、日産を支配しようとしているから」
 とも思えるが、むしろ、
 「強大な FCA に対抗するために、自分に味方をしてくれそうな日産と組もう。そうすれば、統合会社において、ルノー・日産が FCA よりも多くなる」
 と思っているのだろう。
 しかし、それは勝手な思い込みだ。日産としては、むしろ、自社を支配しようとする裏切り者のルノーなんかとは、袂を分かつ方がいい。ルノーを捨てて、FCA と組む方がいい。ルノーなんて、規模も小さいのだし、今後は無視してもいいぐらいだ。
 とりあえずは、配当金も大幅に減額するべきだ。
 また、ルノーがいつまでもうるさく統合を要求するのであれば、マイクラの委託生産を中止してもいいだろう。もう今後はルノーの要求なんか無視した方がいい。あいつらは敵だ。(侵略者だ。)
Posted by 管理人 at 2019年05月30日 18:46
 ルノーが日産を統合会社に引き込もうとしているのは、こう思っているからかもしれない。
 「日産の株式の 43%を持つことで、日産をなかば支配できる。そこで、ルノーと日産の双方の取締役を合計すると、FCA と他の合計を上回って、過半数に達する。かくて、ルノーの思うがままに、統合会社を左右できる」
 しかしこれでは、事業規模で最小の会社が、全体を左右することになる。シッポが本体を振り回す状態だ。最悪。
 こうなるのを、FCA は阻止したい。だからこそ、FCA は日産が統合会社に入ることを拒むわけだ。
Posted by 管理人 at 2019年05月30日 20:38
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