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関連記事は、下記がある。
→ FCA・ルノー、折半出資へ協議 統合交渉を読み解く :日本経済新聞
→ FCA、ルノーに統合提案…世界販売1500万台 : 経済 : 読売新聞
→ ルノー・FCA、統合へ 世界最大 日産、経営に影響も:朝日新聞
→ 次世代車へ「世界連合」 巨額投資で開発加速狙う:朝日新聞
次の点が指摘されている。
・ 統合により、各社の株式は持株会社の株式に転換される。
同時に、持株比率は半減する。
・ 日産とフランス政府の持株比率も半減する。
・ フロランジュ法の適用はなくなる。(会社はオランダ)
・ ルノーから日産への統合圧力はなくならない。
( ※ ただし、ルノー関係者の話)
いろいろあるが、いずれも基礎的な話だ。
※ なお、朝日の記事から一部抜粋すると、こうだ。
提案書には、ルノー株を15%持つ仏政府の影響力を弱める内容も盛り込まれた。2年以上の長期株主に2倍の議決権を与えるフランスのフロランジュ法の成立により、ルノーに対する仏政府の議決権が拡大したが、統合後はこれを持ち越さないと踏み込んだ。
( → 次世代車へ「世界連合」 巨額投資で開発加速狙う:朝日新聞 )
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ここで私の解釈を言うなら、こうだ。
(1) フロランジュ法
フロランジュ法の適用はなくなるということが大きい。これによってフランス政府の発言力は大幅に低下する。現状では 15% の株で、3割ぐらいの発言権を得ていたが、今後は半減した 7.5%の株しかない。(フロランジュ法で倍増しない。)
一方で、日産の持株は 15% のままだから、同じ割合の持株となる。両者の発言権は同じだから、「ルノーが日産に圧力をかける」という経営方針は取りにくくなる。
(2) 日産株の効果
日産がもつルノー株は 15%だが、この株の効果は停止されている。この株が新しい持株会社の株に転換されたあとも停止しているかといえば、そんなことはないはずだ。(法的に言って、新規の会社には適用されないはずだからだ。日産の合意がない限りは。)
こうなると、日産は (1) の点で自社の方針を強く主張できる。日産がルノーの経営に大きく発言力を持つ。つまり、フランス政府の発言力を解消できる。(相殺する形で。)……かくて、日産の経営の自主性は大きく高まる。
※ 以上は本サイトの見通しだ。実際にそうなるかどうかは断言できない。
なお、この点について解説している記事が、他に見当たらない。ここまで考えているのは、本サイトぐらいしかないようだ。
(3) クライスラーの例
フィアットはクライスラーを完全子会社にした。この事例では、どうだったか?
「どうせ失敗するだろう」
というのが私の予想だったが、意外にも、これは成功した。ひるがえって、ベンツが三菱を配下にしようとしたときは失敗したのだが、フィアットがクライスラーを配下にしたときは成功した。これはなぜか?
「ベンツは配下の企業を完全に支配下に置こうとしたが、フィアットはクライスラーの経営の自主権を尊重したからだ」
というのが私の推測だ。フィアットは自社が欧州で成功していないのを自覚していたので、不得意な北米市場ではろくに口出ししなかった。経営はあくまで現地の米国人に任せた。ただ、大枠については、駄目な経営者を追放して、まともな経営者を導入するという形で、経営を健全化した。自社の口出しは最小限に留めて、クライスラーの経営自主権を尊重した。……これが成功の理由だったと思える。
( ※ この方針を主導したのは、セルジオ・マルキオンネ・前CEO )
こういう方針を取る会社であれば、ルノーのように、「子会社を強引に支配下に置く」というような方針は取らないだろう。それは「金の卵を産むダチョウを殺す」というようなものだからだ。ルノーが日産を支配下に置けば、日産がルノー化してしまって、駄目な会社が二つできるだけだ。元も子もない。……そういうことを、マクロン大統領は理解できないが、フィアットという会社は理解できるだろう。
クライスラーの例からすれば、フィアットの方針は推定できるわけだ。
(4) マセラティ・ブランド
フィアットはマセラティを傘下に収めている。その意味を考えよう。
日産には高級車ブランドがない。インフィニティは( SUV を除いて)高級車からは撤退した。もはやベンツ・レクサスという高級車の対抗馬にはなり得ない。(ずっと昔のシーマを細々と生産しているぐらいだが、そもそもシーマは最高級車ではない。レクサスLS の対抗馬というよりは、クラウン・マジェスタの対抗馬であるにすぎない。てんで格下だ。)
そこへ、フィアットの傘下にあるマセラティが出てきた。これと手を結ぶことで、日産は高級車ブランドに進出できるかもしれない。あまりにもひどいデザインや内装について、マセラティの力を借りれば、共同開発車をつくれるかもしれない。
「デザインと内装はマセラティで、エンジンや足回りは日産で、さらに日産の自動運転・EV 技術も投入する」
というふうにすれば、両者にとって好都合だ。
日産のインフィニティは商品力がひどく劣るし、マセラティの新世代技術は皆無に近い。両者が補い合うことで、win-win な関係を構築できるだろう。
(5) 自動変速機は?
マセラティとくっつくのもいいが、泣きどころもある。自動変速機だ。
日産の自動変速機は弱いので、アイシンAW の AT でも持ってこないと、高級車市場では戦えそうもない。……と思ったのだが、実は、そうでもないようだ。
というのは、マセラティは、ZF製8速オートマチック・トランスミッションをすでに採用しているからだ。そうだったのか。だったら日産は、ZFの AT を採用するという手もあるわけだ。
前に、(ジヤトコとアイシンという)日本メーカー同士で連携するという手も考えたことがあった。
→ ジヤトコとアイシンは合併せよ: Open ブログ
だが、フィアットやルノーのいる世界的なグループとなってしまえば、もはや日本の会社にこだわる必要もないわけだ。ジヤトコと ZF が合体するというシナリオも、考えられなくはない。
ただ、この場合は、相手が巨大すぎるので、完全に呑み込まれる(吸収合併される)という形になりそうだ。日本メーカーとドイツメーカーの合体というよりは、日本メーカーがドイツメーカーに呑み込まれて吸収されるわけだ。そのあおりで、アイシンAW も弱体化して、日本全体がドイツに負ける……という感じになる。
まあ、それも仕方ない。ジヤトコが消滅するとしても、日産がつぶれて消滅するよりはマシだろう。
※ 現状では、日産がつぶれる危険もある。日産は自動変速機が駄目すぎるからだ。
→ 日産の不振の原因は?: Open ブログ
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総評としては、今回の統合は、日産にとって有利になる可能性が強いが、だからといって、楽観できるわけでもない。他の問題がすべて解消するわけでもないからだ。
とりあえず一安心はできそうだが、そもそも根源的に日産は業績が悪化しているし、経営がメチャクチャなので、先行きは楽観できない。
→ 日産自動車の業績が破綻的: Open ブログ
【 追記 】
フランス政府の持ち分を 19% と記しましたが、これは誤りであって、正しくは 15% であるので、訂正しました。( 2019-05-28 21:35 )
対して、新会社の日産株持ち分は43%で変わらず
親会社が大きくなったことで日産の発言力は相対的に弱まったことになります
こうなるなら先に合併したほうが良かったかも
その発言力(7.5%)は、統合会社における発言力。フィアットとルノーに対する発言力。そんなものはゼロであっても構わない。日産はもともと他社に経営干渉するつもりはないし、フィアットやルノーがつぶれたとしても知ったことではない。
大事なのは、日産が自主性を保てるか否か。つまり、親会社から干渉を受けるか否か。この点では、比率は 43%であって、現状維持だから、変化はないように見える。
しかし実は……という話は、本日の続編で示します。日産が統合に参加した方がいいかどうかも示します。