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「予約しても使わなかったのだから、金は1円も払いたくない」
というのが言い分だ。その気持ちはわからなくもないが、それではシステムが成立しなくなる。そういうことに気づかない人が多い。
気づきやすい例と、気づきにくい例を示そう。
(1) レストランの予約
レストランで席を予約したあとで、勝手にキャンセルする客がいる。キャンセル料を払わないので、店が大損するそうだ。そこで、これを補償するという保険サービスが出たそうだ。
無断キャンセルがあっても用意した料理などの代金を保証したり、予約をめぐるトラブルを事前に防いだりするサービスが広がってきた。
飲食店で無断キャンセルがあった場合、基本的に予約されていた料理の代金の全額をガルディアが店側に支払う。美容院の場合も予約があったヘアカットの料金全額を店側に支払う。
ガルディアが保証する金額の1カ月あたりの上限は店ごとに定め、平均で約30万円程度。保証料は月数千円。サービスを利用する店は全国で2万店近くに上るという。
( → 増える無断キャンセルに「自衛策」続々 店の損害を補償:朝日新聞 )
まあ、レストランぐらいならば、「無断キャンセルは店に損害をもたらす迷惑行為だ」とわかるだろう。これはわかりやすい例だ。
(2) 私大の入学金
私大に合格したら入学金を払うが、最終的には入学しない場合ことも多い。その場合には、入学金の取られ損だ。そこで、
「入学しない場合には、払った入学金を返還すべきだ」
という主張がある。これは一見、ごもっともな理屈に思える。
しかし、である。もしそうすれば、私大の入学金の総収入は減ってしまう。それでは赤字になる。とすれば、「最終的に入学する学生」からは、徴収する入学金を値上げする必要がある。
以上をまとめれば、次の対比だ。入学金が 50万円だとして、
現状では、「入学する大学に 50万円、入学しない大学に 50万 × 2」で、合計 150万円の支払い。
改革後は、「入学しない大学に 50万 × 2」という分はなくなるが、その分、大学の収入が減るので、入学する学生からは「 150万円」の入学金を徴収する……というふうになる。
要するに、大学にとって必要な金(総収入)は同じだから、どっちみち、入学者から取る金の総額は同額となるのである。つまり、改革してもしなくても、合格者の支払う金は同じなのである。
ただし、以上に述べたのは、平均的な学生の場合だ。細かく見ると、差異もある。つまり、次のようになる。
これまでは、金持ちの受験生が、多くの大学を受験して、多くの大学で「無駄な入学金」を払ってくれた。たとえば、1人で 50万円× 6 ぐらいの入学金を払ってくれる金持ち子弟がいる。その分、貧乏な受験生は少ない支払いで済む。たとえば、次の方針を取ることができた。
「合格するはずの大学1本に絞る。そこに 50万を払って、他の大学には1円も払わない。総支出は 50万円」
ところが、改革後は、そうは行かない。
「金持ちも貧乏人も一律で同じ金額になる。誰もが 150万を払う」
結局、改革の前と後で比べると、次のようになる。
・ 金持ち受験生 …… 300万円 → 150万円
・ 貧乏 受験生 …… 50万円 → 150万円
金持ちと貧乏人が一律になることで、金持ちは得をして、貧乏人は損をする。そういう改正(改悪?)がなされるわけだ。
目先の金を追って、金をケチろうとすると、かえって損をするハメになるのが、愚かな貧乏人だ。
( ※ 賢明な貧乏人ならば、そんなふうにケチろうとはしない。)
(3) 救急患者の高額差額ベッド料
特別養護老人ホームにいた高齢者が救急搬送された大病院で、カテーテル手術が必要だと言われた。ただし差額ベッド料なしのベッドは満杯で、1日 10〜15万円の部屋ならばある、とのこと。
こういう金持ち向けの特別室を一般人に勧めるのはけしからん……という見解がある。(体験談:朝日新聞 2019-03-26 )
しかし、これもレストランの席料や電車のグリーン車の席料と似た事情にある。これらの席は、高額だからこそ、残っていたのだ。仮に高額でなければ、席はとっくに売却済みとなっていただろう。とすれば、「1日 10〜15万円の部屋を借りた上で、カテーテル手術」という選択肢はなく、「どんなに金を払っても、手術を受ける権利はないまま、追い出される」というふうになったはずだ。(出す金を惜しんで、命を失う。)
というわけで、「高い席料を払いたくない」という言い分は、成立しないのだ。払いたくなければ、その病院を出て行けばいいだけだ。一方で、「高い金を払いたくないが、席を寄越せ」というのでは、わがままな政治家よりももっとタチが悪いことになる。(席を奪うだけでなく金も踏み倒すからだ。)……こういうのは、ただのわがままにすぎない。
病院のベッドの総量には限界がある。そのなかで、「万一の場合に備えて空きベッドを残しておく」というふうにしたら、その空きベッドの席料は高額に設定するしかないのだ。そのことをきちんと理解するべきだ。自分のわがままだけを主張しても、何にもならない。
( ※ ただし、それとは別に、問題をなるべく縮小する方法はある。それは、「手術を終えた患者は、さっさと地域の小病院に搬出する」ということだ。このことで、空きベッドを次々と作り出すことができる。……この方針は、厚労省も推進している。)
( ※ とはいっても、手術をする外科医の総量にも限界がある。最近では外科医不足がひどくなってきている。)
( ※ というわけで、これについてユーザーの側で対処するなら、「都心の大病院なんかは使うべからず」と言える。都内の施設に老人を入れて、都心の大病院に搬送するから、こういうハメになる。もともと近郊の施設に老人を入れて、近郊の大病院に搬送すればよかったのだ。それなら、上記のような問題は起こりにくい。)
(4) 五輪のチケット
東京五輪のチケットは、すこぶる高倍率で入手難だ。「何とかして当選したい」と思っている人が多いようだ。
しかし、そういうことであれば、チケット代金を大幅に値上げするべきだろう。そのことで、五輪の経費をまかなうことができるから、税金の投入を抑制することができる。
五輪の収支はどうか? 調べると、次の通り。
→ 組織委員会およびその他の経費|東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
組織委は、収入が 6000億円で、支出も 6000億円。(収入のうち、チケット収入は 820億円。)
東京都は、収入がなくて、支出が 6000億円。
国は、収入がなくて、支出が 1500億円。
だったら、次のようにすればいいのだ。
「チケット代金を平均で3倍ぐらい値上げして、チケット収入を 1500億円ほど増やす。その分、東京都と国の負担額を減らす。特に、(施設費ではない)大会運営経費については、組織の負担額を増やして、東京都と国の負担額を減らす」
そもそも、(施設費ではない)大会運営経費に付いては、組織委が全額負担するのが筋だ。なのに、東京都と国が払う。これは、組織委が赤字にならないように、(東京都と国に)あえて負担を押しつけている、と言える。理不尽だ。
さらにまた、施設費についても、組織委が一部を分担するべきだ。施設利用料として。
こういうふうにして、大人気のチケット代を大幅に値上げすることで、東京都と国の負担額を減らすべきだ。
値上げの方法としては、一律の値上げではなく、次のようにするといい。
「金持ちを狙い撃ちにした大幅値上げ」
具体的には、こうだ。
「金はいくらでも払ってもいいから、とにかく観戦したい」
という金持ちに向けて、特別に高額のチケットを用意する。
そのためには、次の2点が考えられる。
・ 特別に用意した、少数のプレミアシート
・ 試合の組み合わせが判明したあとで高額のチケット
前者は、富豪向けのプレミアシートだ。1席 300〜1000万円ぐらいにする。面積も広くて給仕サービスも付く。場所は囲われた最前列のボックスシートだ。( ZOZO の社長と恋人などが対象。)
後者は、「日本の試合に限って高額の金を払っていい」という人向けだ。試合の対戦の組み合わせが判明したあとで販売するものだ。特に、「日本が(勝てば)出場すること」を保証するといい。(組み合わせの点で。)……このようなチケットは1席 30万円ぐらいで売ればいい。( スポーツ界の重鎮やマニアが対象。)
ともあれ、こうやって、あの手この手で高額料金のチケットを販売すれば、1500億円ぐらいの収入増になるから、その分、都民や国民の税負担は減る。(都内の保育所建設費などに回せる。)
p.s.
なお、IOC 委員向けの席は、別途、用意する。どうせ、観戦よりは食事サービスの方が目的なのだろうから、観客席の最上部あたりに、特別ルームを用意して、そこで食事を提供すればいい。
( ※ こういうのは義務づけられているらしい。IOC 貴族向け。)
[ 付記 ]
本項では、(1) 〜 (4) で、それぞれ別の話題を扱った。「席料」という概念でひとくくりにして論じたが、実は、それぞれは、別の話である。
ただし、原理としては、似たところがあるので、まとめて論じた。
あえて共通点を言うなら、こうだ。
「どれもこれも、消費者としての立場で見るだけであって、社会全体の立場で(マクロ的に)見ることができていない。そのあげく、問題が生じる」
自分の目の前のことしか考えられず、視野が狭い。鳥瞰的でなく、虫瞰的である。そういう傾向があるのだ。そのせいで、社会的な真実を見ることができないわけだ。かくて、問題発生。
こういうことは、何らかの教訓になるかもしれない。
【 追記 】
(1) の「レストランで席のキャンセル」という問題については、「先払いにすれば OK 」とも言える。つまり、予約を受けた時点で、契約完了と見なして、料金を徴収する。
この場合、クレカで料金を徴収すればいい。そのためには、次の二つの方法がある。
・ 店のサイトで入力して、クレカ払い。
・ ( Amazonのような)代行業者のサイトで入力して、クレカ払い。
このいずれかで解決できるだろう。
一方、電話予約(口頭のみの予約)は? これについては、「仮予約」の扱いにすればいい。予定時刻を設定しておいて、その予定時刻の5分前までに来ることを義務づける。来なければ、自動的にキャンセルの扱いとなり、店に来た客が優先される。「遅れても待ってほしい」と思うのであれば、先払いをするしかない。
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《 参考 》
なお、「先払い」については、下記項目でも論じた。
→
( → キャッシュレスとカード手数料: Open ブログ )
ただしこれは、「当日に店に来たあと、食事前の現金先払い」だ。店に来る前に先払いするのとは違う。
キャンセル対策には、クレカで先払い、という話。