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タコが自分の足を食う、という表現があるが、まさしく日産がそうなりつつある。貧すれば鈍す。自殺行為。……しかも、会社の公式見解なので、もはや確定したのも同然だ。
日経の報道によれば、こうだ。
日産自動車が14日17時半に2019年3月期連結決算を発表した。注目されていた20年3月期の連結業績見通しは、純利益で前期比47%減の1700億円を見込む。10年ぶりに3000億円を割り込む。売上高は2%減の11兆3000億円、年間配当予想は40円(前期は57円)の見通し。
( → 日産の純利益予想47%減の1700億円 20年3月期:日本経済新聞 )
数字だけ見てもよくわからないだろうが、これはとんでもないことだ。それは配当性向を計算すればわかる。
配当性向はどのくらいか? 記事のデータでは、
・ 純利益で前期比47%減の1700億円
・ 年間配当予想は40円
すると、配当総額は、次の式からわかる。
配当 × 総株数 = 配当総額
ここで、次のことが成立する。
株価 × 総株数 = 時価総額
従って、次の式が得られる。
配当性向 = 配当総額 / 純利益
= 配当 × 総株数 / 純利益
= 配当 ×(時価総額 / 株価)/ 純利益
= 40 ×(3.32兆 / 786 )/ 1700億
= 0.994
つまり、利益のうち、99%以上を配当に回してしまうのだ!
今回、「研究開発の資金に向けるために、減配する」という方針を示した。(朝日新聞)
しかし、利益の 99%以上を配当に回したら、「研究開発の資金に向けるために、減配する」という名目は成立しなくなる。いくら減配しても、残りは 0.6% しかないからだ。これっぽっちの額では、「研究開発の資金を増やす」とは言えない。
それでも(研究開発費を増やしながら)金を配当に回すのなら、赤字覚悟で、金を借りるしかない。しかし、「赤字覚悟で金を借りてまで、配当をする」というのでは、まさしく、タコが自分の足を食っているのも同然だ。あるいは、「自転車操業」と言ってもいい。投資詐欺の会社が、あえて高額の配当を出してまで、金を集めるのと同様だ。
はっきり言って、日産がやろうとしているのは、それと同様だ。日産はもはや、詐欺会社も同然である。実質的に倒産しつつあると見なしてもいいだろう。
ただし、それが真に確定するのは、「利益の 99% を配当に回す」ということを決めたときだ。(現時点ではまだ予定であるにすぎない。)
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なお、日産がこういう馬鹿げた方針を取るのは、日産がルノーの子会社として、「利益の大部分をルノーに献上する」という宿命のせいである。日産が高額配当をなくしたら、それだけでルノーの利益の3分の2が消えてしまうからだ。(当然、株価は暴落する。)
しかしそれは、「日産の利益をルノーに移転する」というだけのことだ。ルノーの株価は上がるが、日産の株価は暴落して当然だ。
実は今回、日産の決算発表のあとで、株価は 860円から 786円まで暴落した。しかし、これではまだまだ足りるまい。最終的には、株価はほとんどゼロになってしかるべきだ。「利益のすべてを(ルノーなどの)株主に差し出してしまって、手元には金が残らない」というありさまだからだ。
これではもはや、健全な会社とは言えない。赤字のまま、銀行から金を借りることで、かろうじて生きながらえているだけだ。この状態が持続する限り、将来的には倒産は避けられない。稼いだ利益のすべてを(ご主人様に)召し上げられるのだから、当然だろう。
日産を健全化する(存続させる)には、配当性向を大幅に引き下げるしかない。しかし、フランス政府の意向があるから、それができないようだ。
とすれば、日産がフランス政府のせいで破綻するのを、日本政府はみすみす見逃すことになるだろう。
【 注記 】
文中の株価は 15日の終値。株式総額は Google による。
利益額の 1700億円は、純利益。一方、営業利益は 2300億円。(いずれも 2020年3月期・予想。出典は 日経。)
純利益と配当との関係については、下記を参照。
純利益というのは本業で発生した営業利益から、営業外損益、特別損益などの本業以外の費用を差し引いた利益となります。つまり、銀行からの借入利息や、海外取引による為替差損益、そして固定資産の除売却による特別損失などがそれに当たります。
ここまでで得た利益から、企業の法人税や住民税、事業税などを差し引いたものが純利益です。ここで生まれた利益が、最終的な企業の利益となっており、企業はこの利益を使って、次年度以降の営業を行ったり、事業規模拡大をするための投資に使ったりするのです。
( → 知らないと恥をかく!?「売上高」「営業利益」「純利益」の違い )
投資と研究開発費については、下記を参照。
→ コトバンク
【 関連項目 】
こういう馬鹿らしさの本質については、前に指摘した。
→ 日産とルノーは統合すべきだ: Open ブログ
→ 経産省は日産を守れ: Open ブログ
配当前の利益は研究開発費を含む事業費や税金などをすでに差し引いているので研究開発費が出ないとかいうことはないです。
ただ、あくまでも予想なので景気が悪化して利益や配当が減る可能性はあります。
ゴーン改革のおかげで利益剰余金はたっぷり蓄積しているので、ルノーへの配当で潰れるのは今のところ考えにくいです。
開発費は営業費用として計上しないとならず、研究開発に力を入れれば入れるほど、利益は減りますし、日産はもっと研究開発をやるべきだと主張している管理人さんから見たら、今回の日産の決算は研究開発費を削って無理矢理黒字にしているように見え、暴挙以外の何者でもないでしょう。
また、配当性向を限りなく100%に近づけることは、将来、研究開発で赤字が発生した時のバッファがなくなってしまう、ということなので、日産が技術開発に関して大きな制約を受けているとも言えます
投資をするには、ある利益を使うか、借りて赤字になるか、二者択一。ない利益を使うことは不可能。
なお、研究開発費は全額が経費にはならないことを前提に利益が増えている。そこで、仮に全額を経費に算入したら、利益が 1700億円よりも縮小するので、配当性向は 100%をかなり越えてしまいます。つまり、利益以上を配当で出すことになる。
こっから経営を立て直す必要がありますが、これまでの余剰が数兆円ありますので、あと数年間は時間稼ぎできるでしょう。問題は今回修正した経営目標をどの程度達成できるかですね。