2019年05月12日

◆ 米中貿易摩擦の本質

 米中貿易摩擦がエスカレートしている。この問題の本質を考える。(ゲーム理論の観点から)

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 米中貿易摩擦がエスカレートしている。対中関税を、一部で 25%に引き上げただけでなく、残りの部分についても追加で 25%に引き上げる予定。
 これについては、朝日新聞が社説で述べている。内容は、読む前から結論はわかっているが、要するに、「両者は頭を冷やして喧嘩をやめろ」という趣旨。以下、一部抜粋。
 《 米中貿易紛争 打開へ粘り強く協議を 》
 米国は中国からの輸入品にかけている制裁関税で、第3弾の計2千億ドル(約22兆円)分について、税率を10%から25%に引き上げた。米中両国が打開策を探って通商協議を進めてきた4カ月間、封印してきた「奥の手」だ。
 米国は、残るすべての中国からの輸入品を対象にした第4弾の関税上乗せについても、準備に入った。
 中国は具体策は示していないが、「必要な報復措置をとらざるを得ない」と主張する。
 米国も中国も、相手に要求を突きつける前に、まずは自国の振る舞いを省みてほしい。合意への障害を、それぞれが取り除いていかねばならない。
 米国は、一方的な制裁措置を慎むべきだ。
 中国は、世界の理解を得られる解決策を、自ら打ち出すべきだ。「社会主義市場経済」という特殊な体制を維持したまま、大国として世界経済と調和を図るのは無理がある。米国に迫られるまでもなく、体質転換のための改革は欠かせない。
 今回の制裁関税の適用は事実上、5月中は猶予される。この時間をいかし、合意をめざすべきだ。
( → (社説):朝日新聞

 「両者は頭を冷やして喧嘩をやめろ」というのは、平和主義の朝日の言いそうなことなので、意外ではない。しかし、それでは済まなかったというのが、ここまでの歴史なのだ。「きれいごとの理想論では片付かなかった」という過去の歴史を直視する必要がある。
( ※ だいたい、朝日の結論など、昔からある外交の基本だ。こんなことは、いちいち言われなくても、誰だってわかっている。「相手を子供扱いするのはやめろ」「自分だけが利口だと思うな」と言いたくなるね。)

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 そこで、物事の本質を考えよう。
 この問題は、タカ・ハト・ゲームで理解するのがいい。
 これまでは、どうだったか? 中国は「タカ」という強硬路線を取った。圧倒的な対米黒字を稼ぎながら、国際的には西側諸国の平和主義や人権主義と対立してきた。独裁国家(北朝鮮やベネズエラなど多数)を支持して、民主主義を否定した。人権も否定して、自国民の人権をないがしろにしたし、他国の独裁国家についても独裁者を支持することで人権をないがしろにした。途上国では援助と称して負債を押しつけたあげく、「負債を返済できないから」と言って港湾を差し押さえたりした。(そして中国艦船の軍港として使うようにした。)軍事や領土でも同様で、南シナ海で他国の領海や領土(孤島)を次々と奪っている。
 もう、暴虐や不埒のやり放題である。圧倒的にわがままのやり放題だ。平和主義とは正反対だ。
 それでも、中国がゴリ押しすると、欧州諸国はひざまずいた。中国への輸出額が大きいので、中国の機嫌を損ねたくなかったからだ。ドイツやイタリアが典型的である。「金のために心を売り渡した」と言っていいくらいだ。
 米国や日本はどうか? 中国の暴虐や不埒を見ても、見てみぬ不利という期間が続いた。なぜか? もし中国を批判すれば、相手は「タカ」なので、こちらも「タカ」をなると、「タカとタカの攻撃」となるので、双方が大怪我をするからだ。実際、今回、トランプが「タカ」の路線を取ったことで、双方が大怪我をしかねないと見られている。(どちらかと言えエバ、中国の方が圧倒的に大きな大怪我だが。)ま、米国ならともかく、日本が中国と喧嘩をしたら、それこそ大怪我をしかねない。
 というわけで、これまでは、「タカ」である中国に対しては、日本も米国も「ハト」の路線を取ることしかできなかったわけだ。そのせいで、「タカに屈服するハト」という形で、中国に食い物にされる(暴虐や不埒のやり放題にさせる)という結果になった。

 ま、合理的に考えれば、「相手がタカの路線を取ったときには、自分はハトの路線を取るのが最も被害が少ない」と言える。しかし、こういう状況が続けば、「いつまでも食い物にされるだけ」という馬鹿げた状況が永続してしまうのだ。また、相手の悪をいつまでも野放しにしてしまうことになる。これは、「正義」を心情とする人々には、とうてい受け入れられまい。(特に「理想」を大事にするリベラリストはそうだ。たとえば、ヒラリーみたいな人。)

 というわけで、「タカとハト」という状況が続いたあとでは、我慢しきれなくなった「ハト」の側が、あるとき突発的に「タカ」に転じることがある。一時的な「双方が大ケガを負う」とうリスクを冒しても、最終的には「双方がハトになる」(一方が食い物にされるような状況を終わらせる)ということをめざすわけだ。
 そして、トランプが取ったのは、そういう路線だった。彼の「我慢しきれない」「堪忍袋の緒が切れやすい」という性格もあって、比較的短期間に、「タカに食い物にされるハト」という状況を脱しようとしたのだ。

 とすれば、トランプが今回取った行動それ自体は、十分に合理的なことなのだ。
 そもそも、世界的に「各国が協調する」という最善の道を取りつつあるときに、「自国だけがよければいい」「他国を食い物にしてでも自国の利益だけを追求する」というエゴイスティックな方針が長続きするはずがないのだ。これまでは、中国という大国が、その大きさで他国を圧してきたが、相手が米国となると、そうも行くまい。なのに、米国を相手にしても、他国と同じようにタカの路線を取ったのが、根本的に間違いだった、と言える。(独裁国家にはありがちなことだが。北朝鮮も中国もロシアも、似た傾向にある。外交面で。)

 今回の問題は、「良いか悪いか」というような善悪の面だけで理解するべきではないし、「損か得か」という利益の面だけで理解するべきでもない。これは「タカ・ハト・ゲーム」という戦略の面で理解するべきなのだ。そういうふうに理解すると、物事の本質が見えてくる。
 これは、「国は何をするべきか」というような(客観的な)問題ではないのだ。「外交ではどういう戦略を取ろうとするか」という(主観的な)戦略理論の問題なのだ。そこでは、善悪や損得という客観的な指標とは別に、人間的な意思決定という主観的な指標が本質的に重要となるのだ。
( ※ トランプ大統領や習主席という個人の意向が決定的だ、ということ。数字よりは心理だ、ということ。)

 ゲーム理論を理解すれば、そういう本質に気づくだろう。
posted by 管理人 at 14:22| Comment(0) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
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