2019年05月04日

◆ 車関連産業の苦境

 自動車の部品や装置などをつくる車関連産業が苦境だという。

  ※ 最後に 【 追記 】 を加筆しました。

 ──

 先日、カーナビなどをつくるパイオニアが、業績悪化のすえに外資に売却された、という話を述べた。
  → 電機産業の没落: Open ブログ

 このときは、「一括売却よりは、分割売却の方がいい」とも述べた。
  → 企業解体は悪か?: Open ブログ

 だが、話はそれでは済まないようだ。車関連産業そのものが、大幅に厳しくなっているそうだ。激動と言える状態のようだ。本日の朝日新聞の記事にある。
 日本の「ものづくり」の象徴ともいえる自動車産業。それを支えるのは、様々な部品や製品をつくる数多くのメーカーだ。しかし最近、自動車部品メーカーや関連産業の苦境が相次いで伝えられている。背景を探ると、業界を揺るがす構造変化が見えてくる。
( → 変革、苦しむ車関連産業 ブレーキ、専業に迫る巨大企業:朝日新聞

 記事では、具体例として、曙ブレーキが破綻した例を挙げている。

 別の記事によると、カーナビでは、アルパイン、富士通テン、クラリオンなどが次々と買収されたりしている。下記に詳しい。
  → 「道」見失ったカーナビメーカー 自動車業界を襲う荒波:朝日新聞

 他にもある。パナソニックは、自動車関連に進出して、大幅に売上げを増やして、事業転換に成功したと見なされているが、実は、事業予想は厳しいらしい。社長がこう語っている。
 「現在の危機感はもう200%、深海の深さだ。今のままでは次の100年どころか10年も持たない」
( → パナソニック社長の「今のままでは10年も持たない」発言、その真意

 実際、テスラとの事業で、電池は儲かっていないようだ。上記記事にはこうある。
 「イーロンから『もうかってない』とメールが来る。私は『本当は隠してるのとちゃう』『ロス多いからやろ』と返す。せめぎ合いですよ。はっきり言ってうちはもうかってない。こんなはずではない」

 ──

 では、車関連産業が苦境にあるとすれば、どうすればいいのか? 次々と分割して売却すればいいのか? いや、1社だけならともかく、すべての会社を分割して売却するわけには行かない。売り手はあっても、買い手がない。では、どうすればいいのか?

 冒頭の朝日記事には、そのヒントがある。
 「この業界で優位なのは、世界1位のボッシュやコンチネンタルなどのドイツメーカーだ。大規模メーカーの基礎体力で、曙ブレーキみたいな専業メーカーに対して優位に立つ」


 次の記事もある。
 一方で、既存の部品メーカーからは、自動車メーカーをしのぐ規模に成長するものも現れた。ともにドイツに本社を置くボッシュやコンチネンタルなど、メガサプライヤーと呼ばれる企業だ。従来は複数の企業が手がけていたような部品群をまとめて製造し、複数の自動車メーカーに「セット売り」することで影響力を強めている。
( → トヨタ大変革、三つのカギ 巨大ゆえ…いらだつ協業先も:朝日新聞

 だから、これを真似ればいいわけだ。実際、この記事は、次のように続く。
 トヨタ系の部品メーカーも手をこまぬいているわけではない。8月末、デンソーやアイシン精機など主要部品4社は、自動運転技術を手がける新会社をつくると発表。電子部品、駆動、ブレーキなど、自動運転車に必要な技術を持つ企業が集まり、一つのシステムとして売る。新会社がめざすのは、海外を含め、トヨタ以外の自動車メーカーへの販売だ。

 なるほど。こういう動きもあるわけだ。
 ただ、デンソーはすでにボッシュに次ぐ世界2位の巨大メーカーで、4位のコンチネンタルを上回る。アイシン精機も、それらに次ぐ6位の位置を占めている。これらについては、あまり心配はいらないだろう。

 一方、トヨタ系のデンソーとアイシン精機以外は、お寒い状況だ。この2社に次ぐのは、ぐっと下がって 29位のカルソニックカンセイと、85位のアルパインと、94位のパイオニアだ。さらに、ジヤトコに至っては、ランキング入りすらしていないようだ。
  → 冒頭の朝日記事
 これらのメーカーは、あまりにも弱小なので、ボッシュやコンチネンタルと伍して戦うことはできない。となると、将来的には、曙ブレーキのように経営破綻しかねない。……こいつは、一大事である。

 では、どうすればいい? 論理的には、次のことしかない。
 「デンソーとアイシン精機を除く各社は、大同団結する形で合体して、ボッシュやデンソーと対抗できるようになれ」

 これならば、生き残ることができるかもしれない。

 実は、これに似たことは、歴史上にもあった。次のことだ。
 「家電各社が大同団結すれば、韓国のサムスンに対抗できる家電会社ができたかもしれない」

 たとえば、ソニー・パナソニック・東芝・日立・シャープなどだ。これらの企業が大同団結すれば、巨大メーカーが一つできるので、世界に伍する最先端の会社となって、生き残れたかもしれない。
 しかし現実には、そうならなかった。各社はバラバラのまま、開発費にも事欠くありさまで、時代の流れに大きく取り残された。その一方で、サムスンは超巨額の研究開発費を投入して、日本の各社を圧倒するようになった。

 車関連産業は今、それと同じような、分水嶺の時期に来ているのかもしれない。バラバラのまま衰退するか。まとまって生き残るか。
 デンソーとアイシンは、生き残るだろう。しかし他のメーカーは、生き残れそうにない。
 上記では、デンソー、アイシン精機、カルソニックカンセイ、アルパインと、パイオニア、というトップ5を示したが、そのうちパイオニアはすでに売却された。「ククク。パイオニアは5天王のうち最弱。業界の面汚しよ」なんて思っていたら、あとの二つも滅びかねないのである。
 また、ソニー・パナソニック・東芝・日立・シャープというトップ5を示したが、そのうちシャープはすでに買収された。「ククク。シャープは5天王のうち最弱。業界の面汚しよ」なんて思っていたら、あとの三つも滅びかねないのである。(最上位のソニーだけはどうやら安泰のようだが、この会社も、往時は赤字になったことがあるから、先行き不透明かも。)

 というわけで、車関連産業の現状は、非常に厳しいのだが、現状では、各社とも、危機感が乏しすぎる。パナソニックだけは、危機感があるようだが、その危機感が、具体的な行動に結びついていない。他社と合体するという発想はないようだ。
 では、どうするべきか? とりあえずは、「カルソニックカンセイ・アルパイン・パイオニア」が合体して、そこに他の数社が合流する、という形が好ましいだろう。(パナソニック[一部]やジヤトコも合流するべきだ。)
 こうなれば、かろうじて、ボッシュに対抗できそうだし、生き残ることもできそうだ。
 一方、そうしなければ、各社はいずれも衰退していくだろう。これらの会社が衰退したすえにどうなるかは、曙ブレーキが身を以て示してくれたのだ。人柱のように。
 それを教訓として方針転換することができるか? ……現状はお寒い限りだ。私の予想を言えば、5天王のうち、生き残るのは一つか二つであり、残りは消えていくだろう。そしてまた、5天王にも及ばないような弱小会社は、すべて消えていくだろう。
 それに似た例は、すでに見て取れる。富士通と NEC だ。この二社は、今や滅びつつあるが、「明日のわが身」なのである。(人々はそれに対する危機感がないが。)



 【 追記 】
 同じ日の別記事に、重要な情報があった。カルソニックカンセイが、同規模の同業他社を買収したことで、規模を2倍にしたそうだ。独立系では世界7位にまでランクアップしたそうだ。
 《 カルソニック、世界第7位に 伊の部品大手買収完了 》
 欧米自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は2日、子会社の伊自動車部品大手マニエッティ・マレリを、自動車部品大手カルソニックカンセイ(さいたま市)の持ち株会社へ売却する手続きが完了したと発表した。
 カルソニックによると、2社の売上高合計は約146億ユーロ(約1兆8250億円、一部事業を除く)で、独立系の自動車部品会社で世界7位となる。
( → 朝日新聞

 世界7位ならば、十分に生き延びることができそうだ。それにしても、同規模の会社を買収するとは、たいしたもんだ。危機感をもって、積極的に対処しているようだ。感心した。

( ※ ただし、これで十分とは言えない。合併後でさえ、規模はボッシュの3分の1だ。まだまだ力不足である。ゲームで言えば、ライフポイントを補充したので、今すぐ死ぬ危険はなくなったが、まだまだラスボスを倒すには足りない。むしろ、このままでは倒される。)

posted by 管理人 at 13:33 | Comment(2) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マニエッティ・マレリ(Magneti Marelli)はフェラーリのF1エンジンのインジェクタを供給している会社です。

電機だけじゃなく、機械系の中小企業も合併して規模を大きくしないとあかんと思います。持株会社(ホールディングス)で経営統合すればいいのでしょうけど。

財閥・ブルジョワ復活と言って反対する一派が気になります。

ちなみにContinentalは横浜ゴムのようなタイヤ会社でした。
Posted by 京都の人 at 2019年05月05日 14:40
 補足情報。以下、引用。

 ──

ボッシュは自動運転や運転支援技術などの開発に4000人のエンジニアを抱えると言われ、研究開発費は年間約9000億円。一方で、カルソニックの2017年度の研究開発費は約330億円。マレリは約590億円(2016年実績)で、合計しても1000億円に満たず、世界上位とは依然大きな開きがある。

  https://toyokeizai.net/articles/-/245836?page=3

 ────────

 ちなみに、自動車の研究開発費は、次の通り。以下、引用。

 ──

2018年度の研究開発費が最も多い企業はトヨタ自動車で1兆800億円、前年度に比べて1.4%増。2位はホンダで7900億円、前年度比8.1%増。3位は日産自動車で5400億円、同8.9%増。

  https://response.jp/article/2018/07/26/312345.html

Posted by 管理人 at 2019年05月05日 22:24
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