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インドネシアが首都を移転すると決めた。
( ※ 遷都みたいだが、天皇が移るわけではないので、遷都とは言わない。)
インドネシアのジョコ大統領は29日、首都をジャカルタからジャワ島以外の場所に移転すると閣議決定しました。その理由として、世界ワーストとも言われる交通渋滞による巨額の経済損失などを挙げています。移転先は示していませんが、現地メディアはジャワ島の北にあるボルネオ島にある都市が有力だと報じています。ただし、国会の承認などが必要ということです。
( → インドネシア 首都をジャカルタから移転 閣議決定 )
首都移転の理由は、「世界ワーストとも言われる交通渋滞による巨額の経済損失」ということだ。だが、普通にやれば、この問題の解決には失敗するはずだ。
そこで、この問題に日本が関与して、正しい道を取るように修正させるべきだ。同時に、日本も工事に関与して、ゼネコンなどが工事の利益を得るようにするといいだろう。もっと露骨に言えば、中国企業ばかりが利益を上げて、インドネシアが食い物にされるのを防ぐべきだろう。
そこで、以下では具体的な点を指摘する。
資金
首都移転には巨額の金が必要となる。インドネシアには、その金がない。金ができるのを待っていては、いつまでも実行できない。とすれば、常識的には、解決策はただ一つ。こうだ。
「中国から借款を受ける。その代償として、中国企業に工事を任せる」
しかし、これで大失敗したのが、インドネシアの新幹線の工事だ。もともとは日本企業が施工するはずだったのに、中国が巨額の金を援助して、工事をかっさらった。ところが、実際に工事を始めたら、中国企業の例に漏れず、工事は滅茶苦茶。仕方がないから日本企業にやり直してもらうか……なんていう話も出たほどだ。
で、最終的には、予定よりも5年遅れで、かろうじて工事が実施されるらしい。とはいえ、完工は5年も先のことだから、まだまだ先行きは不明だ。(日本がやっていたら、今ごろはとっくに開業していたのだが。)
→ ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 | 東洋経済
ともあれ、ここでは資金が問題であったようだ。首都移転では、なおさら巨額の金がかかるだろう。またしても中国に頼ることになりそうだし、工事も中国企業だらけとなりそうだ。そのあとで、工事の遅延やらトラブルやらで、とんだドタバタになりそうだ。
そこで、私としては、こう提案する。
・ 資金は日本が円借款で実施する。
・ 該当地域の不動産は国が接収した上で、100年間の貸与とする。
(つまり、売却しない。)
・ 百年後に、土地を(利用者に)公正な価格で売却する。
・ そのときは土地が大幅値上げしているから、資金回収ができる。
・ 差し引きして、インドネシア政府は、巨額の売却益を得る。
・ その間の資金は、日本からの借款でまかなう。
これは、デベロッパー方式だ。昔、私鉄会社が沿線を開発して、土地収益を上げた方法。これを用いればいい。
これで、資金面の問題を解決できるし、中国による過剰な干渉を回避することができる。
場所
首都機能を移転するとして、場所はどこにするか? 実は、これが最大の問題だ。
候補地は、三つある。いずれも平野部だ。
(1) ジャカルタと同じジャワ島の東部の平野部(スラバヤ)
(2) スラバヤの北方にある広い平野部(南カリマンタン)
(3) ジャカルタの西方にある平野部(ランプン)
これらを評価しよう。
(1) スラバヤ
スラバヤは、ジャワ島の東部にあるので、ジャカルタとは地続きだ。鉄道も通っていて、利便性は高い。もっとも便利な場所だと言える。
しかしそのことが逆に難点となる。ここはすでにインドネシアでは第2の大都市なのだ。いわば東京に対する大阪みたいなものだ。こんなところに首都を移転しても、ほとんど意味がない。同じ問題が繰り返されるだけだ。つまり、「再度の首都移転」が必要となってしまう。何をやっているんだか、という感じ。
(2) 南カリマンタン
南カリマンタンは、最も有力だ。何より、広大な平野がある。都市化されていない土地(農地)も多い。また、この島(ボルネオ島)は、全体として未開発なので、開発することの効果はとても大きい。「成功した場合の利得」は最大であると言えるだろう。
移転先や時期は未定だが、ジャカルタや第2の都市スラバヤがあるジャワ島以外の島を選ぶという。
バンバン国家開発企画庁長官によれば、会議では(1)移転せず(2)ジャカルタ近郊に移転(3)ジャワ島外に移転−の3案が議論された。経済成長の恩恵をジャワ島外にも広げるため、(3)の案に決まった。
( → インドネシア大統領、首都移転決断か=ジャワ以外の島に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News )
そういうわけだから、ボルネオ島は最有力の候補である。記事にもそう書いてある。再掲しよう。
現地メディアはジャワ島の北にあるボルネオ島にある都市が有力だと報じています。
しかしながら、この島には大きな難点がある。「他地域からは大きな海峡で隔てられている」ということだ。ジャワ島ともスマトラ島とも、大きな海峡で隔てられている。交通の往き来が不便このうえない。
とすれば、「成功すれば、大成功」になるとしても、そもそも最初から「成功するはずがない」ということになる。
実は、このことには、偉大なる先例がいくつもある。
・ サンパウロに対する、ブラジリア。
・ シドニーに対する、キャンベラ。
・ ニューヨークに対する、ワシントンD.C.
これらの例ではいずれも新たに首都を作ったが、それまでの経済的な首都の機能が移転したわけではない。つまり、政治的には移転できたのだが、経済的には移転できていないのだ。
キャンベラや、ワシントンD.C. は、首都とはいってもひっそりとしたこぢんまりとした都市であるにすぎない。(大都市ではないということで有名だ。)
ブラジリアは、ブラジル第3の都市で、人口 300万人ということで、一応は成功しているように見えるが、これは、国の総人口が多すぎるからだ。
ひるがえって、最大都市であるサンパウロは、人口が 2000万だから、桁違いと言える。高層ビルもはるかにたくさんあって、大都会である。
→ サンパウロの高層層ビル(画像)
→ ブラジリアの高層層ビル(画像)
サンパウロの高層ビル街は下記。
すると、どうなったか? 現状はこうだ。
・ 新首都のブラジリアは、たいして繁栄していない。
・ サンパウロは、相も変わらず、渋滞がひどい。
(経済的な損失が多大である。)
→ Google 検索
つまり、形の上では「首都機能の移転」はできたのだが、「もとの首都の混雑解消」という本来の目的は達成されていないのだ。仏作って魂入れず、みたいなものだ。何をやっているんだか。
かくて、(2) の案は駄目だ。それが私の評価だ。(多くの人は気づいていないことだが。)
※ 「首都移転」ということそれ自体が自己目的化してしまっている。「何のために首都移転をするのか」ということ(本来の目的)を見失っている。本質を忘れてしまう。(凡人にはよくあることだが。)
(3) ランプン
ジャカルタの西方にあるランプンは、どうか? ここは、狭い海峡で隔てられてはいるが、ジャカルタからはとても近い。しかも、狭い海峡で隔てられているおかげで、現時点では開発が進んでいない。
狭い海峡で隔てられているのは、不便であるように見える。だが、実はそのおかげで、これまでは未開発のまま土地が放置されてきたのだ。
また、狭い海峡で隔てられてはいるが、ここに橋を架けることは十分に可能なので、将来的には地続きと同様にすることが可能だ。
そういう意味では、ここは「首都機能移転のために神様が取って置いてくれた場所」と言ってもいいくらいの好適地だ。
それゆえ、ここを最有力の場所として、私は推奨したい。
交通
交通についても提案しておこう。
(i) 自動車
自動車については、渋滞対策がとても大切だ。あらかじめ都市計画をして、渋滞が起こらないようにしておきたい。特に、道路をうまく整備して、道路の面積を広くすることが大切だ。(道路が不足すると渋滞が起こるから。)
この点では、日本の名古屋市や、ブラジルのブラジリアが、良い見本となりそうだ。特に、ブラジリアには渋滞がないそうだ。
→ 渋滞がない首都、ブラジリア | Nota Benee
(ii) 列車
列車はどうか? 東京では、地下鉄が十全に整備されている。そのおかげで、都市の規模の割には、渋滞が少ない。
東京の道路も非常に車が少ないが、その理由は異なる。1つは駐車場がずいぶん前に有料化されたこと、もう1つは、世界一混雑する見事な地下鉄を建設したことだ。
( → 渋滞がない首都、ブラジリア | Nota Benee )
しかし、地下鉄というのは、ものすごくコストがかかる。掘らなくてもいい地下を掘る必要があるからだ。あまりにも馬鹿げたコストだと言える。
最近でもまた超高額で地下鉄を作る計画がある。
東京都が中央区銀座地区と臨海部を結ぶ新しい地下鉄路線を整備する方針を固めた。
検討区間は銀座地区〜東京臨海高速鉄道りんかい線の国際展示場駅までの延長約5キロ
事業費 2500億円超
( → 臨海地域地下鉄構想が東京都の優先整備路線に格上げへ 10〜20年での整備目指す )
たったの 5km の建設に 2500億円超というのだから、正気の沙汰ではない。呆れるばかり。地下鉄建設というのは、これほどにも巨額の金がかかるのだ。
( ※ 現場は海辺だという特殊要因もあるが、それにしても高すぎる。)
では、どうすればいいか? 他の提案は、こうだ。
「モノレール、または、(ゴム車輪式の)ゆりかもめ にする」
これならば、効果の建設だけで済むので、大幅にコストダウンになる。特に、ゆりかもめ 方式だと、静粛性も高く、大量輸送も可能なので、大都市向けにはお薦め度が高い。
路線の分岐も、比較的容易だ。
→ 新交通システムの分岐器 | きゅうの鉄道写真館
→ ゆりかもめ / 分岐の仕組み : 弥生が岡中学
それゆえ、駅のそばでは、複々線にすることも容易だ。そのことで輸送力を倍増できる。
( ※ 路線は複線でいいが、駅では、分岐機を使って複々線にして、駅に4本のホームを設置するべきだ。)
ゆりかもめ 方式は、空中のレーンが大きいので、見映えの点ではあまり良くない。だが、大都市で鉄道にかわる大量輸送機関としては、とても有望である。特に、新開発の都市では、地下鉄よりもはるかに低コストで済む。また、地上路線のように、道路と交差する問題もない。また、高架鉄道のように騒音問題を出す恐れも小さい。(ゴム車輪なので。)また、建設費も、高架鉄道よりは安く済む。(簡易なので。)
ゆりかもめ が実現したのは、鉄道の自動運転が可能になったからだ。その意味でも、時代に適した先進的な交通機関だと言えるだろう。新時代の都市には、普通の鉄道や地下鉄よりも、(モノレール や)ゆりかもめがふさわしいのだ。
ただし、注意。駅のホームは、長さと幅を十分に確保しておいた方がいい。将来的に、車両の連結数を多くする可能性を考えてのことだ。
これをやりそこなって大失敗した例が、東急の田園都市線だ。「どうせたいしたことはないだろう」と思って、ホームの長さを短くしていたら、沿線人口が爆発的に増大して、日本で最大の過密鉄道となった。今になって解決しようにも、解決の方法がない。乗客は寿司詰めを我慢するしかない。(駅の幅も狭いので、ホームの数も足りない。)
→ なぜ東急田園都市線だけ混雑が酷い!? 緩和されない理由とは?
→ 東急社長が語る田園都市線混雑解消の「秘策」(下手な弁明)
将来を見通せないと、こういう馬鹿げた大失敗になる。良い反面教師と言えるだろう。(田園都市線は。)
