2019年04月20日

◆ 企業解体は悪か?

 業績の悪化した企業を解体して、分割売却することは、悪だろうか?

 ──

 これは、先に述べた、パイオニアの例から来る話題だ。
  → 電機産業の没落: Open ブログ 【 追記 】
   ※ 前項(お知らせ)で言及したばかり。

 ここでは、次の趣旨の話をした。
 「香港ファンドは、パイオニアを一括買収してから、分割売却すればいい。買ってすぐに分割売却すれば、2200億円を丸儲け、となる」


 この方針に対しては、「パイオニアという優良企業が消滅してしまうのは残念だ」と感じる人が多いようだ。
 ま、そういうノスタルジーみたいな気持ちはわかる。特に、人は年を食うと、若いころにあったものが失われるのを惜しむようになる。
 とはいえ、ノスタルジーはあくまでノスタルジーにすぎないのだ。ノスタルジーにこだわるあまり、経済的な合理性を見失ってはならない。それが私の見解だ。

 ──

 では、経済的な合理性とは何か? それは、簡単だ。市場価値である。

 パイオニアの例で言えば、ある人の試算したところでは、
  一括購入費用 1000億円
  分割売却収入 3200億円
  差額     2200億円

    → https://www.orangeitems.com/entry/2018/12/11/000500
 となるそうだ。

 ここで、「一括売却に比べて、分割売却の方が、高価になる」ということには、理由がある。それは決して、「帳簿操作によって金儲けをする」というような小手先の問題ではない。もっと本質的なことがある。こうだ。
 「分割売却すれば、各部門が最高の価値で評価してくれるところに引き取られる。そのことで、全体が最適化される」

 これは、経済学における「パレート最適」の原理である。
 パレート最適は完全競争市場において達成され、そこでは各個人は最大の満足を得、企業は利潤最大化が達成されるなど、重要な法則が成立する。
( → パレート最適(パレートさいてき)とは - コトバンク

( ※ この概念が理解できない人は、基礎的な概念を理解できていないので、知性不足となる。大学でまともな教養を学ばなかったのだろうから、この問題については黙っていた方がいい。「微積分を理解しない人は数学については黙っていろ」というのと同様だ。)

 たとえば、パナソニックあたりがパイオニアを引き取ったとしよう。しかし、パイオニアのもつ最重要価値であるインクリメントP という子会社は、パナソニックでは十分に生かすことができない。(インターネット情報の企業だからだ。)つまり、宝の持ち腐れとなる。
 ソフトバンクならば、インクリメンPを引き取れば、十分に生かすことができる。しかし、パイオニア本体というハードの会社は、ソフトバンクでは生かすことができない。
 ここで、
  ・ インクリメントP はソフトバンクに売却
  ・ パイオニア本体はパナソニックに売却

 というふうに分割して売却すれば、全体としての価値は大幅に上昇する。(だから売値も高くなる。)

 一方で、社員についても同様のことが言える。もし1社が全体を買収した場合には、こうなる。
  ・ ソフトバンクが買収すれば → ハード部門の社員は解雇される。
  ・ パナソニックが買収すれば → ソフト部門の社員は解雇される。

 実際には、これほど極端にはならないだろうが、おおざっぱには、こういう傾向が生じる。とにかく、ソフトバンクであれ、パナソニックであれ、自社ではうまく扱えないような部門がパイオニアには含まれているのだ。
 だからこそ、「餅は餅屋」という感じで、どの部門も最適な会社に引き取られるのがベストなのである。

 そしてそれは、「ハード部門」「ソフト部門」というようなおおざっぱな分類だけではない。もっと細かな部門に分けて、「最も価値が高くなるような分割」をすればいいのだ。
 そして、そのとき、従業員の価値も最大に生かされる。かくて、
 「売り手もハッピー、買い手もハッピー、社員もハッピー、株主もハッピー」
 というふうに、全員がハッピーになれる。そして、その本質は、「最も無駄のない方法を選ぶ」(パレート最適)ということなのである。
 かくて、「分割売却が最善だ」ということが、経済学的に説明された。

 ──

 とはいえ、こういうことを理解するには、経済学の基礎概念が必要だ。それを知るには、大学教養課程レベルの知性が必要だ。ところが、たいていの人は、それだけの知性がない。かわりに、ノスタルジーに染まるばかりだ。
 「古き良き時代のパイオニアは良かったなあ」
 「あれがなくなるのは惜しいなあ」
 というふうに。……ま、老害の一種である。感傷に耽って、時代の流れに取り残されて、最も非合理的な(損失を増やす)道を取るわけだ。
 それが、パイオニアで起こったことだ。
 名前だけは先進的な「パイオニア」ではあったが、その経営は、「最も時代遅れな経営」であったことになる。
 ここまで理解すれば、物事の本質が理解できたことになる。



 [ 余談 ]
 これを比喩的に言えば、
 「合わない夫婦は離婚した方がいい」
 ということだ。そうすれば、おたがいにハッピーになれる。この夫婦がなくなっても、新たに別の相手と巡り会って、新たに別の幸福が生じるからだ。
 一方、逆に、
 「昔は二人とも愛しあって幸福だったなあ。だからいつまでも別れるのをやめよう」
 と思っていると、合わないのに無理に結婚を続けることで、どちらも不幸になる……ということがある。

 ま、そういう例は、よくあるわけじゃないが、稀になら、
 「合わない夫婦は離婚した方がいい」
 ということもあるだろう。たとえば、
 「夫婦がともに不倫したが、離婚してから、どちらも不倫相手と再婚することで、どちらも幸福になった」
 という物語も成立しそうだ。ま、めったにあるわけじゃないが、 弘兼憲史という(ご都合主義で有名な漫画家)の作品を原作とした、「黄昏流星群」というテレビドラマでは、そういう物語が成立していた。
  → 相関図 | 黄昏流星群 - フジテレビ
 夫婦同士も、恋人同士も、みんな現在の相手とは別の相手を好きになって(浮気して)、そのあと浮気相手と結婚して、みんなハッピーになる……という夢みたいな話。(現実感はゼロ。)

 こういう男女関係では、リアリティーがないのだが、企業同士でなら、ドライに会社の売買などをするのが最も合理的なのだ。(恋人を売買するわけじゃない。後ろめたくなる必要はない。)

 参考:(2ちゃんねる)
  → 元嫁と離婚してすぐ今嫁と再婚したけど質問ある?



 [ 付記1 ]
 「ソニーに買収されたアイワの技術者はどうなったか?」
 という話題もある。
 ま、実状の詳細は私には知るよしもないが、
 「たぶんうまく行っただろう」
 と推察はできる。なぜなら、電気系の技術者というのは、いろいろと使い勝手がいいからだ。ソニーみたいに巨大な会社なら、どこかできちんと有益に使われているはずだ。
 たとえば、ミノルタからカメラ事業を買収して、この事業を巨大化していった。そこでは電気系の技術者が大量に必要になったはずだ。とすれば、アイワ出身の技術者も、どこかで十分に有益に役立てられたはずだ。

 電気系の技術者というのは、結構、転用や応用が利くものだ。「特定のプログラミング言語しか使えないIT技術者」なんかとは大きく異なる。「 COBOL を一生懸命学んでいたら、時代に取り残された」なんていう技術者とは違うのだ。
  → 参考記事

 同様のことは、東芝メディカルにも成立する。キヤノンに買収されたあと、キヤノンの画像技術と合体したことで、この部門は大きく成長する見込みとなった。
  → キヤノンメディカルに社名変更、20年売上高6000億円弱に :日本経済新聞
  → 「東芝でのシナジーは薄れていた」キヤノンが買収した医療機器トップの本音

 [ 付記2 ]
 パイオニアを解体した方がいいというのは、どうしてか? 本質的に言えば、こうだ。
 「もともとは音響機器メーカーとして十分に存在意義があったが、音響機器の産業というものが(デジタル化のなかで)存在意義をなくしてしまった。その後、新たに他分野に転換することに失敗した」


 説明しよう。
 もともとは音響機器の産業というものがあった。そこでは高級な品質を追及することで、高品質なものを高価格で販売することで、企業は存在意義があった。
 しかしそれはアナログ時代の産業だった。電子機器がデジタル化していくと、安価に高性能の商品が販売されるようになり、高級品を販売するという路線そのものが成立しなくなった。音響機器の産業自身は残ったが、それは、日本の企業のになうべきものではなく、低賃金であるアジアの企業のになう産業となった。かくて日本の音響機器の企業は存在意義をなくした。
 これを回避するために、企業は従来とは異なる分野に進出しようとした。パイオニアも、そうしようとした。しかし、それに失敗した。例示すると:
 プラズマは、当初は成功したと見えたが、やがて液晶に完敗して、撤退した。(仮に液晶に進出したとしても、やがては撤退するハメになっただろうが。他の家電各社と同様。)
 DVD は、特許料支出が大きすぎて、利益が上がらなかった。
 かろうじて成功したのは、デジタル地図のインクリメントPという子会社だけだった。他の分野の経営資源は、いまだに存在はしていたが、ほとんど利益を上げることができなかった。(赤字を出すほどではなくとも、黒字を出すほどではなかった。)
  → パイオニアの挫折:中 響かなくなった高級路線:朝日新聞
  → パイオニアの挫折:下 地球150周分のデータ、切り札:朝日新聞

 ここかから結論できることは、こうだ。
 「パイオニアという企業は、インクリメントPを除けば、もはや存在意義がない。今は生き残ることはできるとしても、あまりにも弱体であるので、今後も生き残れる見込みは小さい。たとえ生き残れても、利益を上げられそうにない。だとすれば、経営資源の有効利用のためには、経営資源を他の会社に売却した方がいい。その方が、人や機械や金や権利などの経営資源を、有効利用できる」


 たとえば、コニカミノルタのカメラ事業がソニーに売却されたとき、コニカミノルタの人員 200人がソニーに移籍した。
  → ソニー、技術者などコニカミノルタから約200人受け入れ
 このことで、技術者は十分に有効利用された。仮に、そのまま(赤字の)事業を継続していたら、企業全体が倒産して(あるいは「事業整理」によって)、これらの技術者は路頭に迷っていたかもしれない。しかしソニーが事業を買収したから、これらの人員は有効利用された。
 また、コニカミノルタは事業を高額で譲渡したことで、多額の金を得たが、その金を残っている本体の事業に投入することで、他の部門を強化することができた。また、希望退職する社員に十分な退職金を払うこともできた。(たとえ撤退する分野があっても、ハッピーに撤退できた。)
 かくて、「誰もがハッピー」という形になることができたのだ。
 次の意見もある。
 コニカミノルタのカメラ事業がソニーに買収されたときは、本当に嫌だったのだけど、10年余りが経った今、ソニーが買ってくれて本当に良かったと思っている。
( → はてなブックマーク・コメント

 この意見にすべては集約されていると言えよう。事業分割の時点では、感情的には残念に思えるのだが、長期的にはそれが最善なのだ。失われたものはブランドとノスタルジアであり、残されたものは人と技術なのだ。

posted by 管理人 at 12:02| Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コングロマリット・ディスカウントというやつですね。

企業にセグメント情報の開示をさせる理由でもあります。
Posted by とーりすがり at 2019年04月21日 07:56
 最後に [ 付記2 ] を加筆しました。かなり長い話。
Posted by 管理人 at 2019年04月21日 08:48
先日、
パイオニアが希望退職者を募集 3千人削減の一環
の報道がありました。で、従業員数を調べたら連結で16,798名...人多過ぎというのが率直なな印象です。

で、ざくっと言えば分割して、引き取りたい企業に欲しい部分だけ買ってもらう、と言う趣旨かと思います。すると最後には引き取り手のない部分が残るのではないかと。この部分が過大であったからこそ没落したわけです。切り売り後、ますます価値が定価していく残余部分の大きさと始末も見積っておくべきではないでしょうか。
Posted by 作業員 at 2019年04月21日 10:00
 残余部分には、会社売却の代金が残るので、その資金で退職金を払って、退職してもらうことができます。同じく(事業整理による)解雇であっても、きちんと割増し退職金を払える。
 [ 付記2 ]の最後のあたりに書いてある通り。
Posted by 管理人 at 2019年04月21日 11:03
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