2019年03月30日

◆ 認可外保育所の無償化は?

 認可外保育所についても幼保無償化の対象とする、という政府の方針は、是か非か?

 ──

 政府は幼保無償化を打ち出したが、この無償化の対象には認可外保育所も含まれる。
 この方針に対して、認可外保育所を利用する父母からは、歓迎の声が上がっている。

 実は当初は、対象外となっていたので、反発の声が上がった。
 「ただでさえ認可保育所に入れないのに、無償化の対象からはずされるのでは、ダブルパンチだ。弱い者いじめだ。そんなのは困る」
 この声が届いたのかどうか、政府は認可外保育所も無償化の対象に含めることにした。(方針転換した。)

 ところが、この方針転換に反対する声が上がった。
 「認可外保育所は、保育士の数が不足したりして、劣悪な環境にある。劣悪な環境に補助金を出すのは、劣悪な環境を推奨することになるので、好ましくない」
 というわけだ。
 特に、認可外保育所で子供を死亡事故で失った親が反発しているようだ。
 遺族が危機感を持つのは、今回の無償化で、国が定めた「基準」を大幅に下回る認可外施設やサービスまで対象になることだ。
 16年度に行政が立ち入り調査した認可外施設のうち、4割が最低基準に達していなかった。また大阪電気通信大の平沼博将教授によると、04〜15年で、認可外での子ども1人あたりの死亡事故の発生率は、認可の27倍に上った。
 阿部さんが美月ちゃんを亡くした認可外施設は園長が常駐しておらず、保育士資格を持たない副園長は、うつぶせ寝の危険性もきちんと認識していなかった。
 須田さんは、「最低限の基準すら守れないところは排除しないといけない。事故が起きたら、(預けた方と預かった方の)双方の人生が壊れてしまう」と強調。「どんどん認めてお金を出して安心感を与えながら、有事の際は個々の保護者の自己責任とするのは、国のやることではない」と話した。
 自治体側も、安全の確保に懸念を強める。朝日新聞が政令指定市と東京23区、昨年4月の待機児童が100人以上いた自治体の計75市区町に尋ねたところ、認可外も無償化の対象となることに「懸念はない」と答えたのは横浜市、千葉県印西市の2市のみだった。
( → 幼保無償化、対象拡大に懸念 認可外で子どもを失った親ら:朝日新聞

 これは、「あちらが立てば、こちらが立たず」という問題に見える。父母は無償化をしてほしいが、かといって安全性軽視が放置されるのも好ましくない。できれば認可保育所を増やしてほしいが、安倍政権はそっちのためには金を使おうとしない。父母の怒りは高まるばかりだ。「保育園落ちた。日本死ね!」

 ──

 この問題をどう考えるか? 

 基本的には、「認可保育所でも保育士を増やす」というふうにすればいい。それで問題は解決するはずだ。
 では、それはなぜ成立しないのか? 理由を考えよう。

 (1) 認可保育所で保育士を増やすと、コストが上がるので、保育料が上がる。保育料が上がると、入ろうとする人がいなくなるので、保育所の方は保育料を引き上げたがらない。これが現状だ。
 (2) ただし、無償化によって保育料を公的負担するのならば、保育料を上げることができるはずだ。これで解決するはずだ。
 (3) ところが現実には、無償化によって保育料を公的負担するというのは、正しくない。無償化の対象は3〜5歳だけである。0〜2歳については、住民税非課税世帯だけが対象となる。
 詳しくは下記。
(1)幼稚園、保育所、認定こども園等
 ● 3〜5歳:幼稚園、保育所、認定こども園、地域型保育、企業主導型保育(標準的な利用料)の利用料を無償化
 ● 0〜2歳:上記の施設を利用する住民税非課税世帯を対象として無償化

(3)認可外保育施設等

 ● 3〜5歳:保育の必要性の認定を受けた場合、認可保育所における保育料の全国平均額(月額3.7万円)までの利用料を無償化
 ● 0〜2歳:保育の必要性があると認定された住民税非課税世帯の子供たちを対象として、月額4.2万円までの利用料を無償化
( → 幼児教育の無償化について 平成31年2月14日 内閣府・文部科学省・厚生労働省 [PDF])

 これは政府の公的文書である。
 これを見ると、朝日の記事には重要な点が抜けているとわかる。
  ・ 無償化の対象は、3〜5歳だけだ。0〜2歳も無償化されるのは、住民税非課税世帯だけであって、ごく例外的だ。
  ・ 住民税非課税世帯であっても、認可外については月額4.2万円までしか無償化されない。


 後者が重要だ。仮に認可外保育所が保育士の数を増やしても、それに対しては公的な援助はもらえない。月額4.2万円で頭打ちになるからだ。

 つまり、こうだ。
 「保育所が無償化」と言われているが、それはほとんど嘘八百。無償化の対象となるのは3〜5歳児だけだ。肝心の0〜2歳児は無償化にはならない。
 住民税非課税世帯であれば、一応、0〜2歳児も無償化されるのだが、それも月額4.2万円という上限がある。保育士を増やすための公的な援助はない。

 ──

 ここまで見れば、どうすればいいかもわかる。こうだ。
 「財源が限られているのであれば、無償化ではなくて、保育料の半減だけでもいい。あるいは、保育料の減額はなしでもいい。かわりに、認可外保育所の保育士を増やすことに対して、公的援助を出せばいい。そこに金を投入すれば、認可外保育所の保育士不足という問題は、一挙に解決する」


 これが正解だ。つまり、金を投入する対象は、「認可外保育所の保育士」の増員なのだ。

 ところが、現実はどうか? 
 政府は、公的援助の対象を、認可および認可外の「3〜5歳児」とする。これは、負担減にはなるが、問題の解決にはならない。
 朝日の記事の意見は、公的援助の対象を、増やすどころか「増やすのに反対」と言う。どうせなら、「認可外保育所には公的補助を出すが、同時に、保育所は保育料を値上げして、保育士も増やすこと」というふうにすればいいのに、その道を閉ざしてしまう。改善の道をあえて閉ざしてしまう。

 本来ならば、「認可外保育所については、上限なしで、補助金を出す」というふうにするべきだった。なのに、それができないのは、政府が「無償化」にこだわったからである。本来ならば、「9割補助」とか「8割補助」とかにして、1〜2割ぐらいの負担を父母に求めるべきだったのだが、あえて「全額無償化」にこだわったので、「上限なし」にできなくなった。また、対象も住民税非課税世帯に限られてしまった。

 正しい政策をとれなくなったのは、政府が「無償化」にこだわったからだ。
 また、父母の側も、「無償化をするかしないか」という視点から逃れられなかった。そのせいで、「認可外保育所に金を出すか出さないか」という問題だけを考えて、肝心の「認可外保育所の保育士の数を増やす」という目的を忘れてしまった。「駄目な保育所には援助しない」ということばかりを考えて、「まともな保育所にするために援助する」という正しい目的を見失ってしまった。

 政府が「無償化」という旗を掲げると、誰もがその旗のことばかりを考えるので、正しい道を見失ってしまうのである。自分の進むべき道を見失い、ただ旗のことばかりを考えるようになるのだ。

 げに、金と欲というものは、恐ろしい。人々をして正しい道を見失わせる。



 【 関連項目 】

 → 保育園への補助金を廃止せよ: Open ブログ

 保育園への補助金を廃止し、かわりに親に援助するべきだ……という話。
 保育料の無償化ではなく、一定金額を渡す。そこには補助金の分も含めるので、月額 10〜20万円ぐらい。そのあと、どの保育園に預けるかは親が決める。あるいは、自分で保育してもいい。
 こうすれば、高品質の保育所を自分で選ぶことができるので、低品質の保育所は自動的に淘汰される。こちらの方式が正解だ。
 なのに、政府は「補助金 + 無償化」という誤った方針を取る。朝日記事では、「認可外保育所だけを無償化しない」という誤った方針を取る。どちらも駄目だ。

posted by 管理人 at 23:45 | Comment(0) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
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