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議論上の相手には、「論破する」ということで喜ぶ人もいる。「勝った、勝った。おれの方が利口だぞ」と得意になりたがるわけだ。しかしこれでは、相手に恨まれるので、得策ではない。
一般的に、議論上または業務上の敵は、戦争の敵(殺すか殺されるか)ではなくて、議論や業務の路線が違うだけだ。そのことから利害関係に結びつくこともあるが、別に、命を取られるわけじゃない。(金を取られることはあるが。)
こういう場合には、敵を殺すような方針は好ましくない。むしろ、「敵を味方にしてしまう」というふうにするのが上策だ。それはつまり、「敵を説得する」ということだ。
では、どうやって? それが問題だ。
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「よつば銀行」というドラマの最終回で、その見本となるような事例が示されていた。業務上で敵対する相手を説得する。そのための方法は、こうだ。
「相手の大義に乗る」
「相手の主張に乗る」
つまり、相手の言い分を聞いて、相手の言い分に従う形で、「その通りですね」と言って、その相手の言葉で相手を仕留めてしまえばいいのだ。
普通の発想だと、「相手を論破する」ことを目的とするから、相手の主張をとことん否定しようとする。しかしそんなことでは説得はできない。相手は「打ち負かされまい」として反抗してくるばかりだ。結果的には、論議は平行線のままになる。
この場合、最終的には、「どちらが正しいか」ではなく、「どちらの権力が強いか」で決着が付く。で、横暴な上司がいると、その横暴な主張に従うほかない、というふうになる。
しかし、ドラマでは、そういうふうにはしなかった。「相手を論破する」ことを目的としなかった。むしろ、「おっしゃる通り」というふうに応じた。
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詳しく言おう。
よつば銀行という銀行内での話。
横暴な上司(副頭取)は「赤字会社を清算しろ」と命令した。心優しいヒロインは「赤字会社を再建すべき」と提案した。両者の意見は対立する。それぞれが「自分こそ正しい」と主張する。副頭取は「たとえ人々を傷つけても、銀行を守る自分にこそ大義がある」というふうに言って威張る。決着が付かない。
最後には、「清算しろというのは社長命令なんだから、その方針に従うしかない。どうしても従わなければ、造反と見なして、左遷する」というふうになる。かくて、ヒロインは左遷が決まってしまった。北海道支社へ飛ばされると決まった。
ここでヒロインは横暴な副頭取に直談判する。そこで言う。
「私たちの意見は平行線です。ただし一つだけ共通点があります。それは、よつば銀行を大切にしようという心です。副頭取の気持ちもよくわかりました。その気持ちは尊重します」
その上で、次のように提案する。
「銀行のためであれば、不都合な情報は隠せ、とかつて副頭取は私に言いました。ならば今回は副頭取自身が、その言葉(自分の言葉)に従うべきです。銀行を傷つけるような情報が出るのを阻止するべきです」
実は、その伏線として、「副頭取が頭取への昇進を辞退しないと、副頭取自身が関与した銀行の悪事を暴露するぞ」と通告した人(事件の被害者)がいた。彼は副頭取に、頭取への昇進を辞退せよと要求していた。しかし副頭取はその要求を拒否した。かくて副頭取は辞任しないことになったが、同時に、銀行の悪事が暴露されるのも時間の秒読みだった。
副頭取は、「たとえ銀行を傷つけても、自分は辞任したくない(確約された頭取に昇進したい)」と思っていたわけだ。
だがヒロインは、「銀行のためには銀行を傷つけるようなことをするべきではない。それはあなた自身の言葉です。それはあなた自身の言った大義です」というふうに指摘した。
かくて、副頭取は説得されて、「銀行を守るため」という自らの掲げた大義に基づいて、頭取への昇進を辞退した。相手に論破されたのではなく、自らの言葉に基づいて方針を転換したわけだ。
そして、そういうふうに方針転換をさせたことこそ、上手な説得なのである。
【 関連サイト 】
あらすじは、下記でわかる。
→ ドラマ『よつば銀行』8話(最終回)のネタバレ感想!視聴率は微妙だがロスが凄い名ドラマでした!
→ 【よつば銀行・原島浩美がモノ申す最終回】のネタバレと視聴率!西野七瀬「よし」が可愛い!
この人に、「論破するよりは、説得する方がいい」と信じさせるにはどうしたら良いでしょうか?
黒であるものを「白だ」と言ってほしいのであれば、「嘘をついてください」と頼むしかありません。
ただ、そんなことを考えるよりは、自分の誤読箇所を知るために、もういっぺん、本文を読み返すことをお勧めします。ちゃんと読めば、自分の誤読を理解できますよ。
あなたが誤読しているのは、文章を「書いてある通り」には読まずに、「自分が思い込みたい方向で」読むだけだからです。「きっとこういうふうに書いてあるんだろう」と予想して、その予想の方向で読むだけだから、誤読する。ちゃんと書いてある通りに読むことができない。……これが常に、誤読の原理。
偏光メガネならぬ偏向メガネ。