──
当初の狙いは、「規制緩和による競争で、生産性の向上」だった。
ところが、これまでの事例を見ると、過当競争ばかりがあったようだ。
(1) バス輸送
バス業界ではどうか? 過当競争で、過度なダンピング合戦が起こったすえ、安全性に手抜きが生じた。かくて、バス事故が起こった。死者多数。
→ スキーバス事故の補足情報: Open ブログ の (iii)
(2) トラック輸送
トラック業界ではどうか? やはり過当競争で、過度なダンピング合戦が起こったすえ、低賃金だらけとなった。
かつてトラックドライバーは「きついけれど稼げる」というイメージがありました。しかし新規参入や営業区域の規制を緩和する法律が1990年に施行されたのをきっかけに、過当競争が生まれ、運賃が低下しました。現在の平均賃金は、全産業の男性平均賃金の7〜8割程度です。
( → (ニッポンの宿題)物流、未来のために 首藤若菜さん、田中浩也さん:朝日新聞 )
そのあと、引っ越し業者や宅配便業者では、慢性的な人手不足が生じて、物流に供給不足(運搬能力不足)の問題が発生した。このまま状況が悪化すると、物流がおかしくなって、動脈硬化みたいになって、日本経済全体がいくらか麻痺してしまう危険もある。
実際、引っ越し業界では、その問題がいくらか顕在化しつつある。
→ 引っ越し業界が人手不足?: Open ブログ
(3) タクシー
タクシー業界ではどうか? やはり過当競争で、慢性的な賃金低下が起こっている。特に問題なのは、実車率(空車でない率)がどんどん低下していることだ。

これは二重の意味で問題だ。
・ 所得が低下することで、生産性の低下。
・ 空車状態が多いので、生産性の低下と、エネルギーの浪費。
一般に、生産性とは、労働生産性のことだから、時間あたりの生産金額が問題となる。労働者の賃金が低下すると、生産性もまた低下することになる。
また、実質的にも、空車でいる時間が多いと、その時間は生産性がゼロなので、全般的な生産性が低下することになる。
結局、「規制緩和による生産性向上」を狙ったら、実際には逆に「過当競争による生産性低下」が起こったのだ。
──
というわけで。バス輸送、トラック輸送、タクシーのいずれでも、規制緩和は、過当競争による状況悪化をもたらしたことになる。
【 関連項目 】
タクシーの規制緩和については、前に詳しく述べたことがある。
→ タクシーの規制緩和は成功したか?: Open ブログ
民泊の規制緩和については、前に詳しく述べたことがある。
→ 民泊と規制緩和: Open ブログ
いずれも、本項と似た趣旨だ。「規制緩和は善だ」ということを否定している。
関連して、次の話もある。
→ 事前規制と事後規制: Open ブログ
2%のインフレ目標のために市中をお金でジャブジャブにしても物価が上がらないのは、こういった部分も一因じゃないかと思料します。
「規制緩和は善だ」
という一律的で盲目的な規制緩和賛美を否定しているのであって、
「規制緩和は悪だ」
というふうに一律的で盲目的な規制緩和否定をしているわけじゃありません。
必要な規制はやるべきであって、不要な規制は廃止すればいい、というだけ。
一般的に言えば、たいていの規制は何らかの必要性があって設けられているのだから、それを吟味して修正することはあってもいいが、それを全廃するとろくなことはない、というのが経験則。
バスで規制緩和をしたら安全遵守がメチャクチャになった、というのがその一例。
今の規制緩和論者は、企業の都合でわがままをしたいだけであるのが普通だから、たいていは悪影響を及ぼす。そこをあらかじめ理解するべきだ、ということ。
タイムスタンプは 下記 ↓
考え方として、未来も含めた社会全体の利益の総和の最大化、或いは、不利益の総和の最小化なんだろうと。ただ、仮に公正な最適化が実現したとしても規制緩和派、規制支持派の双方から不満が出るような気もしますけど。
最適な状態に収束することはなく二つの状態を振り子のように行ったり来たりするだけかも。