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朝日新聞の記事を紹介しよう。
街灯のない夜道を歩く人にきちんと反応できるか――。国土交通省は今春から、車の衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の性能評価(自動車アセスメント)にこんな項目を加える。交通死亡事故の約4分の1は夜間に車が人をはねる事故で、その撲滅を目指す。結果は点数化して公表し、メーカーに性能の向上を促す。
新たに加わる試験は、月明かりの夜道に相当する1ルクス未満の明るさを想定。時速30〜60キロで対向車とすれ違った直後に、対向車の背後から歩行者が飛び出してくる状況で性能をはかる。
カメラやレーダー、制動機能のほか、ライトにも高度な性能が求められるが、国交省の担当者は「これをクリアできれば間違いなく大きな効果が見込まれる」と話す。高齢運転者の事故抑止も期待される。
( → 夜道で人に反応できる?暗闇での自動ブレーキ性能評価へ:朝日新聞デジタル )
これに関して、論じるべきことが二つある。
誤報
まず、この記事は誤報である。記事の内容自体は正しいのだが、一点、時期を間違えている。「今春から加える」のではない。「今冬から加えた」というふうに、過去形の事実となる。
冬の最終日である 2019.02.28 に、その報告は出た。
→ 2019.02.28 ホンダ インサイトの予防安全性能評価結果を公開しました
ここでは、テスト結果が公開され、動画も公開された。
朝日新聞はいったい何を取材したのだろう? 過去と未来の区別も付かないのだろうか? およそ間違えそうもない事実情報なのだが。
テスト内容
自動ブレーキの試験だが、これ自体が適切ではない。
試験は、「対抗車の背後から出てきた歩行者を対象として、それに衝突しないようにする」というものだ。しかし、このような試験は、現実からはハズレている。(現実にはありそうにない状況だ。)
まず、試験では条件がきわめて甘くなっている。
・ 歩行者のそばには、ちょうどうまく街路灯がある。
・ 歩行者のズボンは明るい青色である。(目立つ)
このように好都合な条件は、現実には起こりにくい。交差点以外では街路灯がちょうどうまくあるとは限らないし、また、歩行者のズボンは暗い色であることが多いからだ。
条件としては、「暗い色のズボンを はいていても、人間の顔や体を赤外線カメラで検知する」というシステムを前提とした方がいい。
この件は、下記で述べた。
→ 自動運転と赤外線センサー: Open ブログ
ここには、開発済みのシステムの例が紹介されている。
→ この赤外線カメラシステムは、自動運転技術を改善する
動画を見るとわかるが、人間は発熱体として検知されるのではない。背景が発熱体として検知され、人間はそのなかで黒い物体として検知される。だから、真っ黒な服を着ていても、十分に検知可能であるわけだ。(見えるものとして検知されるのではなく、見える背景のなかで見えないものとして検知されるからだ。)
技術的には十分に対処できるのだから、このような事例で試験することが好ましい。できれば、「ライトを点灯していない状態で」テストすることが好ましい。
( ※ 薄暮であれば、ライトを点灯していないことはしばしばある。)
一方で、試験では、かなり特殊な事例を設定している。
・ 横断歩道でもないところを歩行者が歩いている。
(歩行者自身が違法行為をしている。)
・ 歩行者は勝手に、危険な飛び出し行為をしている。
このようなことは現実には起こりにくい。危険行為をする例外的な歩行者を対象とするよりは、安全な行為をしている常識的な歩行者を対象とするべきだろう。次のように。
・ 横断歩道を歩行中の歩行者 (直進路で)
・ 自動車が右折した先の横断歩道を歩行中の歩行者
(1)
「横断歩道を歩行中の歩行者 (直進路で)」というのは、普通の歩行者だが、これに対して自動ブレーキがきちんと対処できるとは限らない。横断歩道無視で突っ走る自動車もあるし、薄暮で西日に向かっている自動車もある。いずれにしても、事故は起こりやすい。
「横断歩道無視で突っ走る自動車」というのに対しては、「横断歩道の前では減速する」というようなシステムが必要だろう。(特に住宅街の細い道路では。)
また、「薄暮で西日に向かっている自動車」というのは、運転者自身がよく見えなくなっているだけでなく、自動ブレーキのカメラもまたよく見えなくなっている。そのせいで事故が多発しやすい。
似た例で、次のこともある。
「トンネルの出口に向かっている自動車が、トンネルの出口の光に惑わされて、カメラが認識不能となり、自動車が先行車と衝突する」
この件は、前にも述べた。
→ 自動ブレーキの不作動: Open ブログ
一部抜粋しよう。
トンネル内で走行していると、ずっと先の方に明るい出口があるから、その出口が太陽のようにまぶしくなる。そのせいで、カメラに ハレーション が起こって、認識不能になるようだ。
同様のことが、西日に向かう自動車でも起こりうる。このような悪条件でも正常にシステムが働くかどうかを、試験するべきだろう。(技術的には困難だが、別に不可能というわけではない。)
(2)
「自動車が右折した先の横断歩道を歩行中の歩行者」というのは、前に別項で述べたことがある。
→ 夜に黒服で歩くな: Open ブログ
ここでは、次の動画を紹介した。
帰宅時に私の目の前で人がはねられました。ドライバーが降りてきたのでその場を立ち去りました。映像は私のドラレコからです。 pic.twitter.com/HZg6dVPVaU
— マック (@mack0113) 2018年12月17日
自動車が右折したら、その先に歩行者がいた。そこでは、青信号で横断歩道を渡っていた歩行者が、自動車に はねられてしまったのである。歩行者は法規上、何の落ち度もないのに。
このような事例では、自動ブレーキで事故を防ぐことができるだろう。ただし、そのための機能が必要だ。
・ カメラおよびヘッドライトが、右折時の広視野に対応する。
(前方の狭い視野しか対応していないことが多いので。)
・ 黒いズボンにも対応する。(少なくとも顔は白っぽい。)
・ できれば自動的に速度を落とす。
こういうことで対処可能なのだから、その対処ができているかどうかを、自動ブレーキの試験でテストするべきだろう。
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ともあれ、結論としては、「もっとまともな試験にしろ」というふうになる。その詳細は、以上で示した通り。
【 関連項目 】
→ 自動ブレーキの認定制度: Open ブログ
※ 対歩行者や夜間など、自動ブレーキ試験の不備な点を指摘する。