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家電や重電などの電機産業は没落した。NEC や富士通は瀕死の状態だ。東芝もひどい。その一方で、危機を脱したパナソニックや、好決算になっているソニーや三菱電機もある。日立は現在では好決算だが、将来は暗雲が垂れ込めている。
では、これらの企業は、どうすればよかったのか?
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この問題について、興味深い記事が出た。
→ (平成経済)第5部・リーマンの衝撃:18 総合電機、解体への歩み:朝日新聞
長文だが、無料で読めるので、読むといいだろう。基礎資料としての価値がある。
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これを読んでの私の感想は、次の二点だ。
・ 原則としては、権限委譲すべきだった。
・ 産業構造の変化に合わせて、自己変革すべきだった。
以下では詳しく論じよう。
権限委譲
原則としては、権限委譲すべきだった。これは、次のことを意味する。
「 IT産業では、変化の速度が非常に早くて、経営の決断が迅速であることが求められる。その際、旧態依然のゆっくりした経営では間に合わない。また、高齢の経営者は時代遅れになりがちなので、若手の決断が重要となる。そのいずれにおいても、権限委譲で対処するべきだった」
具体的には、(研究員が)数十人規模の事業部ごとに、経営の全権を委託するべきだった。たとえば、スマホとか、デスクトップパソコンとか、ノートパソコンとか、テレビとか。……これらの部門ごとに、決定者を擁立して、全権を委ねるべきであった。つまり、上司(重役)の判断を必要としない体制にするするべきだった。仮に、上司(重役)が文句を言いたいのであれば、担当の決定者をクビにして、別の決定者を擁立すればいいだけだ。(ただし、原則として、事業がうまく行っている限りは、決定者をクビにするべきではあるまい。)
なお、非常に優秀な社長がいる場合には、それぞれの事業部をすべて(間接的に)監督することもできる。ここでは、社長は決定者になるのではなく、決定者を監督する立場だ。この社長は、決定者の代替になるのではなく、重役会議の代替になる。……このような事例は、いくつかある。スティーブジョブズ(アップル)、孫正義(ソフトバンク)、鴻海の社長、などだ。
ともあれ、このような「権限委譲」によって、変化の早いIT産業において、時代の流れに取り残されずに済む。
現実には、日本の電機産業の経営は、旧態依然で、高齢の老人が決めるだけだった。グズグズしている間に、どんどん取り残されていった。現場の声でも、
「取引をまとめたが、会社の決裁を得るのに1カ月ぐらいかかるので、それを待っている間に、他のアジア企業(台湾あたり)に契約を持って行かれた」
という事例が多かった。ただし、それも最初のころだけだ。数年もたつと、競争力をなくして、契約時に声をかけてもらうことすらできなくなった。「日本企業は取引の相手にならない」という評価が定まってしまった。完全な落ちこぼれだ。
ま、老害の結果とも言える。代表的なのは NEC とシャープだ。老害の経営者は、自分たちはいつまでも居座っていながら、社員をクビにするばかりだった。それで従業員に批判されたが、平然として居座るばかり。(冒頭の朝日の記事にもある。NEC の例。)
《 参考 》
「権限委譲」がうまくできている例がある。自動車産業における新車開発だ。通常は、車種ごとに「主任」というリーダーに全権が委譲される。彼が開発に関する全権を持ち、重役などの指示を受けない。上位が口出しできるのは、せいぜい「開発予算」ぐらいであって、日常の開発の過程には一切口出しできない。社長といえども口出しはできない。ほぼ完全な「権限委譲」ができている。
こうして「権限委譲」が進んだことで、日本の自動車産業は世界的にもトップレベルの競争力を持つようになった。トヨタ・日産・ホンダの3社がある上に、スバルやマツダやスズキも十分に生きながらえている。この点では、米国やドイツに劣っていない。
自動車産業では、「権限委譲」のほかに、「給与がいい」という点でも優れている。電機産業は、自動車産業よりも給料が低いので、その点では優秀な人材を集めにくかった。例外は、ソニーとキャノンで、給料がいいゆえに、優秀な人材を集めることができた。他社は駄目だね。
自己変革
IT産業は変化が大きいので、産業構造の変化に合わせて、自己変革すべきだった。これは、各社別に、それぞれ得意な分野でやるべきことだ。
ソニーは、ゲーム、音楽、金融の分野で成功した。
パナソニックは、車載機器の分野で成功した。リチウム電池も成功した。(サンヨーを吸収した効果もある。)
日立は重電で成功したが、原発や鉄道分野では、将来に暗雲が垂れ込めている。
三菱電機は産業向けのオートメーション機器で成功した。
一方、富士通や NEC は、惨憺たるありさまだ。東芝も見通しは暗い。これらの企業は、どうするべきだったか?
はっきりとしたことは言えないのだが、私なりに(個人的に)指針を示すなら、こうだ。
富士通は、IT分野で基礎部分(産業向けの部材など)に注力すべきだった。もともと十分な研究開発費があり、最高度の人材がいたのだから、それを使って、IT産業向けの部材などを開発するべきだった。この部分では、現在でも、あちこちの会社が成功している。実際、日本から中国に部材を輸出して、その部材で中国がIT製品を製造する、ということが多い。それで成功している企業が多いのだから、富士通もそういう部門に移行するべきだった。
これがうまく行った最高の事例は、富士フイルムだろう。フィルムがなくなるだろうという見通しの上で、IT産業向けの部材を開発する会社になって、大成功した。富士通も、そういう方針を取るべきだった。(どっちも富士だが、経営は大違いだ。)
NEC は、経営がどうしようもない。もともと業界でも最低の製品しか作っていなかったのだが、たまたま一部の事業所でオモチャみたいに作ったパソコンが大当たりしたおかげで、いつのまにかパソコン会社になってしまった。しかしパソコン産業が中国に移行するにつれて、先進国のパソコン産業は没落した。同時に、NEC も没落した。かわりとなる事業があれば良かったが、もともとが最低レベルの会社だったので、あとには何も残らなくなった。(しょせんはパソコンが大当たりしただけの一発屋にすぎなかった。その効果で、スパコンまでも作ったが。)
こういう会社は、次の二通りしかない。
・ 経営者を全取っ替えする
・ 会社をたたむ(売却して、他の会社の経営に任せる)
いずれにせよ、老害の無能な経営者がいる限りは、存続できないのだ。なのに、老害の無能な経営者が居座る。とすれば、あとは、次々と従業員の首を切りながら、会社消滅に向かうしかない。
それでも、形がまだ残っているうちであれば、超安値で他社に売ることもできる。(例はシャープ。)
しかし時期が遅くなれば、形が残らずに、完全な会社清算になるかもしれない。今の NEC は、その方向に向かっているとしか思えない。無能な経営者は、すべてを消滅させるためにしか存在しない。
東芝はどうか? 前にも述べたが、東芝は、分社化して解体して売却するのが、最善だと思える。今ならまだ分社化して、売却することができるだろう。
どうしても現状のまま残したいのであれば、持株会社方式で、各部門を独立させるべきだ。その上で、徹底的な権限委譲をして、若手に経営判断を委ねるべきだ。日本企業的な年功序列を捨てて、30代の半ばぐらいの社長に全権を委ねるべきだ。部長は 30歳ぐらいでいい。
このくらいの変革ができれば、東芝も生きながらえることができそうだが、とてもそれだけの度胸はあるまい。となると、あとは消滅に向かって、徐々に衰退することになるだろう。
【 関連項目 】
→ 東芝は本体を売却せよ: Open ブログ
→ 東芝・三菱重・日立の経営危機: Open ブログ
→ 家電産業の衰退の理由: Open ブログ
→ 家電3社の統合案: Open ブログ
→ IT企業を発展させるには?: Open ブログ
【 追記 】 ( 2019/04/18 )
パイオニアが香港ファンドに売却された。
→ http://bit.ly/2DlRW7a
部門ごとに分割して売却すれば問題なかったのだが、どうしても会社の一体性を保つことにこだわったので、全株を香港ファンドに売却するそうだ。
朝日新聞が昨日からの3回連続シリーズで報道している。
→ https://www.asahi.com/articles/DA3S13980776.html
これで私が思ったのは、「だったら香港ファンドが一括買収してから、分割売却すればいい」ということだ。それを試算した人もいる。
一括購入費用 1000億円
分割売却収入 3200億円
差額 2200億円
→ https://www.orangeitems.com/entry/2018/12/11/000500
というわけで、買ってすぐに分割売却すれば、2200億円を丸儲け、となる。頭いい。
じゃなくて、こういうことを自分でできなかったパイオニアが、馬鹿すぎる。
上記サイトでは、「そんなことを許すな」と息巻いているが、香港ファンドは悪いことをしているわけじゃない。最も合理的に行動しているだけだ。つまり、価値が最も発揮されるようにしているだけだ。それが最も無駄がない。
なのに、あえて一括活動をすることにこだわるには、あえて 2200億円の無駄を出すことに等しい。馬鹿げている。そんなことも理解できないのが、現経営陣だ。
朝日の記事を見ると、パイオニアの経営陣がいかに馬鹿であるかが、はっきりとわかる。こういう馬鹿経営者に任せるよりは、利口な会社に任せる方が、はるかに無駄をなくすことができるのだ。そのためには、事業ごとの分割が最善なのだ。そして、その場合に、会社(および株主)は最大の利益を得ることができる。
駄目経営者は「現体制の一体化」という名や形を求めるあまり、最も無駄の多い道を選び、最大損失を出す。そして、それを止めるだけで、香港ファンドはボロ儲けができる。ここでは、香港ファンドは悪をなすのではなく、愚者の愚行を止めることが本質だ。
これは期待できないでしょうね。
私の知人で、東芝に見切りをつけてキャリア官僚に転身した若者がいるのですが、知人曰く、『東芝の同期のうち、ほとんどが転職活動をしていますよ。東芝に未来は無いと思います。』とのこと。
電器産業全体を俯瞰したご意見の開陳をお願いできないでしょうか。
・ 原則としては、権限委譲すべきだった。
・ 産業構造の変化に合わせて、自己変革すべきだった。
という部分かと思います。ただ能力ある若手への権限委譲はなかなか難しい話です。それが日本企業の体質であって、権限委譲を進めると権限を持つ高齢者の仕事がなくなってしまいます。口を出して、こじらせてやっと承認するのが仕事ですから。新たな仕事を充てがわないと権限委譲はできないと考えます。
若手への権限委譲もあくまで能力があったり、時流に乗ってが条件です。若手に自由に、大幅な権限を持たせて成功した事例は勿論数多くありますが、同時に失敗例も相当数に上るような気がします。通常成功例は華々しく取り上げられ注目されますが、失敗例は場合によっては非公開でひっそりと撤退することもあり衆目に晒されません。更なる因果関係の精査が必要なんじゃないかと。
産業構造の変化についてはその通りですが、これは電機産業に限らず全産業に該当します。IT関連で変化のスピードが大きいことは確かですが電機産業に特有な話ではないかと。
日本メーカーのスマホ開発の凋落、PCやスマホのCPU,GPUを日本が作り出せない理由、日本発のOSや主流となるネットサービスは何故生まれないのか、その辺りを省みる必要もあるのでは、と考えます。
原発、国防、金融に手を出している会社は、役所の庇護もあり圧力もあります。
ソニーは電気メーカーが金融やエンターテイメントを経営しているのか、逆に電気メーカーが子会社に飲み込まれようとしているのか、見極めたほうがよろしいかと。
パイオニアみたいに「集中と選択」しているつもりで「カーナビに集中」した結果、「カーナビコケて買収されちゃった」なんてところもありますね。
パイオニアの没落という話。