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NHK の記事から引用しよう。
警察の統計では、おととしまでの3年間で200人以上が死亡。総延長40万キロ、地球10周分の長さがあり、住宅地などの風景に溶け込んだ農業用水路。取材を進めると“命を奪う危険な溝”といえる実態がわかってきました
( → “命を奪う溝” 3年間で死者200人以上 | NHKニュース )
これで死者が多いということで、「死者を減らすために国は対策せよ。蓋をかぶせよ」という声が湧き上がった。
→ はてなブックマーク
しかし、それにはいろいろと問題がある。そこで、問題を整理しよう。
(1) コスト
いくら死者を減らすためとはいえ、やたらと蓋をかぶせるのには、費用がかかる。そのコストを考えるべきだ。
記事にあるように、総延長40万キロだから、地球を10周する分の長さとなる。それには巨額の金がかかる。1メートル 5000円として、20兆円になる。そんな金はどこにもない。
さらに、救える人数は、たったの3年で 200人だ。30年でも 2000人。1人あたりで百億円である。あまりにも非効率だ。
どうせ金をかけるにしても、もっと有効に金をかける辺書がいろいろとあるだろう。交通事故を減らすとか、自然災害を減らすとか、病死を減らすとか。……そっちの方に金をかける方がずっと有効だ。
(2) パレートの法則
では、用水路の対策は、まったく必要ないのか? いや、そうではない。上記で否定されたのは「40万キロのすべてに蓋をする」ということだ。一方、一部だけなら、一概に否定できない。
一般に、事故の大部分は人口密度の高いところで起こっている。人の通らないようなさびれたところでは事故の頻度は低い。とすれば、人口密度の高いところだけ(一部だけ)で蓋をすればいいだろう。
一般に、世の中の事象は、多頻度の少数のものだけで、事象の大部分を占める。全体の 20%の事象だけで、全事象の 80%を締める。……これを「パレートの法則」という。
→ パレートの法則 - Wikipedia
これに従えば、全体の 20%に蓋を設置するだけで、用水路の事故の 80%を防げるはずだ。
その 20%の地域についても、同じく「パレートの法則」を適用すれば、20%の 20%にあたる4%の地域で蓋をすれば、80%の 80%にあたる 64%の事故を防げるはずだ。つまり、全体の4%の地域で蓋をすれば、全体の 64%の事故を防げるはずだ。
現実には、そううまく行くとは限らないが、おおざっぱに行って、全体の5%ぐらいの地域で蓋をするだけでも、事故の6〜7割ぐらいは減らせると見込まれる。
とすれば、当面は、全体の5%ぐらいの地域で蓋をする……という方針を取るとよさそうだ。特に、人口の多い市街地や、田舎でも通学路になっているような地域では、対策が必須だろう。一方、人通りのほとんどない農地の畦道などでは、対策は不要だろう。
(3) 負担者
工事の負担者は、誰か? 国や自治体か? 記事にはこうある。
わかってきたのは用水路の安全対策を担うのは、行政ではなく、多くの場合は、用水路を所有・管理している「土地改良区」。地域の農家でつくる団体ということでした。
一方で、土地改良区は、まったく納税していない。
土地改良区の性格から、法人税、所得税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税事業税等について非課税扱いされています。
( → 各務用水 土地改良区【土地改良区って何?】 )
まったく納税していないのだから、公的なサービスを受ける資格はない。通路も用水路もすべては私有地であり、納税さえもしていないのだから、そのすべてについては自己負担とするのが当然だろう。(さもなければ税金泥棒のようなものだ。)
人の多い市街地はともかく、農業専用の土地改良区では、あくまで地元の土地所有者が対策するべきだ。(全額自己負担で。)
当然ながら、「国は何とかしろ」と要求するべきではないし、「何もしない国はけしからん」と国を批判するべきでもない。責任のすべては土地所有者にある。
(4) 雪と蓋
対策するとして、どう対策すればいいか? 蓋をするのも一案だが、蓋をするのには問題がある。蓋をすると、「積雪期に雪を用水路に落とす」という機能が使えなくなることだ。
この問題があるがゆえに、蓋は駄目だ。目の細かい網も駄目だ。目の粗い網なら、何とかなりそうだが、コストがかかる。また、そこに頭を打ち付けるとか、足を入れて骨折するとか、別の問題が発生しそうだ。
(5) 杭とロープ
そこで、用水路に蓋をするかわりに、道の脇に「杭とロープ」を設置するといいだろう。これなら、低コストで済む。また、用水路に落下してケガをする、という問題も防げる。
同様の案では、金属のガードレールや柵を設置する、という方法もある。だだし、これだと、かなりコストがかかる。杭とロープならば、同じ機能をごく低いコストで実現できるので、人口密度の低い地域には適している。
(6) 夜間対策
実は、用水路に落ちる事故が多いのは、夜間である。田舎では街路灯が設置されていないことが多いので、ほぼ真っ暗だ。足元も見えない。そこで、足を踏みはずして、道の脇の用水路に落ちてしまう……という例が多発する。つまり、用水路の事故の大半は、夜間に発生しているのである。(昼間ならば、、そこに落ちるほど間抜けな人は、多くはない。)
そこで、とりあえずは杭とロープだけでも、「道を踏みはずす」という事故の多くを防げる。
また、市街地などでは、杭に反射板や蛍光塗料を取り付けることで、転落を避けることができるだろう。(実例あり。)
【 関連サイト 】
参考となる情報を、いろいろと得ることができる。
岡山で用水路に落ちる事故が多い……ということは、前にも話題になったことがある。(岡山県の例)
→ はてなブックマーク - 「人食い用水路」岡山の怪 交通死亡事故の1割が転落死:朝日新聞 2016/06/29
この元記事(朝日新聞)は消えてしまったが、下記に転載がある。
→ 「人食い用水路」岡山の怪 交通死亡事故の1割が転落死 小川奈々 軽毛
また、同趣旨の記事は下記にある。
→ 「異常と思わないのが異常だ」県警本部長も絶句…なぜ起きる?“岡山特有”の用水路転落死亡事故 - 産経 2016.3.23
→ 用水路での死亡、年100人超 目立つ岡山・富山・熊本:朝日新聞 2018年11月6日
参考記事。いろいろ情報がある。
→ なぜ? 小さな用水路で死亡事故|NHK