真核生物はいかにして誕生したか? その起源を探る。
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前項では、次の趣旨で述べた。
・ 大深度地下に、大量の微生物があるらしい。
・ その微生物は、細菌・古細菌である。
・ 細菌・古細菌は、真核生物とは大幅に異なる。
・ 真核生物の起源については、共生説がある。
(原核生物の融合で真核生物が誕生した、という説。)
とはいえ、共生説は、十分ではない。真核生物を構成するたくさんの要素のうち、ごく一部の要素について説明するだけだ。他の大部分については、謎のまま残されている。
そこで、「真核生物はいかにして誕生したか?」について考えてみよう。
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現状ではどうかというと、この件についてはまったくの謎となっているようだ。いくつかの仮説はあるのだが、証拠もないし、事実を十分に説明できるわけでもないので、定説というようなものはない。謎は謎のまま残されている。
真核細胞が原核細胞から発展したものであることは疑いがないが,この2つを直接結び付けるような証拠,つまり両者の中間的な性質をもつような細胞は現在ではどこにも見当たらない。一種のミッシングリンクなのである。「原核細胞から真核細胞へ」というストーリーが当然の話として受け入れられながら,この過程を矛盾なく説明できる定説が存在しないのは,このような理由による。
( → 真核細胞はどのように生まれたか | 日経サイエンス )
とはいえ、まったくわからないというわけでもない。その原型が古細菌であったことは、遺伝子解析で判明している。
真核生物の細胞になったもとは,遺伝子の解析から古細菌とされます.(……)生物としての基本的な機構に両者の共通性が高く,真正細菌とは離れていることが支持されます.
古細菌はユーリ古細菌とクレン古細菌の2つに大別されます.ユーリ古細菌の方がメジャーなグループで,メタン細菌や高度好塩菌のほか,サーモプラズマもここに含まれます.クレン古細菌には超好熱菌が含まれます.
2008年のアメリカ科学アカデミー紀要の論文では,53個の遺伝子を対象とした解析から,クレン古細菌と真核生物の共通祖先の分岐を支持すると報告しています.
( → 第4回 真核生物の誕生1 )
では、古細菌のあとで真核生物はいかにして誕生したか? そこが謎だ。
直感的にすぐにわかるのは、次のことだ。
「真核生物には、核がある。核があるのは、核膜があるからだ。ゆえに核膜の出現こそが、真核生物の起源をもたらしたのだろう」
この件は、引用2番目のページでも、次のように記されている。
核をもつのが真核生物である
真核生物の細胞は,二重の膜で覆われた核をもった.これが,真核生物が後に大きく展開する第一歩になった重要なできごとであると思います.核の有無は,真核生物と原核生物とを区別する基本的な違いです.核は二重の膜で被われているので,図2のようにできたものと想像されています.遺伝子(DNA)を収納する特別なコンパートメントをもてたことで,DNAを大量に安定に保持できるようになりました.
また、引用1番目のページでも、次のように記されている。
ノーベル賞受賞者である著者ド・デューブは,この論文の中で,「原核から真核へ」という進化の道筋の合理的な説明を試みている。
まず前半では,ある原核細胞が巨大な食細胞に進化し,変型自在な膜をもつようになる。ちぎれた膜にDNAが付着し,これが細胞核へと発展する。大きくなるにつれて細胞の構造を支えるための骨格もつくられる。
後半では,巨大化した食細胞が他の原核細胞を取り込み,細胞内にオルガネラ(細胞内小器官)として定着する。今日,広く知られるマーグリスの「細胞内共生説」である。
( → 真核細胞はどのように生まれたか | 日経サイエンス )
いずれにおいても、「膜」が最重要だとされる。
では、本当にそうか?
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ここで私は異を立てよう。真核生物において最も根源的なのは、「膜」ではない。なぜか? 膜があるだけでは、細胞は増殖できないからだ。
なるほど、膜があれば、いろいろと便利なことが起こる。また、原核生物が融合して真核生物ができた、という共生説を成立させることもできる。しかしその後、その真核生物は、増殖することができないのだ。なぜなら、膜があるだけでは、真核生物の増殖方法である「有糸分裂」ができないからだ。
ここで、次の仮説を考えることもできる。
「核ができたあとで、有糸分裂をするような性質が追加された」
しかし、こんなことは、およそありえそうにない。有糸分裂というのは、あまりにも複雑で高度な仕組みであって、それがいきなり一挙に出現するというのは、「猿がデタラメにタイプライターをたたいたらシェークスピアの作品になった」というようなもので、確率的にはゼロ同然だからだ。
突然変異というのは、どんなものであれ、小規模なものである。いきなり大規模な突然変異が起こることなどはありえない。たとえば、バクテリアが突然変異によって人間になるというようなことはありえない。それほどにも大規模な突然変異が起こるはずがないのだ。
同様に、「有糸分裂」を起こすような突然変異が、いきなり生じるはずがないのだ。なぜなら、そこでは、次のようなことが起こるからだ。
・ すべてのDNA合成(倍増)を完了させる
・ DNAの形を整えて、染色体にする
・ 核膜を消失させる
・ 姉妹染色体を赤道面に並べる
・ 姉妹染色体をつなげていた物質が切断される
・ 染色体が両極に引っ張られていく
・ 染色体がまとまったあとで、それぞれの核膜が形成される
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出典:Wikipedia
有糸分裂というのは、これほどにも複雑なものだ。このような複雑な機構が突発的に出現したということは、およそ考えられない。
しかしながら、その複雑な機構が突発的に生じたのでなければ、真核生物の増殖は不可能なのだ。なぜなら、その機構のすべてが完全に整備されていなければ(つまり中途半端であれば)、そのような生物は増殖ができないので、滅びてしまうからだ。
・ 完全に整備されていれば → 存続
・ 完全に整備されていなければ → 滅亡
こうして、「ものすごく複雑な機構が突発的に生じた」ということが要請される。
しかしながら、そのようなことは確率的にありえない。
こうして、矛盾に陥って、仮説は破綻する。
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以上から、何がわかるか?
「真核生物の根源は核膜を持つことだ」
という仮説に対して、
「そうだとすれば、有糸分裂が理論的に不可能なので、仮説は破綻する」
ということだ。
では、そこから得られる結論は何か? もちろん、(背理法によって)「仮説は間違っている」ということだ。つまり、
「真核生物の根源は核膜を持つことだ」
という仮説は、間違っているのである。
では、その仮説が間違っているのだとすれば、何が正しいのか?
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ここで、私が新たに仮説を出そう。こうだ。
「真核生物の根源は、有糸分裂をすることだ」
ここでは、「核膜をもつこと」よりも、「有糸分裂をすること」の方が先に来る。
そして、その「有糸分裂」とは、真核生物における有糸分裂(核膜のある有糸分裂)ではなくて、原核生物における有糸分裂(核膜のない有糸分裂)なのである。それは中途半端なものであるから、「半有糸分裂」と言ってもいい。
半有糸分裂は、原核生物における現象であるから、原核生物の分裂の特徴をかなり備えている。
まず、原核生物の分裂の特徴とは、次のようなものだ。
・ 核を持たない。(核膜もない)
・ DNA は、線状でなく、環状である。
・ DNA は、形を整えて染色体になることがない。
※ 参考図 → 知恵袋(大腸菌の細胞分裂)
これらのうち、最初の「核を持たない」という点だけが維持されて、他の二点は捨てられるのが、「半有糸分裂」だ。
つまり、半有糸分裂とは、次のようなものである。
・ 核を持たない。(核膜もない)
・ DNA は、線状であり、環状でない。
・ DNA は、形を整えて染色体になる。
このような形で、「核膜のない有糸分裂」が実現する。それは、中途半端なものであっても足りるから、少しずつだんだんと実現していったと見なしていい。(つまり、途中の中途段階がいろいろと存在した。)
こうして、中途段階の「半有糸分裂」がいろいろと発展していったすえに、最後に残された1ピースが嵌め込まれた。それが「核膜の形成と消失」である。(これだけならば、遺伝子の突然変異で出現することは可能だ。)
以上によって、「核膜のある有糸分裂」が可能となった。このとき、真核生物が誕生したと言えるだろう。
いったん真核生物が誕生したあとでは、さらにいろいろと「融合」が起こったのだろう。そうして真核生物はどんどん巨大化していったのだろう。遺伝子の量もどんどん増えていったのだろう。そのように推定できる。
( ※ これは「共生説」と同様だが、多重に何度も繰り返されるという点が、ちょっと異なる。)
というわけで、「有糸分裂が根源であり、その後に核が生じた」という新たな仮説を採れば、話はうまく説明できるのである。
[ 付記 ]
初期の真核生物は、かなり小さめであったらしい。はっきりとしてはいないが、その可能性がある。
真核細胞の大型化と酸素濃度
地球の歴史をみると,酸素濃度の上昇がある段階を超えたところで,生物の大きさに飛躍的な巨大化が起きている,という論文があります.(……)約20億年前に、細菌に比べて108〜109の桁で体積が大きい単細胞真核生物が誕生した,というわけです.
小型の真核細胞の可能性は…
真核生物らしい大型細胞が誕生する前に,小型の真核生物が誕生していた可能性については,微化石の形態からでは原核細胞と小型真核細胞の区別が十分にはつきません.
化学化石の証拠としてはオーストラリアのピルバラで,27億年前の頁岩からステラン(ステロイド類)が検出されており,これは真核生物の細胞膜に特有の成分であることから,真核生物の誕生はそこまで遡る可能性も考えられます.
( → 第4回 真核生物の誕生1 )
ここには、「半有糸分裂をする原核生物」が含まれていたと言えるかもしれない。そのような生物は、核がないという意味では真核生物ではないのだが、半有糸分裂をしていたという点では原核生物と真核生物の中間段階にあることになる。
こういう中途段階のものを考えることができそうだ。
( ※ ただし中途段階のものは、増殖能率が低いので、真核生物に完全に負けてしまって、歴史上では滅びてしまったのだろう。)
( ※ 一般に、中途半端に進化した生物は、もっと進化した生物が出現すると、滅亡しやすいのだ。たとえば、単孔類や有袋類は、出現当時は優位であったが、やがて有胎盤類が出現するとともに、ほぼ滅びてしまった。)
( ※ なお、真核生物を誕生させた原核生物は、地球上で繁栄していた必要がない。ごく一部でニッチのように出現していただけで足りる。ほとんどすべての進化において、突然変異はごく一部の集団でのみ出現したあと、それが大きく拡散していくのである。したがって進化の途上の中途段階が残っていないことは、しばしばある。)
( ※ 近いところでは、ホモ・サピエンスの直接的な祖先となる種の痕跡が見つかっていない。最も近いホモ・ハイデルベルゲンシスでさえ、ホモ・サピエンスとの差は大きくて、両者の中途段階の痕跡は見つかっていない。仮想的には「早期ネアンデルタール人」というものが想定されているが。)