2019年01月05日

◆ 地下に微生物が大量存在?

 地下の深いところに微生物が大量に存在する、という報告が出た。疑わしいが、本当か? 

   ※ 後半に 【 追記・訂正 】 あり。


 ──

 これは 2019年1月4日に、NHK で報じられた。
 地球内部の過酷な環境の中に微生物の巨大な生物圏が広がっているとする報告を、世界の研究者が参加する国際プロジェクトがまとめました。岩石をエネルギー源とする微生物も見つかっているということです。
 これらの微生物は地下5000しゅメートルを超える鉱山の掘削坑や、海底を2500メートルほど掘り下げた地層など、世界各地のおよそ100地点で採取したサンプルの分析によって確認されました。
 この中には、海底の熱水が噴き出す120度を超える環境でも生息できる微生物や、岩石をエネルギー源とする微生物などもいて、地上とは大きく異なる過酷な環境で独自の進化を遂げていました。
 しかも、地球内部で生物が存在しうる領域は23億立方キロメートルと海の体積の2倍におよび、この中に、地球全体の微生物の70%が存在すると考えられるということです。
( → 地球内部に微生物の巨大生物圏 岩石をエネルギー源の微生物も | NHKニュース

 「地球全体の微生物の70%が存在する」とのことだ。これは圧倒的な量である。にわかには信じがたい。そこで、詳しく調べてみた。

 まず、ネット上では、deep carbon observatory の英語情報を探した。
  → deep carbon observatory - Google 検索

 deep carbon observatory の本家サイトや、Wikipedia の項目が見つかる。(機械翻訳も可能。)
 ざっと見たが、次の二点が重要だ。
  ・ 微生物の画像はない。つまり、直接確認されていない。
   (存在は、サンプル物質から推定されるだけだ。)
  ・ バクテリアやウイルスがそうだと推定されている。


 これでは、かなり曖昧な情報なので、信頼性が非常に低い。しかし、探してみると、もうちょっと正確な報道が過去記事に見られる。
 2018年12月12日に、次の記事が出た。
 海底をおよそ2500メートル掘り下げた地下に、数十万年から数百万年にもわたって存在してきた可能性のある微生物を含む、広大な「生命体の森」が存在するという発見が米ワシントンで開かれた米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の会議で発表された。 地底の極端な温度や気圧にもかかわらず豊富に存在するこの生命体は、これまで存在が知られてこなかった。何も摂取せずに岩から放出されるエネルギーのみを取り入れて生きており、動きは遅く、まるでゾンビのような状態で存在しているという。
 2009年に地球内部の秘密を探るために専門家数百人が集まって結成された国際共同研究機関「深部炭素観測(ディープ・カーボン・オブザーバトリー、Deep Carbon Observatory、DCO)」が、過去10年に及ぶ研究の最新結果を発表した。
 DCOによると、地球上の生物のうち、細胞核を持たない単細胞の有機体であるバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)のおよそ70%が地下に存在する。そうした「深部地下生物(ディープライフ)」は炭素重量換算で150億〜230億トンに相当するという。
 米オレゴン州立大学(Oregon State University)で宇宙生物学と海洋学を教えるリック・コルウェル(Rick Colwell)氏は「地球の深部地下生物圏は巨大だ」と述べ、これまでに発見された生命体は「非常に素晴らしい、極限の生態系」だと表現した。
 発見された単細胞有機体の一つは、海底の熱水噴出孔の中で見つかったもので、121度の環境でも増殖が可能な超好熱菌「Strain 121」(学名:Geogemma barossii)の可能性があるという。
( → 地下深部に広大な「生命体の森」 国際研究で発見:AFPBB News

 「細胞核を持たない単細胞の有機体であるバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)のおよそ70%が地下に存在する」
 とのことだ。NHK の記事では単に「微生物」とのみ記されていたが、AFPBB の記事では「細胞核を持たない」という修飾句がある。つまり、ここには真核生物は含まれていない。これは重要だ。
 われわれが普通「生物」という言葉で思い浮かべるのはすべて真核生物である。それらだけが目に見えるからだ。真核生物よりも古くて単純なバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)は、普通に思い浮かべる生物とは違うわけだ。(学術的には生物だが。)
 細菌と古細菌は、系統的にはたがいに並列する関係にある。その後、古細菌のなかから真核生物が分岐した。

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出典:Wikipedia


 とすると、次のように認定できそうだ。
 「地球上にある生物の大部分は真核生物であって、細菌と古細菌は例外的だ。細菌と古細菌の 70% が地下にあるからといって、全生物の 70% が地下にあるということにはならない。NHK の記事は大げさすぎて、誇張だ」

 しかし実は、そうではない。なぜなら、「地球上にある生物の大部分は真核生物である」ということはないからだ。むしろ、「地球上にある生物の大部分は細菌・古細菌である」と言えるのだ。
(細菌は) 生物量(バイオマス)も相当量存在すると考えられており、土壌4000m2あたり2トンの微生物(真菌、古細菌を含む)を有していると考えられている。また海洋においては、栄養状態にかかわらず1mLあたり50細胞程度の細菌が存在しており(沿岸や生物の死体周辺ではmLあたり105細胞以上生息している)、海洋ひとつとってみても地上の真核生物量をはるかに凌駕する計算がなされている。
( → 細菌 - Wikipedia

 つまり、細菌・古細菌は、目には見えないけれども、量的には地球上の生物の圧倒的多数を占めているわけだ。そして、そのうちの 70%が大深度地下にある、と推定されるわけだ。
 他に、真核生物が地表に存在するわけだが、それはずっと小さな量にすぎないわけだ。

 ──

 以上のことから評価すると、次のように言える。
 「大深度地下に大量の生物が存在する、という説は、厳密には未確認であるが、特に間違っていないだろう。地表にいる細菌・古細菌の2倍ほどの量が大深度地下にあるとしても、特におかしいということはないだろう。その意味で、報道は正しいだろう」


 ただし、次のことに注意すべきだ。
 「われわれが驚くべきことは、地下に大量の生物が存在するということではない。地球上にある生物のほとんどは目には見えない、ということだ。目に見える生物は、地球上のほんのわずかを占めるにすぎない。地球上にある生物の圧倒的多数は、目には見えないバクテリア類なのである。ここでは、単に個体が多いというだけでなく、総重量でも圧倒的に多いのだ。そして、それほど多くの量があっても、それらのものは、目には見えず、存在が意識されないのである」
( ※ ただし、ここでいう「生物」は、動物に限られる。植物は除く。)


 これはちょうど、「大切なものは目には見えないんだよ」と教える「星の王子さま」みたいだ。

 冒頭の NHK の記事を読むと、「地球上の生物をしのぐ圧倒的な量が、地下にひそんでいる」と思うかもしれない。そして驚くかもしれない。しかし、それは正しくない。
 実は、「地球上の生物をしのぐ圧倒的な量が、すでに地表にひそんでいる。ただしそれは目に見えない」というのが真実だ。驚くべきことがあるとしたら、そちらなのだ。

( ※ われわれの信じている「生物」という概念が 覆される感じだ。)



 【 追記・訂正 】
 本文中の記述が不正確だったので、修正した。(修正済み。)
 元の記述では、「地球上の生物の大部分は目には見えない」というふうに記したが、それは不正確だった。目には見えないのは、動物に限られる。一方、植物は、目に見える。その植物が圧倒的に多いのだ。

 コメント欄で指摘されたが、地球上のバイオマス(生物の物質量)の大部分は植物であるそうだ。
 したがって、Wikipedia で引用された「真核生物」というのは、「植物を除く真核生物」ということであるらしい。それが地球上の生物の一部分でしかない、ということだ。
 量を比べると、次のようになる。

   植物 >> 細菌・古細菌 >> 真核生物(動物のみ)

 植物を除けば、「細菌・古細菌は真核生物(動物のみ)よりも圧倒的に多い」と言える。だが、植物を込みにして考えると、「細菌・古細菌は、真核生物である植物よりもずっと少ない」というふうになる。

 ──

 実は、「地球上の生物では圧倒的に多いのは植物だ」というのは、私の最初の直感だったので、その趣旨で書くつもりだった。ところが、ネットで調べると、「真核生物の量はずっと少ない」という記述が見つかった。( Wikipedia で。)
 それを信じて、そのまま引用したのだが、「 Wikipedia は当てにならない」という事例に当てはまってしまったようだ。この件では Wikipedia は不正確であり、それにまんまと引っかかってしまったようだ。
 で、その趣旨で書いたのだが、読者の指摘を受けて、ここに修正文を書くことになった。



 [ 付記 ]
 進化において大切なのは、古細菌のうちの好熱菌だ。
 初期の地球では、まずは(何らかの原始的な生物が生じてから)古細菌が出現して、それが低温への適性をもつものに進化したあとで、さらに真核生物が出現したと考えられる。

  原始的な生物 → 好熱菌 → 低温適性の古細菌 → 真核生物


 実は、古細菌でなく細菌のなかにも、好熱菌に含まれるものもある。
 ともあれ、初期の地球上では、エネルギー源となるのは熱だけだったようなので、その熱を利用して生きる形の好熱菌が生物の初期形態であったわけだ。
 だから、その意味では、好熱菌が地下に大量に含まれるとしても、特におかしくはない。原始的な地球の状態をそのまま保持していると考えてもよさそうだ。

( ※ なぜ熱が大事だったのかは、後述の「全地球凍結」の話を読むとわかる。)



 [ 補足 ]
 好熱菌の画像を示しておこう。

konetukin.jpg
出典:好熱菌 - Wikipedia



 「地下の生物」の画像としては、上のような画像が正しい。(これも、直接的な証拠画像ではなく、参考画像だが。)

 一方、NHK などで引用されている画像は、AFPBB が掲載した画像であるが、これは、好熱菌の画像ではなく、線虫の画像である。一種の「イメージ画像」と言っていい。
南アフリカ・コパナン金鉱の地下1.4キロの深さに生息する線虫類(2018年12月10日提供、資料写真)。(c) AFP PHOTO / Gaetan Borgonie(Extreme Life Isyensya, Belgium)/HANDOUT
( → 地下深部に広大な「生命体の森」:AFPBB News

 しかし、線虫と好熱菌では、まったくレベルが違う。白と黒ぐらいレベルが違う。
 こんなものを掲載している時点で、この記事は一種の捏造ふうの記事だと言える。ただの線虫の画像を「地下生物の画像」だと見せかけているのだから。

 ※ 捏造の責任が、AFPBB にあるのか、発表団体にあるのかは、不明。もし AFPBB が捏造したのなら、NHK は無断引用していることになる。発表団体が各社に提供しているのなら、発表団体に捏造の責任があることになる。



 【 補説 】
 全地球凍結(スノーボールアース)との関係もある。
 いくつかの地質学的証拠から、太古に地球全体が凍結した時期があったと推定されている。
  → スノーボールアースの証拠 - Wikipedia
 この時期には、地表の生物は絶滅したが、地下にある好熱菌だけは(氷の下の深部で)生き延びた。

 その後、火山活動による炭酸ガス噴出で、氷が溶けて、凍結状態を脱した。ちょうどそのころ、(好熱菌の延長上で)真核生物が誕生した。
 原生代後期のスノーボールアースが始まる前(10億年前)の生物界は単細胞生物が主体で、多細胞生物は小形の菌類などがようやく出現し始めた段階であった。しかしスノーボールアースが終了した原生代末のエディアカラ紀(6.2〜5.5億年前)には、エディアカラ生物群と呼ばれる大形生物が出現している。大きなものでは長さ1mを超える生物化石がオーストラリア南部のエディアカラ丘陵から産出した。この突然の大形生物出現とスノーボールアースの関係について検討が行われている。
( → スノーボールアース - Wikipedia

 時期が一致することから、真核生物の誕生には、全地球凍結(とその解凍)が、大きな影響を持っていると推定される。
 もし全地球凍結がなかったなら、生物は細菌と古細菌があるだけで、真核生物は誕生しなかったかもしれないのだ。

 なお、生物の進化の歴史で最大のジャンプは、「真核生物の誕生」である。これほど大幅な進化は、他に類を見ない。
 真核生物は、原核生物に比べて、サイズ的にも圧倒的に大きい。長さで 10倍、体積で 1000倍も大きい。これは、どのようにして成立したのか?
 長らく疑問に思われていたが、「細菌が融合して、真核生物になった」という説が出現した。マーギュリスの「細胞内共生説」である。
 これは、長らく「異端の説」として学界から否定されていた(論文掲載を拒否され続けた)が、歴史的転変を経て、今日ではほぼ定説とされているそうだ。
 細胞内共生説の提唱者、リン・マーギュリスは、進化の過程で複数の原核生物の系統が融合して新しい系統、真核生物が誕生したと考えた。垂直的な進化しか知らなかった1967年当時(この年に彼女は論文を発表しているのだが)、マーギュリスの考えはあまりにも突飛であったため、14の学術雑誌で論文の掲載を拒否されているらしい。
( → 真核生物誕生の謎- 宮田 隆の進化の話 - JT生命誌研究館

 その後、細胞内共生説は、ほぼ定説とされている。
( → 細胞内共生説 - Wikipedia

 当初は「トンデモ」扱いだったが、やがてはそれが真実として認められた、というわけだ。ウェゲナーの「大陸移動説」と似た経緯をたどったわけだ。



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 【 関連項目 】
 原核生物同士が融合して真核生物が誕生した……というのが、細胞内共生説だ。
 一方、真核生物同士が融合みたいなことをなすこともある。それが(細胞の)「接合」だ。
 この「接合」を経て、本格的な「性」が誕生した。すると、「性」によって遺伝子の交換がなされるようになり、生命は急激に進化するようになった。これが「カンブリア爆発」だ。
 この件は、下記で説明されている。
  → 性の誕生の理由: Open ブログ
posted by 管理人 at 11:48| Comment(4) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いくら融合したとはいえ原核細胞と真核細胞の大きさが何千倍も違うことはありません。せいぜい10倍程度。どちらも光学顕微鏡でみえます。
たしかに人間などは真核細胞からなっていて肉眼で見えます。その一方で酒などをつくりだす酵母も真核細胞からなっていますが目にはみえません。
大事なのは多細胞生物になれるか否かということで、真核細胞は多細胞生物になりうるので大規模になるのです。これは「融合」とは別の概念です。
#ただし最近は「群体」という単細胞とも多細胞ともつかない中間的な概念も存在します。

何千倍も違うのはウイルスと原核細胞/真核細胞です。ウイルスは電子顕微鏡でしか見えず、光学顕微鏡では見えません。

#もっとも最近は微小な細胞とほぼ変わらない大きさのウイルスが発見され、研究者を悩ませているようですが。
Posted by とおりがかり at 2019年01月05日 18:10
> せいぜい10倍程度

 長さで 10倍、体積で 1000倍です。ちょっと舌足らずだったので、加筆・修正しておきました。

> 真核細胞からなっていますが目にはみえません。

 原核生物は目には見えない、と言っているだけであって、真核生物は必ず目に見えるとは言っていません。
 逆は必ずしも真ならず、ということ。

> これは「融合」とは別の概念です。

 融合は共生説の話であって、本項とは直接の関係はありません。ついでにちょっと言及しておいただけです。参考程度。
( ※ 本項の対象は、細菌・古細菌であって、真核生物ではありません。)

 真核生物や融合についての私の考えは、項目を改めて、次項で示す予定です。
Posted by 管理人 at 2019年01月05日 19:32
データとしてはこんなものもあります。なかなか興味深いですね。

https://honkawa2.sakura.ne.jp/4165.html
Posted by サク at 2019年01月05日 21:51
 ご指摘ありがとうございました。

 これを受けて、後半に 【 追記・訂正 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2019年01月05日 22:40
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