2018年12月11日

◆ JIC の高額報酬の問題 2

 産業革新投資機構(JIC)の社長ら取締役が辞任を表明したが、政府を非難した。これをどう評価するか?

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 この件については、先に記した。
  → JIC の高額報酬の問題: Open ブログ

 そこでは、「成功報酬が 20%」という点を「高率すぎる」と指摘した。また、「リターンの最大化」という方針が本来の設立の趣旨を逸脱している点も指摘した。

 ──

 その後、政府の意向を受けて辞任を表明したが、同時に、政府を非難した。
  → 産業革新投資機構 田中社長ら9人の取締役 辞任の意向表明 | NHKニュース

 これを受けて、はてなブックマークでは、「社長支持・政府非難」という見解が圧倒的多数を占めた。
  → はてなブックマーク

 とはいえ、人々は肝心な点を見失っているようだ。特に重要なのは、前出項目で指摘したように、「高率の成功報酬」という点だ。
 なのに、NHK の報道では、社長らは「金銭目的ではない」と言い張っている。
 田中社長は役員報酬が高額だとして、経済産業省が機構側といったん合意した内容を撤回したことについて「私たちは誰一人、お金のためにやっていない。国の将来のためにわれわれが身につけた金融や投資の知見を差し出した。仮に当初、提示された金額が1円だったとしても引き受けた」と述べました。

 これを真に受けている人が多いので、呆れる。詐欺師の口先だけの嘘をあっさりと信じる単細胞か。
 この社長らは「1円だったとしても引き受けた」というが、だったら政府方針をそのまま引き受ければいい。何だったら、1円の報酬で引き受ければいい。
 しかし、そうはしない。なぜなら、政府との対立点は、「高額報酬の有無」だけだからだ。社長らは「高額報酬を出せ」と言って、政府は「出せない」と言っている。ここだけが対立点だ。
 要するに、「私たちは誰一人、お金のためにやっていない」というのは、真っ赤な嘘である。いくら口先だけでそう言っても、実際の行動がその逆である。いわば、口は東を向いて、東に進みますといいながら、体は西を向いて、西に向かって歩き出すようなものだ。言葉と行動が正反対である。
 なのに、「私たちは誰一人、お金のためにやっていない」という堂々たる嘘を、素直に信じる人が多いのだから、呆れてしまう。また、これほど堂々たる嘘をつくのだから、ものすごい詐欺師だとも言える。これほどひどい嘘つきは、森友事件の国税庁長官以来だな。よくもまあ、これほど堂々と嘘をつけるものだ。あまりにも堂々としているので、たいていの人がだまされて信じてしまうほどだ。
( ※ はてなブックマークには、そういう素直すぎる人が多いね。詐欺師に引っかかる恐れがきわめて強い。かわいそう。)

 ──

 さて。以上は、前出項目との対比だ。
 それはそれとして、本質的な問題を論じよう。

 今回の件では、次の報道がある。
 産業革新投資機構(JIC)が、投資資金の一部を公開株など金融商品の運用に充てる検討をしていることが7日、わかった。金融商品の運用による利ざや稼ぎは、新産業の育成というJIC設立の趣旨にそぐわないとして、経産省はJIC経営陣への不信感を強めている。
 関係者によると、経産省は11月に入り、公開株の運用に投資資金を充てるJICの計画を把握した。米国のバイオ関連企業の株式などの金融商品を、少なくとも数十億円規模で運用する意向だったという。経産省はこの計画には、金融商品の短期売買で利ざやを稼ぐ狙いがあるとみている。
 経産省は、公開株への投資は新産業育成の観点から上場後も成長の可能性がある企業などに限るべきで、「短期的な売買で利ざやを稼ぐことは想定していない。JICの設立趣旨に外れる」(幹部)と問題視している。
( → 高額報酬だけじゃない 経産省、JICの資産運用問題視:朝日新聞 2018-12-08

 これはたしかにそうだな、と思える。このように「リターン目的」「金儲け目的」というのは、先の項目で私が述べたことにも合致すると言えよう。

 ──

 ただし、より本質的な問題は別にある。上記記事の「新産業育成」という箇所だ。
 この点は、経営陣の認識とも合致する。
 田中正明社長が10日午後、東京都内で記者会見し、「新産業創出の理念に共感して集まったが、経産省の姿勢の変化で目的を達成することが実務的に困難になった」……と説明。
( → 革新機構 社長ら9人辞任 「信頼毀損」と経産省を批判:朝日新聞 2018-12-11

 政府は「新産業の育成」と言い、社長は「新産業創出」と言う。言葉は少し違うが、いずれも同じ基本的理念をもっていると言えよう。
 しかし、ここが問題だ。なぜなら、それは政府がやるべきことではないからだ。

 ──

 「新産業の育成」ないし「新産業創出」というのは、要するに、ベンチャー・キャピタルのようなものであろう。(規模はベンチャーとは限らないが。)
 そして、そういうことをやるのは、民間のファンドであるべきであって、そこには国民の血税を投入するべきではないのだ。なぜなら、日本は社会主義国ではないからだ。
 「新産業の育成」ないし「新産業創出」というのは、ハイリスク・ハイリターンの分野であって、だからこそ、民間企業(民間ファンド)が自分の目利きと自分の責任でやるべきだ。もちろん資金も自分で提供するべきだ。そうするのが資本主義の原理である。
 ここで、国が何かをやるとしたら、「ベンチャー・キャピタルを優遇する」というような支援政策だけで十分なのであって、国自身が資金を投じてベンチャー・キャピタルの一員に加わるべきではないのだ。やれば、どうせ、無責任体制のまま、失敗に終わるのが関の山だからだ。
 実例は枚挙に暇がないが、最近では次の例がある。
  → クールジャパン 失敗 - Google 検索

 実は、前身の産業革新機構も、失敗した事業がたくさんある。(ルネサスという)大成功した例が一つあるので、総額では黒字になっていて、失敗が目立たないが、実は、数で言えば8割が失敗である。
  → 産業革新機構のベンチャー投資は8割が失敗らしい・・・

 典型的な例では、JDI という失敗の例が目立つ。さっさと解体すればいいのに、無理に事業を引っ張っているせいで、どんどん赤字が増えるありさまだ。何度も述べた通り。
  → JDI の存続(公金投入): Open ブログ (リンクあり)

 これはまあ、「孝行息子の富を食いつぶす放蕩息子」みたいなものかな。それが JDI だ。そいつを放置してきたのが産業革新機構だ。

 ともあれ、「新産業の育成・創出」なんてことは、国がやるべきことではないのだ。なのに、そういうことをやろうとしているのだから、政府も、今回の社長らも、どちらも方針が根本的に狂っている、と言えよう。

 ──

 では、産業に対して国が支援することは、まったくの間違いなのか? いや、そうは言えない。
 産業革新機構も、ルネサスについてだけなら、成功したと言える。
 また、米国でも、GM の救済に公的資金を投入したのは大正解であった。公的資金を投入したことで、立派な黒字企業としてよみがえった。あのままでは倒産したかもしれないのだから、政府が資金を投入したのは大正解だったと言える。
( ※ 完全な「自由放任」が最善なのではない。)

 では、両者の違いはどこにあるか? こうだ。
 「 GM の救済がなされたのは、リーマンショックの直後(2009年)であって、経済環境の悪化が大きな要因であった」
 「ルネサスの救済がなされたのは、2012年だったが、これもリーマンショックの後の不況が大きな理由を占めていた」

 つまり、これらの例は、「自力では存続できないゾンビ企業」とは違うということだ。もともと病弱な体質だったので、周囲の気温が急激に冷えると、ほとんど瀕死のありさまになってしまったが、決して「しょせんは生きながらえないゾンビ企業」とは違っていたのだ。
 ここで「十分な体質改善」をなして、かつ、周囲の環境が好転すれば、十分に生きながらえることはできるわけだ。だから、この段階で無理やり「安楽死させること」(倒産させること)は最善ではない。むしろ、金と知恵を注入して、病弱な体質を健全な体質に改善することの方が最善なのだ。
 そして、そういうことがなされたのが、GM やルネサスだった。

 一方、JDI その他の失敗例では、「しょせんは生きながらえないゾンビ企業」が、無駄に延命治療を受けているせいで、やたらと無駄金ばかりを食っているわけだ。(治癒する見込みもなく、ただの延命のために。)

 ──

 さて。今現在の段階では、GM やルネサスのような企業はあるか? もちろん、ない。なぜなら、今はリーマンショックの直後のような厳冬期ではないからだ。ここでは「経済環境のせいで倒産しそうな企業」というものはない。とすれば、もともと政府の資金投入で存続させられるべき企業などは存在しないのである。
 とすれば、産業革新機構は、果たすべき役割をすでに果たしたとして、解体されるのが筋だろう。
 ここで、「組織を解体すると、天下り先が減って困る。だから、組織をとりあえず改組しよう。今度は新産業の育成を目的としよう。そうやって、組織の存続をめざそう」というのが、経産省の方針だった。
 しかしそれは、「もともと臨時措置として一時的に創設されたものが、組織の存続自体を目的にして、自己目的化して、血税を浪費する」というのと同然だ。馬鹿げている。比喩で言えば、病気が治ったあとも、病院を維持するために、健康な人を無駄に病院に送るようなものだ。狂気の沙汰だ。

 結局、政府も、社長らも、どちらも間違っているのである。そもそもの話、「産業革新機構」というもの自体が役割を終えたのだから、それを改組して存続させようとは思わずに、あっさり廃止すればいいのだ。それにともなって、JDI も清算すればいいのだ。それが最善だと言えるだろう。



 [ 付記1 ]
 GM の救済が正しかったのは、「もし倒産させると社会的な悪影響が大きいから」である。ここでは、目的は、(投資した人が)「自分の利益を最大化すること」ではなくて、「社会の損失を最小化すること」である。
 対比すれば、こうなる。
  ・ 自己 / 利益の最大化
  ・ 社会 / 損失の最小化

 このように、目的が違う。そもそも、評価軸が違う。南北と東西ぐらい違う。
 ここで、「社会の損失を最小化すること」のために政府資金を投入することは正しいのだが、「自分の利益を最大化すること」のために政府資金を投入することは正しくない。「自分の利益を最大化すること」のためであれば、投資者が自己責任でやるべきだからだ。それはあくまで民間資金でやることであって、政府資金でやることではないのだ。(官民ファンドでもまた同様。)

 なお、今回の社長らは、そこをヌエ的に混ぜた。「自分の利益を最大化すること」のために政府資金を投入しようとした。しかも、その「自分」というのが、社長たちではなかった。民間人が「ハイリスク・ハイリターン」というのならまだわかるが、この社長たちは「成功したら自分たちがハイリターンをもらう。失敗したら損失は政府に丸投げ」というものだった。呆れるしかない。どうしても巨額の報酬がほしいのであれば、「失敗したならば自分たちも巨額の赤字を負担する」というふうにするべきだった。
 なのにこの社長たちは、「成功すれば、おれのおかげ。失敗したら、政府のせい」という、「いいとこ取り」のつまみ食い的な方針を取った。「ふざけるな」と言いたくなるね。
 はっきり言って、JIC そのものが不要な組織であるのだが、それに寄生して金を食いつぶそうとする連中は、むしろ有害だと言える。こういう連中に金を任せれば、「ハイリスクを狙ったあげくの大損失」となるのが関の山だろう。
 
 「巨額の成功報酬を約束すれば、事業の大成功が約束される」
 という思い込みが成立しないのは、ゴーンを見れば明らかなとおり。
 なのに、「金を出せば成功する」と思う人が多いのだから、詐欺師はのさばりつづける。
 浜の真砂は尽きるとも、世に詐欺師の種は尽きまじ。
 
 [ 付記2 ]
 この社長たちが狙っているのは、たぶん「ローリスク・ハイリターン」なのだろう。しかし、そういうことを狙うのであれば、民間のファンドがやるべきだ。政府が出るべきではない。
 政府が出るべきは、むしろ、「ハイリスク・ローリターン」の物件だ。なぜか? そういう物件であれば、民間が手を出さないから、そういう場合にのみ、政府の出番がある。(官民ファンドも同様。)
 ではなぜ、民間が手を出さないような「ハイリスク・ローリターン」の物件を狙うのか? それは、すぐ上に述べた通り。評価軸が違うからだ。「自分の利益の最大化」ではなく、「社会の損失の最小化」を狙うからだ。たとえば、GM の倒産阻止。
 具体的な例で言うと、ルネサスは扱う意義があった。実際に成功した。一方、シャープは、扱う意義がなかった。なぜなら、鴻海(ホンハイ)が出資・買収する意向を示していたからだ。民間が自力で扱うのであれば、政府がいちいち介入する必要はないのだ。
 いずれにせよ、ここでは、「ハイリスク・ローリターン」ということ自体を狙っているのではない。「ハイリスク・ローリターンであっても、社会的な損失を最小化するメリットがある」という物件のみ、介入するべきだ。さっさと倒産させた方がいいようなブラック企業まで扱う必要はさらさらない。
 とにかく、政府が介入するとしたら、その目的は、「ハイリターン」であってはならないし、「新産業の育成」であってもならない。「ハイリターン」が狙いなら、民間ファンドに任せるべきだ。「新産業の育成」が狙いなら、政府の直接投資よりは、別の形を取るべきだ。(下記)

 [ 付記3 ]
 「新産業の育成」が狙いなら、政府の直接投資よりは、別の形を取るべきだろう。具体的には、次のことがある。
 「ベンチャーキャピタルなど、新産業の育成に与する事業を優遇する。減税など」

 このように補助的なことをやって下から支えて上げればいいのだ。政府がやるべきことは、それだけだ。それ以上のこと(政府が直接やること)は、もはや国営事業であって、それは社会主義政策なのだから、全体としては非効率であり、失敗の可能性が高いのだ。
 先の社長たちは、「自分たちがやれば新産業の育成を上手にできる」と思っているのだろうが、本当にそう思うのであれば、民間の金だけでやればいい。政府が金を出す必要はないのだ。
 結局、この社長たちのやっていることは、「出資してください。すごく大儲けできますよ」と言って、金を集めようとする出資詐欺と、ほとんど五十歩百歩である。
 そして、口先だけで「大儲けできますよ。金を出してください」なんて言う連中を決して信じてはいけない、というのは、詐欺師にだまされないための基本なのである。

 ついでに言えば、ビットコインは暴落して、大損した人が続出した。こういうところに金を出した人々は、「大儲けできるだろう」と思ったあげく、大損したわけだ。
 欲の深い連中ほど大損する。そういう教訓を得るべきだ。

 [ 付記4 ]
 ※ 以下は細かい話なので、読まなくてもいい。


 「ベンチャー・キャピタル減税」をやるとしたら、減税の悪用を防ぐ措置も必要だろう。普通の企業の内部事業を形式的に分離して、ベンチャー企業にすると、減税することになりかねない。
 これを阻止するには、「大企業の出資比率が 50%以上の子会社は適用外とする」というような制限が必要となるだろう。
 しかしまあ、そういうことは、細かいことだから、どうでもいい。




 【 関連項目 】
 赤字企業を倒産させるべきか否かは、そのときの経済環境に依拠する……という話を、別項で書いたばかりだ。

  → 赤字企業を存続させるべきか? : nando ブログ (2018年12月09日)

posted by 管理人 at 23:29| Comment(5) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
公金をベンチャー含む新規事業に投資って新産業の育成には該当するかもしれませんが創出ではないような。

新産業創出に求められる人材は銭勘定に長けている人ではなく、正に社会に取って有用で需要のある何かを生み出す、或いはその目利きができる人ではないかと。
Posted by 作業員 at 2018年12月12日 00:59
 最後に [ 付記2 ] [ 付記3 ] [ 付記4 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2018年12月12日 07:58
管理人さんのいうことに全面賛成です。

ただ一つ気になることがあります。
田中社長が記者会見で主張していた
https://www.fnn.jp/posts/00407386CX
「つまり根本的な問題は9月21日に経産省官房長が書面で約束し、
それにもとづいて取締役会が決定した役員報酬をはかる取締役会を無視し、一
方的な都合で白紙撤回する行為、そのことです。
私は官房長に信義にもとる、というのはこのことだということをいいました。
この経産省による信頼関係の毀損行為、これが9名全員の辞任の根本的な原因であります」との主張です。

これは、一般人がわかる例えでいうと、
巨人に移籍した丸選手が、「5年25億円+出来高で契約したけど、
ナベツネに高いと言われたのでやっぱり3年10億にします」と突然契約変更され、怒って退団するのと同じ感じがします。

田中社長に対する同情論もここから来ている気がします

管理人さんは田中社長のこの部分についての主張はどう整理されますか?
Posted by 通りすがり at 2018年12月12日 11:25
 それはまあ、契約上の問題だから、当事者間の問題にすぎない。個人レベルの話は、私の知ったことではないので、言及しません。
 私は国家的利害の面からのみ論じます。

 まあ、感情的に言うなら、政府の方針は稚拙だし、問題があるが、そのくらいのことは、「違約金を払う」というような形で、当事者間で解決するべき問題。他人が口出しをしても仕方ない。
Posted by 管理人 at 2018年12月12日 12:23
経産省から提示されたという実際の書面を見る限り、差出人も書いていないし正式な提案という感じではなさそうですが・・・
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181203003/20181203003-4.pdf
Posted by ちょっと at 2018年12月13日 16:10
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