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なぜなら、空母というものは、もともと攻撃的なものであるからだ。「攻撃的でない空母」というのは、
・ 空を飛ばない小鳥
・ 水中を泳がない魚
・ 歌を歌わない歌手
みたいに、本質的にナンセンスなものだ。
なぜか? 空母というものは、自国から遠く離れた場所で活動するものであるからだ。自国から遠く離れているからには、そこでは防衛的に活動するということはありえない。あくまで敵の支配地(領土など)を攻撃することが目的だ。
このことは、米軍の空母がどこにあるかを見てもわかる。たとえば、太平洋西側(極東)とか、大西洋の東側(欧州・中東・アフリカ)とか、インド洋とか、そういうふうに、米国から遠く離れた海上にある。
一方、北米の大陸沿岸にはない。これは当り前であって、北米の大陸沿岸なら、米国本土の基地から攻撃できるのだから、空母なんかは不要なのだ。(せいぜい空中給油機があれば足りる。空母は不要だ。)
というわけで、空母というものは、本質的に攻撃的なものなのである。攻撃的でない空母なんていうものは、無用の長物でしかない。
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ところが、その馬鹿げたことを主張するのが、政府だ。
・ どうしても空母がほしい。ほしい。ほしいよー。
・ だけど、攻撃型にすると、専守防衛に反する。
・ だから、この空母は攻撃型空母ではないんだ。
こういう自己矛盾みたいなことを言い出す。(駄々っ子がお菓子を欲しがるのに似ている。)
かくて、「攻撃型空母ではない空母」というナンセンスなものを作り出そうとする。
海上自衛隊の「いずも型」護衛艦を改修する事実上の「空母」について、「多用途運用護衛艦」と呼ぶことで一致した。今後、この呼称を使う方向で政府・与党内で調整する。憲法上、「攻撃型空母」は保有できないとされていることから、批判をかわすのが狙いだ。
政府は「攻撃型空母」は自衛のための必要最小限度の範囲を超え、保有は許されないとの見解であることから、整合性を図る呼称について議論したという。
( → いずもは「多用途運用護衛艦」 事実上の空母、批判回避:朝日新聞 )
ここでは、名前を勝手にこねあげているということで、その点が批判されることも多い。(「空母」でなく「護衛艦」と呼ぶ、という点で。)
→ はてなブックマーク
だが、問題は名称ではない。「攻撃型空母」という攻撃性を備えながらも、それを「攻撃型に使わない」ということのナンセンスさだ。
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この空母を、攻撃のために使うのであれば、(政治的な是非は別として)軍事的には意味がある。たとえば、いずもを遠く派遣して、上海や深センを攻撃する(艦載機で爆撃する)というのであれば、軍事的に有効であると思う。いずもがこの目的で派遣されたなら、中国は上海や深センを守るために、多大な軍事力を割かねばならない。その分、中国が日本本土を攻撃する能力は削られる。これはこれで、十分に軍事的効果があることだ。
一方、この空母を、防衛のために使うのであれば、(政治的な是非は別として)軍事的には意味がない。たとえば、日本の領海を守るために、石垣島や宮古島のあたりに派遣するのは、意味がない。なぜなら、この海域には石垣島や宮古島があるのだから、そこに不沈空母(飛行場)を建設して、そこから F35A を飛ばす方が、はるかに有効だからだ。
一方、このあたりに空母を派遣するとしたら、その艦載機は F35B であるから、艦載機であることゆえ、いろいろと性能が低下してしまう。重量は重く、運動性は悪く、航続距離は短く、搭載する爆弾は少ない。多くの点で、性能は低下してしまう。
F-35Bの航続距離はF-35A/Cに比べて約2/3〜3/4と、かなり短くなっている。これは、リフトファンとシャフトが垂直離着陸時や短距離離着陸時にのみ使用されるため、水平飛行の際には単なるデッドウェイトとなること、およびそれらを機体内部に収容する空間を燃料搭載量を削減して確保したことによる。また同様の理由で兵装搭載量も20%ほど低下している。
( → F-35 (戦闘機) - Wikipedia )
さらに決定的に問題となることがある。本土防衛でなく離島防衛のために空母を派遣したのなら、肝心の本土防衛が疎かになってしまうのだ。
空母を石垣島や宮古島のあたりに派遣していたら、一転して、中国は戦闘機を北京から北朝鮮上空を経由して、日本海を横断して、大阪や京都のあたりを爆撃する。そのとき、空母に搭載された F35B が日本に戻って防衛しようとしても、とうてい間に合わない。
要するに、F35 を配備するなら、F35A を本土に配備するのが最善だ。それでこそ、本土防衛の能力は最も高まる。
一方、空母を南西の離島のあたりに派遣するのは、馬鹿げている。そんなことをすれば、本土防衛が疎かになる。お留守になったところを、北方・西方から中国(やロシア)に攻撃されて、日本はあっという間に炎上してしまう。
どうしても空母を配備するなら、空母を攻撃型にして、上海や深センを攻撃するべきだ。それなら、中国は「本土防衛が先決だ。日本を攻撃している余裕はない」ということで、日本への攻撃を弱めて、上海や深センを守ろうとするだろう。このことで、結果的に、日本の本土防衛が実現する。
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というわけで、空母を配備するのなら、攻撃型空母でなくてはならない。なのに、攻撃型空母でない空母(対地ミサイルや爆撃機を持たない空母)なんて、ナンセンスの極みだ。こんな空母に莫大な金をかけても、金をドブに捨てるようなものだろう。(全損ではなくとも半損ぐらいにはなる。)
なのに、政府は F35 の多くを空母に搭載しようとする。
ステルス戦闘機F35について、将来的に 100機程度導入する必要があるとの認識でも一致した。このうち 40機程度は短い距離で離陸できる戦闘機 F35B が占める見通しで、改修された「いずも」での運用を想定している。
( → 同じ記事 )
100機のうち 40機が、空母に搭載されて、本土から遠く離れた海域を防衛する。その分、肝心の本土防衛は疎かになる。
これでは、金が無駄になるだけでなく、日本そのものを失ってしまうことになる。
「空母がほしいよー、ほしいよー」
なんて言っていれば、「空母はもらえるが、日本を失う」というハメになる。愚の骨頂。
( ※ ま、安倍首相の本来の狙いは、空母を中東に派遣して、米軍の艦隊を守ること[集団的防衛権]だ。日本を守ることより、米軍の艦隊を守ることが最優先だ。そういう人だから、本土防衛を疎かにするわけだ。)
【 関連項目 】
本項で述べたとは、前に軽く言及したことがある。
→ 空母は戦艦大和?: Open ブログ
ここでは軽く言及しただけのことを、本項では詳しく論じている。
【 関連動画 】
[ 余談 ]
長崎県の西方に、五島列島というのがある。本土近辺では、ここが実質的な「最西端」と言えそうだ。だから、ここに自衛隊の飛行場を作ってもいい。
五島列島と上海との距離は、たったの 650km でしかない。このことに注意。
「空母を配備するなら、東シナ海の真ん中あたりに空母を浮かせればいい。そうすれば本土防衛ができる」
という発想があるかもしれない。しかし、それは無意味だ。東シナ海の真ん中と、五島列島との距離は、たったの 300km ぐらいしかない。それっぽっちの距離を稼ぐために空母を派遣するというのは、あまりにもナンセンスだ。五島列島に飛行場があれば十分だ。
とにかく、本土防衛のためには、空母というのはナンセンスだ。本土防衛のためには、本土に飛行場があればいい。
空母というのは、あくまで、遠く派遣して、敵地を攻撃するためにあるのである。そのことを忘れてしまっては駄目だ。
なお、五島列島に飛行場を作るとしたら、このあたりが候補地となる。
※ 平坦な土地はないので、海上空港となる……と思ったが、よく調べたら、上記のあたりは十分に候補地になるようだ。
※ ここが駄目なら、そのすぐ北西に海岸線があるので、その海岸線に作るとよさそうだ。ほぼ直線に近いので、土木工事でならすことで、直線にできる。「山を削って、その残土で、浅瀬を埋める」という方式。
艦隊やシーレーンの船団の「護衛」空母としてしか運用できません。
まず、いずも型護衛艦は、
1. 爆撃するための攻撃機を搭載できない。
2. 電子戦の支援機を搭載できない。
「支援機の戦闘機だけを搭載してどうするの?」となります。
中期防は、「必要な場合には、運用が可能となるよう検討の上に」ですから、日本の本気度を示す単なるペーパーに過ぎないのではないでしょうか。
総花的で「そんな金どこにあるの?」ですから、全部を実現させるとは思わないことです。
基地もあればいいですが、空母があれば攻撃前に航空戦力を退避させることができます。
反論お願いします。
基地は一つだけじゃないんだから、あちこちの島にいっぱい基地を作っておけば、それらを同時多発でいっせいに攻撃することは困難です。
そもそも、来る前に探知されて(※)、撃退されるでしょう。まったく検知されないステルス空母やステルス戦艦なんて存在しないんだから。しいて言えば潜水艦だが、潜水艦の攻撃力は限定的だ。
※ 潜水艦は別として、海上を進む艦船は、偵察衛星ですぐに探知されてしまいます。
→ https://news.mynavi.jp/article/military_it-124/
だいいち、基地があっても攻撃されてアウトなら、沖縄にある基地もアウトだし、日本の本土にある基地もアウトです。何のためにこれらの基地があるの?
さらに言えば、離島が攻撃されてアウトなら、空母だって攻撃されてアウトです。
なお、基地は、空港として空母代わりに使えばいい。仮に一時的に占拠されても、ミサイルや爆撃で敵を壊滅させたあとで、滑走路を再使用すればいい。それで空母の代わりになる。
> 空母があれば攻撃前に航空戦力を退避させることができます。
空母は潜水艦に弱いので、こちらにヘリ空母がなければ、相手の潜水艦に一発で撃沈されてしまいます。航空戦力を退避させることはできても、空母なんて、あってもなくても大差なし。
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そばに離島がある限り、離島の方が空母よりも有利です。不沈空母なんだから。空母が不沈空母よりも優れているわけがない。
空母が有効なのは、日本の離島がない遠隔地(中東や東南アジアなど)まで、はるばる出向くときだけです。本文に書いてある通り。
攻める側、中国やロシアの側から見た場合、離島に基地があれば、攻撃目標は明確です。
複数の離島がある場合でも位置は変わらないので。
しかし空母が複数あり、常に移動しているとなると、攻撃はより困難になります。
空母は移動できるので、敵国近くまで移動しての攻撃も可能です。
複数の基地vs複数の空母、という比較です。
予算的に両方は無理とします。
結論は出ないでしょうが、日本の状況では複数空母の方がいいと思います。
> 攻撃目標は明確です。
陸上基地は、攻撃されても大丈夫、という点が大違い。不沈空母なんだから。
いったん奪取されても、こちらから攻撃することで、再奪取できる。
なお、最初はそこに兵器を置く必要はない。滑走路があるだけで十分だ。離着基地として使うだけでOK。
敵としても、そんなものを攻撃する価値はない。だから、そこが攻撃される可能性も少ない。