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これを言い換えれば、「日産は金の支払いを拒否をできるか?」ということだ。これは簡単なようでいて、簡単でなくなってきた。
前項では、これは簡単に片付けていた。「報酬ならば契約を解除できない」と。
→ ゴーンの不正の問題点 2: Open ブログ
ところが、である。ゴーン(およびケリー)自身が、これを報酬ではないと言い張っている。
ゴーン前会長が容疑を否認していることが25日、関係者への取材でわかった。側近の前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)も、役員報酬を「適切に処理した」と説明している。
関係者によると、ゴーン前会長の報酬は、実際には年約20億円だったのに、報告書への記載は約10億円にとどめる一方、差額の約10億円は別の名目で毎年蓄積し、退任後に受け取る仕組みになっていた。差額の約10億円分については毎年、退任後の受領を明記した文書を作成していたという。
この差額の報酬について特捜部は、将来の受け取りが確定した報酬として開示義務があると判断したとみられる。これに対し、ケリー前代表取締役側は、取締役の職を解かれた後に受け取る予定のお金は役員報酬に当たらず、開示義務の対象にならないと主張することを検討するとみられる。
また役員報酬についてケリー前代表取締役は「外部の弁護士や会計士にも相談して適法と判断した」と周囲に説明。問題がないとする外部の弁護士などの書面も残されているとみられる。
( → ゴーン前会長、容疑を否認 側近も「適切」 報酬過少記載:朝日新聞 2018-11-26 )
文中にあるように、「役員報酬に当たらず」ということであるから、役員報酬ではないということになる。
とすれば、これは現在の職務とは無関係に発生するものであるから、開示義務の対象外となり、ゴーンは無罪だ、ということになる。(ゴーン側の言い分通り。)
しかし同時に、別のことが発生する。これが現在の職務とは無関係に発生するものであるなら、日産自動車側は、この契約を解除できるはずだ。解除にともなって、違約金の発生がいくらか発生するとしても、巨額の契約そのものを破棄できるはずだ。
記事によれば、ゴーンが受け取れるのは、8年で80億円。これは、時効にならないような8年間の分だけだ。(法律では5年だが、海外在住期間は時効から除かれるので、8年となる。)
( ※ ただし違約金として 10億円ぐらいは払う必要があるかも。)
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というわけで、こうなったら、ゴーンはジレンマに立たされる。
・ 無罪を主張すれば、80億円を受け取れなくなる。
・ 80億円を受け取ろうとすれば、有罪となる。
それというのも、この「毎年 10億円」というのが、現在の職務の報酬に当たるかどうか、ということによるからだ。現在の職務の報酬に当たるにせよ、当たらないにせよ、「無罪」と「80億円」の、どちらかは手に入らないことになるのだ。
その意味でも、日産は契約解除を通知するべきだ。現状では、日産が契約解除を申し入れていないから、ゴーンの側は平気で「報酬ではない」と言い張れる。しかし、日産が契約解除を申し入れたら、「報酬ではない」と言い張れなくなる。もし「報酬ではない」と言い張ったなら、契約解除を受け入れるしかないからだ。
無罪になるか。80億円を捨てるか。究極の選択だ。どっちがいい?
常識的に言うなら、実刑で懲役3年を受け入れても、80億円をもらう方がいいですよね。となると、ゴーンが有罪になる可能性は高まる。
日産としても、自社の正当性を示すためにも、ゴーンに有罪性を認めさせた方がいい。そのためには、契約解除を通知するべきだ。それによって、ジレンマに追い込め。
【 関連動画 】
違法行為をしているという認識はなかったようだ。つまり、「うまいことやっている」「見事に法律の裏をかいた」「法律の穴を突いた」というふうに思っているらしい。
【 追記・訂正 】
文中では 「15年分、150億円」と記したが、実は8年分、80億円だけ」であるらしい。裏で捻出する仕組みを始めたのは、2010年以降であるようだ。というのも、有価証券報告書に記載する新制度が創設されたのが 2010年であるからだ。
関係者によると、ゴーン容疑者は従来、年約二十億円の報酬を得ていたとされるが、二〇一〇年三月期から年一億円以上の報酬があった上場企業の役員は、金額を有価証券報告書に記載する新制度が創設された。それを機に、ケリー容疑者に有価証券報告書への記載は年十億円程度にとどめ、別枠で年約十億円をプールし、退任後に受け取れる仕組みをつくるよう指示したという。
( → 東京新聞:報酬10億円記載「ゴーン氏が決定」 ケリー容疑者説明:社会(TOKYO Web) 2018年11月26日 夕刊 )
なお、この記事には、次の記述もある。
ケリー容疑者が逮捕後、周辺に説明したところによると、一〇年三月期からゴーン容疑者の報酬を十億円程度にとどめるようにしたのは「ゴーン容疑者の指示」だったという。一方、周囲には「ゴーン氏が退任後に受け取る報酬は確定しておらず、有価証券報告書に記載する必要がないため記載しなかった」とも説明、容疑を否定しているという。
確定していないのであれば、取り消し可能であるはずだ。だったら日産は、80億円の支払いを解除できるはずだ。(ゴーン自身がそれを主張している。)
というわけで、日産は契約解除を申し込む方がいい。ゴーンとしては、それを受け入れるしかないだろう。
そうなったら、ゴーンとしては、
・ 80億円は受け取れない
・ 違法行為をしていたので有罪だが、情状酌量で執行猶予
というふうになりそうだ。このへんが落としどころかな。
※ 150億円から80億円へと、文中の記述を変更・取り消ししました。(改変済み)
※ 150億円から80億円へと、文中の記述を変更・取り消ししました。
会社法上、退職慰労金なども報酬の後払的性質を持っているとして、「報酬等」に含まれるとされています。
本当に弁護士に確認とったのですかね。
また、報酬でないと言い張るのであれば、取締役に対する金銭の給付は、その名目がなんであれ少なくとも利益相反取引に該当しますので取締役会の決議が必要ですね。
まだまだ問題ありそうですがとりあえず。
まさか。確定していますよ。あらゆる契約書は、すでに確定しています。判子を押して署名をしてあるんだから。確定していないはずがない。
もちろん、何もしなければ(放置すれば)、そのまま契約は有効となります。
そもそも、確定しているからこそ、確定しているものを変更しようとしているんです。双方の合意があれば変更できます。
合意がなければ、一方が契約破棄できますが、その場合は違約金の支払いが必要です。過去の業務の報酬に対してなら、ほぼ全額。未来の業務の報酬に対してなら、はるかに少額。
※ すでになした業務への支払いは取り消せないが、まだなしていない業務への支払いは取り消せる。キャンセル料ですね。
ついでですが、どんな契約だって、「契約解除を申し込む」ことだけなら、できますよ。有効かどうかはともかく、申し込むだけなら、ただの言葉だから、いくらでも申し込める。
似た例で言えば、(凡人が)新垣結衣に結婚を申し込むことだって、できないわけじゃない。断られるだろうけど。申し込むだけなら、何とか可能だ。