2018年11月25日

◆ ゴーンの不正の問題点 2

 日産のゴーンの不正の問題は、続報ふうの報道が出てきた。そこで、さらに考えてみる。

 ──

 (1) まだ受け取っていない


 年収 10億円なのに倍額の 20億円を受け取っていた……と報道されていたが、実は、まだ受け取っていないそうだ。残りの 10億円は、退職後に、別の名分(顧問料などの名分)で受け取る手筈だったという。
 ゴーン前会長が退任後に報酬を受け取る契約書を日産と交わし、毎年約10億円、5年度分で約50億円が積み立てられていたことがわかった。東京地検特捜部はこの契約書を押収。将来の支払いが確定した報酬として開示義務があり、事実上の隠蔽工作と判断した模様だ。
( → 退任後の報酬50億円隠蔽か 日産、ゴーン容疑者と契約:朝日新聞 2018-11-24
 退任後の報酬のためにゴーン前会長と日産が毎年交わしていた契約書には、報酬総額を約20億円と明記したうえで、開示してその年に受け取る約10億円と退任後に受け取る約10億円を分けて記載していたことも判明。前会長の直筆のサインもあった。
( → ケリー容疑者、隠蔽を主導の疑い ゴーン容疑者の報酬:朝日新聞 2018-11-25

 まだ受け取っていないわけだ。
 すると、疑問が生じる。「だったら支払いを取り消せるか?」ということだ。
 契約書に明記してある以上は、取り消しは不可能だと思える。きちんと仕事をしていて、その報酬となるのだから、「背任」というわけでもなく、正当な報酬だ。この報酬を取り消すことは、ちょっと不可能だと思える。

 ただし、仕事をしていない姉に払った分や、子会社を通じて自宅の家賃を払わせた分もある。これは問題だ。どうなる? 
 これは、「横領」というふうに見なせなくもないが、しかしそれだと刑法犯になるから、それもちょっと厳しい。常識的には、「経理の処理を偽った脱税」と見なすべきだろう。
 いずれにせよ、報酬は払わざるをえないだろう。将来の分は、取り消せないだろう。すでに払った分も、取り消せないだろう。
 以上が私の判定だ。(異論もありそうだが。)

 (2) 違法性


 違法性はどうか? 「まだ受け取っていない」ということから、「違法性はない」という見解がある。理由は、
 「これはただの約束であって、未確定であるから、すでに支払われた報酬とは違う」
 ということだ。

 このことは、次のページに見られる。
  → ゴーン氏事件についての“衝撃の事実” 〜“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった(郷原信郎)

 だが、これは成立しないだろう。なぜなら、すぐ上の (1) で述べられたように、将来的な支払いは不可避だからだ。現実にはまだ支払われていないとしても、「支払う必要がある金」である以上は、支払う時期が違うだけであって、支払うこと自体は避けがたいからだ。
 このように「時期だけをずらす」という形のものは、「隠蔽を意図した悪質な所得隠し」と見なすのが、税の実務での扱い方だろう。
  ※ 税の実務では、形式的な合法性は無視され、実質的な違法性だけを見て、「こいつは脱税だ」というふうに判定されるのが普通だ。


 なお、支払う時期をきちんと明文化して明示しておけば、この問題は生じない。たとえば、イチローとマリナーズの契約には、このような「あとで払う」という形の契約があり、世間にも公表されている。こういう形であれば、「所得の平準化による節税」にはなるが、「意図的な所得隠し」ではないから、違法とはならない。(合法的な節税だ。)
 一方、ゴーンの場合には、支払う契約そのものを隠蔽していたのであるから、「意図的な所得隠し」と見なされるし、その分、違法性は高まる。特に、(あとで税金を払えば)脱税にはならないだろうが、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)にはなりそうだ。

 なお、ゴーン自身は、その意図を否定している。
 ゴーン容疑者(64)が、東京地検特捜部の調べに対し、自らの報酬を有価証券報告書に少なく記載する意図はなかったなどとして容疑を否認している。NHKが関係者への取材で分かったと25日午後報じた。
( → 日産ゴーン前会長が容疑否認、有価証券報告書の虚偽記載ー報道 - Bloomberg

 とはいえ、これは弁解にならない。なぜなら、ゴーンは「有価証券報告書に少なく記載する意図はなかった」と語るだけで、「所得を少なく見せかける意図はなかった」とは語っていないからだ。要するに、「有価証券報告書のことなんか考えてもいなかった」というだけだ。これでは弁解にならない。「所得を少なく見せかける意図はあった」ということを否定できていないからだ。

 ※ なお、仮に法的には違法ではないとしても、それが隠蔽されていたという点で、会社や株主にとって不正であったことは明らかだ。たとえ法的には罰されなくとも、日産からは解任されて当然だろう。

 ※ ゴーンとしては、同じことをするにしても、それを公開しておくべきだった。その場合、支払時期は退職後でいいが、有価証券報告書への記載はきちんとやっておくべきだった。また、未払分の引当金も計上しておくべきだった。それならば、逮捕されることはなかっただろう。(ただの節税で済んだだろう。)


 一方、上のページとほぼ同趣旨で、次のページもある。
  → 「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘(細野 祐二)

 後者のページでは、これを SAR という概念で説明している。
日産自動車は、2003年6月の株主総会で、役員報酬としてストック・アプリシエーション権(SAR)と呼ばれる株価連動型インセンティブ受領権の導入を決定し、ゴーン前会長は2011年3月期以降、合計40億円分のSARを得ながら、その報酬額が有価証券報告書に記載されていないこと
 次に、40億円のSRSについて検討すると、SRSはストック・オプションとは異なり、基準株価からの上昇分相当額が現金として支払われる。ならば、本件SRSは、複式簿記原理に従い、必ず費用処理されていたに違いなく、それが損益計算書に計上されていたこともまた疑いの余地がない。
 問題は費用処理の勘定科目が役員報酬となっていたかどうかで、この時代のSRSは税務上損金算入が認められていなかったので、役員報酬ではなく「交際費」と処理された可能性が高く、そうであれば、交際費でも役員報酬として開示しなければならないというヤヤコシイ会計基準を、ゴーン社長が認識していたかどうかにある(ゴーン前会長が日本の連結財務諸表規則や開示内閣府令などを知っているはずがない)。

 SAR を SRS と誤記していることからして、この人の知識もあやふやなものだとわかるが、説明もあやふやだ。
 「役員報酬ではなく「交際費」と処理された可能性が高く」
 ということだが、そんなはずがないでしょ。実際には支払われていないのだから、何も計上されていないはずだ。その金は、支払いが実行されるまでは、あくまで日産の利益のような扱いになっているはずだ。(そして将来的に支払われたときに、損金のような扱いとなる。)

 どうも、この人、会計のことがよくわかっていないようだ。自分のことを「会計人」と称しているが、「公認会計士」とは称していない。そこで経歴を調べてみたら、こうだ。
 早稲田大学政経学部卒業。82年3月、公認会計士登録。2004年3月、有価証券報告書虚偽記載事件で逮捕・起訴。2010年、最高裁で上告棄却。懲役2年、執行猶予4年の刑が確定。公認会計士登録抹消。
( → 細野 祐二 Yuji Hosono | プロフィール

 有価証券報告書虚偽記載で服役した人物だ。同じ穴のムジナと言える犯罪者。こんな人物のデタラメ見解を掲載するメディアも どうかしているな。

 (3) 目標の未達


 ゴーン社長は、巨額の報酬をもらうに値する仕事をしたか? 就任当初の5年間なら、まさしくそれだけの仕事をしたと言える。
 では、近年は? 経営はよろしくない、というのが私の判定だ。先に述べたとおり。
  → 日産が駄目になったわけ: Open ブログ
  → 日産自動車の没落: Open ブログ

 私の認定を除いても、客観的なデータもある。
 ……世界的な自動車グループに育てた手腕への評価も高かった。
 だが、16年度まで6年間の中期経営計画「パワー88」で掲げた世界シェア8%と営業利益率8%の必達目標は、いずれも未達。量産型の電気自動車(EV)として世界で初めて10年に発売した「リーフ」も計画通りには売れていない。「ゴーン流」の経営手法には近年、陰りも見えていた。
( → ゴーン日産の19年、終幕 大規模リストラ、V字回復達成

 目標は未達だったのだ。
 一方、ゴーンは「結果にコミットする」ということを強く語っていた。正確に言えば、「結果にコミットする」というのはライザップの CM の文句であり、ゴーンは「コミットメント」という語を使っていた。
  → ゴーン コミットメント - Google 検索

 ゴーンは部下に対して「コミットメント」という語とともに、結果に責任をもつことを求めた。
 ところが、上の朝日の記事にあるように、世界シェア8%と営業利益率8%の必達目標を掲げながら、いずれも未達となったのだ。
 これを見れば、巨額の報酬をもらう権利などはない、とわかる。それどころか、解任・降格されてもいいぐらいだ。
( ※ 部下に対しては厳しい要求をしたのだから、当然だ。)

 (4) 合併するはずだった?


 報道では、別の話も出ている。Financial Times のページでは、ゴーンがルノーと日産の合併を計画していた、と報道されている。
 Carlos Ghosn had been planning a merger between Renault and Nissan before his arrest in Tokyo this week, a deal that the Japanese carmaker’s board opposed and was looking for ways to block.

 カルロス・ゴーンは今週東京で逮捕される前にルノーと日産の合併を計画していたが、日本の自動車メーカーの取締役会はそれに反対してブロックする方法を模索していた
( → Carlos Ghosn was planning Nissan-Renault merger before arrest

 これは本当だろうか? 本当だとすれば、大変なことだ。これが事実なら、日産自動車の側が何としても阻止したがっていたはずだ。
 なぜか? 合併というのは、親会社による「吸収合併」という形になるので、「日産がルノーの完全子会社になる」ということを意味するからだ。これでは、現在のような独立性は望めないし、「日産の方が実質的には兄貴分」という立場も崩壊してしまう。

 だが、それゆえ、これは実現性がない、と私は判定する。もしそう使用とすれば、日産は抵抗して、ルノーの株を 25%以上買うことで、ルノーの支配を無効化するはずだ。
  → ゴーンの不正の問題点は?: Open ブログ の (3)

 これにゴーンが反対することはできない。ゴーンは独裁者ではないし、せいぜい会長の権限しかないのだから、社長や取締役による取締役会の議決を左右することはできないからだ。無理にゴリ押しすれば、ゴーン自身が解任されるだけだ。
 
 というわけで、「ゴーンによるルノーと日産の合併」というのは、実現性がない、と判定する。
 これはたぶん、仏大統領が要請して、ゴーンが適当に請け合っただけで、現実には実現しない話だろう。ゴーンとしては、安請け合いをしただけで、「どうせマクロンなんかそのうち辞任するさ」とでも思っているのだろう。「安請け合いをしたって、合併なんかには何年もかかるんだから、それが日程に上るころには、マクロンはもういないさ」というわけだ。
 そういうふうに、マクロンの辞任を想定していたのだろう。(と思ったら、自分が解任される羽目になったのだが。)





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 【 関連項目 】

 前回記事。
  → ゴーンの不正の問題点は?: Open ブログ
posted by 管理人 at 23:59 | Comment(3) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
役員退職慰労金は取締役会と株主総会での決議事項で、それを法人税法上損金算入を認めるかは議論の余地はあろうかと思いますが、会計上毎年計上されて然るべきでは?
されていたのかされていなかったのかは知りませんが、されていなかったから逮捕されたのでしょう
Posted by かーくん at 2018年11月27日 07:40
仮に例えば役員退職慰労金とならないようにコンサルタント料として毎年支払手数料の項目に計上し、未払金としてBS計上していたとしたら当年度の所得として所得税を払わなければならないでしょう
また、別の問題として内部統制上○億円を超える支払いの決議は都度取締役会やら経営会議の決議事項として定められているはずですが、その決議は為されていたのかという問題がありますね。

まあ、役員退職慰労金なり、支払手数料なりにしてたのかは分かりませんが、取締役会やら株主総会での決議をされていない契約は有効か?は弁護士やら会計士がどういうアドバイスをしたのかは分かりませんが、特別背任罪として支払う必要があるか議論の余地があるでしょう
Posted by かーくん at 2018年11月27日 08:00
日本の企業は、賃上げができない時あるいは工場閉鎖をせざるを得ない時、管理職も一緒になって泣きました。
俺たちも苦しむ。みんな一緒だ。どうか堪えてくれ・・
その典型が出光です。
百田の「海賊と呼ばれた男」を読めばわかります。

ゴーンの日産は違いました。
工場を閉鎖しそこに働く人を泣かせておいて、管理職の給料は上げました。
いうまでもなく自分もです。
管理職は労働者とともにあるのではない。
工場労働者を道具として使う立場にある。
まずそれを学べ!

管理職は一緒に苦しんだ今まで違って、自分たちは逆に給料が上がって
労働者を自分たちが生き残るための道具と見る目が生まれました。
つまり日本に、欧米と同様の人間の「階級」を持ち込んだのです。
これが、ゴーンが日本でやったことです。
Posted by sm at 2018年11月28日 20:14
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