2018年11月10日

◆ 金の輸出入の不正取引

 金の輸出入の不正取引で国の金を盗み取っている……という密輸業者が野放しになっている。

 ──

 これは本日の朝日新聞の記事。1面トップ。
 日本に密輸された金の多くが、大手商社経由で輸出されていた実態があることが財務省の調べで分かった。金の密輸は、輸入時に支払いを不正に逃れた消費税分だけ密輸業者に利益が入るため、2014年の消費増税以降に急増した。
 金を輸入する場合は本来、税関に申告し、消費税を納める必要がある。しかし、密輸業者は消費税がない香港などから金を買って日本の税関に申告せずに密輸し、買い取り業者に消費税込みの値段で売って利益を上げている。
 財務省の調べでは、金は買い取り業者から大手商社数社に転売され、国外に輸出されているという。
 商社は金の輸出額に応じ、消費税分の還付を受けられるため、買い取り業者から消費税込みの値段で買っても損はしない。

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( → 密輸の金、商社経由し海外へ 国の損害、年640億円か:朝日新聞 2018-11-10

 これは「消費税の還付」を悪用した手口。輸出品には消費税が課せられないので、すでに納入した分の消費税を輸出業者が還付してもらう。ところが密輸入したものはもともと消費税がかかっていない。消費税を払っていないのに「払いました」と嘘をついて、払ってもいない消費税の分を還付してもらうわけだ。
 ただし実際に還付してもらうのは大手商社。その分を込みにして大手商社は金を払うから、金が流れ回って、結局は密輸入した業者が消費税分を懐に入れることになる。
 以上が原理だ。

 ──

 この問題点は、二つある。

 (1) インボイスを使っていれば、この問題は起こらない。(輸入した業者が正確にわかるので、輸入した業者が消費税を払っていなければバレる。)
 インボイスを使いもしないで消費税の還付を行う……という制度設計がおかしい。そういう根源的・原理的な問題がある。インボイスを使わない場合には消費税の還付はするべきではないのだ。特に、貴金属類ではそうだ。(密輸しやすいし、現金のかわりに使えるからだ。その点では、一般の工業製品とは違う。)

 (2) そもそも日本が金の輸出をする理由がない。日本は金の(大量の)産出国ではないからだ。日本全体では金の純輸入国なのだから、金の輸出は一切禁止しても問題はないはずだ。(売りたければ国内で売れば済む。)
 ところが貿易統計上では、日本は大幅な金の輸出国である。


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 これは、差にあたる量が大幅に密輸入されている、ということだ。(実際には国内消費分もあるから、さらに多くが密輸入されていることになる。)
 これほどにもはっきりと密輸入が判明しているのだから、金の輸出は一切禁止した方がいいだろう。
 あるいは、「金の輸出税」をかけて、消費税分(10%)を徴収する。これで「消費税の還付」は意味を持たなくなるから、密輸入による不正も激減するだろう。
 あるいは、直接的に、「金や貴金属類については、輸出時に消費税の還付をしない」と決めてもいいだろう。そもそも「輸出品には消費税をかけない」というのは、一種の輸出促進税制なのだから、そんなものは廃止してしまっても構わないのだ。
 特に、工業製品ではなくて貴金属類についてはそうだ。輸出を促進するための理由はなく、密輸入による不正ばかりが巨大にある。ならば、こんな制度(輸出時の還付)は、やめてしまった方がいいのだ。少なくとも、貴金属については。……これが、根源的対策だろう。

 ──

 財務省は、軽減税率のように馬鹿げた制度を導入するのに熱心だが、そんなことより、「貴金属類についての消費税の還付」という馬鹿げた制度を廃止する方がいい。そうすれば、悪質業者による「税泥棒」を阻止できる。
 今回の問題は、悪質業者の制度悪用を放置している、政府のザル的な制度が問題となっている。穴を利用した「税泥棒」が蔓延しているからには、さっさと穴をふさぐべきだ。

 前項のクレカの不正利用の問題でもそうだが、日本では悪人による不正がのさばりすぎている。きちんと制度上で対処するべきだ。
 


 [ 付記1 ]
 はてなブックマークの意見では、
 「大手商社の名前を出さないのはけしからん」
 という意見もあるし、
 「大手商社は悪くはない」
 という意見もある。
 一方で、記事本文には、「本年5月以降は買い取り業者からの金の購入を全面的に停止している」と回答した社もある。

 これをどう評価すべきか? 
 原理的には、商社自身が密輸入しているわけではないから、商社には法的な責任はない。
 しかし、密輸入した業者から(不正な)金を安価で買うことで商社自身が「汚い取引をすることの不正利得」を得ていることになる。グル(共同謀議)をしているわけではないのだが、「汚いことだとわかっていて手を染めることで不正な金を得ている」わけだから、道義的には「暗黙裏の共犯」みたいなものだと見なされて、批判されて当然だ。
 とはいえ、批判されるぐらいが関の山であって、逮捕されるようなことではない。

 この問題の最大の核心は、制度が不全だということだ。だから、責められるべきは、商社よりも、問題を放置する政府だろう。金を盗まれているとわかっていて、玄関を開けっ放しにするようなものだ。
 「おれたち公務員が損するわけじゃない。損するのは国民だから、おれたちの知ったこっちゃない」
 というわけ。こういうふうに問題を放置する財務省が、一番悪い。
 


 ※ 以下は細かな話。読まなくてもいい。


 [ 補足1 ]
 金の輸出をする正当な取引はあるか?
 通常は、現金を持ち出せば済むのだから、金の輸出をする理由はない。
 あるとしたら、現金を持ち出したくない場合だ。となると、それは、マネーロンダリングをしたい場合だ。これもはやり不正な取引ですね。全廃して構わないだろう。

 [ 補足2 ]
 強いて言えば、正当な取引として、「金の装飾品・美術品の輸出」が考えられる。金自体ではなくて、金を加工した装飾品・美術品ならば、付加価値が付いていて、輸出する意味もある。
 ただしこの場合も、金地金に相当する分については「金の輸出税」(10%)を加算すれば、問題は回避できる。
 例。金の仏像があって、時価は1億円。ただしその重さの金地金は 6000万円。この場合は、6000万円についてのみ 輸出税が課せられる。(または消費税の還付なしという形でもいい。)一方、4000万円の分(付加価値の分)については、消費税の還付を受けられる。ただし、インボイスの利用を義務づけた方がいい。



 【 関連サイト 】

 この手口は、以前から知られていたはずだ……と思って調べたら、2016年1月の報道が見つかった。消費税分のサヤを取るために密輸入する、という話。今回と同じ手口だ。
  → さすが、税関の人はスルドイ! | 貿易よもやま話

 さらにこれを大々的に特集した NHK の番組があった。(2017年5月23日)
  → 金塊 闇の“錬金術”〜私たちの税金が奪われる〜 - NHK クローズアップ現代+
 日本の税制度を悪用した錬金術。
組織が日本を狙う理由は、もし摘発されたとしても比較的処罰が軽いからだという。
1億円の金塊の密輸が摘発された場合、韓国では金塊は必ず没収され、最大1億円の罰金が科されることもある。
一方、日本では金塊が没収されるとはかぎらず、罰金も最大で1,000万円にとどまる。

密輸組織の元幹部
“そもそも日本の税関は観光客だと思い込んでいるのでチェックが甘い。もし見つかったとしても金塊はあとあと取り返せる。日本は処罰がなまぬるいんだ。”

 日本の制度的な甘さが、当の犯罪者に指摘されている。それでも放置するんだから、馬鹿丸出しというしかないね。
 
posted by 管理人 at 11:46| Comment(5) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一応、増税4年後の2023年にインボイス導入は決まっているのですが、それまで放置なのも困りますね。
Posted by ルート at 2018年11月10日 12:09
 最後に 【 関連サイト 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年11月10日 13:16
200万円以上、すなわち今は500g以上ならば、買取業者は”支払調書を税務署に提出”になっています。このあたり、買取業者や密輸業者はどのように立ち回っているのでしょうね?税務署はどうしているのでしょうね?
Posted by さくら at 2018年11月15日 14:52
> by さくら

 199万円ずつ、小分けにしているんでしょう。
Posted by 管理人 at 2018年11月15日 18:49
切り刻んで小分けにするにしても、1日の取引額のはずでし、再生地金価格になってしまう。

密輸業者には譲渡益課税があるはずなので、税務署の怠慢か、密輸業者の逃れ方のうまさしか考えられない。

個人が持つ1KG地金の場合、譲渡益課税を逃れて親族等に譲渡するためでしょう100g地金に分割する業者はありますが。

Posted by さくら at 2018年11月16日 14:50
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