2018年11月02日

◆ 選択と集中の是非

 「選択と集中」をやった GE は、没落した。では、GE はどうするべきだったか?

 ──

 先に「選択と集中の GE は?」という項目を書いた。ここでは、
 「選択と集中」の元祖である GE は どうなったか? 今や没落企業である。

 という話を書いた。
 ただし、注意。ここでは、「 GE はどうだったか?」ということがテーマなのではない。「選択と集中の是非は?」ということがテーマだった。
 つまり、研究や国語改革で文科省が「選択と集中」という方針を取っているので、「選択と集中の元祖である GE は没落した」という強力な反例を呈示することで、「選択と集中という方針は常に正しいわけではない」ということを示したわけだ。
 そこでのテーマはあくまで「選択と集中」という一般概念だった。

 これに対して、「では GE はどうするべきだったか?」という質問が来た。この質問は、これまでに述べたこととはまったく別の話なので、本項であらためて考察する。

 ── 

 いきなり結論を言えば、次のように言える。
 「選択と集中」というのは、業界トップで利益率の高い分野に集中する、ということだ。逆に言えば、業界で3番手や4番手ぐらいの分野では、とうてい高い利益率を見込めないので、そんな分野はさっさと切り捨てて、それを売却した資金を、より優位な分野に転用する……ということだ。

 これは、基本的には、間違ったことではない。ただしそこには、次の二点が条件となる。
  ・ 集中するべき分野自身が、成長性を見込める。
  ・ 金利は高い。(だから融資を受けるより、自己資金を得る。)

 この二点が見込める場合には、「選択と集中」は正しい。実際、ウェルチが指導した 1980年代から1990年代末のころには、上記の二点は成立していたし、それゆえ「選択と集中」は正しかった。

 しかるに、その後、上記の二点は成立しなくなった。
  ・ 火力発電は産業自体が衰退していった。
  ・ 金利はとても低くなった。

 つまり、「選択と集中」の前提が成立しなくなった。

 さらに、その上に、「選択」の分野を間違えた。
 まず、切り捨てた分野が、もったいなかった。
 特に、家電部門がそうだ。なるほど、白物家電やテレビなどは、日本や韓国や台湾に対抗できそうにない。しかし、電子部門をかかえているからには、周辺的な分野に進出することもできたはずだ。
  ・ IT機器の生産財や素材
  ・ 自動車の部品や組み込み装置

 家電の会社を変革することで、これらの分野に進出していれば、十分な成長は望めたはずだ。たとえば、サムスンや、富士フイルムや、パナソニックのように。
 一方、メディア部門は、売却が正解だっただろう。これについては、問題ない。
 金融部門はどうか? これは、判断が分かれる。現実には、金融部門は大赤字を出した。
  → 米GE:赤字1兆円超 傘下の保険事業で損失処理 - 毎日新聞
 しかしその原因は、リーマンショック時の膨大な赤字である。
  → GEキャピタルは2008年のリーマンショックで瀕死となり( Wikipedia )
 一方で、日本のソニーの場合には、保険分野に進出して、大きな成長率と莫大な利益を稼ぎ出すようになった。今のソニーという会社は、中核事業が保険なのである。数年前には、家電などのハード部門では赤字を出して、保険などだけで黒字を出しているというありさまだった。GE だって、まともに経営していれば、保険分野では大赤字どころか莫大な黒字を出せたはずなのだ。(ソニーみたいにやっていれば。)

 切り捨てた分野がもったいなかった、ということのほかに、「投資するべき分野に進出しなかった」ということも挙げられる。先の家電の例でも示したが、「本来の事業の周辺的な分野に進出する」というのが、最も成功しやすいのだ。特に、その分野が、急成長を見込める分野であれば、なおさらだ。
 この点、GE は完全に失敗した。「既存の分野でトップを占める」という守りの方針ばかりを取った。「今後は急拡大が望める新規産業に進出する」という攻めの方針を取らなかった。方針があまりにも保守的だったのである。そのせいで、IT時代の激変の波に乗り損ねてしまった。ほとんど「時代から取り残される」という感じである。本来ならば、家電という最も有利な位置を占めていたのに、その位置をみすみす捨ててしまったから、ITという急成長を見込める分野に乗り遅れてしまった。そこに進出したのは、80年代にはごくちっぽけな企業であった新興企業ばかりだった。

 ──

 以上を見れば、「選択と集中」という方針が基本的には不十分であることがわかるだろう。
 それは「守りの経営」としては優れているのだが、「攻めの経営」としては最悪なのである。そのせいで、IT分野のような世界的な大変革に乗り遅れてしまった。

 この分野で最も成功した事例は、韓国のサムスンだろう。GE はサムスンのような経営方針を取るべきだった。そして、サムスンがやったことは、「選択と集中」とは大きく異なるものだった。

 そういうところにも目を向けないと、日本の研究開発や教育改革は、いつまでたっても時代遅れのトンチンカンなものとなり続けるだろう。



 [ 付記 ]
 「ではサムスンの経営とは?」
 というのは、話がまた別になるので、ここでは扱わない。
 一つだけ言えば、
 「人件費を徹底的に切り詰める」
 というのとは正反対の、高賃金経営であった、と言える。これによって、優秀なエリートを国中から掻き集めた。

 これと似たことをやっているのは、日本の自動車産業だ。自動車産業の給与水準は、工業系では最も高い。そのせいで、優秀な技術者をいっぱい集めている。
 自動車会社には入れなかったような人が、給料の安い家電会社に入ったようだ。
 電気系でも、優秀な人は、ソニーかキヤノンに入った。いずれも高給与。そこに入れなかった二番手の人々が、家電各社に入った。で、そういう(賃金の安い)会社は、すべて没落した。

posted by 管理人 at 23:55| Comment(7) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>「選択と集中」というのは、業界トップで利益率の高い分野に集中する、ということだ。......それを売却した資金を、より優位な分野に転用する

それは正しくその通りなんですが、資源を新たに振り向けた分野で業界トップであることが求められ、それはそれで困難なことだなぁ、と。

・ IT機器の生産財や素材
・ 自動車の部品や組み込み装置

を挙げられていますが、GEが新規参入でアプライド・マテリアルズや当時のHPと伍していけたのか疑問です。自動車関連については当時のGMやクライスラーの状況を鑑みて踏み込めるのか...
Posted by 作業員 at 2018年11月03日 11:59
 別に HP じゃなくたって、ITの生産財では、非常に多様なメーカーが存在しますよ。多くはたいして規模は大きくない。何だったら、買収したっていいくらいだ。
 しかも、成長率が非常に大きいので、技術が優れていればすぐに逆転は可能です。この分野は栄枯盛衰が激しい。今日の1位は、、明日の1位を保証しない。

 自動車関連も同様で、裾野が広くて、ものすごく多様なメーカーが存在しています。国ごとに違うぐらいだ。
 ちなみにパナソニックは、すごく後発だが、十分に食い込んでいて、今ではこの分野が事業の柱になっています。
 NVIDIA や mobileye も後発だ。
 たくさんの事例を見れば、すぐにわかることなんだが。
Posted by 管理人 at 2018年11月03日 12:18
たくさんの事例には成功例もあるが失敗例もあるということです。GEがその方向に進んだとしても成功したとは限りません。

その方向しか採る道はなかったということでしたら理解します。事業買収は、例えば、ipod、itunesが出る前の瀕死のアップルならばGEは出資も買収も可能だったかもしれません。ただ、GE傘下でiphoneの上市ができたかどうかは別の話です。ノキア、モトローラ、ブラックベリーを買収していたら...
Posted by 作業員 at 2018年11月03日 13:57
 IT の生産財とは述べましたが、ITの消費財とは述べていません。
Posted by 管理人 at 2018年11月03日 14:24
NVIDIAが出てましたからモトローラを挙げ、ついでにノキアをあげた程度です。ノキア、ブラックベリーをナショセミ、フェアチャイルドに置き換えても構いません。
アップルは生産財メーカではありませんがタラレバ話の典型例です。

で、「本来の事業の周辺的な分野に進出する」という点から火力から再エネへの発電システムの事業シフトがあってもいいような。

実際再エネ分野に相当投資しているようで
”GE の再生可能エネルギー投資額、累計で150億 (約1兆6800億円)を突破 ”
http://rief-jp.org/ct4/70133
とのこと。それでも火力発電の売上げ減少が不振の理由として挙げられているということは、隣接分野でも事業シフトは一筋縄ではいかないということかも。
Posted by 作業員 at 2018年11月03日 16:56
選択と集中はハイリスクハイリターンということでしょう。
投資で考えればわかる。

勢いのある株を一点買いで全投資して、株が上がってるうちは良かったが・・・ということかと。
企業活動は投資なので、余力のあるうちにリスク分散して色々と試しておくことが基本なのでしょう。

FUJIFILMなんて、いまや医療分野に進出してますしね。
あれが写真フィルム分野ばかり投資していたら、今頃どうなったか。
Posted by tomo at 2018年11月05日 21:41
財政制度等審議会が、「令和時代の財政の在り方に関する建議」(令和元年6月19 日)というものを出しているようです。
※国の研究開発予算においては、「選択と集中」をしないとダメだ、というようなことが書かれておりました。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20190619/01.pdf
Posted by 反財務省 at 2019年08月05日 11:11
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ