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あまりにも特異なので、人の接近を拒んでいた。
→ 孀婦岩 - Wikipedia
だが、このたび NHK の人が上陸して調査する……という番組があった。(2018年9月29日放送)
→ NHKスペシャル | 秘島探検 東京ロストワールド第2集孀婦(そうふ)岩
→ 東京ロストワールド 孀婦岩 29(土)夜9時
番組の内容の紹介は、下記にある。
→ 大海原にそびえる巨大な岩の柱「孀婦岩」へ初の科学調査に挑み、正体の知れない生きものが岩の隙間から次々と! #NHKスペシャル - Togetter
まず、この岩がどうして形成されたかだが、私が想像したとおりだった。つまり、最初は火山があって、その中心部に、地下から(上部の)火口に向かう溶岩が、一本の柱状に残っている。
この火山が海底から盛り上がる形でできたあとで、外周部(柔らかい部分)が波に削られて、中心部の溶岩(固い部分)だけが柱状に残った……というわけだ。
もちろん、どんどん波に削られるので、あと 400年ぐらいで消滅してしまうらしい。今のような姿で見られるのは、地球の歴史上、ごく限られた期間であるにすぎない、ということだ。
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だが、地形的な話題は、あまり重要ではない。重要なのは、生物学的な意義だ。
ここは絶海の孤島も同然なので、周囲の陸地からは完全に隔絶されている。ダーウィンの調査したガラパゴス諸島(太平洋東部)とも似た状況だ。
こうなると、他の種の流入による生存競争が起こりにくいので、太古の生物がそのまま残っているかもしれない。「進化から取り残される」という形で。……そういう期待があった。
ただ、期待はあるにしても、「そう好都合に物事が運ぶものかね」と疑っていたのが、私の疑い深い予想に反して、意外にも、古代の生物が残っていたことが判明した。
詳しくは、上記のリンクを参照。( togetter )
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ただし、あとで調べ直してみると、NHK のいう「大発見」は眉唾であるようだ。
番組では、古代魚としては、サメの仲間であるカグラザメが示された。これは古代魚の特徴を備えている。「特別な古代魚が見つかるなんて、すごい発見だ」というふうに放送されていた。
しかし Wikipedia で調べると、全然、たいしたことはない。このカグラザメは、たしかに古代魚の形質を備えているが、世界中でたくさん見つかるそうだ。
全世界の熱帯から温帯の海域に広く分布する。
( → Wikipedia )
分布している場所も広範だ。世界各地で見出される。
→ 分布図 - Wikipedia
もう一つの例であるホラアナゴも同様だ。やはり、世界各地に広く分布している。
ホラアナゴ科の魚類はすべて海水魚で、太平洋・インド洋・大西洋など全世界の深海に広く分布する。
( → ホラアナゴ科 - Wikipedia )
結局、「すごい発見だ」と騒いでいるのは、NHK だけだ。一人でお祭り騒ぎ。(「大発明だ」と言って、「車輪の再発明」をしているような感じ。)
「あまり騒ぐな」と戒めておこう。
( ※ 「たいしたことはないだろう」という私の予想が、結果的には当たったことになる。ガラパゴス諸島並みのレア・ケースじゃなかったね。)
[ 付記 ]
とはいえ、「絶海の孤島には、ガラパゴスふうの生物がいる。孤立した環境で、昔ながらの生物がいる」ということは、一般的には成立しやすい。
ただし、孀婦岩の場合、形成された時期はかなり新しいだろう。
ひるがえって、ガラパゴス島は、かなり古い時期に形成されたと思える。また、アフリカのマダガスカル島は、ものすごく古い時期に形成されたことが判明している。これらには、太古の独自の生物がいても、おかしくない。(陸地だから、海を渡れずに、独自の生物が孤立しやすい。)
一方、孀婦岩の場合、生物は陸上にいるわけではなくて、島のまわりの深海にいるだけだ。そこには、他の海の生物も流れてくるだろうから、完全に孤立しているわけではない。しかも、形成された時期は、比較的新しいようだ。(最古でも、海底火山ができた時期だ。そのあとさらに、海底火山が削られる時間もかかる。)
というわけで、原理的には面白そうに見えたのだが、よく調べると、たいしたことはなかった……ということになる。
日本という範囲内では、なかなか面白い場所なのだが、世界的に見れば、マダガスカル島やガラパゴス諸島とは、比べものにならないような、小さな意義しかない。
期待した割には、残念でした。
( ※ ただし、科学バラエティーとしてみるなら、わくわくして楽しい番組だった。話の結論は、嘘なので、ちょっと詐欺的だが。)
( ※ それにしても、NHK は、番組製作に当たって、Wikipedia で調べるというぐらいのこともしないのかね。そのせいで、嘘を垂れ流す。)
( ※ NHK の嘘を信じて、「大発見だ」と思っている人が多いかもしれない。そこで、本項で是正しておくわけだ。)
【 関連サイト 】
番組の裏話を探る記事。
数々の小型の深海探査機も投入された。総力を結集した結果、2億年前から姿を変えていない古代魚「カグラザメ」をはじめ、数々の希少種に遭遇できたという。
「深海は、他の生物との競争が激しくないため、古代魚も生き延びることができる。魚にとっては貴重な場所なんです」(NHKエンタープライズ・小山靖弘氏。)
生物学界を揺るがすような「世紀の発見」が、日本の地から見つかるかもしれない。
( → FRIDAYデジタル )
嘘こけ、と言いたいね。誤報も同然だ。フェイク・ニュースの類。