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障害者雇用が義務づけられているが、現実には、この義務を未達成である事例が多い。先日は、官公庁で「達成」と偽装したこと(実際には未達成であること)が話題となった。
障害者雇用促進法で国の中央省庁など行政機関や企業に義務づけられている障害者の法定雇用率について、複数の省庁で不適切な障害者数の算定が行われていた疑いがあるとして、厚生労働省が再調査を実施していることが分かった。障害者手帳を持たないなど、障害の程度がより軽い職員を算入し、水増ししている可能性があるという。
再調査は、まとまり次第、結果を公表する予定。これまで公表してきた国の行政機関の雇用率では、大半の省庁で達成しているとしていたが、実際にはより低かったことになりそうだ。企業の場合、法定雇用率に届かなければ納付金が課されており、水増しが事実なら批判は必至だ。
( → 複数省庁、障害者の雇用率を水増しか 厚労省が調査実施:朝日新聞 2018年8月17日 )
障害者の雇用率を中央省庁が水増しした疑いがある問題で、昨年6月時点で雇用していたとする障害者約6900人のうち、不適切な算入が3千人台にのぼることが関係者への取材でわかった。
厚生労働省が各省庁での雇用実態の調査を進めており、調査結果を28日に発表する見通しだ。
( → 障害者雇用、中央省庁の半数近くが水増しか 3千人台:朝日新聞 2018年8月25日 )
障害者の雇用数を中央省庁が水増ししていた問題で、厚生労働省は7日、裁判所と国会などの立法機関を対象とした昨年6月1日時点の雇用数の再調査結果を公表した。
( → 裁判所は399人水増しと発表 障害者の雇用数 厚労省:朝日新聞デジタル )
これは官公庁の例だが、企業でも障害者雇用の件で問題をかかえている。さすがに「偽装」という不正が頻発しているわけではないが、馬鹿正直にやっているせいで、ものすごいコストをかけているのだ。
国や企業などに雇うよう義務づけている障害者の割合「法定雇用率」は、障害者雇用の拡大に一定の役割を果たしてきた。しかし、今では「数字ありき」で達成を目指す動きもあり、障害者それぞれの特性をいかした働き方が企業に根付かない要因にもなっている。
32棟のビニールハウスが並ぶ千葉県船橋市の「わーくはぴねす農園」。地元の障害者96人が週5日働き、月10万円を受け取る。この給料を払うのは農園ではない。ハウスを借りる民間企業が雇用しているためだ。その多くは東京都内に本社を置く東証1部の大企業やその子会社で、障害者の農作業は本業と関係がない。
農園を運営するのは人材紹介会社「エスプールプラス」(東京)。同社がハウス1棟あたり3人の障害者を紹介。企業は1棟ごとに月24万円の賃借料も払う。
企業の法定雇用率はいま2.2%。達成できないと、不足人数1人あたり月5万円の納付金を国に支払わねばならず、社名を公表される可能性もある。
( → (けいざい+)求ム障害者:下 「数字ありき」助長も:朝日新聞 2018年10月5日 )
企業は直接、自社内で雇用するかわりに、障害者の運営団体で雇用してもらう。そのことで、企業で雇用したのと同じ雇用率が達成できる。
これなら、企業も、運営団体も、障害者も、そろって喜ぶので、三方良しだ……と思える。だが、実は、そうではない。
よく考えよう。
企業の負担は賃金が 10万円で、施設費が8万円(3人で24万円)。合計 18万円だ。これを毎月支払う。これだったら罰金(納付金)として月5万円を払う方がずっと安上がりだが、社名公表を避けたいので、企業は高コストを負担しているらしい。これを見て、
「払う企業は立派だ」
と思う人もいるかもしれないが、よく考えれば、これは馬鹿げている。
企業が 18万円を払うなら、その 18万円を直接、障害者に払えばいい。なのに、18万円を払っても、10万円しか懐には入らない。その差額は、障害者の運営団体に入ってしまう。さらに、障害者が仕事をして得た事業収益もまた、障害者の運営団体に入ってしまう。
これではほとんど詐欺であろう。企業と障害者の双方から、多額の金をむしり取る。運営団体はボロ儲けだが、肝心の障害者は薄給でこき使われるだけだ。(年収 120万円だ。)……これじゃ、生活保護費よりも安い。
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ただし、あまりにも馬鹿げているとしても、その代案がないのでは、どうしようもない。「直接障害者に払え」と言っても、それでは単に金を恵むだけだから、障害者の雇用や生きがいにはならない。
要するに、現状のように「マイナス」という状況からは脱することができるが、「善悪がトントン」という意味の「ゼロ」の状態であって、「プラス」の状態になっていないのだ。だから、単に金を恵むだけよりも、もっといい方法が望まれる。
では、どうする? そこで、困ったときの Openブログ。名案を出そう。
まずは、問題を認識しよう。こうだ。
「障害者が一般の会社で働くことは、ある程度は実現している。軽度の障害者は、すでに多くが雇用されて、ちゃんと働いている。それらの人々はすでに問題が解決済みだ。しかし、もっと重度の障害者は、なかなか雇用してもらえない」
たとえば、次のことがある。
労働者健康福祉機構は全国の労災病院に1カ月間で採用するよう指示し、115人を一気に有期契約で新たに雇って法定雇用率を達成した。その性急な対応のひずみは、現場に現れた。
「会議録が締め切りに間に合わない。パソコンが使えると聞いて任せたが、能力が追いついていない」
14年末、関西地方の労災病院で採用を担当した男性職員は、新たに障害者を配置した部署からの相談に追われていた。
5人ほどの障害者を新たに雇い、パソコンを使った会議録の文字起こし作業やポスターづくり、患者向けイベントの運営など、看護師らの業務の一部を切り出して任せた。採用面接時に「パソコンができる」と言っていた障害者は、文字起こしを引き受けた。
しかし仕事中、作業の進め方について細かいことを何度も同僚に聞いてくる。質問のたびに作業が中断するため、本人も周囲も仕事が進まなくなっていた。採用時に分からなかった障害の特性が採用後にわかり、職場が戸惑う事態がほかの病院でも続発した。
要因の一つは、精神障害者の急増だった。
( → 細かいこと何度も聞かれても 障害者雇用、現場の困惑は:朝日新聞 2018年10月3日 )
軽度の障害者ならともかく、精神障害者だと、普通の業務はできない。無理にやらせれば、まわりに迷惑がおよび、仕事が停滞してしまう。
だから、このような障害者は、普通の仕事とは別の仕事が必要だ。
事例の一つが農業だ。農業ならば、対人交渉がないので、精神障害者でも実行が可能だろう。とはいえ、農業では、あまりにも効率が悪いという問題が発生する。それが、冒頭の例だ。だから、農業は駄目だ。
では、かわりに、何をしたらいいか? 私が提案するのは、「掃除」だ。特に、トイレの掃除だ。これは、外部に業務委託している会社がほとんどだろう。(社員がやっているはずがない。)
とすれば、これを障害者に任せることは可能だ。また、障害者の集団を運営会社が指導すれば、会社として業務を受託することも可能だ。
・ トイレ掃除を受託する清掃会社を設立する。
・ そこで障害者を雇用する。
・ その雇用の費用を、企業は支払う。
・ 企業はその会社から、清掃サービスを受け取れる。
ここで注意。企業は清掃会社に清掃サービスを発注する(購入する)のではない。企業はあくまで清掃会社を実質的に運営している(費用負担している)のである。そして、その対価として、清掃サービスを受け取れるわけだ。
これは実質的には、
「企業が障害者を清掃要員として雇用する」
というのと同じである。
そして、この場合には、「農業をする」という場合の非効率さは発生しない。農業のプロに比べて、素人の健常者の農業生産率は数分の1だし、素人の障害者の農業生産率は、およそ百分の1ぐらいでしかない。一方、清掃ならば、清掃のプロに比べて、素人の障害者の生産率は、数分の1ぐらいで済むだろう。たぶん、3分の1ぐらいだ。障害者が3人でやれば、トイレの清掃のプロの1人分ぐらいにはなるだろう。そして、掃除の清掃のプロ(掃除のおばさん)の賃金は、月 13万円ぐらいであるから、その3分の1ぐらいだとして、月 4万円分ぐらいの仕事はしていることになる。慣れればもっと上昇するだろう。これと、障害者に対する企業の負担金として月5万円を加えれば、月9万円以上になる。
つまり、企業としては、現状では月に 18万円も余分に払っていたのが、今後は月に5万円ぐらいを余分に払うだけで済むようになる。これだったら、障害者雇用は急速に進むだろう。
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結論。
障害者雇用を推進するには、トイレの清掃会社を設立して、そこで障害者を雇用すればいい。そうすれば、企業と共同することで、障害者の雇用を大幅に促進できる。
[ 付記1 ]
具体的には? たとえば、企業から負担金として、現状の月 18万円のかわりに 15万円を呈示する。さらに、清掃サービスの料金として、普通の清掃会社に払う分の料金を得る。
その後、企業には、普通の清掃会社が提供するのと同じだけの清掃サービスを提供する。このとき、障害者である分、非効率になるので、その差額として、会社側が補填する。たとえば、1人あたり5万円を補填する。
障害者は、5万円分の仕事をしてから、補填分の5万円を受け取るので、合計 10万円を受け取る。
運営会社は、企業から 15万円を受け取り、障害者に(5万円を引いた)月 10万円を払うので、差額の5万円が純益となる。ボロ儲け。
かくて、うまくやれば、莫大な利益を得ることが可能だ。だから、本項を読んだ皆さんは、自分で障害者を雇用して、トイレ掃除の運営会社を経営するといいだろう。ボロ儲けができる。しかも、社会的に貢献していることになる。
障害者としても、仕事の量が5万円ならば月 10万円の収入だが、仕事が上手になって、5万円分より多くの仕事ができるようになれば、5万円よりも多くの額を受け取れるようになる。
こうして、誰もがハッピーになる。
そして、その根本原理は、「生産活動を効率化すること」によってなされる。つまり、「障害者による農業生産」なんていう無駄の極みのような事業をやめて、「障害者によるトイレ掃除」という生産効率の高い仕事をすることによってなされる。
トイレ掃除というのは、もともと難しい仕事ではない。キツイ・キタナイ・キケンだ、というわけでもない。ただ、ちょっと不名誉な感じがするし、変な臭いがするので、仕事をやりたがる人が少ないだけだ。
こういうところであれば、一般の仕事ができない障害者でも、十分に社会的に意義のある仕事を達成できるであろう。
[ 付記2 ]
掃除の場としては、一般の企業のほか、保育園と公園がある。
(1) 保育園
保育園は、人手不足の状態なので、保母さんがトイレ掃除をするかわりに、外部の清掃会社がトイレ掃除をする方がいい。その分、保育士の人手不足が減少する。適材適所の形で、社会的な人的資源の配分が適正化される。人手不足の問題も減る。
(2) 公園
日本の公園のトイレは、清掃不足で臭い。この件は、前に言及した。
→ 新宿御苑は便所臭い: Open ブログ
そこで、公園のトイレの清掃を、外部の会社に委託するといいだろう。特に、障害者を雇用している会社に。
ついでだが、駅のトイレも同様だ。臭いので、何とかしてもらいたいものだ。
現状では、駅も公園も、トイレが臭すぎる。東京五輪で来る外国人に、恥ずかしい。
Q 「日本で一番印象に残ったことは、何ですか?」
A 「公衆トイレにトイレットペーパーが無料で設置されていることです。あと、無料だけど、すごく臭いことです。まわりに臭いが広がるので、そばに近づいただけで、トイレだなとわかります」
[ 補足 ]
これは、「障害者はみんなトイレ掃除をさせよ」という趣旨ではない。一般の企業に採用される軽度の障害者を除いた話である。
軽度の障害者であれば、一般の企業でどんどん採用されればいい。
一方、そうではない障害者(文中の事例にあるように職場全体の業務を停滞させてしまうような障害者:主に知的障害者)については、対人交渉のある業務は無理っぽいので、対人交渉のない業務を任せるべきだ。そういう趣旨からの提案である。
もちろん、仕事はトイレ掃除に限らない。単純な部品組み立てのような仕事であってもいい。ただし、そういう作業は、今ではロボットがやるのが普通だ。そこで本項では、ロボットにはできない単純業務として、トイレ掃除を提案したわけだ。
他の例としては、介護施設における「オムツの交換」などもありそうだが、これはちょっと仕事量が少なすぎるので、外部会社に委託するほどの仕事量が発生するとは思えない。
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なお、知的障害者以外の身体障害者であれば、一般企業で雇用することは十分に可能だと思える。バリアフリーの形で、それを促進するべきだろう。十分に戦力になる人も多いはずだ。
【 関連サイト 】
→ 駅のトイレはなぜあんなに臭いのですか? - 知恵袋
→ “公衆トイレ臭い駅”ランキングが発表 平成とは思えないほどやばいトイレを発見
「精神障害」だけとっても、すごくいろいろ。「軽度」「重度」なんていう切り分けも、無理。
それぞれの状況に応じた対応なり施策なりをやっていかないとまた違う形の歪が生じることでしょう。
社会福祉法人などが運営する清掃会社にトイレに限らず清掃を委託するという形なら、すでに各所で行われているようです。官公庁がそこに随契に近い形で発注することによってある程度支援しています。
厨房での盛り付け要員とか、農産物収穫とか、各自の状態に応じて出来ること・任せられること・得意なこと(記憶力が一般の人よりもすごいとか)に取り組んでもらえると、単なる「お恵み」ではない利益も得られるはず。本人への還元度合いはまだまだ考えものですが。
「障害者」とカテゴライズされてしまう人に限らず、一般の人材の活用もおんなじなんじゃないでしょうか。