2018年10月05日

◆ 北海道:全域停電への対策

 北海道で全域停電があったが、その再発を防ぐための対策が考えられている。しかし……
 
 ──
 
 北海道で全域停電(ブラックアウト)があったが、その再発を防ぐための対策が考えられている。
 北海道胆振東部を震源とする地震をきっかけに、道内ほぼ全域の約295万戸が停電に見舞われて6日で1カ月。ブラックアウトが国内で初めて起きた背景には、北海道電力の厳しい経営状態が横たわる。
 北電はこの5年で発電所への投資額の5割超、1887億円を安全対策が必要な泊原発につぎ込んだ。これが結果的に、他の発電所の建設や建て替えなどの投資を遅らせた面は否めない。
 ブラックアウトを機に、「泊原発の再稼働も真剣に考えないといけない」(三村明夫・日本商工会議所会頭)との声もある

 北海道と本州の電力融通 世耕経産相 世耕弘成経済産業相は朝日新聞の取材に応じ、北海道と本州で電力を融通する「北本連系線」の増強を検討することを明らかにした。現在は60万キロワットの電力しか送れず、ブラックアウトを防げなかった。北海道電力は来年3月に90万キロワットに増やすが、世耕氏は再発防止策として「さらなる増強といったことも出てくる」と述べた。連系線は海底を通るため、仮に50万キロワット分を増やす場合、1千億円規模の費用がかかるとされる。世耕氏は「費用負担のあり方も議論したい」と述べた。
( → 北海道電力、消えぬリスク 長い送電線/泊原発に固執/新電力と競争 ブラックアウト1カ月:朝日新聞

 北海道電力は、JR北海道と同様で、広い面積に少ない人口という根源的な問題をかかえている。そのため高コスト体質だ。料金も高い。そのせいで顧客を新電力に奪われている。
 そこへ3・11の関連で、原発が停止になった。それを再稼働させるために、投資額の5割超、1887億円を安全対策が必要な泊原発につぎ込んだ。それで金がなくなって、どうしようもない状況に陥った。
 今後は何とかしようとして、次の方針を取った。
  ・ 泊原発の再稼働
  ・ 「北本連系線」の増強

 このうち、前者は論議を呼んでいる。後者は、50万キロワット分を増やす場合、1千億円規模の費用がかかる。北電ではまかなえないので、国が負担するつもりらしい。

 ──

 以上が現状だ。(記事からわかる。)
 では、どうすればいいか? 私の考えを述べよう。

 (1) 泊原発の再稼働

 原発は、再稼働するかしないか、どちらかに決めるべきだ。
  ・ 再稼働するなら、巨額の安全対策をしてから、再稼働する。
  ・ 再稼働しないなら、巨額の安全対策をやめて、火力発電所を建設する。


 そのどちらでもいい。一方、現状は、そのどちらでもなく、次の状態となっている。
 「巨額の安全対策をしていながら、再稼働しない」
 これでは、金をドブに捨てているのも同然だ。
 
 したがって、残る選択肢は、次の一つしかない。
 「再稼働するなら、巨額の安全対策をしてから、再稼働する」
 つまり、上記のうちの前者だ。
 なお、これに反対する人(後者を支持する人)は、もはや反対する資格を失っている。もし反対するのであれば、「安全対策をする」ということ自体に反対するべきだった。「再稼働反対、ゆえに安全対策にも反対」というふうに。
 なのに、安全対策に反対しないでいたなら、今になって「再稼働反対」という資格はない。
 したがって、「十分な対策」を条件に、再稼働するしかないだろう。

 ただし、「再稼働をした」からといって、それで「全域停電が回避できる」ということにはならない。今回の地震でも、近くで巨大地震があったことから、この時点で泊原発は停止したはずだ。そうなれば、全域停電はやはり発生しただろう。
 原発の再稼働は、全域停電を避けるための回避策の一つではあるが、それだけで全域停電を避けることが可能になるわけではない。


 (2) 北本連系線の増強

 北本連系線の増強は、50万キロワットで 1000億円とのことだ。(上記)……しかし、これではあまりにもコスパが悪すぎる。馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。
 しかも、これで対策できるのは、たったの 50万キロワットだ。焼け石に水も同然だ。効果が皆無に等しいのに、「少しは気休めになるから」という理由で 1000億円も投入するのは、馬鹿げている。
 なるほど、電力会社で電力を融通するというのは、基本的には正しい方策だ。本州の各社はそれを実施している。四国電力や九州電力でも実施している。そのせいで十分な効果を発揮している。実際、九州電力は、それによって全域停電を免れたことがある。
 実際、九州電力管内では、原発がすべて止まっていた12年2月、火力の新大分発電所(大分市、当時で計約230万キロワット)がトラブルで停止。ブラックアウトの一歩手前の事態に陥った。このときは連系線を通じて他電力6社から200万キロワットを超える融通を受けて事なきをえた。
( → 北海道電力、消えぬリスク 長い送電線/泊原発に固執/新電力と競争 ブラックアウト1カ月:朝日新聞

 ただし、このようなことが可能だったのは、高コストの海底送電線がなかったからだ。一方、北海道電力は違う。上記記事を再掲すれば、
 連系線は海底を通るため、仮に50万キロワット分を増やす場合、1千億円規模の費用がかかるとされる。

 とのことだ。深い海底を通ることで、ものすごくコストになっているのだ。事情が異なるので、他の電力会社と同様にはならない。
 つまり、「北本連系線の強化」という政府方針は、駄目だ。案はボツ。

 (3) 私の提案

 では、どうすればいいか? ここで、困ったときの Openブログ。名案を出そう。こうだ。
 「新規の発電所を稼働させることで、古い発電所を予備電力とする。この古い発電所を、稼働可能なように整備するために、整備費用を投入する」


 たとえば、泊原発を再稼働する。これで 207万kW の発電能力を得る。( → Wikipedia
 これを稼働することで、既存の発電所は、予備電力となる。かくて、北本連系線なんかを強化しなくても、 207万kW の予備電力を得る。これで、安定性は大幅に高まる。

 「だけど原発はイヤだ」
 という人もいるだろう。そういう人のためには、別の対策もある。泊原発のかわりに、新しい火力発電所を使うのだ。前に述べたとおり。
  ・ 石狩湾新港発電所( 170万kW )

 後者は、現時点では建設中で、まだ稼働していないのだが、2019年2月には稼働の予定だ。
( → 苫東厚真発電所への集中: Open ブログ

 この新発電所があるのだから、これを新規に稼働させることで、従来の発電所は予備電力となる。かくて、170万kW の予備電力を得る。北本連系線なんかに比べれば、ずっとコスパがいい。

 これに対しては、次の反論があるかもしれない。
 「石狩湾新港発電所の稼働の分は、もともと織り込み済みだ。それ以上の対策がほしい」
 つまり、現状に対して上乗せするだでなく、(いったん安定度を増した)未来水準に対して、さらに安定度を増したい、というわけだ。
 それならそれで、次の三つの選択肢がある。
  ・ 風力発電や太陽光発電を推進する
  ・ 泊原発の再稼働
  ・ さらに新規の火力発電所を建設する


 このうち、1番目と2番目は、それぞれ独自に決めればいいだろう。それで済むと思うのなら、そこまでだ。それでは済まないと思うのなら、3番目の対策を取ればいい。
 これはまあ、「古い火力発電所の更新」(老朽化して効率の悪い発電所から、新しくて効率の良い発電所への更新)という形となる。普通ならばやっているはずだが、金がない北電がやっていなかっただけのことだ。それを(常識通りに)やればいいだけのことだ。

 ──

 ともあれ、私が示した案がある。それは、「特別にうまい案」というわけではなくて、「本来やるべき案」であって、王道としての案である。(ことさら独創性があるわけではない。)
 一方、政府の案は、「莫大な金を投入するが、効果は焼け石に水」という馬鹿げた案である。……そのことを本項は指摘した。

 本項は、「俺様が素晴らしい案を示したぞ」と威張るためにあるのではない。「政府があまりにも馬鹿げた案を出したぞ」と指摘するためにある。それというのも、他の人々(マスコミを含む)が、王道としての案を示さないからだ。
 つまり、本項は、(裸の王様を見たあとで)「王様は裸だ」というふうに、真実を叫ぶためにあるのだ。世間の多くが、真実に対して盲目であるがゆえに。



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 [ 付記1 ]
 全域停電への回避策はどうか? 泊原発を再稼働するだけでは、全域停電を回避することはできない。(本文中に述べた通り。)
 全域停電を回避するには、供給側でなく、需要側で「需要の遮断」というシステムの導入が必要だろう。この件は前に述べたとおり。
  → 全域停電の回避システム: Open ブログ

 この記事のコメントで情報を追記しているが、「需要の遮断」というシステムはすでに導入済みであり、今回の停電のときにも作動したそうだ。ただし、作動の程度が不十分であって、二度目・三度目あたりで作動が追いつかなくなったらしい。……このあたりは検証中だとのことだが、続報がないので、詳細は不明だ。

 [ 付記2 ]
 さて。先日の地震で泊原発を稼働していたとしたら、どうなっただろうか? もちろん、泊原発はすぐに停止していただろう。その意味で、全域停電は、同様に発生しただろう。
 しかし、その後が違う。もし泊原発が稼働していたら、苫東厚真の方は大半が稼働していなかった(停止していた)だろう。その場合には、稼働していなかった分が故障することもないので、全域停電のあとで比較的早期に、停電が解消して、電気が復活していただろう。たぶん、1日ぐらいで早期復活していたと思える。
 泊原発の方も、比較的早期に復活していただろう。こちらは原発なので、1日ぐらいで早期復活することはないだろうが、復活まで半月もかかるということはなさそうだ。
 というわけで、「先日の地震で泊原発を稼働していたとしたら、どうなっただろうか?」という質問には、「比較的早期に停電が解消したので、停電の被害はずっと少なくて済んだだろう」と答えることができる。

 [ 付記3 ]
 本日の朝日新聞でも、全域停電を巡る記事が掲載されている。
  → 日常、ブラックアウト 苫東厚真依存が裏目、全道に打撃:朝日新聞 2018-10-06
 「発電の1箇所集中(苫東厚真発電所への集中)が問題だったので、1箇所集中をやめるべきだ」というような話もある。

 だが、ここでは重要な点が見失われている。
 「全域停電の有無だけが問題なのではない。全域停電から早期に復旧できることが大切だ」
 ということだ。
 記事では「全域停電を防ぐには」ということばかりが注目されていたが、「いったん全域停電が起こったあとで早期に復旧すること」も、劣らず大切なのだ。だから、「早期に復旧できる」というシステムの整備も必要だ。
 そして、そのためには、「地震が起こったらすぐに発電所を止める」とか、「地震が起こる前に発電所を止めておく」ということも、大切なのである。そして、それは、「全域停電を起こさないこと」とは矛盾することもある。
 あえて早めに発電機を止めることは、全域停電を招きやすいが、同時に、全域停電からの復旧を容易にする。逆に、発電機をいつまでも稼働させていると、全域停電を起こしにくくなるが、逆に、故障を招きやすいので、全域停電からの復旧を困難にする。……こういう二律背反を理解することも大切だ。
 「全域停電を避けること」ばかりを重視していると、「早期に復旧する」ということが見失われやすい。認識が片面的にならないよう、留意したい。


posted by 管理人 at 20:00 | Comment(7) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 付記1 ] [ 付記2 ]を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年10月05日 21:42
連系線は電力を売るために使うべきだ。それなら元がとれる。そのためにはサハリンからパイプラインを引いて液化しない安いガスと高効率なGTCCで大量に発電し連系線を通じて首都圏に売る。同時に大量の風力発電を入れて低炭素、再エネ主体をキャッチフレーズにする。低炭素で安い電力なら敵はいない。50万kWどころか3000万kWくらい必要だろう。
Posted by vaceba at 2018年10月05日 23:33
> サハリンからパイプラインを引いて

 超巨額になるので、北方領土が解決しないと、無理っぽい。
 そもそもロシアはいつでも好き勝手にガスを止めることができるから、それで日本を脅すかもしれない。自民党政権下では、まず無理っぽい。
 超長期的に、将来的な課題となるでしょう。
Posted by 管理人 at 2018年10月05日 23:47
 最後に [ 付記3 ]を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年10月06日 08:48
連携線はJR新幹線のトンネルを借りれば安くなりませんかね。

新火力発電所が稼働するまでの緊急避難として、泊原発を少ない安全対策で動かすのは駄目ですかね。万が一の大被害と、今年の冬の北海道全域電力安定供給を天秤に書けるわけです。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年10月06日 17:24
> 連携線はJR新幹線のトンネルを借りれば安くなりませんかね。

今、まさに。
http://www.hepco.co.jp/energy/distribution_eq/reinforcement_summary.html
Posted by けろ at 2018年10月08日 21:18
 青函トンネルの件は、私も思いついたんだけど、平凡なアイデアだから、何かわけがあって、あえてやらないんだろう……と思っていたが、実はやっていたんですね。
 情報、ありがとうございます。
Posted by 管理人 at 2018年10月08日 23:04
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