2018年09月21日

◆ 自動運転技術の自社開発

 自動運転技術を自動車会社は自社開発していない……という記事が話題になったが、誤りだ。

 ──

 元々は、ホンダを退職した技術者が「技術の自社開発を担当させてもらえなくてやめた」という愚痴のブログが発端だ。
  → 魚拓 (すでに削除されたので)

 それとそっくりな(真似した?)ブログが話題になった。
  → 新卒で入社したホンダをたった3年で退職しました
  → はてなブックマークのコメント

 これに自動車評論家の国沢光宏がかみついた。
  → 「ホンダは自社で技術開発をしていない?」というブログがSNSで拡散中 (国沢光宏)

 趣旨は、「自動車メーカーは電子機器の技術を自社開発しているわけではなく、大手の世界的な部品メーカーに任せている」という趣旨。

 まあ、「全部を何から何まで自社開発しているわけではないんだ」という趣旨でなら、これは正しい。しかしながら、「すべてを部品会社に丸投げしている」という意味でなら、これはまったくの誤りだ。
 では、正しくは? 「部品会社との共同開発」が正しい。

 国沢光宏の記事では、「丸投げ」というふうに記されている。
 ブログを書いた方は先進安全や自動運転の部門にいたとのこと。この分野、タイヤや変速機などと似ています。タイヤは自動車に必ず付いている部品ながら、開発はタイヤメーカーに丸投げしている。自動車メーカーが行うのはスペック出しと、要求値通り仕上がっているかのチェックです。これ、全メーカー同じ。
 変速機も同じ。自動車メーカーはスペック出しをして要求に沿った製品を作って貰う。さらに言えば、エアコンやナビ、シート、ダンパー、ステアリングギアBOX、窓ガラス、外板パーツ用の金型だって外注です。なぜか? 自社で開発するより安定した部品をリーズナブルに買えるからだ。トヨタですら変速機はアイシン。電装品をデンソーに開発までやってもらっている。

 ブログを書いた方が担当していた部門もまさしく専門分野。そもそもホンダにカメラなど作る技術は無いし、画像を解析して制御にアウトプットする回路だって持っていない。レーダーも自動車メーカーの担当外。世界中の自動車メーカーが自主開発などしておらず、最近だとボッシュやコンチネンタル、モービルアイ、エヌヴィデア、デンソー、デルファイ等々。
 ホンダも安全技術の黎明期は独自開発していたが、もはや競争に勝てないと判断。最近はボッシュやモービルアイの技術を導入しているけれど、これは業界の常識だ。

 これは誤りだ。正しくは、こうだ。
 「ホンダは(ボッシュやモービルアイでなく) NVIDIA と提携して、自動運転技術を共同開発している。NVIDIA の画像認識技術を基盤とした上で、その上に自動運転技術を独自開発で載せている」


 このことは、ホンダ自身が社の方針として明示している。
 安井氏は「NVIDIAさんのプラットフォームを使いながらModel-based algorithmを組み合わせられるのが、先行開発においては非常にメリットがある。ただし、アルゴリズムについてはホンダ独自のものを使用していて、そこらへんもフレキシブルに受け入れていくれるのがDrive PX2のいいところ」と感想を話した。
( → 【GTC Japan 2017】ホンダの自動運転への取り組みを紹介した本田技術研究所 安井裕司氏のセッション - Car Watch

 これと似ているのは、日産とモービルアイだ。(モービルアイは、インテルに買収されて、傘下に入ったが。)モービルアイの画像認識技術を基盤とした上で、その上に自動運転技術を独自開発で載せている。

 また、ボルボはホンダと同様で、NVIDIA と提携している。
  → ボルボ、エヌビディアと提携…自動運転向け先進技術を共同開発

 他にも、NVIDIA と提携している企業は多い。Volkswagen、 Audi、Tesla、Mercedes-Benz、BMW、Honda が、NVIDIA の提携会社として示されている。
(アウディとテスラは、モービルアイから NVIDIA に乗り換えたようだ。
  → モービルアイからエヌビディアに乗り換える自動車メーカー

( ※ 似た話は、本サイトでも述べたことがある。 → 別項

 トヨタも NVIDIA の提携企業として名を上げられているが、どちらかと言えば独自開発に注力しているように見える。
 カリフォルニア州ロスアルトスに本拠を置くTRI設立にトヨタは約40億ドル(現行レートで約4500億円)を投じ、MITやミシガン大学、スタンフォード大学と正式な連携研究を行うことにした。TRIの最高経営責任者(CEO)には米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)で長年、ロボット工学や自動運転車の研究を手掛けたギル・プラット氏を起用した。
( → トヨタが描く自動運転技術の未来、主役はあくまでドライバー - Bloomberg

 自社開発といっても、最先端の技術を持つ米国人技術者を買収して、米国で産学連携で研究する……というものだった。端的に言えば、「金で技術を買う」というものだ。
 これを聞いたときには「冴えている」と感じたが、今にしてみれば、これは「自社開発を捨てた」というのに近い。開発の丸投げだ。
 しかも、40億ドルという規模は、基礎研究としては十分だが、応用化という点ではかなり物足りない。NVIDIA あたりの研究に勝てるとは思えない。画像認識の点では、NVIDIA に大きく負けているので、この点では自社開発は無理で、NVIDIA と提携するしかあるまい。しかし、そうだとすると、最初から何までやろうとするギル・プラットの方針とは相容れない。
 トヨタの方針は迷走しているとしか言えない。これでは、ボルボやベンツに大きく遅れて、後塵を拝するしかあるまい。

 現状では、自動運転技術で最先端を走っているのは、ボルボとベンツとテスラと Google らしい。かなり遅れて、日産のプロパイロットという「半・自動運転技術」みたいなものがある。(人間を補助して、半分だけ自動運転する。)

 トヨタに至っては、完全な自動運転そのものを諦めていて、半・自動運転技術だけを目標にすると公言しているも同然だ。ま、「完全な自動運転そのものを諦める」と明言したわけではないのだが、ちょっとそんな感じだ。
 トヨタのビジョンは人間のドライバーをなくすのではなく、自動運転技術を活用して自動車をより安全で使い勝手をよくすることだ。運転席にいるドライバーが生産的であり続けるのを手助けする機能を満載することにある。
( → トヨタが描く自動運転技術の未来、主役はあくまでドライバー - Bloomberg 2018年9月20日

 なお、スバルのアイサイトはどうかというと、これはステレオカメラを使って、日立と共同開発したもの。以前は傑出した能力を誇っていたが、同じくステレオカメラを使う NVIDIA に規模の点で負けてしまう感じだ。
 ……と思っていたら、スバルは方針転換したそうだ。日立との共同開発から、NVIDIA との共同開発に乗り換えたそうだ。
  → 2020年以降に実用化を目指すスバルの自動運転 | 日経

 ステレオカメラというと、以前はスバルのアイサイトが有名だったが、今後は NVIDIA を使う技術ばかりになりそうだ。大手の自動車メーカーが続々と集結しているから、まずはこちらが勝ち組となるだろう。

 一方、単眼カメラで自動運転もやろうとしている日産は、たぶん、負け組になるだろう。関ヶ原の戦いで豊臣側に付いたようなものか。いや、明治・新政府にたてつく旧幕府勢力(会津藩など)という感じか。負け戦っぽい。多勢に無勢という感じ。

 ──

 ま、以上のように、自動車会社各社は、いろいろとやっているが、方針は似たようなもので、それぞれ自社でも相当に技術開発をやっている。決して「部品メーカーに丸投げ」なんていうことはないのだ。



 [ 余談 ]
 単眼カメラにこだわる日産はどうなる? 時代の趨勢に1社だけ乗り遅れる感じだが。
 実は、当面だけなら、技術開発のしやすさとコスト面から、日産方式の方が早く普及するだろう。大型ディスプレイでプラズマ方式が当初は普及していたのに似ている。(その後は、プラズマ方式のパナソニックは、時代の趨勢である液晶に乗り遅れて、大赤字を出したが。)
 で、日産もその二の舞かな。当面は勝っても、将来は大赤字。

 ま、そうだとしても、これでつぶれるのは日産だけで、あとの日本メーカーは NVIDIA とともに生き残れそうだから、日本の自動車メーカーが全滅するということはあるまい。
 日産は、自動運転技術で乗り遅れたあとは、たぶん、中国の自動車メーカーにでも買収されるだろう。(シャープみたいに。あるいは NEC のパソコン部門みたいに。)

 というか、そもそも日産は、ルノーに(ほぼ)買収されているんですけどね。中国メーカーがルノーを買収するのかも。2社とも大赤字になれば、2社セットで格安で買収できそうだ。
 特に、「電気自動車の冷却システムがないせいで、電気自動車部門が大赤字」なんてことになったら、日産は破綻の危機に瀕するかも。そうなったら、格安の買収も可能だろう。

 ただし、「日産が大成功で業界標準に」というふうに夢を見ている記事もある。ほとんど妄想だが。
  → 日産、Mobileyeの自動運転プラットフォームに正式参加 | TechCrunch Japan( 2017年4月26日 )

 ま、日産の社内の重役あたりは、こういう妄想を信じて、まっしぐらに進んでいるんだろう。(先に滝があって滝壺に落ちるぞ、と知らないまま川下りをするようなものだ。)



 【 関連サイト 】
 最新ニュース。
 日本自動車工業会は2018年9月20日、自動車メーカーら10社、合計80台が参加する自動運転車の公道実証実験を行うと発表した。期間は2020年7月6日〜12日の7日間で、羽田空港周辺や臨海副都心地域において公道実証を実施する。
 参加するのは、スズキ、SUBARU(スバル)、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、日野自動車、ホンダ、マツダ、三菱自動車工業、ヤマハ発動機の10社。
 実証実験では、レベル2〜4に相当する自動運転車を用いる。レベル4の自動運転車には、安全に配慮してドライバーが乗車するとしている。
( → 自動車メーカーら10社、合計80台で自動運転の公道実証

 すごい、と思われそうだが、日本の会社ばかりがやっているのでは、世界の趨勢に遅れていることがわかりづらい。
 ここは本来ならば、ボルボやベンツやテスラも参加させて、「日本のメーカーはいかに遅れているか」を示すべきなんだが、あくまで日本メーカーだけにこだわるようだ。鎖国主義。ガラパゴス主義。
 で、こうやって見せびらかして喜んで、「日本の自動運転技術は世界一だと示したい」という狙いのようだ。
 無知の内弁慶ぶりには、呆れるしかない。世界に目を閉ざす見本。せめてテスラぐらいは参加させればいいのに。こちらはすでに自動運転を実用化している。日産なんかの比ではない。
  → テスラの自動運転は本当に“使える”のか?







 【 関連項目 】

 「 Mobileye より NVIDIA の方が本命だ」
 という話は、本サイトでは2年前に指摘している。
  → セレナの自動運転は旧式技術だ: Open ブログ

 2年前のこの記事を読んで、それに従っておけば、今ごろ迷走しないで、NVIDIA とともに最先端の自動運転技術を搭載していてもいいのだが。現実には各社とも、Volvo や Tesla に比べて、大きく遅れているようだ。

posted by 管理人 at 21:00| Comment(9) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 300字ほど加筆しました。ボルボやベンツやテスラの話。
 あと、自動運転の動画も付け足しました。
Posted by 管理人 at 2018年09月21日 22:23
>それぞれ自社でも相当に技術開発をやっている。決して「部品メーカーに丸投げ」なんていうことはないのだ。
が、リンク先ブログにある、
”ホンダのプロパー社員の仕事はサプライヤーの日程管理と部品の不具合が出た時にサプライヤーを叱責する”
の指す部分でしょうか。日程管理と叱責を担当しているので丸投げではありませんが、技術開発をやっているとは言えないような...

自動運転者が事故った際の責任の所在が未だ明確ではない中、トヨタの”トヨタが描く自動運転技術の未来、主役はあくまでドライバー”という姿勢は、運転の責任はあくまで運転者にある、と留めるものであり、これはこれで一つのやり方にも思えます。
Posted by 作業員 at 2018年09月21日 22:36
 丸投げは、本項で引用した箇所の着色部分(茶色)です。明示している。
 ページ検索すればすぐにわかることなのに。
 本文を読んでも理解できないときは、もういっぺん本文を読み直しましょう。中学生でもすぐにわかる。

> これはこれで一つのやり方にも思えます。

 「大は小を兼ねる」という言葉で済む。高校レベルの数学ができる人は、中学レベルや小学レベルの数学もできる。最初から中学レベルを目標にしていては、高校レベルもできない。

 自動運転にはレベル3とレベル4とレベル5がある。その違いを理解しましょう。レベルの差。
Posted by 管理人 at 2018年09月21日 22:44
ホンダが公表している、”アルゴリズムについてはホンダ独自のものを使用していて、”といった独自開発と、ホンダを退職された方が記した”サプライヤーの日程管理、サプライヤーを叱責”とが整合していない、ということです。会社としては独自開発を謳っているけれど、中にいた人はそれを否定しています。事実はどちらなんだろうと。

>「大は小を兼ねる」
技術開発を否定しているわけではありませんが、現状では運転者が責任を持てる範囲内で普及に注力するという選択もあると思った次第です。レベル4,5は技術以外の部分、法整備の準備などが全く追いついていないように感じます。
Posted by 作業員 at 2018年09月22日 01:16
> 会社としては独自開発を謳っているけれど、中にいた人はそれを否定しています。事実はどちらなんだろうと。

 それは本項の話題ではありません。
 あえて推測すれば、ブログの人の話は、その人の担当する分野に限っての話。たとえば画像認識。その分野では自社開発しないで部品メーカー任せ。

 特定分野では成立するが、それを広く一般分野に話を広げすぎたのが、国沢光宏。

 その誤りを指摘しているのが、本項。
Posted by 管理人 at 2018年09月22日 07:42
まぁ、電機のセットアップ事業では珍しくない、自社製品のみに採用する部品を外注で開発させて、それを独自開発とする、そういうことかもしれません。
Posted by 作業員 at 2018年09月22日 09:29
 最後に 【 関連項目 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年09月22日 18:19
 日産はゴーン時代はコストカットが最優先で、単眼カメラ以外は商品化のメドがまったく立ちませんでした。
 研究開発は、多様にやっているでしょうけど、それが実用化されるかどうかは不明。

 ゴーンがやめたら、単眼カメラにこだわるのをやめる可能性は十分にある。本項は 2018年09月 の記事であり、ゴーン時代のものだから、今となっては方向性が違っているとも言える。

 私はゴーンのコストカット最優先の主義を批判してきたが、ゴーンはやめてしまったので、狙いは達成されたとも言える。
 今後の日産がどうなるかは、不明。

> NCAPの試験しだいでは将来的に入るでしょ。

 NCAPの試験が大幅に甘いのは駄目だ、と本サイトでは批判している。そっちと合わせて読みましょう。
Posted by 管理人 at 2019年05月06日 22:09
 研究の話をしているわけじゃない(日産の技術力が劣っていると批判しているんじゃない)んだが。
 商品化の方針で、「コストカット最優先の商品化」というのを批判しているんだが。

 あなた、人の話をまったく理解しないで、自己流のことばかり言っていますね。
Posted by 管理人 at 2019年05月06日 22:26
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