2018年09月12日

◆ 関東平野と火山灰層

 日本で最大の平野である関東平野は、いかにしてもたらされたか? 

  ※ 最後に 【 追記 】 あり。一部修正しています。


 ──

 そもそも日本の大部分は山岳地帯であって、平野部は小さい。狭い平野部というと、(津波被害のあった)三陸のリアス海岸のあたりが有名だ。ただ、そうでなくとも、日本ではたいていの海岸付近は同様で、平野部は小さい。(平地部とも言える。)

 ただし例外がある。関東平野はとても巨大だ。濃尾平野も、これに次ぐ。また、筑紫平野・佐賀平野、大阪平野、新潟平野も、続く。ただ、これらのほかには、大きな平野は少ない。(北海道はちょっと事情が違うので、平野部とは呼ばないことにする。)

 さて。ここで疑問が生じる。日本の大部分のところでは平野が小さいのに、関東平野だけは巨大だ。どうして関東平野だけがこれほど巨大になれたのか? いったい何が、関東平野という巨大な平野をもたらしたのか? 

 ──

 この疑問の答えとして、すぐに思い浮かぶのは、こうだ。
 「この巨大な平野をもたらしたのは、火山灰である。富士山その他による莫大な火山灰が関東平野をもたらした」

 この仮説の当否を調べるために、「関東ローム層」という概念を手がかりとして、ネットで検索すると、この仮説はおおむね正しいとわかる。(以下、要約して示す。)

 まずは、地層を見るといい。すると、関東ローム層というものが見つかる。これは火山灰によってもたらされた地層であって、大きな厚みをなしている。大部分は火山灰による赤土だが、最上部だけは有機物を含む黒土となっている。
 赤土の部分は、数度の噴火によって、数度のローム層ができている。こうして火山灰の堆積で地層ができた。
 
 ただし関東平野のうち、高い部分(丘陵部)と、低い部分(低地部)とは、成り立ちが違う。
 低い部分は、沖積平野である。上流から川によって運ばれてきた水が、海の浅瀬に堆積したあとで、海底が隆起することで、広い平野部となった。
 高い部分は、より古い沖積平野である。成り立ちは低い部分と似ているが、その堆積の時期がずっと古いので、何度も隆起を重ねて、いっそう高い位置となって、現在では丘陵部となっている。
 高いところほど、古い沖積平野だが、かなり高くなると、丘陵部が崩れてしまっているので、原型がわかりにくくなってしまっている。
 ともあれ、関東平野の大部分は、高い丘陵部も、低い平地部も、ともに火山灰が堆積してできた沖積平野である。
 これらの火山灰をもたらしたのは、富士山や浅間山など、本州の中央部にある巨大火山である。ここから大量に噴出した火山灰が、火山を中心とした数百キロの土地に拡散した。そのあと、山から川を経て流れていったり、山から風で飛ばされたりして、低い土地に移動していった。こうして沖積平野としての関東平野ができた。
 火山灰の多くは東側に行ったので、富士山や浅間山の東に巨大な平野ができた。これが関東平野だ。
  → 関東ローム (土壌) - Wikipedia
  → 関東ローム層と関東平野(PDF)
  → 過去40 万年間の関東平野の地形発達史(PDF)

 同様のことは、他の平野にもあてはまる。筑紫平野・佐賀平野は、九州にあるいくつかの火山の火山灰からもたらされた。火山は阿蘇山・雲仙・桜島など。さらに、鬼界カルデラ もある。
 新潟平野(越後平野)は、(あまり有名でないが)沼沢火山からもたらされた。( → Wikipedia

 北海道の場合は、火山灰が川で運ばれて堆積したというわけではないのだが、もともとある平野部に火山灰がたくさん堆積したと言っていいだろう。(火山灰が堆積して平野部になったのではなく、もともとあった平野部に火山灰が堆積した。) なお、北海道の火山というと、昭和新山が有名だが、歴史上には他にもいくつか大きな火山が見られる。これらのせいで、北海道の全域が火山灰の影響を帯びている。( → 出典 PDF

 大阪平野はちょっと例外で、このあたりは瀬戸内海の一部としての浅瀬があったので、そこに河川からの土砂が堆積していった。その上で、人工的に干拓や埋め立てによって平野部が形成された。( → Wikipedia





 以上で示したように、(大阪平野を除いて)日本の平野のほとんどは火山灰の堆積した土地であると言っていいだろう。
 そういうわけであるから、台風が吹いたあとで巨大地震に見舞われば、丈夫そうに見えた山が一挙に崩れるということがあっても不思議ではないのだ。日本中のほとんどの山がそういうふうになる可能性・危険性があると言える。

( ※ 本州の中央部の山々も同様だ。これらの山々の上層・表層には、火山灰が厚く堆積していると見ていい。例外もあるが。)



 [ 付記 ]
 どうしてこうなったかといえば、プレートテクトニクスを考えるとわかる。
 太平洋側にある巨大なプレートが、大陸との境界付近で、大陸の下にもぐりこむ。このとき、プレートがしわ寄って、山脈を生み出す。これが日本列島だ。
 したがって日本列島は本来は険峻な山脈ばかりである。それも、比較的新しいものだ。(この点では、太古の時代から平野部があって、ほとんど変化していない欧州や米国などとは、まったく違う。日本列島は比較的新しく生じたものだ。)
 そして、この日本列島は、シワのようにして生まれたものだから、断面図は  のような形になっており、もともと平野部はない。(山から海へ、すとんと落ちる。)
 ところが、巨大なプレートがもぐりこむことの副作用で、火山活動も活発になる。かくて、噴火が起こり、莫大な火山灰が日本列島に降りかかる。この莫大な火山灰が、川で運ばれたり、風で運ばれたりして、川の下流に大きな平野をもたらす。……こうしてできたのが、関東平野だ。新潟平野と、濃尾平野と、筑紫平野・佐賀平野も同様だ。
 一方、そういうことがなかった地域もある。東北がそうだし、紀州や四国もそうだ。これらの土地は、険峻な山地だけがあって、平野部はほとんどない。(浅瀬である瀬戸内海沿岸を除く。)
 これらの土地は、日本の中心部からは外れているせいもあって、そばに巨大火山がない。そのせいで、莫大な火山灰をもらうこともできなかった。だから、巨大な平野部がない。

 直感的にわかりやすく言えば、関東平野という巨大な平野があるのは、(巨大火山である)富士山のおかげなのである。本来ならば険峻な山地ばかりがあるはずの日本列島で、巨大な平野部ができて、農耕や工業が発達することができたのは、富士山のおかげなのである。富士山がもたらしたものは、ただの美しい自然の情景だけではなかったのだ。

( ※ こういう地学的な真実を知らないと、大きな山を見て、「この山は太古の昔からずっと不変に存在していたのだ」と思い込んで、「この山が崩れるはずがない」と思い込む。しかしそれは大いなる誤解なのだ。日本列島そのものが比較的新しく作られたものであって、決して不変のものではないのだ。……そう理解して、山というものの壊れやすさを警戒するべきなのだ。)

 参考記事:
 日本列島もそれ全体として、中生代から新生代にかけて形成された褶曲山脈とみなされている。
( → 褶曲山脈(シュウキョクサンミャク)とは - コトバンク




 【 関連項目 】

 農業の視点から、関東ローム層について論じたことがある。関東ローム層の成り立ちについても論じている。
  → 農業と関東ローム層:  nando ブログ



 【 追記 】
 コメント欄で指摘されたが、関東平野の成り立ちには、構造的要因がある。火山灰が堆積する以前に、この領域に広大な平地 or 窪地ができていた。これを構造盆地という。
  → 構造盆地 - Wikipedia

 関東平野に大量の火山灰が堆積した、という本項の趣旨自体は間違っていないのだが、「巨大な関東平野はどうしてできたのか?」という最初の疑問については、「火山灰が堆積したから」というだけでは不十分であり、その前に、「もともと構造的要因で巨大な構造盆地があったから」と答えるのが正しい。
 その意味で、本項の元の記述は、不正確だった。該当箇所をいちいち書き直すという形にはせず、最後にここで加筆する形で、修正しておきます。
 
posted by 管理人 at 23:57 | Comment(5) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
関東平野が巨大なのは構造盆地(大地形)だから。年間0.7mmの単位で、岩盤の中心(千葉市の直下!)が沈下し、周辺が隆起している。その結果、直径80km深さ2kmのすり鉢状の地形ができた。

このすり鉢に、河川によって運ばれた堆積物が(いちばん厚いところで)1.87kmの厚さで堆積し、その上に(同)130mの火山灰=関東ローム層が載っている。沖積層はその上に10mくらいの厚さで載っている。

関東平野が火山活動でできたとするのは、地質学上の非常識!w
Posted by 王子のきつね at 2018年09月13日 11:18
【訂正】

すり鉢状の地形の深さを2kmと書いたが、深さ2kmの上総層群の下に中新世層(堆積物)が深さ3kmまであることはわかっているが、底が何kmまでなのかはわかっていないようだ。
Posted by 王子のきつね at 2018年09月13日 11:43
 王子のきつね さん、ご指摘ありがとうございます。
 これを受けて、最後に加筆しておきました。修正の記述。
 また、途中の一段落に取り消し線を入れておきました。(灰色部分)
Posted by 管理人 at 2018年09月13日 12:46
管理人さん
> 関東平野に大量の火山灰が堆積した、という本項の趣旨自体は間違っていないのだが、「巨大な関東平野はどうしてできたのか?」という最初の疑問については、「火山灰が堆積したから」というだけでは不十分であり、その前に、「もともと構造的要因で巨大な構造盆地があったから」と答えるのが正しい。

王子のきつねさんが言うことは、「火山灰などなくても関東平野はできていた」という内容なので、『火山灰が堆積したから」というだけでは不十分であり』という訂正後の記述も誤りです。
「不十分」ではなくて、そもそも火山灰(ここでは関東ローム層だけが話題に登っています)があろうがなかろうが、関東平野はそこにあったのです。関東にはローム層があるものの、火山灰が平地になる必要条件では無かったということでしょう。

< https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/11/pdf/11_2_2.pdf >によれば、東京でのローム層の厚みは3mほどです。武蔵野台地は海抜20m以上あるので「武蔵野台地が関東ローム層のおかげで海面上にある」とするのは変でしょう。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年09月16日 21:35
 昔の関東平野は現在よりもはるかに小さいものであり、今のような規模の関東平野はありませんでした。大量の堆積があって初めて、浅瀬が埋められて、現代に見るような広大な関東平野ができました。
 詳しくは PDF の図を見てください。

 ──

> 東京でのローム層の厚みは3mほどです

 そんな馬鹿な……と思って見てみたら、たくさんあるローム層のうちの、最上層の厚さが 3m というだけです。
 比喩で言えば、何十枚も重ねた紙のうち、一番上の紙の厚さが 0.3mm だった、というようなもの。
 数え方を間違えている。
Posted by 管理人 at 2018年09月16日 22:12
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