2018年09月10日

◆ 全域停電の回避システム

 北海道では地震で苫東厚真発電所が止まったとにともなって、全域停電(ブラックアウト)という問題が発生した。この再発を防ぐ方法を示す。

 ※ 最後の 【 追記 】 で、内容をいくらか修正しています。


 ──

 全域停電を避けることは可能か? 可能だ。基本的な原理は、「送電網を分離・独立する」ということだ。つまり、送電網を一体化しないで、いくつかに分割することで、広域での一斉停電を回避する。
 とはいえ、このことは、二律背反的だ。というのは、広域で電力網を一括運用すると、電力の安定では有利だからだ。特に、小規模の変動に対しては、大規模な電力網が、安定化に役立つ。

 そこで、理想的な方法は、こうだ。
 「普段は広域で運用するが、発電所が止まったときに限り、電力網を分離・独立する」

 これはつまり、システムを可変的にするということだ。では、そんなうまいことは、可能だろうか? 直感的には、不可能だと思える。しかし、うまい方法を使えば、可能となりそうだ。
 
 ここで、次の箴言(しんげん)がある。
  ・ 高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
  ・ 可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。
( → クラークの三法則 - Wikipedia

 専門家が「不可能だ」と言ったことは、しばしば誤りとなる。それが誤りであることを示すには、それが実際に可能であることを示せばいい。科学の歴史は「不可能」を「可能」にすることの連続だった。それをなぞればいいのだ。

 電力網を「一体的運用」と「分離独立」とで切り替えることは、可能か? 可能である。
 それには、次の原理を取る。
 「送電網から需要を切り離す」

 供給が急激に失われたときには、(需給の不均衡を避けるために、)同等量の需要を送電網から切り離せばいい。たとえば、165万kW の供給が失われたときには、165万kW の需要を送電網から切り離せばいい。これによって、需給の均衡が保たれるので、ブラックアウトを避けることができる。

 では、同等量の需要を送電網から切り離すには、どうすればいいか? ここで、うまい手を使う。うまい手とは、次のことを利用するものだ。
 「情報の伝達はとても速いが、電流の速度は遅い」

 情報の伝達とは、光ファイバーを通る光でなされるので、ほぼ光速である。(正確には屈折率の分だけ遅くなるが、ほぼ光速である。)
 一方、電流の速度は、銅線を通る電子の速度だ。これは光速に比べて、圧倒的に遅い。低電圧ではメチャクチャに遅いが、27万ボルトという高圧線の電圧でも光よりはずっと遅い。( ※ 最後の 【 追記 】 で修正。)
したがって、この両者の速度の差を利用して、次のことが可能になる。
 「発電所の電力供給の変動が、送電網の別の場所にとどくまでに、光ファイバーの情報伝達によって、需要側の回線を送電網から遮断する」


 具体的に言えば、両者の速度差から、 0.01秒ぐらいの時間的な余裕が生まれそうなので、その時間的な余裕を使って、はかかりそうだ。そこで、速度差を利用して、需要側の回線を送電網から遮断するのだ。

 以上のようにして、全域停電(ブラックアウト)を回避できる。



 【 補説 】
 もっと具体的な話もしよう。(細かな話なので、面倒臭くなる。理系の技術者以外は、読まなくていい。)

 まず、電力網は、に掲げた朝日新聞の図がある。


hokuden2.jpg
出典:朝日新聞


 ここで、苫東厚真の 165万kW の供給が失われたら、165万kW の需要を送電網から切り離せばいい。
 では、どこを切り離すか? 切り離す場所を考えるよりは、残すべき場所を考える方がいい。残すべき場所は、他の発電所がある場所だ。
 逆に言えば、他の発電所がない地域は、切り離すしかない。図で該当するのは、苫東厚真よりも東の地域だ。これらは代替となる発電所から遠いからだ。また、送電網も、地震にともなって寸断されている可能性が高い。(鉄塔の倒壊などで。)
 したがって、苫東厚真よりも東の地域は、最優先で切り離される。
 次に、札幌の東側の地域も、震源に近くて、送電網が寸断されている可能性が高いので、これらの地域も切り離される。
 以上によって、165万kW の需要を遮断する。
 残るのは、他の発電所からの電力供給を受けられる地域だけだ。(札幌の中心部や西側など。)

 では、きっちり 165万kW の需要を遮断するには、どうすればいいか? 送電網のあちこち(各地)に、遮断ポイントを用意しておけばいい。そして、遮断する量の合計量がきっちり 165万kW になるように、うまく遮断ポイントを調整すればいい。
 これらの調整は、あらかじめプログラムしておくことで、自動的に作業がなされる。常時、各発電所の発電量を測定しておくことで、「この発電所が止まったときには、どれだけの遮断量が必要で、どこの遮断ポイントを操作すればいいか」ということが、自動的に得られるようになる。その後は、その判定に従って、光ファイバーで送られた情報に従って、各地の遮断ポイントで遮断システムが働く。(かくて大量の需要が切り離される。)
 このためにかかる時間は、0.01秒ぐらいか。その時間が、電力変動が別の発電所に届くまでの時間よりも短ければ、ブラックアウトは回避できる。

 なお、現実には、発電機が止まることは瞬間的には生じない。タービンには慣性力が働くから、タービンが停止して発電量がゼロになるまでには、0.1秒ぐらいの時間がかかるだろう。かなり長い時間だ。( 0.01秒の 10倍だ。)
 それだけの十分な時間があるので、需要の側を切り離すという作業は、余裕綽々で完遂できるだろう。このことで、生き残った他の電力網は、他の発電所の電力供給を受けながら、生き残ることができる。
( ※ たぶん、北海道の東半分と、札幌の東側半分ぐらいの地域だけが停電となって、他の地域は停電を免れるだろう。)

 なお、上の話はあくまでモデル的なシミュレーションなので、現実には、別解も考えられる。現実にどうなるかは、また別の話。
 本項は基本的な考え方を示すに留める。最後の話はあくまで例示である。



 【 追記 】
 「電流の速度が遅い」(電子の流れる速度は遅い)
 と記したが、実は、これはあまり関係なかった。というのは、電子の速度と、電子の情報の速度とは、一致しないからだ。この件は、下記項目で詳しく述べた。
  → 超球理論の基本原理: Open ブログ

 ここから転載すると、次の通り。
 比喩的に言おう。送電線の一端 A で電子を入れる。すると、百キロ離れた土地 B で電子が出る。

    A  → ━━━━━━━━━━━━━━━━━ →  B

 では、電子は A から B へと光速で移動したのか? いや、そんなことはない。送電線中の電子は、かなり遅い。電圧が低ければ、せいぜい人間が歩くぐらいの速度でしかない。とはいえ、Aで電子を入れてからBで電子が出るまでの伝達速度は、光速である。では、なぜ?
 このことは、水のホースのようなものだと考えればいい。仮にホースが空であれば、水を入れてから水が出るまでに、とても長い時間がかかる。しかし、ホースに水が入っていれば、水を入れてから水が出るまでは、ほとんど時間がかからない。なぜなら、入る水 と 出る水は異なるからだ。
 送電線の場合も同様だ。入る電子 と 出る電子とは異なる。だからこそ、電子は瞬間的に長距離を伝達する。(下図参照)

    → ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● → 

 というわけで、電子の情報の速度は、これもまた高速である。ただし、屈折率の分だけ遅くなる。光ファイバーの場合は、ガラスの屈折率が 1.5 弱ぐらいだ。一方、銅線中における電磁波の屈折率は、0.60 だ。
  → 屈折率データ
 おやおや。これに従えば、光ファイバーを伝わる光の方よりも、電線中の電子の情報の方が、高速に伝わることになる。ありゃりゃ。

 となると、「光ファイバーで先回りする」という方法は、使えないことになる。電線の電流の情報だけで判定することになる。
 しかしまあ、それも不可能ではあるまい。先に述べたように、タービンが遅くなる速度は、タービンの慣性に依存するので、瞬間的な変動ではない。0.1秒ぐらいの時間は十分にあるのだから、その時間のうちに、需要を遮断することはできる。

 ※ 具体的な方法は、ちょっと変わる(光ファイバーは使わない)ことになるが、基本的な方法は、すでに述べたとおりでいいだろう。

posted by 管理人 at 20:36| Comment(10) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
がっこうのべんきょうはたのしいかな?
きみはとてもこうこうのぶつりをよくべんきょうしているね。せんせいはかんしんしたよ。
でもね、でんせんにはいっぱいでんしがいるんだよ。ひとつのでんしがほっかいどうじゅうをたびしているわけではないんだ。
だからでんしひとつのいどうそくどとでんりゅうのそくどをこんどうしてはいけないんだね。
だいがくにはいったら「りょうしりきがく」をべんきょうしてそのつぎに「こたいぶつりがく」をべんきょうしようね。そうするとせんせいのいったことがよくわかるはずだよ。
だいがくにゅうしがんばってね!おうえんしているよ。
Posted by とおりがかり at 2018年09月10日 22:14
ちょっとはってんてきなおはなしもしておこう。
でんりゅうのそくどにかんけいしているのは「ていこう」ではなく「ゆうでんりつ」のほうなんだよ。
でんりゅうということばからあまりそうぞうがつかないかもしれないけど、あるしゅの「はどう」なんだ。この「はどう」をあらわすほうていしきが「マクスウェルのほうていしき」なんだな。
ベクトルかいせきというむずかしいすうがくをつかうとよこなみのほうていしきであることがわかる。
このしきをみると「ゆうでんりつ」がそくどにかんけいしていることがわかる。
でんせんいっぽんならじつをいうとあまり「ゆうでんりつ」はでんりゅうのそくどにかんけいしないけど、にほんのでんせんがならんでいたり、じめんとのかんけい(そう、ちきゅうもコンデンサとみることができる)をかんがえるとふくざつになってくるよ。

ちょっとむずかしすぎるはなしをしすぎたかもね。こんらんしてしまったかもしれない。せのびもだいじだけどきそをかためることをわすれないでくれ!がくもんのみちはいちにちにしてならずだ。
Posted by とおりがかり at 2018年09月10日 22:29
 とおりがかり さん、ご指摘ありがとうございます。その件は、知っていたけど、すっかり失念していました。そのせいで間違えてしまいました。

 修正する旨の話を、最後に 【 追記 】 で加筆しました。
 「光ファイバーで先回りする」という旨の話を削除することにしました。
Posted by 管理人 at 2018年09月10日 22:53
高圧送電の電路の遮断が秒以下で可能と本気で考えているのだろうか?
家庭のブレーカーを落とすのとは訳が違うのだが
Posted by 寿限無 at 2018年09月10日 23:26
ブログ主も、
>その件は、知っていたけど
というほどに基礎知識があるならば、インピーダンスがマッチングしている伝送系をいきなり遮断した場合、遮断する側の伝送系に発生する電圧変動に思いがいたらないはずが無いのだが
Posted by 寿限無 at 2018年09月10日 23:38
> 高圧送電の電路の遮断が秒以下で可能と本気で考えているのだろうか?

 遮断するだけなら、可能でしょう。方法はいろいろ考えられるが、手っ取り早い方法なら、高圧線を爆破すればいい。(ただしこれをやると、復活は面倒だ。)

 何らかの回路を特注で作れば大丈夫。1箇所に付き数億円で装置を作れば済む。特大のブレーカーですね。

> 電圧変動

 電圧変動はもちろん発生するでしょう。ただし、プラス側でなくマイナス側に働く限りは、問題ない。
 現実に、100%から0%へ激減しているんです。それよりもマシであるならば問題ない。
 プラス側に変動すると、ちょっとまずいが、100から 140に増えるぐらいなら、問題ない。どっちみちサインカーブはいつもそのくらいの幅で変動しているんだし。
 一時的にアースすれば、大きな変動は回避できるでしょう。
 また、途中に巨大コンデンサーや巨大ヒューズを入れれば、安全性はさらに高まる。そこまでやるかどうかは別問題だが。

 いずれにせよ、コストはかなり多額にかかるだろうが、技術的には十分に可能でしょう。

 ただし、「コストをかけずにやれるか」と言われたら、「できません」というしかないが。寿限無さんは、そういうサラリーマンの立場なのでしょう。しかし本項は、会社の立場で考えています。

 p.s.
 朝日の報道によると、今回、北電は本項の方法を一部で実施したという。ただし規模が小さかったので無効だった模様。
Posted by 管理人 at 2018年09月11日 06:20
 朝日の記事:

 ──

 北電は2基の停止後、ブラックアウトを避けるために一部地域の送電を強制的に止めるといった対応を取ったが、電力需給のバランスは回復しなかった、と説明している。
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13672433.html
Posted by 管理人 at 2018年09月11日 19:51
東京電力のように系統全体で40〜50GWもあれば、1発電所が脱落しても全体の数%ですみますが、北海道の電力系統の規模が4GW程度と比較的小さいことが、各発電所の系統全体に占める割合を大きくして対処を難しくしていると思います。
Posted by A列車で行こう at 2018年09月11日 23:11
 一部転載

> ( ※ 東電の場合は、その問題はない。一つの発電所がストップしたとしても、影響は大きくないだろう。もともと数多くの発電所があるからだ。たとえば、福島の発電所がいきなり止まったときも、東電の管内では全域停電は発生しなかった。)
  http://openblog.seesaa.net/article/461541173.html
Posted by 管理人 at 2018年09月11日 23:35
 朝日の記事:

 ──

 6日午前3時7分の地震発生直後、震源に近い苫東厚真火力発電所(厚真町)2号機と4号機が自動停止し、130万キロワット分の供給力が一気に失われた。すぐに本州側から60万キロワットの融通を受けたほか、北電が一部地域を強制的に停電して需要を減らす措置を取り、3時11分までに電力の需給バランスは回復したとみられるという。
 需給バランスが崩れたままだと、各地の発電所の機器が故障を防ぐために自動停止し、大停電につながる。これを防ぐための措置が地震直後に一時的に機能したもようだ。
 だが、この後に再び均衡が崩れ、午前3時25分、苫東厚真1号機を含め道内の火力発電所などが停止してブラックアウトした。

 https://www.asahi.com/articles/ASL9C4V8JL9CULFA01L.html?iref=pc_ss_date
Posted by 管理人 at 2018年09月12日 07:52
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