2018年08月26日

◆ 送電線の空き容量の誤解

 送電線の空き容量については、世間で間違った理解が広がっているので、指摘する。
 
 ──
 
 朝日新聞社説に、「再生可能エネルギーを増やせ」という主張があった。そこでは送電線の空き容量の問題が指摘されている。
 太陽光や風力などの再生可能エネルギーの「主力化」をめざす――。政府が7月に決めた新たなエネルギー基本計画に、そんな方針が盛り込まれた。
 4年ぶりに改定された今回の計画は「再エネの大量導入と経済的に自立した主力電源化に向け、課題に正面から取り組まなければならない」とうたった。
 真っ先に取り組むべきは、再エネの締め出しにつながっている送電線網の制約の解消だ。設備を持つ電力大手が「空き容量不足」と説明し、再エネの発電事業者が開発に二の足を踏むケースが目立っている。
 実際には、トラブル時に備えて空けてある分など、送電容量に余力があり、経済産業省と電力業界が運用方法の改善を検討している。今ある設備を最大限活用するため、透明で公平なルールづくりが待ったなしだ。
( → (社説)再生可能エネルギー 「主力化」へ挑戦の時だ:朝日新聞デジタル

 これはどういうことかというと、送電線に流せる最大量に比べて、実際に流れる量は2割程度であるにすぎないからだ。大部分は無駄に空いている。これではいかにも無駄だ、と思える。そう指摘した記事もある。
 風力や太陽光発電などの導入のカギを握る基幹送電線の利用率が、大手電力10社の平均で 19.4%にとどまると、京都大学再生可能エネルギー経済学講座の安田陽・特任教授が分析した。
( → 基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均:朝日新聞 2018年1月28日

 これに対して、はてなブックマークでは批判がある。
 「平均値で見るのではなく、ピーク値で見るべきだ。ピーク値で超えないようにすることが大切だ」
 という趣旨。
  → はてなブックマーク - 基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均:朝日新聞デジタル

 いかにももっともだが、それは誤読である。ここでいう「平均」とは、「10社の平均値」だって、各社における数値はもともとピーク値だ。10社のピーク値について、10社の平均を見ると、2割ぐらいだ、と言っているだけだ。実際の数値は、12%から 27%までばらついている。それらの 10社の平均が2割程度だ、というだけだ。

 ──

 さて。はてなの誤読はさておき、電力会社の側は、別の形で反論する。
 送電網をもつ会社は、「事故のための予備に 50% を確保しておかなくてはならないので、空き容量が出るのはやむを得ない」と主張する。そして、その 50%を予備分として除外した上で、「全体の 50%を最大使用可能量と見なして、50%のうち相当多数を利用しているから、悪くはない」というふうに主張する。たとえば、次の解説記事。
 大手電力会社は、電力の安定供給の確保を目的に設立された電力広域的運営推進機関が定めた業務指針に基づき、送電線を運用している。指針は「最も過酷」な状況を前提にしており、送電線の1本が切断などで使えなくても、もう1本の送電線に切り替えて供給できるようにする必要がある。つまり、送電線の容量の50%を空けておかなければならないルールになっている。欧米各国も同様のルールで運用している。
 また、電力の需要がピークとなる時間帯も50%の空き容量を確保する必要があり、使用量が少ない夜間は空きが拡大し、平均すると送電線の利用率は大幅に低下することになる。未稼働の発電所の稼働も想定し、十分な空き容量を確保できるよう運用していることも平均利用率を低下させる要因になっている。
 大手電力各社の基幹送電線の平均利用率は1〜3割にとどまるとみられている。ただ、ピーク時にも50%の予備を確保しなければならないことを考慮すると、新たに再エネの電力を受け入れる余地はなく、「空き容量ゼロ」となる。
( → 送電線の「空き容量」広がる誤解 再エネ事業者不満 経産省はルール見直し検討 - SankeiBiz

 電力会社の側は、次のように主張する。
 送電線の空き容量は運用容量の枠内で算定する。現状は、連系済みと連系を予約している電源全ての最大潮流を想定し、まだ流せる容量があれば空き容量が存在し、なければ空き容量はゼロと評価する。
 年間平均の潮流実績を基に空き容量を算定して新規電源の連系を認めていくと、もともと連系している電源が最大出力で発電した場合に運用容量を超えて、落雷時などに停電になる恐れも高まる。広域機関の事務局は、評価結果を示した14日の広域系統整備委員会(委員長=古城誠・上智大学教授)で「空き容量は年間平均の潮流ではなく、最大潮流で評価することが適切だ」と話した。
( → 空き容量ゼロの送電線、最大利用率は8割超す。広域機関が評価 | 電気新聞

 以上の主張は、いかにももっともらしいので、「なるほど」と思う人が多いようだ。また、電力会社の側自身も、自分が正しいことを言っていると思っているようだ。そこで私が間違いを指摘する。

 ──

 「落雷などの電力事故に備えて、回線を複数用意しておく」
 という方針は、正しい。
 従って、事故に備えて、普段の回線の利用率が 50% 以下になるというのも、正しい。
 ここまでは、電力会社の側の主張は正しい。問題は、そのあとだ。
 「だから再生エネ業者の利用を拒否する」
 というのは、正しくない。なぜか? 再生エネ業者の利用を拒否しても、拒否しなくても、落雷事故への対策にはまったく影響しないからだ。

 電力会社の側の主張が成立するには、次のことが必要だ。
 「再生エネ業者の利用を認めると、落雷事故が起こったときに、回線の利用率が 100% を超えてしまうことがある」

 しかし、このようなことはありえないのだ。なぜか? 再生エネ業者の電力量は、単純に追加されるのではないからだ。再生エネ業者の電力量が増えた分、電力会社の電力量は減る。両社の合計は、電力の需要によって決まるのであって、電力の供給によって決まるのではないのだ。

 モデルで示そう。

      30 ______________
   電力会社               需要家
       0  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   再生エネ
      20

 電力会社の側には、最大量 50の回線が二つある。合計して 100を流せる。
 普段は電力会社は 30 の電力を流す。残りの 70 は空いている。
 回線の一つが落雷や切断で故障すると、回線はもうひとつの 50だけが生き残る。ここに 30 を流すので、回線は安定して運用できる。
 万一、真夏のさなかに、需要が大幅に増えたとしても、電力会社は 50を供給して、需要家は 50を受け取る。電力は安定して運用できる。(事故時にはギリギリであるが。)

 ここで、再生エネ業者が参入すると、どうなるか? 電力会社の主張だと、こうだ。
 普段は、電力会社の 30 と再生エネ業者の 20 で、合計して 50 の量が流れる。100に対して、50だが、とりあえずは安定して運用される。
 しかし、いざ落雷や切断などの事故があると、回線の最大容量は 100から 50に半減する。一方で、供給は電力会社の 30 と再生エネ業者の 20 で、合計して 50 の量があるから、満杯だ。ちょっとでも電力量が増えると、たちまち破綻して、全面的な大停電が発生する。これは大変危険だ。

 ……というのが、電力会社の主張だ。
 しかし、これは成立しない。なぜなら、再生エネ業者の 20 が増えたなら、その分、電力会社の電力は 30から 10に 減少するからだ。
 回線を流れる電力の量は、供給側の供給可能量によって決まるのではなく、需要側の需要量によって決まる。再生エネ業者が参入して、20 を供給するようになったとしても、需要が 20 増えるわけではない。再生エネ業者で 20 増えた分、電力会社の側で 20減るから、流れる量は同じなのである。

 ──

 結局、「事故に備えて回線を二重化する」ということ自体は正しいし、そのせいで「平均利用率が 50% を割る」ということも正しいのだが、だからといって、「再生エネ業者の利用を制限する」というのは正しくないのだ。
 制限するべきは、再生エネ業者の利用量ではなく、「電力会社と再生エネ業者の合計発電量」だ。この合計発電量が 50% を割るようにすればいいのであって、「再生エネ業者の利用を制限する」というのは、意味をなさないのである。
 どちらかと言えば、「再生エネ業者の利用を制限するかわりに、電力会社の利用を制限する」という方がいい。
 電力会社が「事故に備えて、再生エネ業者の利用を制限する」なんて主張したら、「事故に備えて、電力会社の利用を制限する」というふうにすればいいのだ。

 そして、そのためには、「発電と送電を分離する」という「発送分離」を実現すればいい。
 そのとき、「事故に備えて、電力会社の利用を制限する」というふうにして、「空き容量の確保が必要だから、電力会社には送電線の利用を禁じる」というふうに言い渡せばいい。
 そのときようやく、電力会社は自分の主張の誤りを理解するだろう。そして、真相を理解するだろう。
 「事故に備えて、電力会社と再生エネ業者の供給量の合計量を制限するべきだ。それが正解だ」
 と。さらには、次のようにわかるはずだ。
 「いちいち合計供給量を制限する措置を取らなくても、通常、需要の側から量が絞られるので、合計供給量は自動的に制限される。ゆえに、供給側は何もしなくても大丈夫。心配不要」

 こんなこともわからないで、デタラメなことを主張するのだから、電力会社というのは、アホぞろいだと言える。



 [ 付記1 ]
 実は、アホではなくて、故意に嘘をついて、だましている可能性がある。なぜなら、そうやって再生エネ業者の参入を拒否することで、電力会社は利益を得るからだ。(ライバル業者の売上げ増加を阻止して、シェアを守るわけ。)
 この件は、前に指摘したとおり。
  → 送電線の利用率: Open ブログ

 この場合、電力会社はアホではないが、詐欺師である。嘘をついて、国民をだまして、他社の権利と金を奪うからだ。
 こういう詐欺師の嘘にだまされてはいけない、というのが、本項の趣旨だ。

 [ 付記2 ]
 再生エネの電力を参入させるには、「発送分離」が必要である。
 このことは、本文中でも示唆されたが、より強力な形で、根拠を示したことがある。下記だ。
  → 発送分離と電力安定化: Open ブログ

 再生エネの電力の安定化のためには、東日本・西日本のそれぞれで、電力網を大きく統合する必要がある。それには発送分離が必要だ。
 たとえば西日本では、中部電力、北陸電力、関西電力、四国電力、中国電力、九州電力などの送電網が統一される必要がある。この全体で電力供給の安定性を保つ。その際、再生エネの電力の変動を吸収するのは、上記各社の火力のほか、独立系の発電業者の電力もある。これらの全体を、送電網全体で吸収するわけだ。
 再生エネの水深のためには、発送分離こそ大切なのである。朝日の社説は、送電線の空き容量のことを話題にしたが、その問題の本質は、「発送分離を推進せよ」ということだ。

 そして、それができていないせいで、現状では電力業者のデタラメが「真実」と見なされて、出回っているのである。声のでかさのせいで、嘘がまかり通り、真実が隠蔽されているわけだ。
 こういう状況を是正して、真実をひろめるためにも、発送分離は必要となる。

 [ 付記3 ]
  ※ 以下は、細かな話なので、読まなくてもいい。

     それでもまだ性懲りもなく、反論があるかもしれない。次のように。
     「再生エネ発電の経路と、火力発電の経路は、異なる。再生エネ発電の発電所は地方にあるので、長距離の電送が必要であり、送電線を多く占めてしまう。だから、同じ発電量でも、送電線を使う率が高い。この状況で、もし落雷や切断などの事故が起これば、大停電の問題が起こりそうだ」

     なるほど。そういうことは、(頻度は低いが)あるかもしれない。しかし、それは頻度が低いのだから、そうなったあとで対処すればいい。次のように。
     「普段は再生エネの発電を利用する。そのせいで、送電網の利用率が 55%ぐらいになるかもしれない。この状態で送電線が使えなくなると、まずい。
     しかし、そうなったら、そのときには発電所の方を変更すればいいのだ。再生エネ発電から、火力発電へ。……こうすれば、送電線の使用率が少なくなるので、50%以下に下げることができる」
     こうして問題は解決する。

     ただし、それでもまだ、文句を言う人がいるかもしれない。次のように。
     「全体の 50% を、いきなり再生エネから火力発電に変更することはできない。50%でなく 30%でも同様だ。火力発電は瞬時に立ち上がることはできない」
     しかし、この心配も無用だ。なぜなら、どこかの送電線が落雷ないし切断で使用不可能となったとしても、いきなり全体の 50%も低下することはないからだ。先に示した 50%というのは、特定の経路で「二重化されている」というだけのことだ。一方、送電線の回路は、(網の目のように)多重化されているので、どこかが切断しても、電力は迂回して送電することが可能となっている。だから、特定の線が 50% ダウンしても、全体が 50% ダウンすることはないのだ。
     というわけで、心配不要。


posted by 管理人 at 12:47| Comment(3) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 付記2 ] を加筆しました。発送分離の話。かなり重要な話です。本質的なことを示す。
Posted by 管理人 at 2018年08月26日 16:48
 最後に [ 付記3 ] を加筆しました。
 細かな話なので、読まなくてもいいです。
Posted by 管理人 at 2018年08月26日 20:09
素人的には
電力使用量が今のままなら
再生を増やせば化石燃料発電を減らせるから
全体の使用量は変わらないと思うけど
違うんかいな
EV化などで全体に増えていくなら
送電網も増強する必要があるのでは?
要は将来的に使用量が増える分を
自分たちで確保したいから
いろいろ言い訳してるんでしょ
Posted by 老人 at 2018年08月27日 05:26
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