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Amazon の税逃れが話題になっている。
インターネット通販大手の米アマゾンといった世界展開するIT企業から、先進各国の国税当局が思うように法人税を徴収できずに頭を抱えている。各国の税制の違いなどを利用した企業の節税策に、打つ手がないからだ。
日本の国税関係者によると、米アマゾンはこの一連の販売システムが知的財産にあたるとして、日本法人から多額の「使用料」を受け取っている。
これで課税対象となる日本法人の所得が圧縮され、法人税額が大きく減っている。「もうけの多くが知的財産の使用料として持っていかれている」(国税関係者)という。日米租税条約で米国企業に支払われる知的財産の使用料に課税できない決まりもあり、当局に打つ手がないのが実情だ。
( → IT外資の法人税に苦戦 アマゾン日本法人は11億円:朝日新聞 2018年8月20日 )
なるほど。Amazon は「知的財産の使用料」という名目で、利益を米国に移転する。こうして日本での法人税の納税を回避するわけだ。
「日本で納税しなくても、米国で納税するなら、同じことだろ」
と思うかもしれないが、さにあらず。米国でも納税していない。なぜなら米国では、
「過剰に投資することで、利益をゼロにまで圧縮する」
という形で、法人税の支払いを免れるからだ。(利益がゼロなら法人税もゼロ。)
詳しくは下記。
→ Amazonは最大のハックである「税ハック」と日本のソフトウェア産業の競争優位|決算が読めるようになるノート
これが日本なら、たとえ投資したとしても、そのうちの一部しか税控除の対象にならないから、ある程度は法人税の納税が必要となる。ところが米国では、「投資した分は法人税の納税がゼロ」という制度になっているから、納税を回避できるのだ。
比喩的に言うと、「個人が給料をもらう」と、所得税を支払う必要があるのだが、「個人が給料をもらったあとで、アパートの不動産を購入すると、その分、所得税の支払いを免除されるので、うまくやれば所得税の納税がゼロで済む」というようなものだ。つまり、現金のかわりに不動産で給料をもらうと、所得税の納税がゼロで済む、というようなものだ。こうやって納税を回避するわけだ。
こういうインチキみたいな節税は、日本では成立しないが、米国では(企業では)成立するらしい。かくて Amazon は法人税の納税を免れる。
それでもって、冒頭記事のように、各国政府は頭にきているわけだ。「道路建設などのインフラに莫大な国家費用を投じているのに、Amazonは高コストなインフラにタダ乗りしている。これじゃ無銭飲食か無賃乗車みたいなものだ。泥棒同然だ」というわけだ。
だが、それにもかかわらず、「打つ手がない」という。困った。
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「標準的な利益率を5%、標準的な法人税率を 40% と見なすと、5% の 40% は 2%だ。したがって、売上げの 2% に相当する額を、強制的に徴収すればいい。(法人税のかわりに)」
具体的な手順はこうだ。
・ 「ネット取引税」を創設する。売上げの2% に課税。
(消費税と同時に徴収する。手間はいっしょ。)
・ 法人税を払った企業には、上記の納入額を減免する。
後者が重要だ。このことで、普通の企業は、増税を実質的に免れる。(税を払わない企業だけに課税される。)
例1。
Amazonで買うと、100円の品物に、消費税が 8%で、ネット取引税が2% で、合計 10% の課税。消費者は 110円を払う。
Amazonはそれで集めた額を納税する。その後、Amazon は法人税を 11億円払っているので、11億円を国から還付してもらえる。
アマゾン日本事業の売上高は約1.3兆円( → 出典 )なので、1.3兆円の約2%にあたる 250億円ぐらいを納税してから、11億円を還付してもらうことになる。約 240億円の損。
例2。
(楽天ショップみたいな)普通のネット企業で買うと、消費者は同様だ。100円の品物に、消費税が 8%で、ネット取引税が2% で、合計 10% の課税。消費者は 110円を払う。
その後は、違う。普通の日本企業は、売上高の 5%程度の利益率で、そこに 40%ぐらいの法人税がかかる。そして、法人税で払った分は、そのまま還付してもらえる。ネット取引税の納税額と、法人税の納税額が、どちらも同じぐらいであれば、特に納税額が増えることにはならない。
例3。
ヨドバシカメラだとどうか? 7000億円ぐらいの売上げで、500億円ぐらいの利益がある。非常に高い利益率だ。こうなると、ネット取引税の納税額よりも、法人税の納税額の方が大きい。そして、後者の額は、還付してもらえる。となると、ネット取引税の納税額よりも、還付してもらえる額の方が大きくなる。
ヨドバシカメラの詳細は不明だが、ざっと 500億円の 36%にあたる 180億円の法人税だと見なすこともできる。その分が還付される。一方、ネット取引税は、7000億円の2%だから、140億円。まとめると、増税額が 140億円で、還付額が 180億円だから、差し引きして 40億円の得。たくさん納税する企業だと、こんなに得をするわけだ。
対比すると、
・ Amazon …… 新たに 240億円を納税する
・ ヨドバシ …… 40億円を還付してもらえる
税のがれをする会社は損をして、正直に納税する会社は得をするわけだ。こうして、税逃れを阻止する。
※ 還付する額は、上記の例では法人税の 100% だ。
しかし実際には、80〜90% ぐらいが妥当だろう。
うまく調整することが望まれる。
[ 付記 ]
この制度を実施すると、結果的にどうなるか?
Amazonは、2%の課税がなされるので、売値を2%上げざるを得なくなる。その分、シェアが下がる。
普通のネット商店は、損得なしなので、別に何も変わらない。売値も変わらず、シェアも変わらない。
ヨドバシカメラのような高収益の会社は、(もともと多額の納税をしてるせいで)税金の還付額の方が大きくなる。ゆえに、現状よりも値下げできる。そして、値下げすることで、シェアが増える。
なお、ネット販売をしない一般企業は、もともと課税対象外なので、何の影響もない。本項(ネット取引税)は、あくまで、ネット販売をする企業だけが対象だ。
※ 全商品が対象である消費税とは異なる。
※ 徴収の事務は、消費税といっしょなので、手間は増えない。
(1) 単に追加だと、増税になってしまう。
(2) 外形標準課税を3割〜5割導入して、その分、法人税を下げる、という案もあるが、これだと中途半端。たとえば、Amazonばかりが得をするという状況は、程度が下がるだけであって、根本解決にはならない。比喩で言うと、脱税の額が半減するだけであって、脱税を止められない。
(3) 法人税を廃止すると、税による景気調整機構が働かなくなるし、不公平感が強い。
(4) そもそも消費税(売上げ比例税)の方が妥当性が高い。どうせなら消費税を上げる方がマシ。
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Amazonみたいな一部企業だけが問題なのに、他の多くの企業がとばっちりを受けるのは、割が合わないでしょう。
江戸の仇を長崎で討とうとしても、長崎にとばっちりが行くだけで、江戸には何の影響もありません。