2018年08月20日

◆ ネアンデルタール人の脳

 ネアンデルタール人の脳について、新たな知見が得られた。ネアンデルタール人の小脳は、ホモ・サピエンスの小脳よりも未発達だという。
 
 ──
 
 これはちょっと古い話で、5月の情報だ。下記にある。
 約3万年前に絶滅したネアンデルタール人は、初期の現生人類(ホモ・サピエンス)よりも小脳が小さかったことを、慶応大や名古屋大などの研究チームが化石の分析で解明した。
 コンピューター断層撮影(CT)のデータから大脳や小脳の形を立体的に解析。大脳に対する小脳の容積比は、現生人類の平均13.5%に対し、ネアンデルタール人は同12.7%と小さかった。
 脳の後方の下部に位置する小脳は主に運動能力を担うが、現代人を対象とした近年の研究で、大きいほど記憶や言語の能力に優れ、複雑な思考が可能になることが分かってきている。
( → 人類交代劇、小脳が引き金か ネアンデルタール人の化石分析 - 産経ニュース

shounou.jpg



 プレスリリース(公式)もある。
  → 脳の形態復元により、ネアンデルタール人のほうがホモ・サピ

 ──

 さて。これをどう評価するか? 

 まず、私はこれまで、次のように考えてきた。
 「ネアンデルタール人の脳容量は、ホモ・サピエンスよりも大きい。しかし、知能の点では、ホモ・サピエンスの方が上だ。/だとすれば、ネアンデルタール人の脳容量が大きいのは、大脳が大きいのではなく、小脳が大きいのだろう。ネアンデルタール人は、体が屈強で、運動神経も良さそうだから、ホモ・サピエンスよりも小脳が大きいとしても不自然ではない」


 そう考えてきたのだが、今回の研究報告によると、その説は否定されたようだ。(じっくり読むと、反論の余地もなさそうだ。)

 そこで、新たに次の説を取りたい。
 「ネアンデルタール人の脳容量は、ホモ・サピエンスよりも大きい。しかし、知能の点では、ホモ・サピエンスの方が上だ/だとすれば、ネアンデルタール人の脳容量が大きいのは、大脳や小脳の皮質が大きいのではなく、大脳辺縁系が大きいのだろう」


 つまり、ホモ・サピエンスでは、大脳と小脳をひっくるめた「皮質」が大きいわけだ。この両者はともに「皮質」という共通点を持つから、いっしょに発達したとしてもおかしくない。
 その一方で、ホモ・サピエンスの脳容量はネアンデルタール人よりも小さい。これはたぶん、産道の大きさによる制限だろう。あまり脳が大きいと、母胎の産道を通れなくなるから、脳の大きさには制約が生じるのだ。特に、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人に比べて、きゃしゃな体格なので、産道も小さかったと推定される。そのせいで、大きな脳容量を持つことができなかった。
 それでいて、ホモ・サピエンスは、大脳と小脳(皮質)が発達した。とすれば、その分、脳の中心部にある大脳辺縁系は縮小したと考えていいだろう。

 結局、こうだ。
 「ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人に比べて、大脳と小脳の皮質が発達したが、脳の中心部にある大脳辺縁系は縮小した。その結果、脳容量の増加なしに、知性を上昇させることができた」


 これ私がの新たな見解だ。(仮説)

 《 加筆 》

 後述箇所で少し修正している。大脳辺縁系だけでなく、
 「大脳辺縁系と古皮質・旧皮質が縮小した」
 と。(赤色着色部)

 ただ、あとで調べ直したところ、「大脳辺縁系」には、古皮質・旧皮質も含まれることが多いようだ。というわけで、修正する必要はなかったようだ。



 [ 付記1 ]
 「大脳辺縁系は縮小した」と書いたが、実際には、あまり縮小しなかったかもしれない。というのは、縮小しなくても、位置を下げることでも済むからだ。(絞り出す感じで。)
 このとき、脳幹の全体も下方に移される感じだ。

 大脳辺縁系の図については、Wikipedia などを参照。
 下記にもある。
  → 大脳辺縁系と脳幹 の画像一覧

 [ 付記2 ]
 とはいえ、「縮小した」という証拠もある。特に嗅覚の能力に関する「嗅脳」がそうだ。
 嗅脳は……古皮質に属し、下等な動物や爬虫類や両生類ではよく発達し広く占める。鳥類や哺乳類では他の皮質に被われている。ヒトでは著しく退化している。
( → 嗅脳

 ホモ・サピエンスでは、この部分の脳は「著しく退化している」わけだ。この点が、ネアンデルタール人よりも脳容量が小さい理由である、と考えてよさそうだ。

 嗅脳以外の古皮質でも、似たことがあるかもしれない。
  ※ 古皮質は、大脳皮質の一部である。
    ゆえに、先に述べた話を少し拡張する必要があるかも。
    「大脳辺縁系と古皮質・旧皮質が縮小した」と。
    ただ、大脳辺縁系には、古皮質・旧皮質も含まれるから、
    拡張というほどでもないようだ。





https://amzn.to/2BuyYNf




 [ 余談 ]
 冒頭の記事では、こうある。(ネアンデルタール人の方が小脳が小さかったことについて)
 この差がネアンデルタール人と現生人類の交代劇につながったとみられるという。
 現生人類が生き残った。慶大の荻原直道教授は「小脳の機能差が環境への適応能力の違いにつながり、現生人類の生存に有利に作用した可能性がある」とみている。

 慶応大や名古屋大などの研究チームは、ネアンデルタール人について、小脳について新たな知見を得たが、そのことからついでに、「ネアンデルタール人の絶滅」にまで言及しているわけだ。
 しかしこれは、牽強付会(けんきょうふかい)というものだ。
 ホモ・サピエンスよりもちょっと知性が劣るというぐらいで、全生物のうちでも第2位という圧倒的な知性のある生物種が、容易に滅びるはずがない。他にもチンパンジーやオランウータンもいるのだが、それらは滅びていない。
 また、この時点では、人類の総数はあまりにも少なくて、生存の競合などは起こるはずもない。人口爆発している現在とは個体数がまったく違うのだ。

 実は、このころの人類の死因で圧倒的に多かったのは、病原菌である。ライバル種との競合なんて、ほとんど無に近い影響力しかない。
 一方で、「ライバル種からの病気感染」は、ものすごく影響力がある。
 ホモ・サピエンスは、家畜・家禽をもつことで、多くの病原菌に感染した。その病原菌は、ホモサピエンスを通じて、家畜・家禽型からヒト型に変異したあとで、ネアンデルタール人にも感染した。……つまり、ホモ・サピエンスから感染した病原菌。これこそが、ネアンデルタール人の絶滅の最大の理由だろう。
 詳しくは前出項目を参照。
  → ネアンデルタール人の絶滅: Open ブログ



 【 追記 】
 コメント欄では重要なことが書かれてあるので、そちらもお読みください。なお、結論だけ示せば、次の通り。(転載)
  ・ 小脳は、どちらの種でも絶対的な体積に大差がないので、「有意な差がない」ということで、何も結論を得られない。
  ・ 大脳については、ネアンデルタール人の方が有意に大きいが、それは、大脳辺縁系(特に古皮質・旧皮質)が大きいことが理由。
  ・ ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人よりも大脳が小さいが、そのせいで、嗅覚などの動物的な能力は劣っている。

posted by 管理人 at 23:41| Comment(4) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後のあたりに [ 付記2 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年08月21日 07:43
それぞれの脳の容積をネアンデルタール 1600cc、ホモサピエンス 1500cc とすると、どちらも小脳の容積はどちらも200ccちょっととなり、変わらない計算になります。
そのあたりは、どのように思われますか?
Posted by 次元大好 at 2018年08月22日 21:39
 なるほど。目の付けどころがいいですね。
 たしかに、相対的な比率よりも、絶対的な大きさの方が大事です。

 そこで詳細を調べることにしたら、原論文が見つかりました。
  → http://j.mp/2PvdYZF

 英語版ですが、Google 翻訳でも読めます。

 これを見ると、下記の記述があります。

 ──

Neanderthals(NT)
初期のホモサピエンス (EH)
現代のホモサピエンス (MH)

再構成されたNTおよびEH脳の大脳および小脳の容積は、Amud 1について1304および182ccであった。 La Chapelle-aux-Saints 1の1159および140 cc; La Ferrassie 1の場合は1268と166 cc、 フォーブスの採石場1の912と106cc。 Qafzeh 9については1075および147cc; Skhul 5の1053および146cc; Mlade?1の場合は1205と165 cc、 Cro-Magnon 1の場合は1208と156です(方法を参照)。 NT、EHおよびMHの平均(±標準偏差)大脳および小脳の容積はそれぞれ1161±177ccおよび149±33cc、1135±83ccおよび153±9cc、および1097±115ccおよび149±15ccであった。 全脳容積において統計的に有意な群間差は検出されなかった。 しかし、NT、EHおよびMHにおける小脳と大脳の平均比は、それぞれ0.127±0.010,0.135±0.004および0.136±0.005であった。 複数の比較を有する一方向ANOVA(Ryanの方法)は、NTがEHおよびMHより有意に小さい相対小脳体積を有することを示した(F 2、1190 = 8.53、 p <0.001、NT対EH t 1190 = 2.47、 p <0.05、NT対MH t 1190 = 4.09、 p <0.05)。

 ──

 絶対的な体積では有意な差を見出せなかったが、相対的な体積では有意な差を見出せた、ということらしい。そこで、有意な差を見出せた「相対的な体積」の方だけを重視した、ということのようだ。
 しかしこれでは本末転倒ですね。
 「小脳の絶対的な体積については、有意な差は見出せなかった」
 と見なすのが妥当でしょう。

 したがって、次元大好 さんの見解の方が正しい、と私は判定します。
 同じことですが、原論文は小脳に関する限りは妥当性がない、と判定します。

p.s.
研究室のサイトは
https://www.st.keio.ac.jp/tprofile/mech/ogihara.html
Posted by 管理人 at 2018年08月23日 00:05
 上記の補足。

 引用記事では、

> 大脳に対する小脳の容積比は、現生人類の平均13・5%に対し、ネアンデルタール人は同12・7%と小さかった。

 という点が問題視されている。(相対比)
 しかし、小脳が相対的に小さかったのネアンデルタール人の弱点だ、という説は成立しない。
 そのことは、上の説を次のように言い換えることでわかる。

 「小脳に対する大脳の相対比は、 1/13.5  1/12.7 であり、ネアンデルタール人は大脳が大きかった。つまり、ネアンデルタール人がホモ・サピエンスよりも劣っていたのは、大脳が良く発達していたからである」

 大脳が発達すればするほど進化的に不利だったので絶滅した、というわけだ。とすれば、全生物の中で最も大脳が発達したホモ・サピエンスは、さっさと滅びることになる。……馬鹿げていますね。

 相対比で考えるというのは、こういう馬鹿げた結論をもたらす。

 結局、相対比で考えることには、何の意味もない。
 
 では、真相は? 
  ・ 小脳は、どちらの種でも絶対的な体積に大差がないので、「有意な差がない」ということで、何も結論を得られない。
  ・ 大脳については、ネアンデルタール人の方が有意に大きいが、それは、大脳辺縁系(特に古皮質・旧皮質)が大きいことが理由。
  ・ ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人よりも大脳が小さいが、そのせいで、嗅覚などの動物的な能力は劣っている。

Posted by 管理人 at 2018年08月23日 19:09
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ