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同じような話をするのだろう……と思うかもしれないが、さにあらず。けっこう大事な話をする。
38度と 32度では、決定的に違うことがある。それは「体温よりも高いか低いか」ということだ。
38度ならば、気温でも水温でも暑く感じて当然だろう。体温よりも高いからだ。
しかるに 32度ならば、体温よりも低いのだから、ぬるく(冷たく)感じてもいいはずだ。なのに、32度の気温はとても暑く感じる。それはどうしてか?
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このことは、生物学的に考えることで、理解できる。
人間はそもそも皮膚温が(体温よりも)かなり低いのが当然となっている。春や秋は言うに及ばず、冬には皮膚温がとても下がるが、それでも普通に生活できる。
では、なぜ? それは、体内で発熱しているからだ。
換言すれば、人間は哺乳類であるからだ。
爬虫類だと、体温が変動するだけでなく、体温がもともと(気温に即して)低めであることが多い。18度ぐらいの体温になっていることも多い。体の生理的な構造もまた、それに適するようになっている。
一方、哺乳類は違う。体温は人間では 36度ぐらいだが、他の哺乳類も同様だ。常にこのくらいの温度に維持されている。それより低くなると、低体温症を発症して、生命維持が困難となり、生命の危機に瀕する。最悪では、凍死する。
→ 低体温症 - Wikipedia
このような体温低下が起こらないように、哺乳類は常に体内で発熱している。(恒温動物である。)
換言すれば、「深部体温は高いが、皮膚温は低い」というのが、哺乳類(および人間)では、当然のことなのだ。
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さて。普通の気温では、以上のように、「皮膚温は低い」という状態で安定している。(皮膚温の低さを補うような発熱が体内にある。)
ところが、夏になって、気温が高くなると、このバランスが崩れる。本来ならば皮膚温が低くなって、体内の熱が外に逃げていって、バランスが取れているはずだ。ところが、気温が高くなると、皮膚温もまた高くなるので、体内の熱が外に逃げていかない。すると、体内で生じた発熱の熱量が、(外に逃げない分)、内部にこもる。すると、本来ならば 36度ぐらいであった内部温度が、37度や 38度に上昇してしまう。これが「暑苦しい」という状態だ。
つまり、気温が「暑い」というとき、単に空気の温度そのものが「触って熱い(暑い)」というふうになるのではない。触っているところ自体は、熱くはない。しかし、体内の発熱が外に逃げていかないので、体内が暑苦しくなるのだ。
図式化すると、次のような感じ
接触部が熱い / 体内が暑い
われわれが夏に「暑いな」と感じているときには、肌で触っている空気の温度が高温なのではない。体内にこもる熱量が逃げていかずに、体内の温度が高温になっているのだ。
32度の空気は決して「熱い」と感じることはないが、32度の空気につつまれていて、体内発熱が逃げない状態だと、体内の深部温度が 37度や 38度になるので、「暑い」と感じるのだ。
では、32度の水温ではどうか? この場合には、(空気と違って)水は体温を奪うことができる。皮膚に水が触れていると、皮膚温と水温が同じになり、そこから熱が奪われていく。(32度で。)
一方、32度の気温だと、空気が皮膚にへばりついて、空気層ができているので、体温がなかなか逃げていかない。気温は 32度でも、空気層が放熱を邪魔するので、体内の発熱を受けて皮膚温は上昇していく。気温が 32度でも、皮膚温は 34度や 36度ぐらいにもなる。こうなると、放熱が不十分なので、深部体温は 37度や 38度になる。ゆえに、「暑い」と感じるのだ。
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以上によって、説明は済んだ。
「同じ 32度でも、気温は暑くて、水温はぬるい。それはなぜ?」
という質問には、説明できたわけだ。
それを簡単に言えば、こうなる。
「哺乳類は体内に発熱機構をもつ。同じ 32度でも、気温のときには、放熱が不十分なので、深部体温は高めになる。一方、同じ 32度でも、水温のときには、放熱が十分なので、深部体温は高めにならない.気温と水温では、同じ温度でも、深部体温に差が生じる」
[ 付記 ]
前項で述べた「交感神経/副交感神経」の話とも関連しよう。
次のように区別できるだろう。
・ 交感神経 の支配下 …… 活動量が高く、発熱が多い。
・ 副交感神経の支配下 …… 活動量が低く、発熱が少ない。
発熱が多いときには、まわりは涼しい方が好ましいし、同じ気温でも暑さを感じやすい。
発熱が少ないときには、まわりは暑い方が好ましいし、同じ気温でも涼しさを感じやすい。
( ※ 風呂につかって、体を休めているときには、後者の状態になりやすい。)
[ 余談 ]
放熱は人間にとってとても大切である。実は、発熱機構はすべての哺乳類が持つが、(十分な)放熱機構をもつのは人間と馬だけだ。そして、この2種だけが、長距離走行ができる。他の動物は、放熱機構としての汗腺を(ろくに)もたないので、放熱ができない。ゆえに、長距離走行ができない。(短距離を走っただけで、体温が高熱になってしまって、これ以上は走行することができない。)
この件は、下記でわかる。いくつかの説明ページがある。
→ Google 検索 一覧
人間は長距離走が可能なので、獣を追いかける狩猟をすることで、多くの獣を長距離走で仕留めることができた……という話が、NHK の進化の番組で放送されたことがある。本サイトでも言及したことがある。
番組によれば、ホモ・エレクトスは、大きな特徴があったそうだ。それまでの猿人が毛だらけであったのに対して、ホモ・エレクトスは無毛になった。(現生人類と見かけ上はほとんど変わらない。)
無毛になったことで、発汗機能と相まって、体温上昇を防ぐことができるようになった。おかげで、長距離走ができるようになった。一方、他の動物は、無毛ではないし、発汗機能もないので、長距離を走ると、体温が上昇して、熱中症状態になってしまって、倒れてしまう。だから、人類は長距離で獲物を追うことで、獲物を倒すことができて、うまく狩りができるようになった……ということだ。
( → NHK 人類誕生 1(講評): Open ブログ )
さらに詳しい話は下記。
→ 人間は長距離移動に特化した動物?人類は決して野生動物と比較してか弱い生物ではない、というお話
→ 人間は動物界最高のランナー!犬や馬を凌ぐその速さの秘密に迫る
水:0.6W m−1 K−1
空気:0.024W m−1 K−1
水温差0.5℃に魚が敏感なわけです。
90℃のサウナに入っても火傷しないが、90℃のお湯に入ったら火傷するってヤツね。