2018年07月23日

◆ 38度の気温は暑くて水温はぬるいのはなぜ?

 同じ 38度でも、気温は暑くて、水温はぬるい。それはなぜ?

 ──

 この問題は、次のページで取り上げられていた。
  → 「なぜ38度の日は暑いのに38度の風呂は熱くないの?」中学生の自由研究に絶賛 試行錯誤の末に結論を導く - ねとらぼ

 昔の話だが、今になって話題になっている。
 「2002年に発表された自由研究ですが、SNSで拡散されたことをきっかけに注目を集めたようです」
 とのことだ。

 肝心の自由研究はこちら。
  → 38℃の日は暑いのに38℃の風呂に入ると熱くないのはなぜか (中学校の部 文部科学大臣奨励賞)

 で、この自由研究の結論はこうだ。
 「外部の温度と、皮膚温との差が大きいほど熱さ(暑さ)を感じる」
 これを仮説として、実証することで、この仮説の正しさを証明した……というふうになっている。

 しかしこれは明らかに間違いだ。
 仮にこの仮説が正しいとすれば、次のようになる。(同じ気温で)
  ・ 湿度が高い …… 皮膚温が高い ⇒ 涼しい
  ・ 湿度が低い …… 皮膚温が低い ⇒ 暑い

 このこと(着色部)は、成立しない。
 たとえば、湿度が低いときは、水分(汗)がどんどん蒸発するので、皮膚温は低い。このとき、「暑い」と感じるはずだが、実際には、涼しく感じる。同じ気温でも、湿度が低いと、汗が蒸発して、皮膚温が下がるので、涼しく感じるのだ。(風を受けた場合も同様だ。また、前項で示した涼感シャツも同様だ。)

 要するに、自由研究の仮説は誤り。この自由研究そのものが完全に誤りである。(真実とは正反対のことを結論しているので。ピンボケどころか、逆のことを結論している。大間違い。)

 ──

 では、正しくは? 
 
 真相を探る前に、次のことに着目したい。(上の自由研究で。)
 《 38℃の風呂の場合 》
  38℃の気温の場合との違いは、15分くらいすると、のぼせてしまうということです。気温の場合は6人とも50分間「暑い。暑い」と言いながら38℃の部屋に入っていましたが、38℃の風呂の場合は、みんな「ぬるい」と言いながら、15分くらいで、「頭がボーっとする」などと言って上がってしまうことです。
 これは、自分では感じていませんが、気温の38℃では上がってこなかった深部温(耳の温度)が風呂の場合上がっているからです。わたしたちの体温を語るとき、自分では感じない深部温というのがあることを実際の場面で体験することができました。
( → 38℃の日は暑いのに38℃の風呂に入ると熱くないのはなぜか

 これはどういうことか? 38℃の風呂だと、「ぬるい」と感じていても、実際には体は温まっているのである。そのせいで、生理的な限界に達してしまっている。

 このことから、次のことが結論される。
 「 38度の風呂の場合には、ぬるいと感じられるが、実際には体温は上がっている。逆に言えば、実際には体温は上がっているのに、気持ちだけは、ぬるい(温度が低い)と感じている」

 
 つまり、実際の温度とは別に、感じ方だけが違っているわけだ。実際には温度が高くとも、感じ方だけは「温度が低い」というふうに感じているわけだ。
 このことは、次のことわざに似ている。
 「心頭滅却すれば、火もまた涼し」


 ──

 ここから、経験則を含めて、私は次のような仮説を出した。
 「同じ温度でも気温だと熱く感じられるのは、そのとき起きて活動しているからである。一方、水温だとぬるく感じられるのは、そのとき目を閉じて休んでいるからである。体の活動量の差が、温度についての感じ方を変える」


 この仮説を確かめるために、次の実験をした。
 「空気中で、椅子の上に腰掛けている。35度ぐらいで、すごく暑い。ここで、椅子の背に凭れて、目を閉じて、脱力する。すると、体がひんやりとするのがわかる」

 体がひんやりとするというのは、もはや「暑い」とは感じないということだ。「心頭滅却すれば、火もまた涼し」と同様だ。そして、これは、風呂につかっているときの状態と同じなのだ。

 風呂につかっているときの状態とは、湯船に入って、背中を凭れて、目を閉じて、脱力している状態だ。こういうときには、まわりが湯であろうと空気であろうと、同じように厚さを感じにくくなっている。
 一方で、上記のように椅子で休んでいたあとで、急に起きて、頭を働かせ始めると、とたんに、暑さを感じる。何かを考えようとすればするほど、暑さが邪魔になる。

 というわけで、「活動しているか/休んでいるか」という違いが、暑さを感じるかどうかを左右していることになるわけだ。

 ──

 では、どうして、そういうことが起こるのか? 体の活動状態が、体の温度感覚を左右するというのは、いったいどういうことなのか? 
 これは、医学的には、次のように説明される。
 「交感神経の支配下にあるか、副交感神経の支配下にあるか」


 一般的には、次のように違いがある。

 《 交感神経の支配下 》

 神経が興奮状態にある。やたらと鋭敏である。頭は良く働く。体も良く動く。暑さには敏感で、涼しい方が好ましい。作業量は多くなるが、疲れやすい。
 

 《 交感神経の支配下 》

 神経が休止状態にある。かなり鈍感である。頭は働かない。体も動きにくい。暑さにも鈍感で、暑さにも耐えられるが、自分では気づかないうちに、体に負担がかかっている。作業量はゼロで、休んでいるが、その間に疲れが取れていく。

 そして、次のように差が出る。
  ・ 空気中では …… 起きているので、 交感神経の支配下
  ・ 風呂中では …… 休んでいるので、副交感神経の支配下


 かくて、同じような暑さ( 38度)に対しても、暑さを「感じる/感じない」という違いが生じるわけだ。ここではあくまで、感じ方にのみ違いが生じる。

( ※ 実際には、風呂中では皮膚温が高いので、風呂中にいるときの方が、体の負担は大きくなる。皮膚温が 34度に下がる空気中では、体の負担が小さいので、38どの空気中には長くいることができる。感じ方が「ぬるい」かどうかには関係なく、体への負担が生じている。違いはあくまで「感じ方」だけなのだ。)



 [ 付記1 ]
 ついでだが、頭部のまわりの温度もある。
 気温を測るときには、頭部のまわりの気温も 38度だ。
 水温を測るときは、頭部以外は 38度の湯につかっているが、頭部だけは普通の気温(15〜25度ぐらい)であることになる。これだと、頭部だけが冷却されていることになるから、涼しく感じやすいのだ。

 [ 付記2 ]
 もう一つ、別の要素がある。体温が 36度ぐらいだということだ。そのせいで、36度以下の湯(または水)につかっていると、体温はかえって下がってしまいそうだ。
 一方、気温の場合には、皮膚のそばに滞留層があるので、体温を保温する効果がある。
 体温を奪うかどうかという点では、温度しだいで、差があるわけだ。
 
posted by 管理人 at 23:55| Comment(4) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>外部の温度と、皮膚温との差が大きいほど熱さ(暑さ)を感じる
とは「(熱)エネルギーの移動量の大きさで暑さの感じ方が変化する」を指していると捉えられるのではないか?
つまり外部から皮膚への熱の移動量が大きい程「熱い」と感じる。

さて、ブログ主は
>  ・ 湿度が高い …… 皮膚温が高い ⇒ 涼しい
>  ・ 湿度が低い …… 皮膚温が低い ⇒ 暑い
> このこと(着色部)は、成立しない。
> たとえば、湿度が低いときは、水分(汗)がどんどん蒸発するので、皮膚温は低い。このとき、「暑い」と感じるはずだが、実際には、涼しく感じる。同じ気温でも、湿度が低いと、汗が蒸発して、皮膚温が下がるので、涼しく感じるのだ。(風を受けた場合も同様だ。また、前項で示した涼感シャツも同様だ。)
>要するに、自由研究の仮説は誤り。この自由研究そのものが完全に誤りである。

と指摘しているが、
>湿度が低いと、汗が蒸発して、皮膚温が下がる
も熱エネルギーの移動現象として捉える必要があると寿限無は考える。

すなわち、皮膚から汗が蒸発する状態での熱エネルギーの移動は
 1.気化熱による皮膚から外部への熱エネルギーの移動
 2.外部から皮膚への熱エネルギーの移動
の加算であり、気化熱分だけ外部から皮膚への熱エネルギーの移動が減少している分、熱く感じない(涼しく感じる)。

ブログ主は、上記の1の現象(気化熱による熱エネルギーの移動分)を除外して、いきなり気化熱によって下がった皮膚温を基準に考えているため、
>要するに、自由研究の仮説は誤り。この自由研究そのものが完全に誤りである。
との言を得たと思われるが、熱エネルギーの移動の総和を考えると特に問題無いと寿限無は考察する次第である。
Posted by 寿限無 at 2018年07月24日 03:08
> (熱)エネルギーの移動量の大きさで

 そんなものを測定する機能は、人体には備わっていません。人体には備わっているのは、皮膚温センサーぐらいです。

 気化熱で熱を奪われると、皮膚温が下がり、涼しく感じます。ところが、中学生の仮説では、そうなればなるほど暑く感じることになる。扇風機の風を受けて、皮膚温が下がれば下がるほど、暑く感じることになる。……明らかに間違い。
Posted by 管理人 at 2018年07月24日 05:42
付記1にの頭部に関してですが、自由研究を読むと下記のように考慮されてるようですが

>風呂の場合は38℃のお湯に体は入っているが頭は出ている。気温の場合は頭も含めて身体全体が38℃の中に入っている。

>ダイビングに使うシュノーケルを使って全身を38℃のお湯の中に入れてみました。

>段ボール箱に穴を開けて頭を入れ、段ボール箱の中にヘアドライヤーで熱風を送り、頭だけを38℃にしました。
Posted by nb at 2018年07月26日 18:07
> Posted by nb

 なるほど。そうですね.情報ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2018年07月26日 18:28
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