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野村ダムでは、どういう操作が正解だったか? 具体的に述べよう。
まず、現実になされたのは、こうだった。(再掲)

これを見ると、事前放流がなされているようだが、前日の 19時からである。実際にはもっと前かららしいが、それでも不十分だ。
正しくは、いつから事前放流するべきだったか? 豪雨が予想されたときからだ。それは、5日の0時だ。
→ 週末にかけて災害級の大雨に 歴史的な豪雨となるおそれ - ウェザーニュース
この記事の日付は、2018/07/05 00:20 だ。だから、この時点で、すぐに事前放流を開始するべきだった。
あるいは、ダムの管理者ならば、常に気象予報を見ているはずだから、もっと前に情報を得ていただろう。とすれば、上記記事の 6時間ぐらい前から、事前放流を始めてもよかった。(半分ぐらいの規模で。)
そして、5日の0時には、安全な範囲の最大限で事前放流を開始するべきだった。(量は 300 t/s が妥当。)
その後、5日の 17時には、「記録的な豪雨」が起こることが気象庁から大々的に警告された。この時点で、事前放流の維持を決めるべきだった。(もしこの警告がなければ、事前放流を停止すればいい。その場合、以前に放流した分を取り戻せる。)
こうして、以上によって、5日の0時から7日の2時ごろまで、計 50時間の事前放流が可能となった。その場合、 300 t/s の総和で、
300 × 60 × 60 × 50 = 5400万
となるから、5400万トンの水を放出できた。ダムの貯水量は、もともと 1000万トンぐらいしかなかったようなので、5400万トンの排出は多すぎる。(無理だ。)
とすれば、5日の0時から始める必要はなく、6日の 12時ごろから初めても間に合ったかもしれない。
現実には、朝日の記事にあるように、排出量は不十分だった。
豪雨に備えて3日前の4日からダムの水位を下げ、雨水を貯留できる量を350万立方メートルから600万立方メートルまで増やした。豪雨が降り始めた後は満水近くになるまで放流量を抑えたという。担当者は「雨が強まってからも河川の水位を上げないことで、住民が避難する時間を稼げた」と説明する。
( → 朝日新聞 2018-07-11 )
空き容量は 600万立方メートルまで増やしただけだった。もっと増やそうとしなかった。
「豪雨に備えて3日前の4日からダムの水位を下げ」という点では、十分に早く開始したのだが、いかんせん、放流の量が足りなかった。
また、「雨が強まってからも河川の水位を上げないことで、住民が避難する時間を稼げた」というが、これは逆効果だった。住民が避難する時間を遅らせただけだった。
正しくは、水位を少しずつ上げるべきだった。わずかな氾濫が起こるのも許容するべきだった。そのことで、危険性を予知する時間を住民に与えるべきだった。わずかな氾濫は、住民の避難行動を阻止するのではなく、動かない住民を避難させるように促す効果があったのだ。
現実には、氾濫をさせず、危険性を人々に予知させなかった。そしてあるときいきなり、一挙に大量の放流を開始した。かくて、大量の氾濫が起こって、多くの民家が水没し、多くの自動車が流された。もちろん、人間も。
こういう馬鹿げた被害は、あくまで意図的になされたのだ。「そうすることが正しいのだ」と信じて。……その意味で、これは「人災」だと言っていいだろう。
どうせなら、ダムの操作は何もしない方がマシだった。単に流入量を放出量を同量にする方がマシだった。それなら、少なくとも、「一挙に大量に放流」ということはなかっただろう。全流入量がなだらかに上昇するのにともなって、全放出量もなだらかに上昇していっただろう。その場合には、人々は氾濫の危険性を予知できるから、避難行動を取れた。また、氾濫は少しずつ起こるだけだから、いきなり洪水に呑み込まれることもなかった。
ダム管理者(国交省)のせいで、多くの人命が奪われることになった。

【 補説 】
「正しいダム操作」という標題だったが、記述が曖昧だったので、結論を簡潔に示そう。こうだ。
・ あらかじめ、最大放出量を設定する。
( ※ 野村ダムなら 1000 t/s ぐらいかな。)
・ 豪雨が予想されたら、「ダムを空にする」ことを目的とする。
・ 3日ぐらい前から、気象の予報を詳しく知る。
・ 3日ぐらい前から、事前放流を開始する。
・ 降雨の直前に、ダムを空にする。(貯水量をゼロに)
・ 降雨の開始後は、流入量と放出量を等しくする。
(つまり、全部放出して、貯水量ゼロを維持する。)
・ 最大放出量に達するまで、この方針を維持する。
(下流で氾濫があったら、少し減らして、氾濫をなくす。)
(氾濫が起こることを恐れない。若干の氾濫を許容する。)
・ 最大放出量に達したら、放出量をこの値に制限する。
(つまり、1000 t/s を上回る分の流入量を貯水する。)
* * (通常はここまで。以後は例外。) * *
・ ダムが満杯に近づいたら、放流量を増やして、氾濫させる。
(少量の氾濫で、将来の大規模氾濫を予告する。)
・ 放流量を徐々に増やして、氾濫も増やしていく。
・ ダムが満杯に達したら、流入量と放出量を等しくする。
(下流では大規模氾濫となる。)
以上の方針の基本原理は、こうだ。
「ダムの流入量のピーク値をカットする」
これが最大の目的となる。めざすべきは、氾濫の抑止ではなく、ピーク値のカットなのだ。(理由は → 氾濫と決壊の違い )
今回、野村ダムが上記の方針を取っていれば、大きな問題は発生しなかっただろう。(せいぜい床上浸水ぐらいで済んだだろう。あるいは、被害は皆無で済んだだろう。)
【 関連項目 】
→ ダム操作のミスで氾濫: Open ブログ
→ 日本のダム管理能力: Open ブログ
→ 氾濫と決壊の違い: Open ブログ
【 関連サイト 】
ダムのデータ。(公式サイトではすでに削除された。)
野村ダム(愛知県)─河川:肱川
— uqunon (@uqunon) 2018年7月15日
2018年7月6日 〜 2018年7月9日
任意期間ダム諸量検索結果 - https://t.co/Pb215hMEbS
肱川の決壊に至った7月7日の野村ダムの諸水量データ pic.twitter.com/AHB8jz4s9a

正しい操作の方法を、簡潔に定式化した。
http://www.orsj.or.jp/~archive/pdf/bul/Vol.33_09_463.pdf
や、最近のAIの適用検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejb/65/2/65_2_106/_pdf
を見ると、ダム水位の推定なども案外不確定性が大きくて難しいのかなと思いました。
せいぜい5%ぐらいでしょう。そのくらいの誤差があっても許容範囲。別に精密性は期待されていない。
放流の操作規則が1996年に改定されていたのですね。
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00372/073100037/?P=1
以前は大規模洪水を想定した規則、つまり現行の規則に比べて大量に放流するマニュアルでしたが、
雨量が比較的少なくても浸水する地域があったため、
現行の規則では放水量を、貯水量限界の直前まで600m3に抑えるマニュアルになっているとのことです。
しかし、逆に雨量が大量だと現行の規則の方が被害が大きくなってしまうわけです。
なかなか難しいものですね。
リンクを読みましたが、うまく行かない理由は簡単です。予想される降水量が多いときと少ないときとを区別すればいい(対応を変えればいい)のに、それができないから。つまり、気象の予想をする能力がないから。
これを解決するのが、本サイトで述べた方法。
→ 「ダム管理を気象庁に移せ」
http://openblog.seesaa.net/article/460571666.html
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なお、リンク先の方法の問題は、いろいろある。下記。
(1) 最大値(ピーク値)を押さえる、という発想がないこと。
(2) 床下浸水や床上浸水ばかりを減らそうとしていて、全戸流出や死亡事故の被害の大きさを考慮しないこと。
i.e. 被害の有無だけを考えていて、被害の大きさを軽減するという量的・質的な発想がないこと。
(2値的思考)
(3) 放出の時期を遅らせることばかりを考えていて、あとは一挙に放出するので、予告の効果がないこと。
一方、本項で述べた「正しい方法」を取れば、これらの問題はない。