2018年07月04日

◆ 英語の民間試験の是非

 2020年度からセンター試験にかわって大学入学共通テストが始まる。そこで導入される英語の民間資格・検定試験の是非が話題になっている。

 ──

 この民間試験は、「読む、聞く、話す、書く」の4技能を測るためのもの。具体的には、TOEFL、TOEIC などだ。
 本来は国がやるべきだが、国にはその能力がないので、民間に任せようとする。
 制度導入の狙いは、試験の導入によって、「読む、聞く、話す、書く」の4技能を高めることだ。「試験に導入すれば、みんながその能力を高めようとして、勉強するから、国民全体でも能力が上がるだろう」というものだ。これはまあ、経済学における「市場原理主義」を教育に導入しようとしたもんだ。「競争すればどんどん状況がよくなる」という素朴な信念。(保守派の人々は、たいていそれを信じている。)

 ところが現実には、いろいろと問題点が指摘されている。特に大きいのは、「金持ち家庭ばかりが有利になる」ということだ。理由は二つ。
  ・ 「聞く、話す」の能力向上には、コストがかかるので、家庭教師や PC ソフトなどで高額の費用を払える富裕な家庭の子女ばかりが有利になる。
  ・ 受験費用がかなり高額なので、複数回受験できる富裕な家庭の子女ばかりが有利になる。


 こういう問題があるので、制度を導入しても、実際に大学が利用するかどうかは不明だが、使う傾向が強いようだ。
 早稲田大は7日、2021年から政治経済学部の一般入試受験生に大学入学共通テストの外国語、国語、数学を含めた4科目を課し、同テストで活用する英語の民間試験の結果も合否判定に使うことを明らかにした。
( → 早大、攻めの入試改革 政経で数学含む共通テスト導入へ:朝日新聞

 東京大学は27日、2020年度に始まる大学入学共通テストで導入する英語の民間試験について、合否判定に使う方向で検討を始めたと公表した。3月に「判定に用いない」との考えを示していたが、方針を事実上転換した。東大が活用する方針を固めたことで、他の国立大でも導入の動きが広がりそうだ。
( → 東大、英語民間試験一転活用へ 大学新共通テストで:日本経済新聞

 ──

 さて。私としてはどうかというと、どうにも判断を付けかねていた。次の二つの相反する点があるからだ。
  ・ 試験としては、いろいろと弊害がありすぎる。
  ・ 試験導入によって、聞く・話すという力が向上するメリットもある。


 短所も長所もあるので、どうとも判断を出しかねていたわけだ。話を聞くばかりで、自分の立場というものを出せなかった。

 ──

 ところが、本日の朝日の記事で、否定論を紹介していた。これが見事に核心をとらえていたので、紹介しよう。
 論点は以下の通り。
 (1) テストとは既にある能力を測るものであり、ない能力を測ってはいけない。
 (2) 多くの高校生は、まだまだ英語を話せない。それなのに入試を変えて「話す」ことを課しても、無意味だ。
 (3) それで起こるのは、付け焼き刃的な試験対策だ。
 (4) 富裕な家庭の生徒が合格し、貧困家庭の生徒が不合格になる。
   つまり本来の合格・不合格が、親の経済力によって逆転する。

 ──

 その上で、対案としては、次のことを提案している。
 (A)試験の運営は民間に託してもいいが、試験の設計と問題作成は大学入試センターが行うべき。
 (B)そのときまでに、実際の授業を改善するべき。先に能力を養成してから、試験をするべき。

 ──

 以上が、記事に示された提案だ。
 私としては、批判論については「ごもっとも」と思ったが、最後の提案については、いただけない。「授業を改善する」というが、一朝一夕にはできないだろう。これまで何十年もかけて、ちっとも進まない分野だ。数年ぐらい教育改革をしたところで、急激に能力が向上するとも思えない。そんな魔法のようなことを期待するのは、浅はかだ。
 では、どうする? そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。

 第1に、民間試験を導入するとしたら、その配点の比率を1割以下にする。これならば、特に弊害は大きくないはずだ。(現実には、「2割以上」が推奨されている。→ 出典

 第2に、「魔法」を導入して、英語の高校教育を抜本改革する。その「魔法」とは? こうだ。
 「情報機器によるリスニング・スピーキング能力の養成

 たとえば、いろいろなネットサービスがある。
  → ネットでできる!英会話が劇的に上達する厳選サイトとアプリ

 他に、英語の教材や映画を聞いて勉強する、という方法もある。
  → 英語を話す力をつけるための無料オンライン教材5選
  → 帰国子女のネット民が教える英語上達法がマジで効果ありそう
  → 映画やドラマを用いた英語リスニングの学習法

 ただし、単にやればいいというものではなく、工夫が必要だ。
  → 日本人の脳が英語をリスニングするために必要なこと
  → 教師さえTOEIC700点に届かない日本で、カタカナ英語から脱却する方法
  → 英語初級者のリスニング力を上げるコツは「発音矯正と音法の習得」が不可欠

 最後のあたりまで見ると、まともに時間をかけて勉強すればいいというものではなく、大切なポイントをうまく判別できるように、かなり高度な能力を獲得する必要がある、とわかる。
 野球で言えば、単にボールを投げて打つだけではなく、スライダーを投げたり、うまくホームランを打ったり、というふうに、一流選手になるだけの高度な実力が必要だ、とわかる。
 つまり、「単に時間をかけて根性で勉強する」というような方法では、いつまでたっても、まともな実力を得られないのだ。まともな実力を得るには、優れた教科書はコーチから適切な指導を受けることが必須なのだ。

 そして、そのようなことは、以前では「金持ち家庭」にしか実現できなかったが、今ではネットを利用して比較的安価に実行できるようになっている。
 とはいえ、そのノウハウは共有されていない。「ネットの情強」ばかりが有利だ……というありさまだ。(たとえば本サイトを読むような家庭。)

 ──

 というわけで、私としては、妥協案として、
 「導入するが、配点は1割以下」
 ということを低減したい。
 これなら、(家庭の経済状況で)過度な格差は生じないだろうし、その一方で、「聞く・話す」の能力は少しずつ向上していくだろう。
 その逆で、一挙に2割以上の配点で導入するとしたら、弊害が大きくなりすぎる。
 そもそも、「テストさえ導入すれば、競争して、英語能力が向上する」というのは、あまりにも馬鹿げた市場原理主義(競争至上主義)にすぎないのだ。それはいわば、残業手当ゼロ法案みたいなものだ。
 「残業手当をゼロにすれば、残業時間が激減するだろう。短時間の労働で、同等の成果が上がるようになる。ゆえに、生産性が向上する」
 こういう馬鹿げた妄想があるが、それと同様だ。

 「試験を導入すれば、能力が大幅に向上する」
 なんていうことを信じているとしたら、どうしようもなく阿呆だ。それはほとんど「教育の放棄」に近い。
 試験とはあくまで、教育の結果を測定するためのものだ。教育なしに、試験だけがあっても、生徒の能力は向上しない。
 試験をなすなら、まずは、まともな教育をやるべきだ。まともな教育なしに、試験だけをやっても、意味がない。(朝日の記事に記してある通り。)

 英語の民間試験を導入しようとする人々は、話を根本的に間違えている。日本人にはリスニングやスピーキングの能力が不足しているが、そこで欠けているのは、生徒の熱意や努力ではない。なのに、「競争によって生徒の熱意や努力を駆り立てよう」というのは、根本的に間違っている。
 足りないのは、生徒の熱意や努力ではない。学校の側の教育体制だ。たとえば、ネイティブの英語教師によるマンツーマンの教育。あるいは、生徒同士による下手な英会話の練習。あるいは、情報機器による能力アップ。特に、発音の微妙な違いの聞き分け能力のアップ。
 こういう教育環境を整備することこそ、何よりも大切だ。なのに、それをやらずに、試験だけを導入しようというのは、馬鹿げている。それはまるで、「残業手当をゼロにすれば、競争によって生産性が向上する」というような発想だ。本末転倒も甚だしい。

 一般に、無能な社長は、「社員が頑張れば業績は向上する。ゆえに社長は社員の尻をたたけばいい」と考えるだけで、まともな経営を何もやらない。
 そして、英語の民間試験の導入論者は、それと同様なのである。



 [ 付記 ]
 英語の聞き分け能力の養成で、何よりも大切なのは、幼児期までにその能力を獲得することだ。4〜5歳のレベルで、微妙な子音の発音の違いを理解できるようにするべきだ。微妙な違いとは、下記。
  → 教師さえTOEIC700点に届かない日本で、カタカナ英語から脱却する方法

 その意味で、公庫工事代で発音能力を養成しよう、という発想が、根本的に手遅れである。なすべきことは、幼稚園や小学校低学年のレベルで、英語の発音遊びを実施することだ。「遊びながら学ぶ」という形。
 こういう形の発音教育こそ、何よりも重要だ。
 なのに、それもやらないで、「試験さえ導入すれば、能力が向上する」というのは、馬鹿げているとしか言いようがない。それはいわば、「魚が陸に上がれば、環境に適応して、魚には足が生える」というような理屈だ。「魚が陸に上がれば、魚は干上がるだけだ」という現実を無視した、空想または妄想であるにすぎない。



 【 関連項目 】

 → 英語の早期教育 : nando ブログ



 【 関連商品 】
 (1) 英語教材の一覧(書籍)
  → Amazon.co.jp: 英語 リスニング(書籍)

 (2) PCソフト(ロゼッタストーン)


https://amzn.to/2lSF0MT

posted by 管理人 at 20:56| Comment(3) | 一般(雑学)5 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
4技能検定の前提条件として、音声教材を無料で頒布する必要があります。これは大して高価なものではなくて、書店でいくらでも売られています。
辞典や文法書も無料で配るといい。
無償で配られる検定教科書では自習できません。
外部試験はブロードバンドが必須なので、貧困家庭には、ブロードバンドを無償提供するといい。
現状でも、ブロードバンド普及率は65%でしかなくて、貧困家庭は外部試験を受験できない。
Posted by inoueakihiro at 2018年07月12日 01:42
> ブロードバンド普及率は65%

 調べてみました。ブロードバンド普及率は97%で、光回線が 65% ぐらいです。
 → http://www.garbagenews.net/archives/2064858.html

> 貧困家庭には、ブロードバンドを無償提供するといい。

 これは大変良い指摘ですね。
Posted by 管理人 at 2018年07月12日 07:17
 ニュース。東大が否定的な見解を出した。

 (1)毎日
> 東京大学は14日、2020年度から始まる大学入学共通テストの英語で導入される民間資格・検定試験を合否判定に使うかどうかについて、白紙に戻して検討することを明らかにした。
https://mainichi.jp/articles/20180715/k00/00m/040/147000c

 (2) 日経
> 3つの提案を併記し、「(民間試験の)不使用」が一番優先順位が高く、残り2つは条件付きで活用する考えを示した。
 2番目の提案は、民間試験の課題への対応について文部科学省などから十分納得できる回答があった場合に、活用を検討するというもの。複数ある民間試験の点数を同一基準で比較できる根拠などの説明を同省に求めた。
 3番目は、東大への出願の条件として民間試験を活用する案。英語能力の国際的指標「CEFR(セファール)」の下から2番目の評価「A2」程度の成績を条件とし、例外も検討するとした。
 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3301848014072018CC1000/

 (3) 朝日
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13587192.html
Posted by 管理人 at 2018年07月15日 09:18
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ