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満潮と干潮の理由については、「月の引力で海水が引かれるせいだ」というふうに説明される。しかしこれでは、満潮と干潮の時刻については説明ができない。
この問題について、画期的な新説が出た。非常に重要だ。
まず、普通は下の 図aのように説明される。( → 朝日新聞 )

しかし、図aでは時刻が説明できない。
これだと満潮は月が南中する時刻とその 12時間後と思える。月・地球・太陽が一直線に並ぶ満月の夜なら、月の南中はほぼ真夜中で、満潮も真夜中のはずだ。
( → 満潮、なぜその時刻?:朝日新聞 )
理論的には、満潮も真夜中のはずだ。しかし現実には、それから数時間ズレることが多い。おおざっぱに6時間ぐらいズレる。
つまり、図aの説明は、現実と食い違う。そういう問題がある。
この問題について新説が出た。上の理論を否定する。
しかし、それはおかしいと思っている人は多い。名古屋大学の谷村省吾教授もその1人。
引っ張る力で海水面は上がるが、力が弱くなってきても上昇は止まらない。慣性でしばらく上がり続け、力のピークと海面高のピークに時間差が生じる。方程式を立てて計算すると、海面が最も低いときに力が最大になり、力が最小になったときに高さが最大になった。
つまり、ちょうど逆だ。だから、潮汐を表すのは図bのようであるべきだ、というのが「谷村説」である。
( → 満潮、なぜその時刻?:朝日新聞 )
私が解説しよう。
何だか難しいことを言っているようだが、話は単純だ。サイン・コサインの変動があるときのカーブでは、力の強弱と位置の高低とは位相が 90度ずれる、ということだ。
わかりやすく言うと、
「上から引っ張る力が最大のときに最も高くなる」
のではなく、
「上から引っ張る力が最小のときに最も高くなる」
ということだ。
風呂に水を入れる量で言うと、
「蛇口の水が出る量が最大のときに水位が最高になる」
のではなく、
「蛇口の水が出る量と、底の穴から出ていく量との差が、最小のとき(プラスからマイナスに転じるとき)に水位が最高になる」
ということだ。
難しいことを言っているようだが、理系の頭で考えれば、ごく簡単なことだとわかる。
- ( ※ たとえば、あなたにお金を上げる。1日目には 10円、2日目には9円、3日目には8円、……、10日目には1円、11目には0円、12日目には マイナス1円、……。この場合、10円をもらう日が一番多く持っているのではなく、0円をもらう11日目に一番多く持っている。増分がプラスからマイナスに転じるときに、持っている量は最大となる。)
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上記が新説だ。(解説は私の解説だが。)
で、この新説は正しいか? 実際に人工衛星で潮位の時刻を調べた人がいる。記事によれば、結果は次の図となる。

( → 朝日新聞 )
ずいぶんと大きな変動がある。ここから、記事では「理由は多すぎて不明」と結論する。
海全体を眺めれば、時刻のずれが複雑に入り組んでいることもわかる。
なぜこうなるかは松本さんにもわからないという。海陸分布や水深分布、海底でのまさつ、波が海山にぶつかったときに起こる内部振動など多くの要因があると言えるだけだ。「一番大きい要因を1個出せと言われても出せない」という。
どうやら図aも図bも、満潮時刻を知るモデルとしては役立たないと言うしかない。
結論:満潮時刻は、いろんな要因が重なって遅れます。(高橋真理子)
( → 満潮、なぜその時刻? 月の引力・海陸分布・水深…要因は複雑:朝日新聞 )
こういう結論だ。これじゃ「わかりません」という感じで、煙に巻かれた感じだ。読者としては納得できまい。というか、腑に落ちない。物足りない。せっかくに記事が台無しになった感じだ。
そこで、私はこれに仮説を追加しよう。私の結論は、こうだ。
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(1) かなり変動があるとはいえ、おおむね、
・ 6時間より少なめの領域
・ 6時間よりも多めの領域
に分けられる。ゆえに、基本は「6時間のずれ」でいい。つまり、1番大きな要因は、記事で示した新説の通りだ。つまり、新説は基本的には正しい。(「わからない」のではない。)
(2) 6時間に対して、プラスマイナスの変動がある。この変動は、別の要因が加わっている。その理由は、何らかの「慣性」だろう。これも、記事の通りだ。
では、その「慣性」の理由は? 記事では何も示していないが、2番目の図を見ると、見当が付く。それは「黒潮」という海流だ。この海流が巨大な慣性を持つ。その慣性が最も強く当たるのが、黒潮が方向を転じる箇所、つまり、日本の南部だ。(赤道付近を西に向かって流れた海流が、日本の南部で方向を転じて、北向きになる。)
このあたりでは、黒潮(北太平洋海流)の慣性力が強くぶつかるので、その力がいつまでも長く続くのだ。そのせいで、6時間よりも遅くまで慣性が続く。
逆に、その先(日本の東部)では、黒潮の慣性力がなくなっていく(力が抜けた状態になる)ので、6時間よりも早く慣性が抜ける。
結局、6時間に対して遅れと早めが生じるのは、慣性力にプラスとマイナスがあるからだ。
(3) 結局、(1) が基本で、それに (2) の変動が加わる。こういう形で、「6時間プラスマイナス・アルファ」という形で、満潮の時刻のズレがわかる。説明可能。
(4) あと、細かな違いは、海底の地形で説明が付くだろう。特に、9時間以上の遅れが出る領域は、「黒潮がまともにぶつかるところなので、黒潮の慣性力が強く出る」ということで説明が付くだろう。
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こうして、すべてが説明された。細かな変動を除けば、おおむね、以上で矛盾なく説明可能だ。(仮説として。)
[ 余談 ]
最後の署名でわかったが、記事の筆者は高橋真理子さん。さすがに超優秀な彼女だけある。
>黒潮の慣性力
(半日周期が主の)潮流を(周期がないように思える)海流の慣性力で説明するのは違和感があるのですが
>実際に人工衛星で潮位の時刻を調べた人がいる。記事によれば、結果は次の図となる。
この図は実測値ではなく、波M2で計算した値を整理したものだと思います
なおこの図は日本近傍の3時間間隔での満潮時刻の等高線
世界の1時間2分間隔での満潮時刻の等高線が以下にある
Amphidromic point-wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Amphidromic_point
いいえ。海流には、周期がありますよ。ただし、単純な周期とは違う。
海流は、剛体ではありません。一定の速度で常に等間隔で流れているものではありません。
海流とは、各点における水分子の総体です。速度や位置は、各点ごとに変動します。
月と太陽が並んだとき(ともに真上方向にいるとき)には、その下の水は上方向に引っ張られますが、離れたところでは斜め方向に引っ張られます。
たとえば、日本近辺で月が真上のあたりに来ているときには、日本近辺では水は真上方向に引っ張られますが、ハワイ近辺では斜め方向に引っ張られるし、カリフォルニアのあたりでは横方向に引っ張られます。
このように、各地点で水分子が引っ張られる方向は異なります。当然、水分子が移動する速度も異なります。当然、その慣性力も異なります。
このように、各地点ごとに慣性力が異なるので、海流は「一定の速度で周回する」ということは成立しません。
その結果、どうなるか? たとえば、日本近辺では、月が真上方向にあるので、水を横に流す力は消えている。その地点では。……しかしながら、もっと東側から流れてくる水流には、慣性力が働くので、日本近辺でも、東から来る水流に押されてしまうんです。(水流の慣性力。西向きの水流の圧迫。)
この慣性力がいつまでも続くので、東側から来る水流に押される効果が、日本の南側の海域では、いつまでも続きます。そのせいで、海面の高くなる時期が長く続きます。つまり、6時間以上の遅れが生じます。
(説明終わり)
> 海流の慣性力で説明するのは違和感があるのですが
これは、海流を一定速度の剛体であると見なしたからです。海流は剛体ではなく、各地点ごとの水分子の総体だ、と理解すれば、各地点ごとの力の働き方も理解できるでしょう。
(日本の南側では、東側から来る水流に押され続ける、ということ。)
> この図は実測値ではなく、波M2で計算した値を整理したものだと思います
たしかにそうですが、実測値に対する理論値というようなものではなく、実測値を整理して核心を取り出した、というようなものです。実測値から、余計な雑音成分を取り除く処理をした、というのに等しい。
潮の干満については、良く月の引力で海水が引き寄せられるといった説明がされるが、実際は、太陽・月の位置関係により発生する起潮力は直接海水を引き上げ(寄せ)るのではなく、起潮力が働いた部分の海水がわずかながら軽くなる(水圧が低い)ため、その部分に相対的に重い(水圧が高い)海水が移動が発生する。
これが潮の干満を発生させるメカニズムであり、海水の移動に時間がかかることが、起潮力が最大となる時間と満潮時刻に差異(遅延)が発生する主たる要因と考えられる。
また、満潮時刻のばらつきについては、海水移動にどれだけの抵抗が発生するかが大きなウエイトを占めていると考える。
例として、俗に内海と呼ばれる場所(瀬戸内海等)のように内海と外海の接続部分が狭く浅い(断面積が少ない)場合、海水の移動に時間がかかるため、ごく狭い範囲でも満潮時刻が大きくずれる現象が実際に観測できる。
また、潮の干満の動きを潮汐波としてとらえた場合、波の移動速度(あくまでも波としての移動速度、海水の移動速度と混同は厳禁)は水深により大きく変化すると考えられる。
このことも、沿岸地点の満潮時刻のばらつきの一因として考える必要があるかもしれない。
あくまで、寿限無個人としての見解をコメントさせて頂いた。繰り返すがブログ主の海流慣性説に異議を唱えるつもりは毛頭無いので誤解無きようお願いする。
のコメントについて補足説明となるが
起潮力による力が海水を(上方または斜め上方に)引き上げる説明が正しい思う方は、以下の内容について考えていただきたい。
ここでは太陽を無視して、月の影響のみを考えることとする。また、月の影響とはつまるところ月の引力に他ならない。
潮の干満を仮に平均で2メートル前後とした場合、比重1に近い重さを持つ海水が2メートルも上下動していることになる。この仕事を純粋に月の引力が行ったとした場合、引力は海水のみならずあらゆる物体に作用する点を考えると、周辺のあらゆる物体の重さが月の運行に連動して変化することとなる。
また、斜めに引き上げられる力が働いているとしたならば、その地点に分銅を糸でつるした場合、糸は鉛直方向からずれるはずである。
しかしながら、実際にはそのような現象は観測されない。
このことからも、月がその下の海水を上方向もしくは斜め方向に引っ張るとの説明が正しいか判断いただけることと考える。