政府が自動ブレーキの性能試験の結果を公表した。しかしこれはまともな試験になっていない。
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政府が自動ブレーキの性能試験の結果を公表した。5月31日の記事で、各紙が報道している。
→ マツダCX―8「最も安全」 事故対策機構が性能を評価:朝日新聞
→ 自動車事故対策機構、最高得点をマツダ「CX-8」が獲得した2017年度の「自動車アセスメント」結果発表会 - Car Watch
→ 自動車事故対策機構、2017年度「自動車アセスメント」で「CX-8」が衝突安全性能と予防安全性能で最高得点と発表 - Car Watch
概略は上の通りだが、もっと詳しい情報は、公式サイトから得られる。具体的には下記。
→ JNCAP|予防安全性能アセスメント - 予防安全性能アセスメントの概要
→ 試験結果( pdf )
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これらを詳しく見た結果の評価は、「全然ダメ」だ。
その理由は、前出項目に書いてある。
(1)
→ 自動ブレーキの認定制度(問題点): Open ブログ
ここでは、「低コントラスト時」の問題が指摘されている。コントラストが低いと、自動ブレーキがうまく作動しないのだ。
また、夜間時の問題もある。
・ 夜間には歩行車が見えにくいことがある。
・ 夜間走行中に先行車が急ブレーキをかけることがある。
よく見えにくい夜間時には、人間の反応が遅れることがあるので、自動ブレーキの必要性は高まる。だから、その試験をするべきだ。
(2)
→ 自動ブレーキの作動速度: Open ブログ
→ 自動ブレーキ試験の欠陥/高速バス衝突事故: Open ブログ
ここでは、「高速走行時」の問題が指摘されている。テストは時速 60km までしか調べないので、もっと高速の場合、自動ブレーキがうまく作動しないことをチェックできないのだ。
特に、「時速 100km で走行しているときに、先行車が突然 急ブレーキをかけた」というような場合に、こちらの自動ブレーキで衝突回避をすることを、チェックしていない。
( ※ メーカー公称値で見ると、日産 や マツダ は「時速 80km まで対応」で、スバル は「先行車との速度差が時速 50km まで対応」とのことだ。スバルは相対速度で見ているので、上記の例ではうまく作動しそうだ。)
( ※ なお、ホンダの自動ブレーキは性能が低いらしい。評価外。一方、トヨタの自動ブレーキは玉石混淆。)
( ※ 自動ブレーキの性能で自動車を選びたいのなら、ボルボかベンツにするといいようだ。ボルボの XC40 は、あまり高価格すぎないで済むし、ブレーキは夜間にも対応して高性能だ。日本車に大差を付けている。……中国資本の会社なんだけどね。)
(3)
→ 自動ブレーキの認定制度(問題点): Open ブログ
ここでは、「単眼カメラ方式」「対人衝突試験の不備」という2点が指摘されている。
対人衝突試験については、下記でも論じた。
→ 自動ブレーキと横断歩道: Open ブログ
つまり、現状の試験は、現実にはありえない架空の設定をした上で、そこでものすごく大甘の状況で歩行者が現れて、その大甘の状況で回避できることのみを確認する。
当然ながら、現実レベルの状況で歩行者事故を避けることは、まったく考慮されていない。つまり、現状では、まったく無意味な試験をしていることになる。
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ともあれ、現在の試験では、自動ブレーキをまともにチェックしていない。こんなことでは困る。
さらに問題なのは、対物衝突と対人衝突を同じ比重で見ていることだ。これでは比重がアンバランスだ。対物衝突の方を大きな比率で見るべきだ。理由は二つ。
・ 実際の事故では対物衝突がずっと多い。
・ 対人衝突の試験は試験方法が特殊すぎる。(一般的でない。)
後者については、上の (3) の前出項目でも詳説した。
横断中の歩行者への回避という特殊状況における性能ばかりがやたらと重視され、肝心の「高速時」や、(低コントラストな)「夕暮れ時・夜間時」におけるチェックは皆無である。こんな片手落ち(どころか両手落ち)みたいなテストで、高得点を取っても、ろくに意味がない。もっとまともなテストをするべきだ。
現状のテストは、欠陥テストと言っていいだろう。もっと厳しい状況で、まともにテストするべきだ。
( ※ 現状のテストは、わざと高得点が出るように、大甘の試験にしている。メーカーにおもねっているとしか思えない。こんなことだと、低レベルの自動ブレーキばかりがのさばって、日本の自動車メーカーは、世界的に大きく負けてしまうかもしれない。情けない。……子供を甘やかして駄目にする親みたいだ。)
[ 付記 ]
さらに重要なことがある。こうだ。
「自動ブレーキをかけて自動車が停止したら、その時点で、自動車の後尾灯(赤ランプ)を点滅させるべきだ」
なぜか? それによって、後続車が衝突することを避けるためだ。
このような機能は、自動車の後尾灯自身が点滅するのでもいいが、リアウインドーの上端のあたりの室内灯で、強力な赤ランプを点滅させるのでもいい。(そういうブレーキランプはすでに市販されている。)
どうも、政府は、自動ブレーキについて、「停めること」ばかりを考えているようだが、「停めたあとのこと」も考えるべきなのだ。さもないと、
「自動ブレーキは作動して衝突しました、しかしその後、後続車が追突しました。自分は衝突しないけれど、他人に衝突されてしまいました。結局、事故の発生件数は1つも減りませんでした」
ということになりかねない。頭隠して尻隠さず。
【 関連項目 】
すぐ上のこと(後尾灯の点滅)は、下記項目で言及した。
→ 自動車のデッドマン装置: Open ブログ
2018年06月06日
過去ログ
また、夜間時の問題もある。
今年からEURONCAPに薄暮での自動ブレーキテストが追加されましたね。
単眼カメラの日産リーフが対人、対車両で衝突安全性能とプラスして5点満点代一号となりました。
>>「自動ブレーキは作動して衝突しました、しかしその後、後続車が追突しました。自分は衝突しないけれど、他人に衝突されてしまいました。結局、事故の発生件数は1つも減りませんでした」
ということになりかねない。頭隠して尻隠さず。
自動ブレーキも人間が踏む急ブレーキも関係ありません。
後方を走る車両の車間距離不足です。
法律で停止できる車間距離を保つ義務が後方を走る車両にありますから。
https://jp.autoblog.com/2018/04/30/nissan-leaf-crash-test-video-euro-ncap/
https://www.euroncap.com/en/results/nissan/leaf/32742
見たところ、日本の試験よりはいくらかはマシですが、欧州の試験もまだまだ駄目だ。本項で指摘した問題点は解決されていません。
リーフは5点満点じゃありません。5段階評価の5というだけであって、点数は 71% です。満点からは程遠い。
> 後方を走る車両の車間距離不足です。
それも大事ですが、車間距離がいくらあっても、居眠りしていたり注意散漫だったりしていれば、衝突事故は起こります。特に夜間や薄暮では起こりやすい。
車間距離は、事故を起こしやすい条件の一つであって、それがすべてではありません。
車間距離の確保は、安全性の必要条件であって、十分条件ではありません。
当然、「自動ブレーキは関係ありません」ということはない。人間がミスったときに、機械が安全装置を作動させることはあります。