2018年03月09日

◆ 研究機関の雇い止め

 ( 前項 の続き)
 理研で雇い止めの問題が起こった。ここには学術系の研究機関に特有の事情がある。(事業系の会社や役所にはない特有の事情)

 ──

 前項で述べたように、5年で雇い止めという問題は、通常は解決できる。
  ・ 高技能な熟練専門家ならば、雇用期間を有期から無期に変えるだけ。
  ・ 低技能な単純労働者ならば、雇い止めと新規雇用でも問題なし。

 
 ただし、これがうまく行かない場合もある。それは、理研のような研究機関の場合だ。なぜか?
 研究機関のプロジェクトは有期だ。そこで無期雇用は可能なのか?
 ここで問題となるのは、高技能な熟練専門家だ。その場合、通常ならば、雇用期間を有期から無期に変えるだけで済む。普通の会社なら、そうするだろう。しかるに、研究機関では、そういう具合には行かないのだ。なぜなら、研究機関では、プロジェクトは有期であるからだ。
 たとえば、理研では、プロジェクトチームそのものが有期契約である。「理研の正規職員ならば終身雇用だろう」と思っている人が多いだろうが、とんでもない。教授クラスの正規職員(グループディレクター、プログラムディレクター、主任研究員)でさえ、1年契約の有期雇用である。
 一部の研究者及び事務系職員を除いて、大半の者は1年契約であり、1年ごとに厳しい研究評価をくだされる。任期制の職員に退職金は無い。研究業績が基準に満たされない時は、雇用が解消される。
 一方で、年契約のシステムは研究者の流動性を生んでいる。優秀な研究者は理研で研究成果をあげて、ステップアップをかねて他の研究機関に移っていく。
( → 理化学研究所 - Wikipedia

 1年契約が原則だが、実際には数年間の継続勤務となることが多い。それどころか、結果的には終身雇用に近くなることも多い。(業績を上げ続ければ、という条件で。)
 とはいえ、基本は1年契約だ。プロジェクトもまた1年ごとだ。となると、そこで雇用される技能的職員もまた、1年ごとの有期契約となるのは必然なのだ。ここでは「無期雇用」ということが原則的に不可能となる。
 かくて、「有期から無期への転換」が不可能なので、雇い止めが発生する。これが今回報道された、理研における問題だ。
 
 というわけで、理研のような研究機関(もともとすべてが1年契約の組織)に限っては、「有期から無期への転換」が不可能となって、問題が発生するわけだ。
 ただしこれはあくまで、終身雇用の存在しない特殊な組織の場合だ。日本のほとんどの民間企業はそうではないので、このような例外的な問題は生じない。
 報道された事例は、あくまで例外的なものだ、と理解しておこう。



 [ 付記 ]
 では、理研では、どうすればいいか? 私なりに考えると、次のように提案しておこう。

 プロジェクトが有期だから技能労働者も有期にするべきだ……というのが、理研の立場だろう。しかし、「プロジェクトが有期だから、技能労働者も有期にする」ということは、民間企業では成立しない。むしろ、「プロジェクトが有期であっても、技能労働者は終身雇用にする」というのが普通だ。実際、製品開発の現場では、そうだろう。プロジェクトは数年ごとに変わるとしても、次々と変わるプロジェクトを移ることで、雇用を維持することができる。ちょうど、渡り鳥のように、
 とすれば、理研もまた、同じようなことをすればいいだろう。
 専門技術者は、プロジェクトごとに雇用するのではなく、理研が雇用すればいい。できれば、無期雇用の形で、雇用を保障するといい。そのことで、高度な人材を安定的に雇用できる。
 その後、専門技術者をどこで働かせるかは、プロジェクトの要望を受けて、組織が分配すればいい。まずは無期雇用の労働者を分配する。
 この分配が終わったあとで、足りない分の専門技術者を入れて補うが、それについては、5年未満の短期労働者を導入すればいい。
 おおざっぱに言えば、こうだ。
  ・ 半分ぐらいは、経験が5年以上の、有能な無期雇用の人。
  ・ 半分ぐらいは、経験が5年未満の、未熟な有期雇用の人。

 前者は、理研という組織が雇用してから、プロジェクトチームに分配する。
 後者は、前者では足りない分の人材を、プロジェクトチームが勝手に採用する。

 なお、次の心配があるかもしれない。
 「経験が5年以上で、無期雇用だからといって、有能だとは限らないぞ。そんなのを受け入れたくないよ」
 というふうに。
 しかし、その心配はない。経験が5年以上で、無期雇用になる人は、漏れなく有能である。絶対に間違いなく、有能である。なぜか? 有能でなければ、無期雇用になれず、雇い止めになる(解雇される)からだ。その意味で、無期雇用になった人は、漏れなく有能なのである。(ほとんどトートロジーみたいなもので、必ず真である。)

 そして、有能であるならば、無期雇用にしたからといって、何も問題は生じないのだ。せいぜい、解雇のときに応分の退職金を払うということぐらいだ。しかも、それは、おかしくない。7年以上も貢献した有能な技術者には、応分の退職金を払うことぐらいは問題ではあるまい。応分の退職金も払うのがいやだというのなら、次のいずれかだ。
  ・ 有能な労働者を薄給で働かせるブラックな職場。
  ・ 退職金にふさわしくないほど無能な労働者。

 後者の場合は、契約そのものが間違っていたのだから、無期雇用にしなければよかったのだ。特に、無能な労働者であれば、さっさと解雇すればよかった。そして、無能な労働者であれば、「いなくて困る」という問題も生じない。

 なお、前項の例では、「辞めさせられると困る」ということが起こった。それは有能な労働者の場合だ。一方、無能な労働者であれば、そういうことは起こらない。
( 前項では、それが問題となったのは、その労働者が有能だったからだ。そして、有能な労働者が無期雇用になれないとしたら、それは、その職場がブラックであるというだけのことだ。)
 理研としては、あれこれと文句を言う前に、そのブラックな雇用体制を改善するべきだろう。一方、「民主党の制度改正が悪い」なんていうふうに文句を言うのは、ブラックな雇用体制を擁護するようなものだ。文句を言う対象を間違えている、というしかない。



 [ 補足 ]
 なお、具体策としては、次のような方式が考えられる。
 「5年を越える有期雇用の人については、無期雇用に切り替えることにして、理研に雇用してもらうことにする。ただし、そのための費用負担として、給与の1割に相当する額を理研に納入する。理研はその1割の額を貯金しておいて、のちにその人が解雇されるときに、退職金として支払う」
 その人を雇用するプロジェクトチームは、払う賃金が1割アップになったのと同様になる。だから、プロジェクトチームは、次の二者択一だ。
  ・ 1割の費用アップを受け入れて、雇用を続ける。
  ・ 1割の費用アップを受け入れず、雇い止めにする。

 どちらかになる。そのどちらでもいい。そして、前者を選べば、「有能な人を雇用できなくなる」という問題は、発生しないのだ。単に「給与を上げたくない」という問題が発生するだけだ。

( ※ なお、1割という数値は高すぎるので、5%ぐらいでもいいかもしれない。相場では、退職金は、本給の2%分ぐらいだ。 → 退職金の相場



 【 関連サイト 】
 理研における雇用の例。理研のページから応募要項を記す。
クリーンルームでの微細加工プロセスや関連技術に関する経験と高い能力を持つテクニカルスタッフを募集します。
単年度契約の任期制職員で、評価により採用日から10年を上限として再契約可能。
( → テクニカルスタッフの募集
当研究所との有期雇用の通算契約期間が5年を超えることはありません。)
( → パートタイマーの募集

 制度改正にともなって、無期雇用が増えているが、その処遇を改善する動きもある。
  → 派遣社員にも交通費 大手各社、無期雇用の待遇改善:日本経済新聞

 無期雇用に転換した労働者には、これまで出さなかった交通費を出すようにした、という会社も出てきた、とのことだ。
( ※ ただし、交通費を支給するが、同時に本給を下げるので、差し引きして、手取りの総額はあまり増えない、ということが多いようだ。例。交通費を 1000円支給で、給与を 800円下げる。差し引きして 200円だけアップ。だけど名目上は交通費を支払う形。)
 
posted by 管理人 at 19:56| Comment(11) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後のあたりに [ 補足 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年03月10日 00:54
中小企業向けの退職金共済みたいなやつに加入すれば雇用側の面倒がなくて済みそうです。
Posted by けろ at 2018年03月11日 01:17
管理人さんのアイディアは、1年単位のプロジェクトで無期雇用を生み出すことができました。

理研(もしくは同種の研究機関)の予算が1年単位で大きく増減するとしたら、どう対処したら良いでしょうか?

私は、研究機関の予算を景気に連動させず、国が長期プランを立てることを提案します。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年03月17日 16:57
> 理研(もしくは同種の研究機関)の予算が1年単位で大きく増減するとしたら

 そんなことはありえないけど、仮にあったとしても、5年未満の有期雇用の人を解雇することで調整できます。

 ちなみに、あるプロジェクトリーダーに質問してみたところ、その人のチームには、5年以上になる人は1人もいないそうです。すべて4年以下。当面は問題は起こらない。
Posted by 管理人 at 2018年03月17日 17:06
 最近では、有期雇用を無期雇用に転換する事例が、続々と出ている。
 「無期雇用」でニュース検索すると、事例が見つかる。
  → http://j.mp/2Ixc7QG
Posted by 管理人 at 2018年03月17日 17:50
>> 理研(もしくは同種の研究機関)の予算が1年単位で大きく増減するとしたら

>  そんなことはありえないけど、仮にあったとしても、5年未満の有期雇用の人を解雇することで調整できます。

「そんなことはありえない」とおっしゃいますが、多くの研究機関でこれが現実です。

結局「有期雇用の人を解雇することで調整」がまかり通ってしまうのですね。「解雇」ではなく「契約の延長拒否」だと思いますが。

> 最近では、有期雇用を無期雇用に転換する事例が、続々と出ている。

有期雇用の雇いどめの事例も、続々とでています。報道回数と世の中の状況は比例しません。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年03月19日 14:27
 理研の予算額の推移。
  http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/riken88/info-13.pdf

 1年間だけ突発的に増額されることが2度あっただけ。あとは毎年同じような増加率。
Posted by 管理人 at 2018年03月19日 16:59
> 理研の予算額の推移。

研究現場では、書類を書いて国に申請して審査を通るともらえる補助金無しでは、ろくに研究できません。

理研予算額のグラフに、その年にもらえた補助金は入っていますか?
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年03月23日 09:18
今気づいたのですが、理研の総予算が安定していても、各研究の予算が安定しているかどうかはグラフから読み取れませんね。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年03月25日 14:45
> 研究の予算が安定しているかどうか

 安定させちゃ駄目でしょう。安定させたら、昔の比率が固定されてしまう。今ごろは石炭開発とか稲作振興とか、そういう時代錯誤的なことを推進していそうだ。その一方で、iPS や遺伝子編集みたいな最先端の研究はないがしろにされそうだ。
Posted by 管理人 at 2018年03月25日 18:33
>  安定させちゃ駄目でしょう。安定させたら、昔の比率が固定されてしまう。今ごろは石炭開発とか稲作振興とか、そういう時代錯誤的なことを推進していそうだ。その一方で、iPS や遺伝子編集みたいな最先端の研究はないがしろにされそうだ。

コメントの引用部分には、全面的に賛成します。
すると、研究分野によって人件費に割ける金額が変わってきますね。結局研究テーマの移り変わりによって人件費が大きく変動することになってしまい、「無期雇用の研究者を雇う余裕がない」というオチになりませんか?
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年03月27日 08:35
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