2018年03月04日

◆ 人工光合成は可能か?

 植物の光合成の過程を人工的に模倣する「人工光合成」の研究が進んでいる。これはうまく行くか?

  ※ 最後の 【 後日記 】 で、意見を修正しています。


 ──

 朝日新聞に、光合成の過程が解明されつつある、という解説記事があった。
  → 光合成、水の分解に迫る カギは「ゆがんだ椅子」:朝日新聞 2018-03-04

 光合成の過程は主に三つの過程に分けられるそうだ。記事から引用しよう。
 その仕組みを探る研究には1世紀以上の歴史があり、10個のノーベル賞が贈られてきた。近年は、難関とされていた水を分解する過程が、日本の研究によって明らかになりつつある。

 光合成の主な反応には、
(1)根から吸い上げた水を酸素と水素イオンと電子に分解する光化学反応
(2)電子を使ってATP(アデノシン三リン酸)を作る反応
(3)ATPを使って大気中の二酸化炭素を糖に変えるカルビン回路
 ……の三つがある。

 この分野で、日本人研究者が成果を上げているそうだ。
 岡山大の沈建仁教授らは、葉緑体の中心部にレーザー光を当て、光合成の反応が進む様子を調べている。
 調べているのは、根から吸い上げた水の分子を取り込んで酸素と水素イオンと電子に分解する「PS2」(光化学反応2)と呼ばれる過程だ。光合成の一連の反応の中で、長年その仕組みが未解明だった難関に迫ろうとしている。
 解明の糸口が見つかったのは 2011年。PS2の反応を担うたんぱく質の中心部にある触媒分子「マンガンクラスター」の構造を、大阪市立大の神谷信夫教授とともに突き止めた。

 参考となる動画もある。





 ──

 さて。この二人の教授は、2013年の記事では、「この成果を利用して、人工光合成を実現したい」と言っていた。
 《 二酸化炭素が資源に! 夢の人工光合成 :日本がリード! 人工光合成の研究 》
 神谷信夫さん
 「天然でできていることが、人工でできないはずはないという。私は化学者ですから、そう思ってます。私も沈さんも、しつこいんですね。」
 そんな神谷さんにチャンスが訪れました。世界最高レベルの分析装置が、日本で完成したのです。この装置で、それまで誰も見たことのない、植物内部の謎の仕組みが明らかになりました。
 植物には、水を分解する重要な物質が潜んでいたのです。マンガンやカルシウムが、独特の形でつながった物質でした。これこそが、植物の光合成を支えていたのです。
 この研究成果を生かせば、人工的に光合成を起こすことができるのではないかと、大阪市立大学では、新たな研究拠点を立ち上げました。人工光合成研究センター。
( → NHK クローズアップ現代+

 こうして期待いっぱいで人工光合成の研究を進めた。
 しかし、約五年後の本日記事では、悲観的に語っている。
 生体内で反応が持続するのは、分子を壊しては修復する生命維持機能が細胞に備わっているからだ。「生体の持つ複雑な仕組みも含めて、完全に自然を模倣した人工光合成を実現するのは不可能に近い。別のアプローチが必要だ」。神谷さんは、そう語る。

 実は、これは必ずしも悲観的とは言えない。「別のアプローチ」を取れば解決可能だ、と言えるからだ。実際、次の方法がある。


jinkou-kgs.jpg
出典:日刊工業新聞のサイト


 これは炭水化物を合成する過程もあるが、その素過程は従来技術をそのまま使っている。核心的なのは、水素を発生する過程だけだ。
 したがって、ここでいう「人工光合成」は、「水素発生」が本質である。とすれば、その意味は「太陽光による水素ガス発生」であって、広い意味の「太陽光発電」と言える。あえて「人工光合成」と呼ぶ必要はないだろう。
 というか、「水素を発生させる太陽光発電」の一種として、光合成反応と同様のものを使う、というだけのことだ。最終目的は、水素発生であって、炭水化物の製造ではない、という点に着目するべきである。したがって、これを「人工光合成」と呼ぶのは妥当ではない。
 ただ、その点を除けば、この手の人工光合成は、技術的には可能だと思える。
( ※ これは「別のアプローチ」として成立する。)

 ──

 一方、「真の人工光合成」つまり「炭水化物までつくる人工光合成」はどうか? 
 2015年7月20日、大阪市立大などの研究チームが、「人工光合成」の技術を使い、酢酸から自動車の燃料になるエタノールを作り出すことに成功したと発。
( → 人工光合成 - Wikipedia

 こういう研究もあるようだ。しかしこれは、「別のアプローチ」とは言いがたい。これは成功しそうにない。
 なぜか? 仮にエタノールを作ったとしても、そのエタノールを回収することが困難だからだ。

 植物ならば、油を含む植物を作ったあとで、まとめて回収して圧搾すれば、油を入手できる。これは現実レベルのコストで実現している。
 ミドリムシを使って同様のことをする、という案もある。しかしこれは、ミドリムシをまとめて回収して圧搾する、という手法が使えないので、うまく炭水化物を入手できない。無理にやってはいるが、コストが市販品の 10倍ぐらいになってしまうので、とても現実レベルでは不可能だ。要するに、ここでは「精製のコスト」が莫大にかかってしまうので、現実に可能なコストとならないのだ。詳しくは下記。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ

 同様のことが、炭水化物を作る人工光合成についても言えるだろう。仮にエタノールを得ても、エタノールを精製するコストがかかる。また、設備費も大量にかかる。種子の代金がとても安い植物に比べると、あまりにも大差がある。

 ──

 さらに言おう。人工光合成には致命的な問題がある。それは、ライバルの存在だ。ライバルとは、太陽光発電だ。
 太陽光発電は、実用品の効率が 20%以上になろうとしている。
  → 太陽光発電太陽光発電メーカー比較ランキング

 実験室レベルなら 46% が実現している。さらに理論的可能値は 60% 以上にもなるらしい。
  → 神戸大学、変換効率が50%超える太陽電池構造を発表
  → 最大63%の変換効率を備える新型太陽電池構造

 これほどにも高い効率ができているのだ。そうであれば、太陽光発電をしてから、水を電気分解する方が、圧倒的に効率が高い。
 なお、人工光合成の方は、いくら技術が進んだといっても、現時点は3%ぐらいにすぎない。将来的にも、高い効率は望めない。63%なんて、夢のまた夢だ。太陽光発電の効率の高さには、とうてい敵わない。

 ──

 まとめ。

  ・ 光合成の解明が進んだ。
  ・ その原理を利用して、人工光合成をしようと期待した。
  ・ 実際に、人工光合成の研究は進み、実現可能性は示された。
  ・ しかし、その効率は低い。太陽光発電には、遠く及ばない。
  ・ 人工光合成の本質は、炭水化物の合成でなく、水素発生である。
  ・ その意味で、人工光合成は、太陽光発電と同類だ。(ライバルだ。)
  ・ 両者を比べれば、効率の高い太陽光発電が勝つ。
  ・ 人工光合成には、勝ち目はない。いくら研究しても無駄だ。



 [ 付記1 ] 
 すぐ上に述べたように、人工光合成の研究をしても無駄である。
 一方、日本政府は、(それとは逆に)人工光合成の研究開発に多額の資金を投入するようだ。
 日本政府も昨年4月には二酸化炭素の抜本的な削減に向けた「エネルギー・環境イノベーション戦略」でこの人工光合成を有望な対策技術に位置付けた。
( → 人工光合成 | 最先端科学・技術ニュースと新製品情報

 具体的な数々の研究は、上記ページで記されている。

 また、政府の方針は、下記にある。(軽く言及されている。)
  → エネルギー・環境イノベーション戦略《 本文:pdf 》/ 内閣府
  → エネルギー・環境イノベーション戦略《 文書一覧 》 - 科学技術政策 - 内閣府

 これはまあ、沈没する戦艦大和に多額の資金を投入するようなものだろう。プラズマディスプレイにこだわったパナソニックに似ている。

 [ 付記2 ] 
 仮に人工光合成の技術が成立したとしても、世界中の耕作地に人工光合成の工場をつくるなんて、無理に決まっている。。(コスト的にも成立するはずがない。)
  ・ 畑に安価な種子をまくだけでできる農産物
  ・ 敷地に大規模な工場設備を建設する人工光合成

 これじゃ、勝負になるまい。また、仮に勝負できたとしても、広大な面積に分布するエタノールを回収する方法がない。回収するために必要なエネルギーの方が、得られるエネルギー(エタノール)よりも、多くなりそうだ。つまり、エネルギー収支がマイナスになりそうだ。愚の骨頂。

 太陽光発電が可能なのは、電力エネルギーの運搬が電線だけで済むからだ。そこでは電子を移動するだけで済む。一方、人工光合成では、物質レベルでエタノールなどを移動する。そのためには、ものすごくコストがかかる。(運搬コスト)
 なのに、そんなこともわからずに研究しているのだから、砂上の楼閣というしかない。いや、バベルの塔か。



 【 関連項目 】
 本項で指摘したことは、基本的には、ユーグレナの説明と同様である。そちらも参照。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ



 【 関連動画 】







 パナソニックは、植物並みの太陽エネルギー変換効率0.2%で有機物を生成する「人工光合成システム」を開発しました

 と言って、自慢しているが、0.2%で自慢するのは見当違いだ。
 植物ならば、種子が激安なので、効率が低くても問題ない。一方、人工光合成の装置は高コストなので、0.2% という数値では困る。比較対象は、植物ではなく、太陽光発電だ。そちらの効率は 20%以上だ。100倍も上だ。

 比喩。「10万円借りても、利子が 0.2% なら、たったの 200円だ。このくらいの利子は全然問題ない。だから 100億円を借りても、利子が 0.2% なら全然大丈夫さ。」
 しかし 100億円を借りて、利子が 0.2% なら、2000万円だ。毎年それだけを返済することは、まず無理だろう。
 どちらも 0.2% だとしても、元金の規模が違えば、結果も大違いだ。
 人工光合成もまた同じ。植物と比べて効率が同じだと言っても、比較にならない。植物の種子は激安なんだから。比較するものを間違えている。
 


 【 後日記 】( 2019-07-11 )
 本項の執筆後、人工光合成の技術は、大幅に進展した。変換効率 5.5% を達成した。あまりにも急激な技術の進展があった。
 私の予想は外れたようだ。そこで、本項の予想や評価を撤回します。「研究の価値は十分にある。将来性も有望である」というふうに意見を変えます。
 この件は、下記項目で詳しく論じています。
  → 人工光合成とユーグレナ: Open ブログ
posted by 管理人 at 19:25| Comment(1) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
目的が大気中のCO2削減なら樹木によって大気中から固定されたCO2をバイオマス発電で放出しないで木炭にして固定すれば明らかに削減になるのに。
Posted by vaceba at 2018年03月05日 06:08
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