2018年02月27日

◆ 高木菜那の勝因(スケート)

 冬季五輪のスケート・マススタートで、高木菜那が金メダルを獲得した。では、その勝因は?

 ── 

 勝因は、動画を見るとわかる。







 最後のコーナーで、高木菜那が内側に切り込んでいる。一方、相手(オランダ選手)は外側に大きくふくらんで、大幅に距離を増やして、遅れてしまった。
 ここでは、高木菜那がうまくやったということのほかに、相手が大失敗したということが、勝敗を分けた。では、その理由は?

 ──

 見れば理由は明らかなことなのだが、解説している記事を見たことがないので、私が解説しておく。

 まず、基本原則を示そう。
 マススタートでは、普通のスピードスケートとは違ったコースを取る。普通のコースよりも、ずっと内側のコースが許される。その分、コーナーがきつくなる。したがって、高速でコーナーを回ろうとすると、コーナーギリギリのコースを取ることはできない。コーナーギリギリのコースを取れるのは、速度が遅いときだけだ。速度が速いまま、コーナーギリギリを取ると、スピード超過で、コーナーの外側の方に張り出してしまう。

 オランダ選手は、そこで大ミスをした。最後のコーナーで、内側ギリギリの位置を保とうとした。そのまま、スピード超過で、外側にふくらんでしまった。そのせいで、大幅にタイムをロスした。

 高木菜那は違った。最後のコーナーに入る少し手前で、いったん外側に出た。そのあと、コーナーを半分ぐらい回ったところで、コーナーギリギリまで近づいた。これだと、以後は外側に大きくふくらむことはない。そこで、すでに外側にふくらんでいる相手の内側に入って、相手を追い越した。作戦成功。

 要するに、半径を R で表すと、R = 10 のコーナーでは、R = 10 のコースを取れず、R = 20 ぐらいのコースしか取れない。そこで、いったんコーナーの外側に回ってから、コーナーに近づいて、そこからまたコーナーから遠ざかればいい。
 ただし、コーナーに接近する時点が問題だ。早めにコーナーに接近すると、最終的にはひどく遠回りするコースをたどる。一方、最初はコーナーから遠ざかって、そのあとコーナーに近づくコースを取れば、最終的には遠回りしないで済む。

 もちろん、オランダ選手も、このことはわかっていた。だが、そうできなかった。なぜか? 後ろから2位の選手が近づいているので、そのとき内側を明けると、そのコースを奪われることが心配だったからだ。コースを奪われたまま、妨害を受けると、勝負に勝つことができない。そう思って、内側を明けるのを拒んで、早めに内側のコースを占めた(コースに蓋をした)わけだ。

 ところが、それを読んでいた高木菜那は、コーナーの前半では勝負せず、コーナーの後半で内側から追い抜けばいい、と作戦を立てた。そして、その作戦が見事に奏功した。読み勝ちである。

 結局、コーナーの内側に接近する時点で、勝敗を分けた。
  ・ コーナーの前半で内側に接近した相手選手
  ・ コーナーの後半で内側に接近した高木菜那

 この作戦の違いが、勝負を分けたのだ。



 [ 付記 ]
 本項では図を示さず、言葉だけで示したが、頭のなかで図を描いてほしい。図で考えないと、正しく理解できない。

posted by 管理人 at 19:05 | Comment(9) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
管理人さんのズバリの解説に一言、二言加えるなら、
三宮さんの解説にもありましたが、オランダの選手がコーナーで膨れることを読んでいたそううです。
また、小柄であることがコーナリングで有利に働いた面もあるかと思います。
Posted by yomoyamapage at 2018年02月27日 22:27
つまりアウト・イン・アウトと言うテクニックですね。
https://goo.gl/rfSVDW
Posted by 通りすがり at 2018年02月28日 04:46
> アウト・イン・アウト

 そうです。このことを念頭に置きながら書いていました。車の話にも言及する予定で書きはじめたのだが、書き落としてしまいました。ご指摘いただいて、思い出しました。ありがとうございます。

 http://www.asahi-net.or.jp/~jh9h-sgur/old/outinout.htm
 このページでも解説されています。そこには「スローイン・ファストアウト」という概念も説明されています。これも重要な概念なので、これも理解しておくことが大切です。
 ※ もともと書く予定だったが、書き忘れたので。
Posted by 管理人 at 2018年02月28日 07:08
> アウト・イン
このテクニックは、
団体パシュートの先頭交代の際にも利用されていました。
Posted by yomoyamapage at 2018年02月28日 07:37
加えるなら、後ろにつける能力が抜きん出ていることでしょうか。
パシュートでは妹さんの能力を最大限に引き出した戦略で勝ちましたが、その裏にはお姉さんの後ろにつく能力も生かされていました。2番手走者が変わっても難なくついていける適応能力の高さです。
第2走者の身長差からくるスケーティングの差はかなり大きいです。
この能力があって初めて冷静に勝負どころが見えていたのだと思いました。
Posted by 船橋のひと at 2018年02月28日 08:00
>船橋のひとand
シナジー効果(and三人寄れば文殊の知恵)、
極度に分業化された社会の一つの見本。

Posted by yomoyamapage at 2018年02月28日 08:29
オランダ選手の体力が最終コーナーまでもたなかったのではないでしょうか
それでアウトに膨らんでしまったと思います
最終コーナーで上体が起き上がっているように見えます。最後踏ん張っていればインを刺されなかったでしょう。
遠心力に対抗して鋭くコーナーを曲がるには低い姿勢とそれを支える脚の筋力が必要なのではないでしょうか。
遠心力がタイヤのグリップを超えたら クルマならドリフトするし 競輪ならそうならないようバンクがあります

このときは同じようなシチュエーションで負けてます
https://www.youtube.com/watch?v=Vrw0g91ED-A
最終コーナーで左腕が振れてないのは マットにぶつかりそうだったからか・・
今回のオリンピックにはマットがありませんね
Posted by P助 at 2018年02月28日 12:52
タイヤにグリップ力があるように、スケートにも同様のグリップ力があるので、限界を超えることはできません。
通常はグリップ力で内側に加速度を向けます。しかし、ラストスパートで前方向に進もうとして加速すると、グリップ力が後方に蹴るために使われてしまうので、内側(横側)に向けるグリップ力が失われてしまいます。
この場合、車だと、スリップしてドリフトします。スケートの場合は、同様にして、外側にふくらみます。
このスリップを避けるには、後方への加速を弱める必要があります。すると、スピードが落ちる。こうしてオランダ選手は速度が低下して、追い越されてしまいました。力がなくなったのではなく、意図的に力を下げたわけです。横へのスリップを弱めるために。
Posted by 管理人 at 2018年02月28日 13:00
確か、同じようなことを清水宏保が言ってましたね。
今大会の清水の解説は素晴らしかったです。(SNSでも結構話題になってました)
Posted by 名無し at 2018年02月28日 14:58
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