2018年02月26日

◆ 裁量労働制をなぜ推進する?

 裁量労働制は世間では不評だ。なのになぜ、政府は推進するのか?

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 裁量労働制は世間では不評だ。これほど不評ならば、政府は取り下げても良さそうなのに、政府は強引に推進しようとする。ではなぜ、政府はそれほどにもゴリ押しして推進するのか?

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 まず、基本を考えよう。
 裁量労働制の本質は、「裁量によって労働時間を決めること」ではない。そういう建前の下で、「実際には裁量を与えないこと」である。つまりは、ペテンである。このペテンによって、労働者の残業代をゼロにすることが目的だ。
 この件は、前に述べたとおり。
  → 裁量労働制のペテン: Open ブログ
 実際には裁量を与えないことが本質的だ、という点については、下記でも主張されている。
  → 裁量労働制とはこういう制度(佐々木亮) - Yahoo!ニュース
 実例もある。
  → 裁量労働制になったら、働き方は何も変わらずに残業代だけ減った話

 ではなぜ、政府はそういうひどいことをするのか? この点は、次のことで説明が付く。
 「日本政府は、国民のためにあるのではなく、自民党のためにある。自民党は、国民に奉仕するのではなく、企業に奉仕する。したがって、政府が国民を虐待して、企業に奉仕するのは、当然のことである」


 つまり、「政府は国民のために奉仕する」というのは、人々の妄想であるにすぎない。どちらかと言えば、政府は国民を虐待するために存在する。つまり、国民の利益を企業に渡すために存在する。少なくとも、自民党という政党はそうだ。その自民党が政権を握れば、政府もまたそうなる。(こんなことは、マルクスのころからずっと指摘されてきたことだ。)

 この件は、数値でも実証できる。「近年、労働分配率が低下している」および「貧富の差が拡大している」ということがあるのだ。つまり、労働者の取る金はどんどん減少し、富裕層の取る金はどんどん増えている。


労働分配率と内部留保
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先進諸国の労働分配率
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ジニ係数の国際比較

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 労働分配率は、リーマンショックや民主党政権のころには一時的に高まったが、以後は一貫して低下している。その一方で、企業の内部留保はどんどん高まっている。(グラフ1)
 労働分配率は、長期的にも低下している。特に、諸外国との比較で、日本は極端に労働分配率が低い。(グラフ2)
 貧富の格差を示すジニ係数でも、日本は一貫して、貧富の格差が拡大基調にあるとわかる。(グラフ3)

 以上からわかるように、日本では「労働者を虐待する」という方針が一貫して取られてきたことがわかる。そういう政府を国民が支持して、政権を与えてきたのだから、政府が国民を虐待するのも当然のことなのだ。
 比喩的に言えば、「私たちをいじめてください」というマゾな国民が、自分たちを鞭打つ政府に票を与えてきた。そして、そのお望み通りに、国民を虐待しているだけのことだ。
 自民党政府はまさしく、国民の望んでいることを実施しているだけのことだ。ここで「政府は国民のために奉仕してくれない」なんて不平を鳴らすとしたら、不平を鳴らす方がおかしい。もともと「いじめてください」と言っているんだから、今さら「いじめられた」と文句を言っても無意味なのである。(政府にいじめられたくなかったら、先の選挙で、圧倒的に票を与えなければ良かっただけのことだ。今さら文句を言っても遅い。)
 
 ともあれ、政府は「企業のために奉仕する」という方針を一貫して取り続けているし、国民はその政府を支持しているのだから、政府が国民を虐待するのは当然なのだ。
 特に、企業が「残業代ゼロで国民を酷使したい」と思うのであれば、政府がその方針を断固として取るのは、きわめて当然のことなのである。
 
 以上で、物事の本質は説明が付く。




 ただし、ここで疑問が出る。
 「どうして企業は今になって、残業代ゼロという方針を取りたがるのか? 今までは法人税減税というような目先の利益ばかりを狙っていたはずだ。なのに、何だって今になって、残業代ゼロということに狙いを定めるのか?」 


 それについて説明しよう。

 (1) 労働力不足

 近年は景気回復基調にある。物価上昇率はゼロ近辺だし、金利はゼロ金利だし、通貨は円安だし、経済数値で見れば、とても「回帰回復」とは言えないのだが、少なくとも、景気悪化というようなことはない。
 しかも、労働市場で見れば、「人手不足」という状況が生じつつある。これは、「団塊の世代の退職」や「若年層の少子化」ということもあって、労働人口そのものが減りつつあることも理由だが、とにかく、「人手不足」という状況が生じつつある。つまり、労働力不足だ。

 (2)  M字カーブの解消

 労働力不足という構造的問題があっても、それを補うための補完的な労働力増加があった。それは、「女性労働力の増加」である。
 たとえば、「保育所不足」という状況は、なかなか解消しないが、これは、「保育所をどんどん作っても、働く女性がどんどん増えるので、保育所不足が解消しない」ということのせいだ。


女性就業率と待機児童数
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 図でわかるように、女性就業率はどんどん上昇している。このせいで、労働力不足を補ってきたわけだ。

 ところが、である。これもどうやら、頭打ちになってきたようだ。
 女性が出産や育児によって職を離れ、30代を中心に働く人が減る「M字カーブ現象」が解消しつつある。働く意欲のある女性が増え、子育て支援策が充実してきたのが背景だ。人手不足下の景気回復で、企業が女性の採用を増やしている面もある。
 「M字カーブ」はこの労働力率を年齢層に分けてグラフを描いた時に現れる。女性は30代の子育て期に離職し、40代で子育てが一服すると再び働く傾向があるためだ。欧米は台形に近いが、日本は30代がへこむ「M」になる。
 だがM字はかなり台形に近づいている。

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( → M字カーブほぼ解消 女性就労7割、30代離職が減少:日本経済新聞 2018/2/23

 労働力不足を、女性就業率の向上で補う、というのが、これまでの経済情勢だった。しかし、その手はもはや使いにくくなっているのだ。女性就業率が天井に近づきつつあるからだ。

 (3) 女性労働力の代替

 補充された女性労働者は、(保育期間後の)中途採用であるので、非正規社員であるのが普通だ。この場合、非正規であるので、賃金も低く済んだ。企業は、労働力の補充と、低賃金との、双方を一挙に享受することができた。このことで、企業利益の増加(内部留保の増加)も、なしとげた。
 ところが、前述のように、もはやこの手は使いにくくなっている。(女性労働力の頭打ち。)
 となると、女性労働力(非正規社員)の代替を、正社員でやるしかない。
 ここで、問題が生じる。次の二点だ。
  ・ 正社員は、労働コストが高い。
  ・ 正社員は、高い残業代がかかる。

 この二つは、避けがたい状況だ。となると、労働コストが上昇する。これは、企業にとっては困る。
 かといって、景気回復基調の状況では、何もしないでいると、せっかくの売上げ増加の機会を失ってしまう。それではもったいない。
 企業としては、何とかしたい。売上げ増加は欲しいが、労働コストの上昇は困る。かといって、「売上げ増加」と「労働コスト上昇の回避」という双方を同時に実現することは、不可能だ。困った。何とかならないか? 

 (4) すばらしい名案

 ここで企業は思った。
 「困ったときの自民党。企業が困ったときには、自民党が助けてくれ。そのためにずっと政治献金してきたんだ。いざというときには、ちゃんと言うことを聞いてくれ」
 「はいはい」と自民党は答えた。「で、どうすればいいんですか?」
 「今の法律を守る限り、どうしようもない。だから、法律を変えてくれ。ルールを変えてしまえば、どんなことだってできるはずだ」
 「で、どうしたいんです?」
 「正社員を低賃金で長時間雇用したい」
 「はい、わかりました」

 こうして、ルールを変えてしまうための法案が出た。それが「残業代ゼロ法案」つまり「定額働かせ放題法案」である。こんなことは、それまでは違法とされてきたことなのだが、いくら違法であっても、法律を変えてしまえば合法となる。
 ただし、こんなことは、まともな方法では通らない。そこで、ペテンを出した。
 「残業代ゼロ」や「定額働かせ放題」とは呼ばずに、「裁量労働制」と呼ぶことにしたのだ。つまり、「労働者にはお得ですよ」と見せかけることにしたのだ。ただし、「裁量を与える」と見せかけるが、実際には裁量を与えない。
 こうして、見事にペテンによって、「残業代ゼロ」「定額働かせ放題」が実現するわけだ。すばらしい名案!
 かくて、景気回復基調のときの労働力不足という問題があるときに、
 「正社員を低賃金で長時間雇用したい」
 という企業の要望が見事に叶えられることになった。企業は万々歳だ。

 そして最後に、安倍首相が言う。
 「困ったときの自民党。これからもよろしく。あと、政治献金もお忘れなく」



 [ 付記1 ]
 世間には、「政府は国民のために奉仕する」と信じている人もいる。何ともまあ、甘ちゃんだ。ただし、いくらか懐疑心も生じかけているようだ。たとえば、下記。
  → 安倍首相、「働き方改革」って長時間労働をやめるためのものじゃなかったの?

 一方、経済界では、あくまで「労働者よりも企業のために」という立場で、裁量労働制に期待する経営者が多い。国民や社員を虐待してでも、何とかして企業利益を拡大したい、というわけだ。比喩で言えば、売春宿の経営者みたいなものか。
  → 働き方改革「悪夢再来か」 経済界が懸念

 [ 付記2 ]
 安倍首相はどうして、企業の言うことばかりを聞くのか? 一方では「賃上げ推進」を口にして、労働者の味方であるフリをすることもあるのに、本当はどっちの味方なのか? ……そういう疑問をいだく人もいるだろう。そこで、答えよう。
 安倍首相は、企業の味方とか労働者の味方とか、そういうことはあまり考えていない。彼の考えるのは、「美しい日本」だけだ。そして、そのためには、「経済力の強化」が最大目的となる。
 「賃上げ」を支持するのは、それによって「内需拡大」をもたらして、一国経済力を拡大するためだ。(これは妥当である。)
 「裁量労働制」を支持するのは、それによって「低い労働力コストで企業経営力を拡大する」ためだ。ここではあくまで企業の強化が目的となっている。……では、それは正しいか?
 実は、正しくない。そもそもその方針は「賃上げによる経済力拡大」という方針とも矛盾する。残業手当をきちんと出せば、労働コストは上昇するが、国民所得も上昇するから、内需拡大を通じて、かえって経済力は拡大するのだ。……これがマクロ経済学からわかることだ。
 しかるに、安倍首相は、マクロ経済学を真に理解できていない。「賃上げで内需拡大」ということはわかっても、「残業手当増加で内需拡大」ということがわからない。だから、「残業手当ゼロで企業は成長する」という企業の言い分を信じてしまう。
 結局、「マクロ経済学」における「所得増加で GDP 増加」という理屈を、きちんと理解できていないのだ。そのせいで、「労働コスト増加で企業体力の低下」という経済界の言い分を信じてしまうわけだ。(頭悪いですね。)
 ここに、誤った政策が取られる真因があるとわかる。(頭が悪いこと。)



 【 関連サイト 】

 話は変わるが、次の記事もある。
  → 未払い賃金、時効見直す? 「2年→5年」:朝日新聞 2018-02-26

 未払い賃金の時効は、現行制度では、民法では1年だが、労働基準法では2年だ。賃金については優遇しているわけだ。
 ところが民法改正によって、この手の時効はすべて5年になることになった。なのに賃金について2年のままだと、優遇どころか虐待となる。そこで、労働基準法でも5年にしよう、という改正案が議論されている。
 しかし企業は大反対しているそうだ。(上記記事)

 呆れるね。未払い賃金なんて、時効にかかわらず、全額を払うのが当然だろう。(時効分を払うことは別に構わない。払わなくていいというのは、払ってはいけないということではない。)
 ところが、企業は、未払い分を踏み倒そうとして、その気満々である。これはもう「賃金泥棒」という泥棒行為そのものだ。
 そういう犯罪者のために法律を整備しようというのだから、日本はもう、泥棒に支配されているのも同然だな。犯罪者が権力を握った国。泥棒国家。



 【 関連動画 】




 
posted by 管理人 at 23:59 | Comment(8) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まともな政党がない。終わってますねほんと。
Posted by 日野 at 2018年02月27日 15:28
選挙もインチキとしか思えないです。
Posted by 上谷 at 2018年02月27日 21:25
安倍首相は、日本経済を破壊しながら軍備増強(ただし戦闘力強化ではなくてアンバランスに高価な武器の少数購入)をしています。これは貧国強兵で、明治時代の富国強兵にも劣ります。

こんなことを平気でやれる人間は、頭がおかしいか自国の滅亡を期待しているのでしょう。
Posted by 名無しの通りすがり at 2018年02月27日 22:41
 安倍総理、自民党は、働き方改革関連法案から裁量労働制を切り離すことを決めて、今回は裁量労働制の大幅導入を取りやめたようですね、

 野党やマスコミだけでなく、国民全体からの幅広い反対意見や疑念によって、今回は断念せざるを得なかったわけですね。
 
 安倍総理や自民党にも、民主的な、国民の声を聴こうという姿勢がいくらかはあるわけです。
 管理人さんがこき下ろすほどの「大馬鹿」ではなく、それなりには賢いと思いました。

 それなりに賢い安倍総理や自民党を政権から引き摺りおろすのは、なかなか大変でしょう。
 今の野党には、このような「賢さ」がまったく足りないように思います。
 

 
 
Posted by ishi at 2018年03月01日 09:38
> 管理人さんがこき下ろすほどの「大馬鹿」

 安倍首相を「大馬鹿」なんて言った覚えはないんだけど。
 サイト内検索してみても、「安倍首相を信じた国民はバカだ」とは書いたが、本人をバカだとは書いてない。

 私の見解は:
  ・ 安倍首相は詐欺師である。(だます・嘘つき)
  ・ 安倍首相は賢くない。(マクロ経済学を理解できない。)

 本質的に言うなら、「嘘つき」ですね。毎週、新たに嘘をついている感じ。
 嘘つきに だまされる国民が愚かだ、というのが私の基本的立場。

 本サイトでは、安倍晋三 個人の悪口(政治的攻撃)が目的ではなく、日本国首相の嘘を暴露するのが目的。「だまされるな」という趣旨。
 本サイトの基本ポリシーのひとつが「だまされるな」。
 そのまた基礎が「真実を見抜け」。これが本質。

> 自民党を政権から引き摺りおろす

 別にそれは、本サイトの目的ではありません。政治サイトではないので。
 私が言っているのは、「愚かな国民が愚かな政党を選んだのであれば、それによる苦しみは自業自得だ。あれこれと政策に文句を言うのは自己矛盾だ」ということ。
 自民党のせいでひどい目に遭っても、それを甘受するのであれば、それはそれで合理的です。悪妻と結婚したあとで諦めるようなものだ。ひどい目に遭っても、文句を言わずに耐え忍ぶのであれば、合理的。自分で選んでおきながら文句を言うのは、狂気的。
Posted by 管理人 at 2018年03月01日 12:35
私は文句を言う自由は欲しいです
Posted by カレー at 2018年03月01日 16:22
> 文句を言う自由

 支持しながら文句を言うのは、おかしいけれど、支持しなければ、いくらでも文句を言えますよ。

 ゴミ食品を出されたとき、「まずい」と言いながら食べるのはおかしいけれど、食べるのをやめれば いくらでも「まずい」と言えます。

 
Posted by 管理人 at 2018年03月01日 18:35
お邪魔します。
 もしかしたら「悪性でも無能や混乱よりはマシ」とでも考えているのかも知れません。極端な話イラクや北アフリカで独裁者が倒れた後混乱したり原理主義過激派が跳梁跋扈したりしましたから。「よもや自分の権力の源泉である国を潰しはしないだろう」で。しかしそれは「賢明な悪党」であって成り立つ事で、取り巻きに支えられて今日の地位を築き、その経験で「忖度他の(直接的な)人間関係が全て」と考えていると思われる首相がそれに該当するとは思えません。
Posted by ブロガー(志望) at 2018年03月04日 14:51
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