2018年02月10日

◆ 全国の赤字路線を廃止するべきか? ←両備

 全国の交通路線には、赤字路線がたくさんある。では、これらの赤字路線を一挙に廃止するべきか? つまり、地方の交通網のほとんどを、一挙に消滅させるべきか? 

 ──

 「何を馬鹿なことを言っているんだ」と思うかもしれない。これが実現したら、都会は別として、地方の交通網のほとんどは消えてしまうからだ。
 しかし、馬鹿なことを言っているのは、私ではない。世間だ。正確には、世間のほぼ半分だ。
 なぜか? 話の発端は、次のことだ。
 《 赤字 31路線を一斉廃止へ バス会社、規制緩和に抗議 》
  岡山県を中心にバス事業などを営む両備グループは8日、傘下2社の78路線のうち赤字31路線を一斉に廃止すると、国土交通省に届け出たと発表した。割安運賃を売り物にする他社が、両備の数少ない黒字路線への参入を計画。国も認める見通しとなったのに抗議する、異例の「実力行使」に踏み切った。
 両備によると、岡山市中心部で運賃100円均一の循環バスを走らせている八晃(はっこう)運輸(同市)が昨春、両備の基幹路線である「西大寺線」への参入を国に申請した。運賃は両備より30〜55%安い設定だという。
( → 朝日新聞 2018-02-08

 会社による公式発表もある。
  → 緊急発表| 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ





 これに対する世論は、真っ二つというありさまだ。
  ・ 抗議を歓迎する。無責任に自由化する政府が悪い。
  ・ 赤字路線を維持する必要はない。さっさと路線廃止しろ。


 前者の意見が圧倒的かと思ったが、そうでもない。後者の意見もかなり多い。(半分までには行かないが、3割前後はそういう規制緩和論者であるようだ。)
 下記に声が見られる。
  → はてなブックマーク

 ──

 で、これに対して私が論じるとしたら、こうだ。
 「赤字路線を維持する必要はない、という主張を取るのであれば、今回のバス路線に限らず、全国の鉄道網についても同様になる。つまり、JR の地方路線のほとんどを切り捨てることになる」
 たとえば、JR 北海道・JR 四国・JR 九州のほとんどすべてと、JR 東・JR 西の地方部分という、大半の路線を切り捨てることになる。生き残るのは、大都市周辺の黒字路線だけだ。

 なお、正確に路線を見たいのであれば、下記に一覧表がある。
  → 路線別収支・一覧表
 見ればわかるように、黒字の路線は 30ぐらいしかない。他のすべては赤字だ。そのすべてを一挙に廃止することになる。
 特に、北海道新幹線に至っては、「完成しても使わないで即時廃止」ということになる。金をドブに捨てるのも同然だ。
  → 北海道新幹線、予約率2割で50億赤字確実…経営危機のJR北海道、鉄道事業継続困難を示唆

 ──

 で、何が言いたいか? 
 「赤字路線は廃止せよ、という原則論を唱えると、一挙に全国で大規模な路線廃止が起こる」
 ということだ。つまり、論理的な帰結だ。
 このことを、人々は理解できていない。「赤字路線を廃止せよ」と言うとき、単に地方のバス路線だけで話が済むと思っている。
 しかし、その理屈を取るのであれば、論理的に、「全国で大規模な鉄道網の廃止」という激変が生じてしまうのだ。そういう論理を指摘したい。

 ──

 では、どうすればいいのか? 
 私はもともと「JR 北海道や JR四国の路線の大部分を廃止せよ」と述べてきた。
  → JR北海道は路線廃止せよ: Open ブログ
  → JR四国は全面廃線せよ: Open ブログ

 とすれば、私は「赤字路線の全面廃止」を主張するか?
 いや、そんなことはない。「大赤字」の路線は廃止するべきだが、「小幅の赤字」は維持するべきだ、と考える。北海道や四国では、「大赤字」の路線が多いので、廃止する路線が大部分でもいい。しかし、他の地方では、小幅の赤字で済むことが多いのだから、そのまま維持していいと考える。(現実的な主張だ。)

 一方、原理主義者とも言うべき人々がいる。「赤字路線はすべて廃止していい。撤退したければ撤退してもいい」という人々だ。しかし、そんなことをしたら、大問題が生じるぞ、というのが、私の指摘だ。

 ──

 さて。ここで、妥協案を出す人もいる。
 「黒字路線については新規参入を認めるが、赤字路線については国費を投入して、路線を維持するべきだ」

 という方針だ。
 これは一種の社会主義路線だろう。赤字事業に国費を投入して、赤字事業を維持する、という方針だからだ。(ただし経営主体は民間であり、国営ではないから、純然たる社会主義路線とは異なる。)

 この方針には問題がある。なぜなら、このようにして赤字路線に国費を投入するとなると、補助金の額を決めるために、事業の経営状況を精密に調査する必要があり、行政コストが莫大にかかる、ということだ。
 普通の補助金ならば、一定の額を決めて、あとは単に許認可するだけで済む。しかし赤字路線では、そうは行かない。赤字の額に応じて、個別に精密に調査して、額を決める必要がある。その行政コストは、ものすごく多額になる。(さらには、政治家の介入によって、あちこちで不正が発生する可能性もある。政治家がちょっと口利きして、補助金の額を大幅に積み増しさせて、そのことで政治献金を得る……というふうな。)

 一方、このような補助金を投入しないで済む方法もある。それは、
 「赤字路線と黒字線をいっしょに経営させて、その事業を許認可する」

 という方針だ。そして、それは、現状の方針そのものだ。つまり、現状の方針が、最も効率的なのである。

 ではなぜ、その方針を否定する人が現れたのか? それは、黒字路線だけを見て、「黒字路線で規制緩和をすれば、その部分では、競争原理で、状況が改善する」と思ったからだ。
 では、その発想のどこがまずいのか? それは、黒字路線の部分だけを見て、赤字路線の分を見失っているからだ。赤字路線については、「別途、補助金を出せばいいさ」なんて気楽に考えているが、「補助金を出せば、莫大な管理業務が行政にかかる」ということを見失っているからだ。
 ここで、両者を対比すると、こうなる。
  ・ 黒字路線では、市場原理で改善する (自由経済)
  ・ 赤字路線では、補助金業務で改悪だ (社会主義)

 前者では、わずかな改善効果(効率アップ)が出る。
 後者では、莫大な無駄(補助金の管理行政)が出る。
 ここで、前者の「効率アップ」だけを見て、後者の「補助金の管理行政の無駄」を見失っているのが、原理主義的な発想をする人々だ。新たに発生するメリットは見るが、新たに発生するデメリットを見失っている。右手で得して、左手で損をするとき、右手だけを見て、「得した、得した」と喜んでいる。トータルでは損することに気づかないまま。
( ※ 朝三暮四の猿みたいなものだ。いや、もっとひどい。朝三暮四の猿は、差し引きしては損をしないだけ、まだマシである。猿より愚かなのが、人間だ。)

 ──

 結局、「規制緩和による経済的メリット」というのは、全体を見て考えるべきものなのである。なのに、一部だけを見て、「得した、得した」と言っているのでは、全体の損に気づかないままだ。それでは全体としては、かえって状況を悪化させる。

 「規制緩和による経済的メリット」というのは、一般的には、「競争のない状態での利益の独占を許さない」ということのためにある。しかしそれは、地方の交通網のような「会社全体としては赤字または薄利」という状況には適用できないのである。無理に適用すれば、「独占体質による過度な黒字」をなくすどころか、「(赤字または薄利の)事業の公共性をつぶす」という形になる。つまり、「角を矯めて牛を殺す」という結果になる。
 「規制緩和」という理念ばかりにとらわれていると、こういう逆効果が生じるのだ。
( ※ こういう愚かな発想をする人は、「自由主義経済・市場原理」というものを、盲信している経済学者に多い。古典派経済学者と呼ばれる人がそうだ。)

 ──

 最後に、まとめふうに結論すれば、こうなる。
 黒字路線では自由化して、赤字路線では補助金を与える、というのでは、莫大な行政事務がかかって、非効率だ。それと同様のことは、赤字路線と黒字路線をパッケージして、会社ごとに許認可する、という現在の方針を維持するだけでいい。
 なのに、現状を改善しようとして、かえって悪化させてしまう。そういうことが起こるのは、物事の一部だけを見て、全体を見ないからだ。右手で得をして、左手で損をするとき、右手しか見ないからだ。そのせいで、全体では大損しても、気づかないのだ。

( ※ 欲に駆られた愚か者は、一部の利益だけに目を奪われて、全体の損に気づかない。強欲であればあるほど、そういうものだ。欲にとらわれる前に、物事の全体を見ることが大切だ。)



 [ 付記1 ]
 どうせ経済的な損得を考えるのであれば、黒字部分だけの市場原理なんかよりは、「莫大な赤字路線」というのを廃止した方がいい。その方がずっと効率的だ。
 特にひどいのが、北海道新幹線だ。こいつはどうしようもない金食い虫だ。こっちを何とかする方が、ずっと喫緊の課題だ。
  → 北海道新幹線を建設中止せよ: Open ブログ
  → 北海道新幹線の光と陰: Open ブログ
  → 北海道新幹線、予約率2割で50億赤字確実…経営危機のJR北海道、鉄道事業継続困難を示唆

 [ 付記2 ]
 「規制緩和すべきだ」
 と主張している人は、何か勘違いしているようだが、公共輸送機関というものは、もともと公共的な性格を帯びているがゆえに、規制されるのが当然なのである。その一例が「料金の許認可」だ。つまり、料金を勝手に決めることはできない。
 規制緩和を主張するのであれば、参入の自由を認めると同時に、料金決定の自由も認める必要がある。つまり、地域独占企業が自由に料金を決めること(いくらでも値上げのし放題にすること)だ。
 なのに、「参入は自由だが、料金は許認可にする」というのでは、筋が通らない。都合のいいところのつまみ食いだ。そんなことをすれば、赤字倒産する企業が出てくる。それが今回の事例だ。
 「参入は自由だ」というのであれば、「料金は許認可にする」というのをやめるべきだ。つまり、料金設定も自由にするべきだ。そうすれば、今回のバス会社(両備)は、赤字路線の運賃を大幅値上げすることで、路線を維持することもできるだろう。(廃止の路線も出るだろうが、高料金で維持できる路線も出るだろう。)
 今回の混乱は、「規制緩和」を勝手につまみ食いした行政の失態が原因だ、と言える。



 【 関連サイト 】

 → 半数以上が「赤字」、三セク鉄道の厳しい現状 | 東洋経済オンライン
 → 【ムック】徹底解析!!最新鉄道ビジネス



 【 関連動画 】






 【 後日記 】
 新たに考え直したことがあった。それは次の記事を読んだからだ。
(新バスの めぐりん は)岡山市中心部から西大寺地区までの運賃は 250円で、400円の両備より4割近く安い。
( → 「岡山の乱」が問いかけるものは 地方バス会社の苦悩:朝日新聞 2018-07-20

 4割近く安いとなると、圧倒的な差があることになる。ならば、めぐりんに統一する方がいい、とすら言える。(現在の両備バスの方を廃止する。廃止したあとは、めぐりんの路線を拡張すればいい。めぐりんが代行する感じ。)
 ただし、その場合は、郊外の路線の赤字が残る。これは「路線廃止」または「税金による補填」の二者択一となる。当然、後者だろう。それに必要な財源は、住民税の増税でまかなうか、郊外地域での住民サービスの低下(または負担金の上昇)でまかなう。たとえば水道料金のアップ。

 バスに限らず、鉄道でも同様だが、あまりにもコスト差がある場合には、「黒字路線で赤字路線を補填する」という方法では済まなくなる。その方法が成立するのは、赤字率や黒字率が3割ぐらいの格差までだ。黒字路線の地域で差が4割にもなるような場合では、その地域での黒字バスは暴利(と無駄)を取り過ぎていることになる。黒字地域の住民の負担増がひどい。そうなる場合には、黒字地域の住民の負担を下げる方向で改定する方がいいだろう。

( ※ もともとは「赤字路線と黒字路線の一体化」を主張したが、「赤字路線と黒字路線の格差がひどい場合には、一体化しないで、分離して解決した方がいい」というわけ。)
posted by 管理人 at 10:04| Comment(9) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ごもっとも!
まとめの最後の強欲のくだりは余談として別に書けばもっとスキッリですね。
Posted by 通りすがり at 2018年02月10日 10:26
 強欲のくだりは、ご指摘に従い、別枠に入れておきました。(カッコ入り。)
Posted by 管理人 at 2018年02月10日 11:52
少なくとも”公共交通機関”との矜持を保ち、交通網を維持していくには黒字路線と赤字路線のセット運営は支持できる話です。その一方、生産性向上を図る目的で新規参入を認め競争を促す、というのも理解できます。問題は黒字路線だけに参入を認めるという部分です。黒字路線への参入を認める条件として、赤字路線の運営も義務付けるべきでした。

上記は、官による”規制”の色合いが強い話です。

しかしながら、今後の急速な人口減と過疎化を鑑みれば、公共交通網の赤字加速に伴う廃線は避け得ない話です。これにどう対応していくか。

先日、宅配便事業の人手不足にタクシー事業者を活用するという話をどこかで見かけました。であれば、逆に赤字路線で宅配業者や郵便事業者が旅客輸送を手がける融合も進んでいくのかもしれません。
他、コンパクトシティ、遠隔医療などの対策も想像できますが、いずれにせよ”上手な規制緩和”こそが最も必要ではないかと。
Posted by 作業員 at 2018年02月10日 11:57
 最後に [ 付記2 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2018年02月10日 15:12
東京への一極集中がより進み、生活がしづらくなって少子化が進む悪循環。地方に権限を委譲させ自立させるべきと思います
Posted by gunts at 2018年02月11日 07:55
東京一極集中って判を押したように言う人がいますが、最近は一極集中を是とする学者も増えてきてますね。
無理に地方都市を延命させる必要はないという意見も。
私は地方出身者なので地方の再興・創生を願ってましたが、最近は一極集中でも良いかなと思えてきました。
例えば、昔賑わった水上温泉とか見てると、ここを再興させる為にはとんでもない時間と労力・資金が掛かるなと…。
Posted by E.E.J at 2018年02月11日 13:05
JRの路線に関してならば分割のやり方が完全に間違いだったのです。
いわゆる3島問題は最初から分かってたことでした。九州は黒字化できる可能性があり、現実その方向に行ってますので良いんですが四国と北海道は完全に無理だとわかってたはずです。それを基金を積んだり何だかんだで誤魔化して民営化してしまったわけです。

小生は昔からJR東海なんていらないから本州を二分割し東日本の黒で北海道を西日本の黒で四国を維持しろという意見でした、それ以外は不可能だろうと。それと新幹線保有機構を作り新幹線の建設と維持管理は別途に行えというのが当初からの考えでした。あとは長距離と貨物は全国ネットが必要だから別途に考慮する必要があろうと思ってました。

この方針ならば相当期間は持ったはずです。
地方の問題はもはや逆転の発想しかないと思ってます。過疎を解消するために地方に投資をするんじゃない、地方住民を集住させて財政福祉の維持管理ができる程度の合理化をしなければいけない、そう思ってます。北海道や四国にしたと頃で本当の基幹路線は維持しなければいけません。国土の維持管理が困難になるからです。こんなもの経済原則に任していいはずがありません。

人口減少でもインフラは維持せよ、都会と同様の生活をさせろというのはもはや通りません。

本当の大規模農業経営者や国土の維持管理に当たるような要員を除いては都市集住を図りコストがかからぬ暮らし方を考える、これは議会の手数不均衡の問題と同じでそれがなければ同じような問題は必ず再発します。

赤字路線を何とかするのではなく赤にしない、赤を極力少なくするとい発想が必要だと思います。
Posted by kazk at 2018年02月11日 13:10
お邪魔します。
 岡山の路面電車の環状化の話は前からありましたが、まだ検討が続いているようです。自分は「めぐりんを潰す気なのか」「めぐりんはこれを見越して新路線の獲得を図ったのか」と思いました。事業者が経路を独占する鉄道は自動車に対し、「渋滞が無いので定時性が高い」「より高密度の輸送が可能」という優位点がありますが、「渋滞に巻き込まれ、密度もバスと比べてそれ程高くない」路面電車は優位性に乏しいですし、それでもそれをするなら例えば「市街地中央部への自動車流入の制限」といったものが必要と思われます。「路面電車は路面電車、路線バスは路線バス」の個別対応で、「公共交通や都市交通は"全体"としてどうあるべきか」という視点が欠落している事が問題ではないかと思われます。

 余談ですが新幹線は元々「太平洋ベルト地帯という人口密集地域の”中”を素早く移動する言わば『巨大な横のエレベーター』」だと思います。リニア新幹線は多くが地下で、より「巨大な横のエレベーター」化するようですが。自動車は「時速200〜300キロで旅客輸送」は不可能ですし、飛行機はそれ自体速くても市街地の真ん中に離着陸はさせられないので、ある程度以上距離が無いと新幹線に対して優位にはなりません。しかし一旦それが作られるとそれが「ステータスシンボル」と化し、旅客需要とは無関係に「作れ」「他所にあってうちに無いのは我慢できない」といった声が上がり、政治がそれを無視できなかった事が遂に「本来は飛行機優位の距離で建設された北海道新幹線」にまで至ったのかも知れません。
Posted by ブロガー(志望) at 2018年02月18日 20:58
 最後に 【 後日記 】 を加筆しました。考えを少しあらためています。
 「格差が甚だしい場合には、例外となる」
 という趣旨。

 ※ 本文では、「赤字路線と黒字路線の一体化」を主張したが、「赤字路線と黒字路線の格差がひどい場合には、一体化しないで、分離して解決した方がいい」という方針。
Posted by 管理人 at 2018年07月22日 10:00
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