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Google の囲碁AIが人間に勝利した、という話は、1年余り前に話題になった。「アルファ碁がプロの棋士に勝利した」という話題。本サイトでも論じた。
→ 囲碁で AI が勝利(2016年03月09日)
その後、人間の作ったAIを改良するのでなく、ゼロからAIが自力で作り上げたものが、従来版を大きく上回る棋力があると判明した。
→ 囲碁AIアルファ碁ゼロ(AlphaGo Zelo)が登場!人間の棋譜を使わず独学だけで学習!
この方法を、以後のみならず、将棋やチェスにも応用したところ、24時間の自己学習で、従来のAIをはるかに上回る棋力を持つようになったという。本日のニュースで、大きく話題になった。
→ Googleが最強のチェス・将棋AI「AlphaZero」を発表 わずか24時間の自己学習で最強AIを上回る
→ 「AlphaGo」から進化 将棋とチェスでも世界最強「AlphaZero」
→ 「AlphaGo」から進化 将棋とチェスでも世界最強「AlphaZero」
ま、囲碁でやったことを、将棋やチェスに応用した、ということだ。これは十分に予想できたことなので、特に「意外だ」と驚くほどのことはない。
では、このことは、どのような意味を持つか?
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部外者にとっては、「強い将棋ソフトができたんだな」と思うぐらいだろう。従来の「強いAI」の延長上で理解されるだけだ。
しかし、将棋ソフトの開発者やプロ棋士にとっては、青天の霹靂と言えるほどの大きな意味がある。
すでに囲碁の場合で明らかなように、次のことがある。
・ このAIの指し手は、人間には意味が理解できないものが多い。
・ 従来の定跡から、はみ出しているものが多い。
この二点は、同じことを言っているとも言えるが、とにかく、従来の常識を越えたものとなっており、人間の理解できる範囲を超えているのだ。
これは何を意味するか?
私見では、次のことだと思う。
人類が延々と蓄積してきた将棋や囲碁の知識は、ほとんどが無駄であった。「このまま従来の方針で知識を蓄積していけば、最終的には神のレベルにまで到達できるだろう」と期待して、プロ棋士は多大な棋譜を残してきたのだが、実は、「そんなことをいくらやっても、神のレベルには到達することはできない」と判明したのだ。神のレベルに至る道は、人類の取ってきた道とはまったく別の道だった。それは定跡を増やせば判明するというようなものではなかった。莫大な計算力によってのみ到達できるようなものだったのだ。
比喩的に言えば、脳が未発達な小学生がどれほど将棋の本で定石を覚えても、それでは勝てない。勝つためには、小学生の脳よりもはるかに発達した大人の脳が必要だ。それと同様に、人間の脳の計算力では、いくら定石を覚えても勝てないのだ。勝つためには莫大な計算力が必要なのである。
かくて、次のことが判明した。
・ 人間がどれほど努力しても、神の棋力にはとうてい届かない。
・ 人間がこれまで努力して得てきた知識は、神の棋力の前ではまったく無力である。
プロ棋士の数百年の歴史も、AIソフトの数十年の歴史も、今日となっては「まったくの無駄」も同然となってしまった。それらはすべて、アルファゼロが 24時間で積んだ経験の前では、無も同然なのだ。
特に、AIソフトの研究者は、ショックが大きいだろう。彼らが人生の重要な部分を使って積み上げてきた成果は、今日となっては、もはやゴミも同然になってしまったのだ。
「きみたちがやって来たのは、真実からは程遠いもので、どうでもいいようなゴミ知識にすぎなかったんだよ。きみたちがやって来たのは、ハム将棋 と同程度のことにすぎなかったんだよ」
と宣告されたも同然だ。そして、かわりに、神のように真実を示す言葉が降臨する。
「これまでの定跡というのは、人間という非力な脳のために用意された、低レベルのものであるにすぎない。本当に正しい定跡というのは、強力な計算力を持つコンピュータのために用意された、高レベルのものなのだ。そして、それについては、人間は理解することすらできない。まして、それを駆使することなど、とうてい不可能だ。なぜなら、強力な計算力を持たないからだ」
こうしてアルファゼロは、研究者の人生に駄目出しをする。研究者はもはや、自分の人生を否定された思いだろう。ショック。
[ 付記 ]
しかし、これで「AIが人間を上回った」ということにはならない。AIが人間に勝てるのは、将棋や囲碁やチェスなどのように、範囲が極端に限定されたゲームぐらいに限られている。(他にもいくつかの分野はあるが。だから「ぐらい」と書いた。)
AIが一般的な社会の分野で人間並みに働くわけではない。そうなる分野は、徐々に拡大していくだろうが、当面、AIの力が役立つのは、まだまだ範囲が限定されている。たかが自動車の運転でさえ、自動運転車の実現はまだまだ先だ。
ただ、次のようなことは言えるかもしれない。
「将棋の羽生さんは、永世七冠になって、すごいと称賛されている。だが、いくら強くても、AIよりは圧倒的に弱い。彼は、ものすごく素晴らしい成果を上げて真実に近づいたのではなく、真実とは程遠い小さな分野で、お山の大将(井の中の蛙)になっているだけだ。自分の領域を出れば、たちまちあっという間にAIになぎ倒される」
そういうことが、バレちゃったんですね。
ああ。人々が「王様だ」と崇めているものを、私が「裸の王様だ」とバラしてしまうことは、よくあるのだが、今回もそうだ。将棋の世界の人々からは、恨まれそうだ。

【 関連サイト 】
アルファゼロがどのくらい人間を上回っているか……については、下記の記事がある。囲碁の例。
→ 【アルファ碁ゼロの棋譜】強さはレーティング5000以上!
日本の井山裕太7冠が 3550 で、アルファゼロは 5000以上。圧倒的と言える大差が付いている。奨励会棋士と名人ぐらいの大差だ。比較にならない大差。
将棋についても、ほぼ同様だろう。
【 追記 】
朝日新聞の社説が、羽生七冠を称えつつ、AIにも言及している。これはこれで、興味深い。(いかにも ありがちな話だが。)
→ (社説)羽生永世七冠 探究心と、柔軟さと:朝日新聞 2017-12-08
私はこれを否定するつもりはない。羽生七冠の業績の偉大さは、言うまでもない。
本項で述べたのは、将棋について、人間全体と機械を比較してのことだ。個々人の業績については、何も評価していない。
( ※ 羽生七冠を評価するなら、社説と同様の評価になる。当り前なので、私は書かないだけだ。)
生命は、「動く分子機械である」との通説から必然的に導かれるものだからです。
棋士の皆さんはそこまで馬鹿ではない
どっちが強いか、ということを論じるのならそうでしょうが、本項の話題は別です。「従来の方法論がまったく間違っていた」という真相が判明した、という意味で、新たな真実の発見がテーマです。
人間にとって不都合な真実が判明したとき、それを受け入れることができるかどうか。そこがポイント。
比喩的に言えば、「錬金術は不可能だ」と証明されたときの錬金術師の立場。あるいは、「ニュートン力学は不完全だ」と相対論によって否定されたときの、ニュートン力学研究者。
新たな真実が判明したとき、それを受け入れることのできないのが、旧来の人々。
Ponanza開発者 山本一成「コンピューター将棋の神様はそこにいたのか。」
https://twitter.com/issei_y
12月6日、7日の分。
でもですね,「人類が延々と蓄積してきた将棋や囲碁の知識は、ほとんどが無駄であった」と言う主張は「人類が延々と努力してきた100m走の記録たちは、ほとんどが無駄であった」とはならないと思うんですよね。このあたりいかがでしょうか。
ワタクシ,管理人さんの超合理的な思考プロセスに大いに共感するものですが,今回はロジックが理解できないものでカラんでみました。
唯一将棋だけが先手番の成績が悪い。
世界中のボードゲームの中でも、将棋の先後の
優劣が少ない点は、長所であったが、最前手を指し続けた場合、後手に分があるのかもしれない
100メートル走は、結果が同じだから、何か新しいことがわかったわけじゃない。
未知の領域に出た、ということがないと。その意味では、次の比喩の方がふさわしい。
「人類が延々と努力してきた長距離走や騎馬の経験は、未知の大洋に出てアメリカ大陸を発見することのためには、ほとんどが無意味であった」
これは大航海時代という新時代の話。こういうふうに「時代の変わり目」という話をしています。
「錬金術師」や「騎馬隊」の人たちは、
状況の変化に伴い、転職したりしたと思うんですが、
将棋界も縮小傾向に向かっていくと思われますか?
将棋ソフトの開発者は、失業が確定。現状でも、最強のソフトはすべて無償で公開されている。今後、ソフトを買う人は、ほとんどいなくなる。どれほど強いソフトを出しても商売にならない、とすでに判明した。山本一成 さんは、今回の方の以前に、すでに撤退を表明している。
プロの棋士は、特に変わらないでしょう。人間が対戦して、人間が棋譜を解説する……という形で、このまま続く。
ただし、である。現在の将棋の費用を払っているのは、新聞社だ。新聞が縮小すると、新聞社の金がなくなる。そうなったら、プロ棋士は失業だ。
プロの棋士がどうなるかは、AIには依拠せず、新聞社が生き残るかどうかで決まる。その見通しは、暗い。
新聞社がどんどん撤退するようになると、一国の文化水準は大幅に低下するだろう。このままだと、新聞のなくなる日本は、文化的に衰退しそうだ。
※ 中国に大敗しそうだ……と思いかけたが、よく考えたら、中国はもともと国営の文化しかないから、最初から最悪だ。インターネットにさえまともに接続できないありさまだし。
ちなみに、本サイトは中国からは見ることができません。「百度」では検索できなくなっています。(天安門のことを書いてあるから、当然か。)
( ※ 訂正:次のコメントで、そうではない、という私的があります。)
気になっていたので、ありがたい情報です。
そんな時こそNHKの出番です。原資は皆様の受信料。前の最高愛判決で、契約の自由より受信料支払いの義務が優先するようですし。PCのみの所有で受信料支払い義務が生じる時代の到来かも。
ゲームがオリンピック種目になるかって言われてる時代なんだし、スポンサーなんていくらでも集まると思う
ドワンゴなんて、ごく小額の賞金しか出さないし、あってもなくても、ほとんど同じ。七大棋戦に比べれば、ほとんど無も同然。
数だけあっても、金を出さなければ、意味がない。
新聞の読者は、毎月4000円以上も払っている。それだけの収入を、ドワンゴみたいな中小企業が、払えるわけがない。
それはいわば、「光岡自動車があるから、トヨタや日産がつぶれても大丈夫」というのと同様だ。無効。
参考:
ドワンゴの売上高 : 300億円
朝日新聞の売上高 : 4000億円
読売新聞はもっと多い。
なお、ドワンゴは、さまざまな分野をすべてひっくるめての話であって、電脳戦単独では、1億円程度だろう。いや、もっと少ないだろう。1000万円以下かも。
> スポンサーなんていくらでも集まると思う
数はいくらでもあるだろうが、金を出せるのは、新聞社と放送局だけ。一方、放送局は、番組にならないので、金を出さない。出せるのは、新聞社だけ。
新聞社がつぶれれば、将棋もつぶれる。
ついでだが、新聞社がつぶれれば、プロ野球もつぶれるかもしれない。新聞がプロ野球の報道をしなくなれば、プロ野球の存在意義がなくなるので、誰もスポンサーにならなくなる。ソフトバンクや DeNA や楽天あたりは、真っ先に撤退するかもね。残るのは阪神タイガースだけかな。しかし、1チームだけが残っても、試合はできない。ひょっとして、広島カープも残るかもしれないが、2チームだけではリーグが成立しない。
一つ一つは少額でも、足し算すれば増えていきます
もちろん多くなればなるほど個々の広告効果は薄まるのでそう単純ではありませんが、
一つや少数の主体がスポンサーにならなければいけないというのは思い込みだと思います
そもそも将棋ソフトの開発者って職業として成り立っていましたか?
あくまで会社員とか研究所の日曜大工みたいなものでしょ
だから、失業しないじゃないですか
優勝すると多額の賞金をもらえるので、かろうじて生活できた人もいます。とはいえ、ぎりぎりでしたね。
私のコメントは「確定」です。未確定から確定になった、という意味。読めばわかるはずだが。
どうも勝手に自己流に誤読する人が多い。例によって藁人形論法。
いわゆる棋風ってやつですか
そういう個性的なソフトを作るっていう、創造性の面ではまだ人間の役割はあるのかもしれない
そもそも将棋の対局には得意不得意があって、全体的にはかなり強い人でも、あいつにはなかなか勝てないんだよな、っていう相性があったりすると思います
羽生さんとか名人とか他のAIに勝ったから最強か、っていうと、まあ現実的にはそういって差し支えないだろうけど、そのAIが不得意とする人間やAIも、いても可笑しくはないと思います